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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十章 亡霊と不気味な屋敷
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恐るべき技術

 ◇地下5階◇


 地下5階、そこは随分と狭い場所だった。フロア、というよりはルームだね。ちょっと広い程度の部屋というイメージだ。但し、何も無い部屋。

 この場合の何も無い、というのは何も物が無いという意味だ。天井を含めた白い壁に包まれ、唯一真っ黒な床が印象的な部屋、物は何も無く、扉も階段もない。正真正銘、ただの空間があった。


 でも、物は何も無くとも何か仕掛けはあるようだ。


 仕掛けその1、『魔法が使えない』

 フィニアちゃんの灯りに使っていた『妖精の聖歌(フェアリートーチ)』がこの部屋に入った瞬間に掻き消えたんだ。それから何度発動させようとしても、フィニアちゃん曰く魔力が上手く練りあげられない感覚で、発動する事が出来なかった。

 おそらく、魔力を霧散させてしまう効果のある仕掛けが為されてるのだろう。全く厄介な仕掛けだ。


 仕掛けその2、『重力が強くなっている』

 この部屋の黒い床。恐らくはこの上に立っている生物や置かれている物に対して、引っ張り寄せる性質を持っているんだと思う。重力操作というより、吸引性質かな? フィニアちゃんは宙に浮いているから全く影響受けてないし。

 この仕掛け、少々厄介だ。僕の筋力値は他の能力値に比べて低いからね、こういうタイプの仕掛けには結構弱いと思う。耐性値とか敏捷値、スキルなどを生かす為には僕が万全に動けないといけないからね。


 まぁ、宙に浮いた瘴気に乗れば解決するけどさ。集中力使うけど、ルルちゃんも乗せて、宙に浮く。


「……ここが最下層? 何も無いねぇ」

「んー、魔力的な反応を感じようにも今の私には魔力感知も阻害されて出来ないからなぁ」


 瘴気の空間把握でも、この部屋には先に進む為の隙間もなければほんの少しの凹凸も無い。完全な正四面体の部屋だ。下りてくる階段に通ずる道があるだけで、完全に行き止まり。

 行き詰ったな、と思いながら僕とフィニアちゃんは同じ様にして頭を掻く。索敵能力が役に立たないんじゃ意味が無い。


 というわけで、この先へ行くために少しばかり頭を働かせてみる。この部屋の仕掛け……魔法が使えない、というか魔力が使えないようにする仕掛けは、恐らく魔法を使われたくないという意図があると言えるだろう。魔力を使えれば、この部屋の仕掛けが簡単に分かってしまうからか、それとも魔法を使うことで何か変化を起こせるのか……なんにせよ、この部屋を突破するには魔力がキーになっているようだ。


「フィニアちゃん、体内で魔力を練るのも無理?」

「無理だねー、体内でも魔力に反応して霧散させているみたい」

「んー……面倒だなぁ」


 僕もルルちゃんも、魔力はあるものの魔力を扱う技術には長けていない。魔法を使えないかなぁと考えていたことはあるけれど、その辺は学ぶ時間もなければ使うだけの知識も無かったからね。仕方が無い。


 すると、困り果てていた僕達に一筋の光明が差した。


「きつね様……血と死体の臭いがします」

「え?」


 唐突に、ルルちゃんがそう漏らした。血と死体の臭い……アンデッドかゾンビ犬かと思ったけれど、地下5階にはそんな存在はいないし、どういう訳か階段にあの実験動物達は近寄って来なかった。ルルちゃんの嗅覚がかなり遠方の臭いまで嗅ぎ取れる程の物だとしても、それならそれでわざわざ今言う必要はないだろう。

 つまり、今までとは何かが違う臭いが漂って来ているということだ。


「どういうこと?」

「……この黒い床の下から、微かですが血と死体の臭いがします。さっきのアンデッドとゾンビ犬みたいな生きた死体ではなく......死んでちゃんと腐った死体の臭いです」


 黒い床の下から、普通の死体の臭いがするという。何かが違う臭いではなく、普通の死臭がヒントになるなんて滑稽な話だ。

 つまり、ルルちゃんの嗅覚はこの黒い床の下に空間があり……死体があると告げている訳だ。それさえ分かれば十分だろう。地下1階から4階までは地面を破壊すると上にある屋敷に影響が出そうだったし、階段も見つけてたからやらなかったけれど、地下5階……しかもこれほど狭い部屋の範囲なら恐らくは大丈夫だろう。


「地面を破壊しよう」

「どうやって?」

「僕の必殺技で」


 僕の必殺技。『城塞殺し(フォートレスブロウ)』を使えば、耐性値の5倍もの攻撃力が実現可能だ。下に空間があるのなら、この黒い床程度破壊出来るだろう。


「よし、とりあえずルルちゃん。僕に軽く殴り掛かって来てくれる? ああ、反撃するから躱すんだよ?」

「? はい……」


 軽く殴り掛かって来るルルちゃんの拳を左手で受け流し、そしてルルちゃんに向かって拳を振り抜く。恐るべき速度だったけれど、ルルちゃんは事前に避ける事を指示されていたのでギリギリ僕の拳を躱した。

 そして、僕は躱された拳の行き先を黒い床へと変更する。流れ弾ならぬ、流れ拳の利用法である。全力で黒い床に衝突した拳は、凄まじい轟音と噴き上がる轟風を撒き散らしながら黒い床を破壊する。まるで障子を破る様に壊れたその床は、ガラガラと下の空間へと落ちて行った。


 僕達は宙に浮いていた瘴気に乗っていたので一緒に落ちるなんてことはなかった。宙に浮きながら落ちていく床を見送りつつ、自分で開けた穴の下を覗いてみる。そこには、赤黒く染まった道があった。恐らくあの赤黒い色がルルちゃんの嗅覚が捉えた臭いの元凶である、血なのだろう。

 誰の血なのかは知らないけれど、夥しい量だ……1人や2人の血液量じゃ賄えないね。


「降りるよ」


 一声かけて、僕はルルちゃんと一緒に乗っていた瘴気を下へと移動させる。ルルちゃんじゃないけれど、血の匂いに包まれれば直ぐに分かる。コレはきっついね……濃い鉄の臭いと、肉の腐った臭いが混ざって凄まじいことになっている。表情が少し歪むのが分かった。

 此処が、此処を作った何者かの悪意が詰まった場所。その最奥へと続く道……こんな回りくどい場所で、一体誰が何をしたんだ?


 瘴気を消して、赤黒い道に降り立つ。血は乾いているらしく、パキッと固まった血が割れる音がした。


「……ん? 足跡がある……?」

 

 ふと、赤く固まった血の道に……大量の足跡があるのを見つけた。小さい足跡から、大人の女性程の足跡もある。大量の足跡だ。

 これは、比較的新しいのもあれば古いのもある。どういう訳だろうか?

 そう思いながら、とりあえず足跡の向きが多い方へと進む。足跡の進行方向は行ったり来たりでバラバラだからね、どっち行っても何かありそうだけど、向かっている方向が多い方が何かあるに違いない。試しに瘴気の空間把握を展開してみると、広い空間があるのを見つけた。


 しかも―――人がいる。


 アンデッドとは違う、理性的な動きをしているから恐らくは人間だ。背丈で言えば、僕と同じ位かな? 大きな機材か何かの前で指を動かしているし、周囲にも色々と同じ形の丸い機材か何かが置かれているから多分当たりだろう。

 この人物が、この施設を作った人間か……それとも作った人間の意思を継いできた人間か……それとも人間ではなく魔族か何かなのか……確かめに行く必要がある。そこにきっと、ノエルちゃんの死んだ原因と……その時にあった何かがある筈だから。


 それを確かめて、僕はリーシェちゃん達を助けないといけないからね。



 ◇ ◇ ◇



「……アンデッドも、グールハウンドも、マジックゴーレムも駄目か……しかも、あの部屋を突破してくるとは思わなかった」


 桔音が瘴気の空間把握で捉えた人物は、桔音の予測通り大きな機材を動かしていた。その機材は魔道具の様だが、恐らく仕組みは地球の科学に近い物があるだろう。誰がそれを作ったのか、何の目的でそれを作ったのか、それは分からないけれど、その人物はその機材を一通り動かした後、機材の前を離れる。

 置いておいた小さな魔道具を手に取り、調子を確かめる。ガシャ、という音と共にその魔道具に何かを挿入した。


 そして、その人物は乾いた足音を鳴らしながらその広い空間の入り口に対峙する様に立つ。魔道具を入り口に向けて、唇を噛んだ。

 恐らくこの人物は戦闘を得意とはしていないのだろう。だからこそ魔道具に頼り、アンデッドやグールハウンド……桔音はゾンビ犬と言っていたあの存在、そしてゴーレムなどを配置して撃退に当たらせていたのだ。


「正直、誰も来ないで欲しかったな……だが仕方ない、此処を護る為には抗わなければ」


 目を閉じ、数秒後また開いた。


 そして、魔道具を向けていた大きな扉が開く。現れるのは魔道具の液晶で見た3人の少年少女に妖精、だがその姿を確認する前にこの人物はその魔道具を発動させた。

 掌で握り締められた持ち手から、細く短い管が桔音の身体に向かって伸びている。


 発動に掛かる手間は、単純明快―――ただ『引き金』を引くだけ。


 そうすることで発動者の魔力が強制的に吸い上げられ、その魔力は小さな弾丸となって飛び出す。その魔道具の形は、地球で言う所の『拳銃』の形をしていた。違うのは、魔力を弾丸としており、発射に使う火薬も魔力で代用しているところだろう。

 使用者の魔力を強制的に吸い上げ、拳銃型の魔道具が自動で魔力の弾丸を形成するのだ。そうすることで使用者は魔力を与えるだけで魔法使いの使う魔力弾を使うことが出来る。しかも、小さく貫通性に優れたことで普通の魔力弾よりも殺傷性が高くなっている代物を。


 放たれた弾丸は、桔音の眉間へと吸い込まれていく。


 しかし、この人物の誤算は桔音の耐性値が高過ぎた事だろう。現にその弾丸は桔音の眉間に当たると同時に―――破裂音を響かせて霧散し消えたのだから。


「な……!?」

「んー……今日は眉間によく物が当たるなぁ」


 入ってきた桔音は、眉間を擦りながらそう言うが、撃った本人は驚愕の表情を浮かべていた。どう考えてもおかしい、この魔法具の弾丸の威力は普通の人間は勿論、Sランクの冒険者でさえ当たれば普通に肉を穿たれる代物である筈だからだ。

 にも拘らず、華奢に見える少年はそれを眉間に喰らっておいて全く傷を負っていない。どころか、虫に刺された程度の反応をしている。


 すると眉間から手を離した桔音の瞳が、魔道具を使用した人物へと向いた。そして驚きの色を浮かべる。


「え……女の人?」

「くっ……!」


 魔道具を使用した人物は、女性であった。とはいっても、科学者然とした女性ではない。ボロボロの布を着ているだけで、裸足であり、髪も伸びきっただけのボサボサの髪、荒れた肌、ガリガリの身体。けして美しいとは言えない容姿をしているが、その容姿は桔音の見た事のある人物に似ていた。


 そう、幽霊となった少女―――ノエルにそっくりだった。


「これは……どういうこと、だ?」


 桔音は驚愕の表情を浮かべていた。ノエルにそっくりな人物がいたことに、ではない……いや、それもあるのだろうがそれだけではないのだ。

 何故なら、その広い空間の至る所に『ソレ』があったから。幾つもの丸いカプセルの様な機材に、培養液が詰まっており、その中に同じ顔の少女達がいた。


 無論、誰と? と問われればノエルだ。ノエルよりはかなり幼いけれど、幽霊となったノエルと同じ顔をした少女達が十数人程同様の培養カプセルの中に浮かんでいた。

 恐らく、目の前に居るガリガリで大分大人になった偽ノエルも、元はこの培養カプセルの中に入っていた1体だったのだろう。その証拠に、空いている培養カプセルが20機程存在している。


「……まさか、クローン?」


 その言葉は、広い空間に響いて消える。

 このファンタジーに満ち満ちた世界の中で、桔音は思いもしなかっただろう。地球でも危険視されていた科学技術に対面してしまうことなど―――


何故此処に科学技術が? 現れたノエルのクローン……彼女らは此処で一体何をしているのか、何があったのか、その謎が今明らかになる……!!

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