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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十章 亡霊と不気味な屋敷
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幽霊に勝つ方法は

 ある意味、レイラちゃんみたいな子だったなぁ。


 そんな感想を抱きながら、ルルちゃんによってお尻を100回連打されたメアリーちゃんを思い浮かべた。というのも、メアリーちゃんはお仕置きが終わった後拘束を解除されるや否や、恥ずかしさで居た堪れなくなったのか自分で開けた天井の大穴から飛び去って行ったからだ。顔を真っ赤にして、目尻に涙を浮かべながらとても怒った様子だったのは、とても印象に残っている。


「覚えてろー!」


 と、小学生並の捨て台詞を吐いて行ったので、多分ステラちゃんも巻き添え食うだろうけど、また来るんじゃないかな。なんにせよ、あの『神葬武装(フェイルノート)』も含め、彼女は僕の天敵と言っても良い相手だから、正直もう会いたくはない。だって舌戦に持ち込もうとしても、彼女は子供の価値観で感情的だから理屈や理論は通用しないし、僕の中では最もスタンダードな攻撃手段である瘴気が効かないとくれば、戦闘技術は素人の僕からすればもうお手上げだ。

 今回だって、幽霊ちゃんがいなかったら僕達が負けるのはきっと時間の問題だっただろうからね。そういう意味じゃ幽霊ちゃんって末恐ろしいね、本当に。


 とはいえ、そのおかげで『天使』なんていう規格外を相手に生き残る事が出来たんだ、感謝感謝だ。半ばギャグみたいな展開だったけれど、1歩間違えれば僕達の全滅もあり得たんだからね。


「さて……と」

『ふひひっ♪ ようやく私と遊んでくれるんだね!』

「んー、まぁね……さっさとレイラちゃん達を解放して貰おうか」

『それなら私に負けを認めさせるんだねぇ……ふひひひっ……!』


 くすくす笑う幽霊ちゃんに、僕は頭を掻く。正直、フィニアちゃんをアテにしてたから手が無いんだけど。フィニアちゃんに幽霊の知識が無いと思わなかったからなぁ……仕方ない。

 此処は真面目に口論で戦うしかないか。死んでる子と会話するなんて、そうそう体験出来る訳でもないし。誤算は誰にでもあるさ。フィニアちゃん達を助けられただけ良いとするよ。


「ああ、とりあえずレイラちゃん達の姿を見えるようにしてくれる?」

『あ、そうだね。失念失念』


 そう言った幽霊ちゃんが、その袖に隠れた手をレイラちゃん達に向けると、フィニアちゃん達があっと声を上げたので、多分ちゃんと見えるようになったんだろう。


「フィニアちゃんとルルちゃんは、レイラちゃん達の傍に居てくれる?」

「……そこにゆーれーがいるの?」

「うん、とりあえず……話し合いでケリを付ける事になってるから、心配しなくても良いよ。この子も、その取り決めを破って危害を加えてくるほど落魄れてはいないから」

『ふひひひっ……信用されてるって思って良いのかな? 良いのかなぁ? くふっ……ふひひっ♪』


 信用ね、まぁそうかもしれない。この子はマイペースだけれど、約束事にはフェアだ。何かを楽しむ事に対して、遊びに対して、取り決められたルールとマナーを破らない。それを破ることが、どれほどつまらない物か分かっているのだろう。

 だから、この子は舌戦と決められたからには手を出しては来ない。危害を加えては来ないし、レイラちゃん達に手を出したりもしないだろう。それは、僕が此処に来るまでレイラちゃん達に何もしていないことが証明している。


「……分かった」

「……気を付けて下さいね、きつね様」


 フィニアちゃんがルルちゃんの肩に乗り、そして僕と幽霊ちゃんから離れていく。階段を上り、レイラちゃん達の居る踊り場へと辿り着き、その場に座った。じっとこちらを見ている瞳には、不安と心配が宿っている。

 大丈夫、君達を置いて死ぬつもりはないから。それに、此処で勝てなくともまだ時間はたっぷりある。いつか勝てばいいんだ、残り2週間の間でね。


「それじゃ……始めようか、僕と君の1対1で行う……勝負(ざつだん)を」

『ふひひひっ♪ 大分面白くなってきたよ、人生刺激が無くちゃね……私もう死んでるけど!』


 その場に座った僕と、器用にも空中で正座する幽霊ちゃん。向かい合って、仲間を取り戻す為の戦いと、それを阻害する戦いを開始する。ルールは雑談、敗北条件は敗北を認めること、制限時間は残り2週間。


 精々、頭を捻るとしよう。




 ◇ ◇ ◇




 ―――幽霊ちゃんの正体は、想像するに難くない。


『君は異世界で高校生っていう仕事をしてたんだねー、何をするの?』

「必要のない勉強と、無意味な人間関係的排他能力の教養だよ」


 雑談をしながら、僕は考える。

 幽霊ちゃんの正体、いや出自というべきか、それとも生前――死ぬ直前の話を推測するのなら、きっと彼女は初代女王死後に屋敷へ住み付いた孤児の1人だろう。そうでなければ、この屋敷に住み付いている理由がない。

 それに、アリシアちゃんとオリヴィアちゃんの話を考慮すれば、この屋敷に住んでいたのは歴史上初代女王を始め、女王死後に住み付いた多数の孤児達のみ。なにやら怪しい集団が定期的に寄りついていた時期もあったようだが、屋敷内で死ぬとしたら孤児達の可能性が高い。


 となれば、幽霊ちゃんの正体はかつて此処に住んでいた孤児だろう。

 但し、そうなると何故彼女『だけ』が幽霊となっているのかが分からない。孤児が死んで幽霊となって――いや、孤児だけじゃない。この世界で死んだ者の中で、何故彼女『だけ』が幽霊となっているのか? それが分からない。

 そもそも、幽霊が存在するのなら、僕は道行く途中で道を埋め尽くす程の幽霊に遭遇しているはずなのだ。幽霊が生まれる条件が何なのかは分からないけれど、彼女には他の孤児達にはない特別な何かがあったんだと思う。


 それは多分、死んだ原因となった物か……それとも生前何か特殊なスキルを持っていたか、だ。


 それが分かれば、きっと幽霊ちゃんの正体不明の力にも辿り着けるだろう。でも……例え特殊なスキルを持っていたとしても……幽霊になっただけで元は人間の子が魔族や天使を退けるだけの力を手に入れるだろうか? 孤児であった彼女にそれだけのスキルがあったのなら、もっと大成していてもおかしくないだろう。

 ギルドの登録など、物を盗んで売り払ってお金を作れば簡単に出来るしね。


『私はねー……大体200歳位かな? 100歳の誕生日を1人で祝ってからは、年を数えるのを止めちゃったから多分それ位だよ。ふひひひっ……♪』

「分かってはいたけど年上なんだねぇ、見た目は若いのに」

『ふひひひひっ……! お姉ちゃんって呼んでも良いよ?』

「出来れば名前を教えてくれると嬉しいねぇ」

『忘れちゃったよ、もう200年は前の話だもの。ふひひひっ……♪』


 雑談を続ける。彼女はどうやら生前の名前を覚えていないらしい……ということは、生前のことは綺麗さっぱり忘れてしまっているということだろう。

 記憶があるのは、死んでしまってからおよそ200年の間のみ。てことは、幽霊になったのは彼女の故意ではなく、偶然か他の要因があるのか、どちらにせよ彼女の預かり知らない何かがあった可能性が高いね。


 でもまぁ、幽霊ちゃんなんて呼ぶのは語呂も悪いし、ここらで呼称の1つでも作っておいて損はないだろう。


「僕が名前を付けてあげようか?」

『え……? 本当? 名前付けてくれるの? あはっ! やったぁ! 付けて付けて! ふひひひっ♪』


 何が良いだろう? 幽霊……か、じゃあ幽霊に因んで―――


「ノエル・ハロウィン、でどう?」

『ノエル・ハロウィン、かぁ……ふふふ……ふひひっ♪ 気に入った! ありがとっ!』


 気に入って貰えたらしい。幽霊とハロウィンを関係付けた名前だけど、ノエルは意味が『誕生』とかそういう感じだったと思うから、死に近い幽霊と逆方向で付けてみた。この子も死んでいるとは思えない位明るい子だからね。

 ともかくこの子の名前は、今日から『ノエル・ハロウィン』だ。幽霊ちゃんではなく、これからはノエルちゃんと呼ばせて貰おう。


「じゃあよろしくノエルちゃん、僕はきつねだよ」

『よろしくきつねちゃん! 私はノエル。ハロウィンだよ! ふひひっ♪』


 自己紹介を交え、僕達はくすりと笑う。

 あれ? 何してたんだっけ? ああ、そうそう勝負だよ。有耶無耶になる所だったぜ。この幽霊、ノエルちゃんをどうにかしないといけないんだ。どうしたものかなぁ……この子の機嫌を取ったとしても、この子は勝負を投げたりはしないだろう。


 馬鹿の様に見えて、その実頭が良く、何も考えてない様に見えて、その実かなり強かだ。


 人を追い詰めるのに、的確な力の振るい方をしてくる。真正面から叩き潰すのではなく、相手の逃げ道を1つ1つ奪って行くやり方。現に僕は、レイラちゃん達を奪われて戦わざるを得なくなっているからね。


「ねぇノエルちゃん、君はどうしたら負けを認めてくれる?」

『ふふふ……そうだねぇ、名前をくれたお礼に条件位は出してあげようかな?』

「本当?」

『うん! そうだなぁ……あっ、じゃあね、私がなんで死んだのかを解き明かしてくれたら……負けを認めても良いよ?』


 ノエルちゃんは、そう言ってまたくすくすと笑う。自分でも一切分かっていない、覚えていないことを答えろという、無茶苦茶な条件。でも、ゴールが見えた。


 残り時間は2週間。その間で、彼女が死んでしまった原因とその経緯を調べ、推測で良い……彼女が納得出来るだけの筋書きを組み立てる事が出来れば、レイラちゃん達を救う事が出来る。

 でも、生半可な話じゃ駄目だ。幽霊として、抜群に頭が良く、そして強かである彼女を納得させろというのは、何も知らない僕には難しい話だ。


 すると、そんなことを考えている内に少しだけ難しい顔をしていたからだろうか。くすくすと笑うノエルちゃんは、自分の周囲にくるくると青い焔を浮かばせながら僕を見据える。出来るか? 出来ないだろう? 出来たら認めざるを得ない。私の負けを―――そう言わんばかりの瞳。

 死んだ瞳は、そうであるにも拘らず感情的で、生き生きしている。矛盾していて、不気味だった。


「……分かった、やってみよう」

『ふひひっ……♪ 頑張れ頑張れ、私も知らない私の死因……楽しみにしてるよ!』

「……? まぁ、頑張るよ」


 此方の気も知らないでそう言うノエルちゃんの表情は……その笑顔の中に少しだけ、楽しさの様な明るい感情とは違う―――別の感情を感じさせた。


挿絵(By みてみん)



幽霊少女、名前はノエル・ハロウィンとなりました。

挿絵は十章終了時のキャラ紹介の投稿と共に、其方へ移動します。

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