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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十章 亡霊と不気味な屋敷
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天使は幽霊によって縛られる

 ルルちゃんの動きが、格段に向上していく。そう、『した』ではなく、『していく』だ。過去形ではなく、進行形。

 戦闘が進んでいくに連れて、ルルちゃんの速度も、攻撃の威力も、動きのキレも、格段に向上していくのが分かった。先程までは僕達が隙を作らないと攻撃を当てられなかった筈のメアリーちゃんに、今のルルちゃんはそれすらも自分で出来る程に強くなっている。


 際限無く、時間が経つに連れて、ルルちゃんの攻撃がメアリーちゃんに当たっていくようになった。

 別に、ルルちゃんの速度がメアリーちゃんの速度に追いついた訳ではない。寧ろ、メアリーちゃんの速度は今尚僕達とは桁違いに速く、真っ向から挑めば敵う筈も無い速度だ。ルルちゃんがその速度について行けているのは恐らく、メアリーちゃんが優れた実力者だと認めた上で、彼女が行くであろう最適な場所を考え、そこへ移動することでメアリーちゃんとの衝突をしているのだ。

 擦れ違い様に、彼女はメアリーちゃんの身体に小剣を振るって、攻撃している訳だ。


 もっと言えば、今のルルちゃんは獣人としての性質を引き出しているのかもしれない。普段は人間寄りで、あまり獣人としてある筈の動物の性質を見せないルルちゃんではあるけれど、今彼女はその動物の性質を引き出しているんだと思う。


 ルルちゃんは犬の獣人。


 犬というのは、五感において人間を遥かに上回る。

 視力は人間に劣るものの、獣人である彼女はその欠点はないだろう。寧ろ人間以上の視力を持ちながら、動体視力に優れている。犬はテレビがコマ送りで見える程の動体視力を持っているのだ、それを引き出しているルルちゃんは、恐らくメアリーちゃんの動きがちゃんと見えている。

 聴覚もそうだ。犬の聴覚は音を拾う範囲が人間の約6倍、その上で聞きとれる音も人間を遥かに上回る。今のルルちゃんには、恐らくメアリーちゃんが風を切る音も、僕達の僅かな身動ぎの音も聞こえている。

 そして犬として最も優れた嗅覚。最大で人間の約1億倍の嗅覚を持っている犬、老いて尚衰える事はないその嗅覚を引き出しているルルちゃんは、恐らく匂いだけで視覚や聴覚とは桁違いの情報を得ている。


 メアリーちゃんの動きをその眼で捉え、メアリーちゃんの動きで生じる音を聞き逃さず、匂いが齎す膨大な情報を有効利用している。


 しかも、ルルちゃんは獣人。犬の五感の欠点を補い、かつ犬以上の性能を引き出している。自分の中に流れる獣の血の力を、余すことなく引き出せている。


『凄いねぇあの子……最適なタイミングで最適な場所に移動し、最適な判断で最適な攻撃をしてる感じ? ふひひひっ♪ コレは勝てるかもね!』

「……どうかな」

『?』


 しかし、僕にはどうもメアリーちゃんが弱すぎる気がする。ステラちゃんよりも順位が低いとはいえ、あの口振りからきっとステラちゃんよりも強いんだと思う。でもそれにしては、ステラちゃんに比べて戦い方が地味だ。翼で高速移動し、近接打撃で攻撃する……たまに魔法を挟んではいるけれど、これではただ飛べるだけの魔法使いと何ら変わらない。


 彼女が『天使』である所以となる力は、何処にある?


「あはははっ! ルルちゃんだっけ? 良いよ良いよ! 最っ高! こんな玩具ひっさしぶり!」

「もう―――『1つ』」


 無邪気で楽しそうに笑うメアリーちゃんに、灼熱の瞳を煌めかせるルルちゃんが何かを呟いた。瞬間、ルルちゃんの速度が更に向上する。


 試しに、ステータスを覗いてみた。


 ◇ステータス◇


 名前:ルル・ソレイユ

 性別:女 Lv?

 筋力:???

 体力:???

 耐性:???

 敏捷:???

 魔力:???


 【称号】

 『奴隷』

 『太陽の天狼』


 【スキル】

 『小剣術Lv5』

 『直感Lv5』

 『野生』

 『不屈』

 『縮地』

 『魔力操作Lv3』

 『身体強化Lv6』

 『見切りLv5』

 『心眼Lv5』

 『思考加速Lv6(NEW!)』

 『獣性(NEW!)』


 【固有スキル】

 『星火燎原』

 『天衣無縫』


 ◇


 ルルちゃんのステータスは、理解し難い形に変貌していた。


「能力値が……見えない? いや……コレは隠されている訳ではない、か……」


 スキルは見えているのに、能力値は見えない。そんな事態はあり得ない。能力値を隠すのは、スキルによる隠蔽能力があるからだ。

 だからコレは恐らく、ルルちゃんの能力値が常に変化し続けている故に、僕の『ステータス鑑定』の表示を狂わせたという感じだと思う。

 

 しかも、称号に増えた『太陽の天狼』。コレは何だ? そもそも称号自体あまり良く分かっていないのに、この称号が増えて何が変わる? 称号はどのような何を齎すんだ?


「あははっ! これは、私もちょっとは本気を出しても良いかもね!」


 その時、メアリーちゃんがそう言った。

 背筋を走る嫌な予感。気付けば僕はルルちゃんに向かって駆け出していた。多分、ルルちゃんも何か危険を察知しているのだろう……彼女も僕が駆けてくるのに合わせて、僕の方へと地面を蹴った。


 ルルちゃんの背中を、メアリーちゃんが追い掛けてくる。速度では勝てない以上、追い付かれるのは必至。

 でも、『瘴気暴走ゲノムコンフュージョン』を使って速度を上げる。黒い瘴気を纏いながら、駆けてくるルルちゃんと擦れ違った。そして次の瞬間にはメアリーちゃんと相対する。



「見せてあげる、これが私の神葬武装―――『断罪の必斬(フェイルノート)』」



 手刀が振り上げられ―――ルルちゃんを護る様に前に出た僕には到底届かないにも拘らず、振り下ろされる。『先見の魔眼』や『直感』を利用しても、その手にはやはり武器はない。ただの手刀……しかし、その手刀が振り下ろされた瞬間だ。


 僕の右腕が、根元から斬り落とされた。


「ッ……!?」

「あれ? 叫び声を上げないんだね?」


 『痛覚無効』のおかげで、痛みはない。でも、どうやって斬り落とされたのかが分からない。今、何かが僕の肩から脇にかけて通り抜けた感覚はなかった。説明するならばそう……人形の腕を取り外すように、僕の腕が肩から外された様な感覚。斬られた、ではなく……落とされていた、というのが正しいだろう。


 まるで、斬られたという事実が最初からそこにあったようだ。


「神葬武装って言っても……ステラちゃんとは、かなり違うんだね」

「あったりまえよ! あんなまともに扱い切れてない無様な『神葬武装(ブリューナク)』と一緒にしないで欲しいなぁ」


 扱い切れていないとは恐ろしいこと言うなぁ。ステラちゃん、まだまだ成長の余地があるとか止めて欲しいんだけど。僕もういっぱいいっぱいなんだからさ。


「まぁいいや。私の神葬武装『断罪の必斬(フェイルノート)』には形が無いのよ……見えないし、触れないし、防げない……その気になれば此処からきつねくんの首を刎ね飛ばすことだって出来る」

『そしたら幽霊の仲間入りだね! ふひひひっ♪』


 喧しいぞ幽霊。

 とはいえ、僕とメアリーちゃんには大きく距離が開いている。この距離からでも首を落とせるってことは……先程までちょいちょい使っていた手刀は、本当に手加減していたってことか。

 見れば分かるけれど、その性質は『爆発』や『圧砕』といった感じではなく、『斬撃』。しかも発動して斬るのではなく、発動したら斬ったという結果が生まれるんだと思う。


 予測を立てるのならば、『断罪の必斬(フェイルノート)』とは―――



 ―――『斬った』という結果を生じさせる、概念的な力そのもの。



 形が無いというだけでヤバいのに、攻撃範囲が不明なのに加えて、必ず断ち切る性質を持った力……これは恐らくステラちゃんの雷同様、防御力は関係無いのだろう。

 本当に……この手の輩は皆僕の耐性(ぶき)を無意味化してくれる。つくづく厄介で面倒臭い。

 神葬武装って神殺しの武器というだけあって、本当に強力なモノばっかりだ。怖い怖い、


 とりあえず、あの武器といってもいいのか甚だ疑問な武器の攻撃範囲は、メアリーちゃんの匙加減で操作出来ると見ておく。常に一定だとすれば、序盤で使っていた時点で僕を殺せていた筈なのだから。

 もっと言うのなら、その斬撃の厚みも操作可能と見ておく。普通なら、刃物は薄く斬りやすい形状になっているのが常識なのだが、この場合斬るという概念そのもの……刃物としては常識を外れた厚みの操作も出来る可能性がある。


 何故なら、メアリーちゃん自身が……『消滅』という言葉を使ったからだ。

 僕の肩幅よりも広い厚みでこの斬撃を直撃させれば、僕はその時点で消滅するのだから。


 ステラちゃんは『浄化』と言っていたけれど、雷は断罪や裁きといったイメージがある。罪を裁くという意味では、浄化と言ってもおかしくはない。


「幽霊ちゃん、気を付けて」

『ん? なになに? 何かあるの?』

「あの武器は神を殺す為の武器だ。幽霊である君にも有効かもしれない」

『!』


 物理攻撃ではなく、概念的な攻撃。幽霊という存在とはいえ、それは幽霊という概念で構成された存在だ。斬るという行為ではなく、斬るという概念を押し付ける『断罪の必斬(フェイルノート)』は、幽霊ちゃんにも有効だと思われる。


「とはいえ……これは出血が激しいね、戻すか」

『お! 腕がくっついた!』


 落ちた右腕を拾い上げ、『初心渡り』で元に戻す。このスキルは時間干渉といってもいい程の規格外スキルだから、概念的な攻撃であっても、結果を覆すことは出来る。時間という概念に干渉していると言っても過言ではないからね。


「あははっ! 本当に面白いね! 自己修復機能のある玩具なんて、初めてだよ!」

「まぁ、僕も伊達に修羅場潜って来てないからね」

『女性関係的な?』


 喧しいぞ幽霊、空気を読め。お前死んでるけど次は消滅するぞマジで。危機感持ってくれない? 気が抜けるから。


 彼女に勝つキーポイントは、やっぱりルルちゃんの成長速度と、それに付いて行けるだけのサポートが出来れば良い。

 決定打はルルちゃん。

 その為にはあの天使の翼をどうにかして封じ込めれれば良いんだけど……その為にはあの『神葬武装(フェイルノート)』の攻撃を潜り抜けないといけない訳で、断然向こうが優勢のままだ。


『んー……厄介だねぇ……ふひひひっ♪ でもつまり、あの子の動きを止めれば良い訳だよね! ふひひひっ!』


 すると、幽霊ちゃんがそんなことを言う。それ自体が、それほど難しくないかのように軽く言う。僕の知り得る範囲じゃ、幽霊ちゃんの出来る事には全く知識がない。何が出来て、何が出来ないのか、ソレが全く分からない。

 

 でも、幽霊ちゃんはソレを軽々とやってのけた。


「ッ……!? 動けない……!?」

『くふっ……ふひひひっ! アハハハハハ! 動けない? うーごーけーなぁい♪ ふひひひっ!』


 メアリーちゃんの動きが、固まった様に止まった。翼が動かなくなり、地面に足を付ける。何か見えない鎖にでも縛られたのかと思う程、指先1本も動かせない様だった。

 歯を食い縛って、力づくで動こうとしているが……幽霊ちゃんがくふふと笑っている以上、どうやらその拘束の力は余裕でメアリーちゃんを縛りあげているらしい。


『……隙だらけだよ? やらないの?』


 怪訝な表情でそう言ってくる幽霊ちゃんに、僕はとりあえず最初に言っておこう。


「最初からやれや」


 無駄な戦闘時間を過ごしたと同時に、幽霊ちゃんの力の凄まじさを感じた瞬間だった。


ルルちゃん覚醒―――しかし幽霊は強かった。もう少し天使戦は続きます。

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