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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十章 亡霊と不気味な屋敷
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星火燎原

『えいっ!』

「わぷっ!? んもー! さっきから妙な力を使ってくれるわね!」


 桔音が幽霊に頼んだのは、天使メアリーに隙を作ること。彼女が行う事は、全てメアリーには認知されない。故に、幽霊によって攻撃されたり、何かしらの妨害行為を受けた場合、メアリーはその全てを桔音の持つ『何かしらの力』だと誤認する。

 その時その時で、桔音のアクションに共通性が無い所から、メアリーは動きの合間合間に罠を仕掛けているのだろうと思っているのだが、それはやはり誤認である以上、その先の虚像の策を見抜く事など出来ない。


 ソレが桔音の狙い。メアリーには幽霊が見えない、という事実を利用して隙を作るのだ。この事実は、例え今から桔音が幽霊についてメアリーに説明したとしても、変わらない。あくまで、幽霊という概念を知っていて、ちゃんと理解出来ていることが条件なのだ。この世界に生まれた以上、ソレは適わない。


「此処だ!」


 どうやっているのかは分からないが、幽霊は先程まで桔音の背後にくっついていた様に、今度はメアリーの背中にぴったりくっついて離れない。その状態のまま、彼女は屋敷の床に転がっていた埃や灰をメアリーの顔にぶつけたのだ。

 目晦まし程度にはなり、桔音はその隙をついてメアリーに接近する。


 しかし、メアリーとてその程度ではない。


「ッ――甘いわ!」


 即座に反応して、白い翼を桔音に叩きつけようとした。


「あはは、そっちの方が甘い」


 しかし桔音の狙いはその先。翼をその耐性値を持ってして受け流し、メアリーにその拳をカウンターで叩き込む。


 『城塞殺し(フォートレスブロウ)


 桔音の最強最大の技にして、世界でもトップクラスの威力と言えるだろう。使徒同様、メアリーとて喰らえばただでは済まないだろう。硬質化した翼でも、耐えられる威力には限界がある。

 翼を受け流され、迫りくる拳に……メアリーは有無を言わさない『死』を感じた。


 当たれば死ぬ……玩具によって殺される……そんな感覚に、メアリーは全力で翼を羽ばたかせた。桔音の拳を躱し、大きく空へと上昇した。咄嗟の判断だった故に、桔音から逃げた様になってしまったが……桔音の拳を躱したことは、彼女にとって最適な判断だっただろう。


「……面白いっ☆ 良いよ良いよ! ちょっとくらい反抗的な位が丁度良いわ!」

「僕は素直で純粋な子が良いんだけど」

「あははっ、きつねくんのこと気に入ったから壊れない限り私のペットにしてあげてもいいわよ?」

「お前は素直で純粋に壊れてんだろうが」


 桔音の言葉に対するメアリーの言葉に、桔音は冷めた瞳でそう言った。

 そして再度地面を蹴り、桔音はメアリーに接近する。同時に、待機していたルルがメアリーに向かって地面を蹴った。挟みこむ様に、空中に居るメアリーに向かって跳びあがる桔音とルルだが、当然メアリーは真下に急降下することで、逆に桔音達の隙を作り出すことに成功する。


「此処―――『瑠璃色昇龍(アジャーライジング)』!」


 メアリーの手に光の魔力が練りあげられ、真上に跳び上がった桔音とルルに向かって魔力で作られた光の龍が、天に昇っていく様に迫る。空中での方向転換が出来ない以上、この攻撃を躱す方法はない……が、桔音にはその方法がある。

 瘴気で空中に足場を作り、ルルに向かって更に空を蹴った。空中で加速して、桔音は向かってくるルルを抱き止めながら、空中から脱する。瞬間、光の昇り龍が桔音が通り過ぎた背後を通り抜けて行った。


 メアリーは桔音がそれを躱したことに驚愕しながらも、また無邪気に笑う。難しいゲーム程楽しめるタイプらしい。

 光の昇り龍は、屋敷の天井をぶち抜いて、屋敷の中から空が見えるようになった。外を覆っていた霧が流れ込み、屋敷の中の不気味さを加速させた。そして、桔音はルルを抱えて着地する。


「フィニアちゃん」

「まっかせて!」


 すると、着地と同時に桔音はフィニアの名前を呼んだ。何か指示を出した訳ではない、だが桔音のやって欲しい事をフィニアはちゃんと理解していた。

 桔音達に視線を向けていたメアリーに向かって、フィニアはスキル『高速機動』と『思慕強化』を使って、技でもなんでもない……体当たりを叩きこんだ。


 魔法が効かないのなら、スキルのサポートを受けながらの体当たりは、フィニアの持つどの魔法よりも有効打撃となるのだ。


「がふっ……このっ!」

「ほいっとぉ!」


 背中に体当たりを喰らったメアリーは、仰け反る様に身体を折ってしまったが、すぐさまフィニアを振り払うように手を振りまわす。しかし、フィニアはメアリーの股下を通る様にそれを躱した。

 更に、そこへ桔音が追撃を掛ける。フィニアの体当たりの瞬間に『瘴気暴走ゲノムコンフュージョン』を発動、一直線にメアリーの下へと踏み込んでいた。メアリーの股下をフィニアが通り抜けた瞬間、桔音は『瘴気暴走ゲノムコンフュージョン』を解除してメアリーの後頭部へと拳を叩きこんだ。


「な―――ッ!?」

『ふひひっ♪ 幽霊の悪戯ぁ~……ふひひひっ!』


 桔音の拳を躱そうとしたメアリーだが、その行動を幽霊が阻害する。その辺に置いてあった廃材をどういう訳か空中に浮かせ、そのまま勢いよくメアリーにぶつけたのだ。衝撃で体勢が崩れたメアリーは、桔音の拳をまともに受けることになってしまった。


 しかし。


「あっはは! こんなに面倒臭い相手は初めてだよ!」


 『城塞殺し(フォートレスブロウ)』ではない攻撃、それも筋力値の低い桔音の攻撃だ。恐らくはメアリーの魔力によって向上させられた防御力の前に、桔音の通常攻撃は通用しなかったらしい。

 おそらく、スキル込みの防御力で言えば、桔音に次いで過去最高の相手かもしれない。今後はどうか知らないが。


『どうするの? この子、魔法やスキルも効かないけど、物理攻撃も大抵効かないみたいだよ? ふひひっ……ふひひひひっ! 貴方といい、この子といい……おもしろーい♪』

「うるさいなぁ……」


 幽霊の言葉に、桔音は唇を尖らせながら考える。やはり、『城塞殺し(フォートレスブロウ)』か『鬼神(リスク)』による攻撃力の上昇効果がないと、ほぼ全ての攻撃が通用しない。

 ルルの斬撃も斬る箇所と当てられるという条件すら達成出来れば、そこそこにダメージを与えられるだろうが、やはり当てるのも一苦労だ。


 お仕置きするとは言ったものの、桔音には今の戦力でどうこの状況を打破するかの策が思い浮かばない。メアリーの目視も出来ぬ機動速度に加えて、凄まじい防御力、更に無尽蔵かと思う程の魔力と、未だに隠している未知の『斬撃の力』……突破するにはまだ1歩足りていない。


「……きつね様」

「ん……ルルちゃん? どうかした?」

「いえ、次の攻撃……私に行かせてくださいませんか?」


 考える桔音に、ルルが近づいて来てそう言った。少し驚いて視線を移した先にあったルルの瞳に、桔音は考えなしに言っている訳ではないということを理解する。

 何か、考えがあるのだろうと思いながら、桔音はただ見上げてくるルルの頭にぽんと手を乗せた。乱暴に撫でながら、メアリーを見据える。


「うん……その顔、何か考えがあるんだね?」

「……はい、確証はありませんが……」

「良いよ……僕は何をすればいい?」

「私が攻撃出来るだけの、隙を作って下されば十分です」


 了解、好きにやってみるといい。桔音はそう言って、瘴気のナイフを作り出す。メアリーの肌を切り裂く事は敵わない刃だが、本命はルル……その為に桔音のやる事は、メアリーに隙を作ること。ならば、瘴気のナイフとてその手札とすればいい。


 ルルが小剣を構えると同時、桔音はメアリーに向かって駆け出した。幽霊に再度隙を作る様に言って、フィニアと共にメアリーの姿勢を突き崩すべく肉薄する。

 桔音はメアリーに瘴気のナイフを投げつけ、『瘴気暴走ゲノムコンフュージョン』で加速する。瘴気の足場を生み出し、桔音はメアリーの頭上を飛び越えた。瞬間、フィニアがただのフラッシュを生み出す簡単な光魔法を使って、メアリーに対して目晦ましをする。


 桔音は一瞬の目晦ましで視界を奪われたメアリーの近くに着地すると、その横腹に蹴りを叩きこむ。大して効いてはいないようだが、多少身体が揺れた所に柔道の要領でメアリーを投げる。その先に居るのは、先程自分にやらせてほしいと言ったルル。

 翼を羽ばたかせて空中で動きを停止させようとするメアリーだが、ルルの前で止まる事は出来なかったらしい。


 そして―――


「……『星火燎原』!!」


 ルルはもう1つの『固有スキル』を発動させた。効果が分かった訳ではない……が、ルルはなんとなくこの戦闘の中でこのスキルの効果について多少の推測を立てていた。

 戦いの中で、どんどん研ぎ澄まされていく感覚。これはただの集中力の問題ではない。集中以外の要素があると見ているのだ。


 それが、この固有スキル……『星火燎原』。


 ルルは小剣を抜き、そのブラウンの瞳をまるで灼熱の太陽の様に輝かせる。ルルの名前、『太陽(ソレイユ)』を体現する様な瞳は、メアリーの翼を捉えていた。


「はぁぁああ!!」

「貴女の剣は私を傷付けられなかったでしょ? 無駄―――なッッ!?」


 振るわれる小剣。それはかつてのルルのどの斬撃よりも一層速く、そして鋭かった。


 そう、それこそ―――メアリーの翼を切り裂く程に。


「ッ……っぅ~……!」


 初めて、痛みに表情を歪ませるメアリーだが、その白い翼には一直線の刀傷がついていた。斬り落とされた羽が、ひらひらと数枚地面に落ちる。翼を切り落とすことは出来なかった様だが、あの翼に傷を付けられたというのが重要なのだ。

 ルルはバックステップでメアリーから距離を取りながら、小剣を握る手に力を入れる。そして確信した、このスキルの効果がどういうものなのか。


 このスキルは、『星火燎原』は……おそらく自分自身の能力を向上させるタイプのスキルだ。


 謂わば、桔音の『鬼神(リスク)』と同様の力。全体的に能力値を向上させるスキル故に、ルルはメアリーの翼を斬る事が出来た。


「甘く見ないでください……次はその翼、斬り落とします」

「~~~~! 面白いっ! 良いね良いね! やっぱり面白いよ! きつねくん達は!」


 ルルの灼熱の太陽の様に輝く瞳に睨まれたメアリーは、無邪気に笑いながらそう言った。


ルルちゃんの固有スキル、能力向上系のスキルでした。ただ、普通とはちょっと違います。その辺は、未だ謎のまま……!

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