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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第二章 生きるための仕事
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訓練模様

「おまたせ、リーシェちゃん」

「ん、来たか」


 武器を手に入れた桔音はその足で国の入口へと足を運んだ。門に寄り掛かって待っていたリーシェは桔音が来たことでその背中を門から離し、自身の足だけでしっかと地面を掴んだ。


「じゃあ、行こうか」

「ああ、だが雑魚とはいえ魔獣は魔獣。油断はするなよ?」

「分かってる」

「出発だよ!」


 気を引き締めるようにお互いに注意を促し、フィニアの掛け声で門から外へと出た。外は一週間前に命からがら走り抜けた草原、遠くには桔音の命が何度も消えかけた森が広がっているのが見える。

 桔音はその森を見て少しだけ瘴気の怪物のことを思い出し、ぞくっと背筋に走る悪寒を感じた。だが、今はその瘴気の怪物はいない、この悪寒は幻覚だ。


 しばらく歩くと、門から300mほど離れた所で魔獣を見つけた。桔音が逃げて来た時に遭遇した狼達だ。おそらく目算で10体はいる。

 あの時は『不気味体質』のおかげで退けることが出来たが、今回もそうなってくれるかは分からない。桔音は改めて気を引き締めた。


「ハウンドドッグだ、普通は5,6体で行動する雑魚魔獣だが、10体以上いるな……少し厄介だ」

「そうなの?」

「ああ、一体一体はそれほどでもないが、厄介なのはその連携だ。全体が見えていないと多少苦戦する」

「ふーん……」


 剣を抜いて、狼達を見据えながらそう言うリーシェ。桔音はその情報に狼達を見た。リーシェはそう言うものの、桔音にはこの狼達がそれほど脅威には思えなかった。とりあえず、小剣を鞘から抜いてリーシェの構えを真似して構えてみるものの、ここからどうしたものかと考えていた。


「とりあえず、私が全て狩る。桔音は出来る範囲で狼の相手をしてくれ、出来るだけ援助しよう」

「分かった」


 リーシェの指示に従い、桔音は初のまともな戦闘に少し緊張する。だが、怖くはないのでおそらく初めてやることに対する緊張感だろうと気分を落ち着かせた。

 そして、ハウンドドッグ達―――敵を見据えて、集中を高めた。


 すると



 ―――『不気味体質発動』



 自動的に『不気味体質』が発動した。


「キャンッキャン!」


 ハウンドドッグ達はそれを察知し、桔音に恐怖を抱く。動物的野生の本能に従って、彼らは退却していった。


「……」

「……」

「逃げてったね!」


 呆然とするリーシェと、原因を察してやっちまったという表情の桔音、そして現状を言葉にしたフィニア。

 桔音は思った、『不気味体質』がある限り自分は雑魚モンスターとは戦えないのではないだろうかと。これは手痛い事実だ、自分よりも圧倒的に強い魔獣や魔族でないとまず戦ってくれないというのだから。レベル上げも出来ないではないか。

 少なくとも、森で出会ったあの大蜘蛛は『不気味体質』のプレッシャーで逃げて行った。つまり、あの大蜘蛛以上の魔獣ではない限りは戦ってくれないだろう。


「…………きつね、何かしたのか?」

「ううん、なにもしてないよ」

「……そ、そうか、おかしいな……ハウンドドッグは強くはないが集団の数が多ければ多い程逃げることはない筈なんだが」


 リーシェが疑問に首を傾げているが、きつねは誤魔化すことにした。今のはけして僕のせいじゃない、と言い張ることにした。


「きっとフィニアちゃんの強さに怯えて去って行ったんだよ! うん、きっとそうに違いない!」

「え? そうかなぁ? えへへへ……」


 桔音は全力でフィニアのおかげだということにする。フィニアを褒め、フィニアの強さが分かって去って行ったのだろうと事実無根のでっち上げをした。

 すると、リーシェはとりあえず理由は分からないが、ハウンドドッグ達の琴線に触れる何かがあったのだろうと結論を付けた。


「とりあえず、他の場所へ行こう。ハウンドドッグ以外にも下級魔獣は多いからな」

「う、うん……」


 桔音はとりあえず『不気味体質』のせいで下級の魔獣が全部逃げて行くことが分かったので、彼女に付いて行くものの、戦う気は既に失せていた。


「……ん」


 桔音はふと、リーシェのステータスを見てみることにした。彼女は2年間もこうして訓練をしていたという。ならばレベルもそれなりに高いのではないだろうか? という考えだ。


 桔音は前を歩くリーシェを視界に捉えながら、『ステータス鑑定』を発動させた。


 ◇ステータス◇


 名前:トリシェ・ルミエイラ

 性別:女 Lv23

 筋力:420

 体力:560

 耐性:90

 敏捷:550

 魔力:120


  称号:『騎士見習い』『魔眼保有者』

 スキル:『剣術Lv2』『身体強化Lv2』『俊足』『先見の魔眼Lv0』

 固有スキル:『先見の魔眼』

 PTメンバー:フィニア(妖精)、薙刀桔音(人間)


 ◇


 おや? と思った。桔音は以前Eランクの冒険者にして、巨乳の受付嬢ミアに言いよっていたジェノ・グレアスのステータスを覗いたことがある。その際、彼は現在のリーシェの倍のレベルであり、ステータスも高かった。

 しかし、今のリーシェはジェノのステータスの半分にも満たしていない。『敏捷』の能力値はそれなりに高いが、それ以外のステータスは23というレベルにしてはいささか低いように思える。

 ジェノが特別才能に秀でていたのか、それともリーシェに才能がないのか分からないが、ステータスの上昇率にも人それぞれなのかもしれない。桔音はそう思った。

 とそこで、桔音は少し気になったことを聞いてみた。


「ねぇリーシェちゃん」

「なんだ?」

「リーシェちゃんは自分の能力値を見たことある?」

「ああ、騎士団の本拠や冒険者ギルドには自分の能力値を確認出来る魔法具があるからな」


 魔法具、また知らない単語が出て来たが、桔音はあとでギルドで確認すれば良いと一旦置いておくことにした。


「それならさ、『耐性』の能力値について教えて欲しいんだよね」


 そう、桔音が気になっていたのは『耐性』のステータスについてだ。桔音は自分のステータスの中で最も上昇率の大きいものが『耐性』であることを把握している。

 なのに、今までで見た中では一番実力のあるジェノや、一般人のミリアにミア、そして目の前のリーシェですら、『耐性』の能力値は著しく低い。これはどういうことだろうか?


「『耐性』か……確かに『耐性』は他の能力値と比較して一線を画す。その特徴として、全能力値の中で最も上昇値が少ないんだ。適性のある者は上昇値も多少多くなるが、適性のある者もそういない。例えSランクやAランクの冒険者だとしても、良いとこ500前後が関の山だ」

「そうなんだ……」


 桔音はそれを聞いて、それならば自分には『耐性』の適性がかなり優れているのではないだろうかと思った。

 実際の所、『耐性』というステータスは人間や一部を除いた獣人達にあまり適性が無い。肉体の構造上、人間達はあまり防御力に長けていないからだ。時折、『耐性』に適性を持つ人間もいるが、その適性も他より多少良いくらいであまり大差はないのだ。

 代わりに、魔獣や魔族といった生物は『耐性』に大きな適性を持っている。人間とは違って、鱗や厚い毛皮、鎧の様な装甲を持っているからだ。だからこそ、一般人では太刀打ち出来ない、その防御力故に、攻撃が全く通らないのだ。


「まぁあまり能力値に関わって来なかったのなら気になって当然か、大方きつねも他の能力値に対して『耐性』が低いのが気になったんだろう?」

「うんまぁそんなところ」


 思いがけず、自分の武器が予想以上に大きなものだと分かって少し余裕が出て来た桔音。ここからレベルが上がれば何処まで行けるのか試してみたくもなった。

 だがしかし、リーシェはここで更に新たな事実を口にする。


「だが『耐性』以外の能力値も、適性があっても永遠上がるわけではないんだ」

「え?」

「能力値には限界がある、幾らレベルが上がったとしても限界値まで上がりきればそれ以上は上がらないんだ」

「え、マジで……」


 となると、桔音の考えた防御力という武器も限界値次第では武器足りえない可能性が出て来た。先程生まれた余裕が一瞬で消し飛んだ。


「大丈夫だよきつねさん! 例えきつねさんが弱いままでも私が護ってあげるから!」

「今の僕にはかなりグサッとくる言葉をありがとう、フィニアちゃん」

「! おしゃべりは此処までだ……いたぞ」


 ステータスについての簡単な講義を受けながら歩いていると、リーシェが目の前に一体の魔獣を捉えた。群れではないが、その身体は随分と大きい。見た目は熊のようだが、その口からは隠れきれていない長い牙、地面を掴む手には鋭く長い爪が見える。

 すかさず、桔音はステータスを覗きに掛かる。


 ◇ステータス◇


 名前:山岳熊(ヒルクライムベアー)

 種族:熊型魔獣

 筋力:1500

 体力:350

 耐性:240

 敏捷:350

 魔力:0


 ◇


 どうやらスキルは持っていないようだが、そのパワーは見た目通りの様だ。あの牙や爪がステータス通りのパワーで振るわれれば、桁違いの威力となるだろう。


「あれは……ヒルクライムベアー……なんでこんな所に」

「強いね、アレ」

「ああ、冒険者の基準で言うのなら……Eランクの魔獣だ」

「どうする?」

「私達では太刀打ち出来るような相手ではない……が、どうやら逃がしてはくれないらしい」


 構えるリーシェ。見れば、熊は此方を見て威嚇していた。敵として認識されたらしい。桔音はフィニアもいるのでとりあえず敵として見ないように必死に精神を落ち付かせていた。『不気味体質』が発動して逃げられたら次はもう誤魔化せない気がする。


「来るぞ! 構え―――」

「『妖精の聖歌(フェアリートーチ)』!」


 

 響く爆音



 身体を吹き飛ばさんとばかりの爆風



 真っ白に染まった視界、



 遅れて肌を焼く熱



 何が何だか分からないが、一気に何かが起こったことだけは理解出来た。



「な、なにが……!?」


 そして、リーシェが視界を取り戻した時、


「!? こ、これは……!?」


 目の前に熊はいなかった。代わりに、半径5m程にまでに及ぶ焼け焦げた地面がそこにあった。

 そして、桔音の隣を浮遊するフィニアが両手を前に突き出している所を見ると、彼女が魔法で先程の熊を消し飛ばしたのだろうということが分かった。視線に気が付いたフィニアがなにやらドヤ顔を浮かべている。少しだけイラッとした。


「……きつね」

「何かなリーシェちゃん」

「お前達と訓練していたら訓練になる気がしないんだが……」

「…………うん、ごめん」


 桔音が敵と認識すれば逃げられるわ、ちょっと強そうな魔獣が出てくればフィニアが消し飛ばすわ、リーシェからすれば散々だ。抜いた剣の行き先をどうしてくれるのだ。まだ空気しか斬っていない。


「次はあれ、僕達何もしないから」

「何もしないよ!」

「何もしないなら帰った方が良いんじゃないかと思うんだが!?」


 御尤もである。どうやら桔音達とリーシェとでは凄まじく相性が悪いらしい。両者ともそれをしっかと理解した。


「それじゃまぁ……二手に分かれようか」

「そうだな……そうしてくれると助かる」


 桔音が弱いということは分かっているが、フィニアの実力を目の当たりにした今では自分のフォローは必要ないと思ったリーシェは、桔音の言葉を素直に受け入れた。その方が正直訓練になるだろう。


「それじゃ、私達はあっちにいくよ!」

「じゃあ私はあっちだな」


 フィニアが先程やってきた方向を指差し、リーシェはその反対を指差した。そして桔音達はお互いの方針に従って二手に分かれる。


 この時点で2戦2勝、だがレベルが上がった者はいないのだった。



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