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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第二章 生きるための仕事
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強くなる為に

 宿に戻ってきた桔音達は、早々にリーシェの下へと向かった。森からこの国に逃げて来た時、桔音が眼を覚ました部屋の位置は覚えている。桔音達は階段を上がり、真っすぐにその部屋の前に立った。

 そして、ポケットの中に銀貨を3枚入れてあることを確認し、扉をノックした。


「すいませーん」

「ああ、今出る―――て……ははは、一週間ぶりだな、きつね」

「うん、久しぶり。借りてたお金を返しにきたよ」

「リーシェちゃん久しぶり! 元気だった?」


 扉を開けて出て来たリーシェは、桔音の顔を見るや否や笑みを浮かべた。そして久々に会えたことを喜び、フィニアが出してきた小さな手の平に自身の手の平を合わせ、ハイタッチを交わした。


「ああ、待ってたよ。立ち話もなんだ、入ってくれ」

「じゃあ遠慮なく」


 リーシェが扉を全開にして、桔音達を迎え入れてくれる。桔音はフィニアを肩に乗せて部屋の中に踏み入った。

 中は桔音の借りている部屋と同じ間取りで、以前起きた時にも見た光景があった。自分の部屋と同じなのに、どこか懐かしさを感じさせるのは、きっとリーシェがいるからだろう。

 桔音はリーシェの差し出した椅子に座り、リーシェもベッドに腰掛けた。


「じゃあ、遅れたけど……改めて、助けてくれてありがとう」

「ああ、どういたしまして。元気そうで何よりだ」


 桔音はポケットから用意していた銀貨を3枚取り出し、リーシェに手渡す。リーシェもそれを受け取り、懐に入れた。

 一宿一飯の恩義、これだけで返せたとは思っていないが、借りたお金を返すことが出来たことで、桔音も幾分気楽になったみたいだ。フィニアもそんな二人を見て、にこにこと向日葵のように笑顔を浮かべていた。


「それで、今日はリーシェちゃんと遊ぼうと思って来たんだ」

「え?」

「此処一週間ずっと依頼をこなしてたからね、今日くらいは息抜きをしようと思って。それならリーシェちゃんも誘おうって話になったんだよ」

「あ、ああ……そうか、しかし困ったな……私はこれから訓練に行こうと思ってたんだが……」


 リーシェを誘った桔音だが、リーシェは都合が悪いようだった。見ればその姿は外出する格好をしている。その腰には最初に会った時に桔音の目を惹いた剣を提げて、肩には小さめの鞄を掛けている。おそらく救急箱の様に医療道具が入っているのだろう。

 これでは遊びに行くのは無理そうだ。桔音はそう判断する。元々の予定を狂わせてまで、無理に遊びに連れ出そうとは思わない。


「じゃあきつねさんも訓練に連れて行って貰えば良いじゃん!」


 だが、その時フィニアがそう提案した。

 桔音もリーシェも目を丸くする。だが、フィニアはお構いなしとばかりに胸を張って名案とばかりに続けた。


「きつねさんも一週間ずっとお手伝いばっかりで全然強くなってないじゃん! この機会に少しは修行したほうがいいよ!」


 フィニアの言っていることは尤もだ。桔音は森から逃げて来た時以降、全くレベルを上げていない。故にレベルはまだ4のままだ。防御力を死なないように上げる、と言ってはみたものの、その努力はしていなかった。

 桔音はフィニアの言葉を聞いて、密かに自分に『ステータス鑑定』を発動させた。


 ◇ステータス◇


 名前:薙刀桔音

 性別:男 Lv4

 筋力:40

 体力:60

 耐性:180

 敏捷:50

 魔力:20


 称号:『異世界人』

 スキル:『痛覚無効Lv1』『不気味体質』『異世界言語翻訳』『ステータス鑑定』『不屈』『威圧』『臨死体験』

 固有スキル:???

 PTメンバー:フィニア(妖精)


 ◇


 スキル『不屈』が発動すれば、全ステータスに補正が入るが、それが無い通常時は耐性のステータス以外冒険者として心許無い数値だ。そこで、フィニアのステータスも見てみた。


 ◇ステータス◇


 名前:フィニア

 性別:女 Lv11(↑8UP)

 筋力:310

 体力:540

 耐性:135

 敏捷:430

 魔力:5200


 称号:『片想いの妖精』

 スキル:『光魔法Lv3』『魔力回復Lv4(↑2UP)』『治癒魔法Lv3』『火魔法Lv4(↑1UP)』『身体強化Lv1(NEW!)』

 固有スキル:???

 PTメンバー:◎薙刀桔音


 ◇


「あれ?」


 フィニアのステータスは最後に見た時よりも向上していた。魔力の能力値など以前の倍以上にまで膨れ上がっている。しかも、『魔力回復Lv4』に『火魔法Lv4』とは、スキルのレベルまで向上しているではないか。更に新たなスキルを増やしている。

 フィニアは基本的に桔音と行動を共にし、此処一週間離れることはなかった筈。なのに何故レベルも能力値も上がっているのだろうか?


 桔音はフィニアの顔を驚いた表情で見る。すると、フィニアはそんな桔音に気が付いたのかドヤ顔を浮かべながら口を開いた。


「私は睡眠が必要ないからね! きつねさんが寝ている間、此処一週間はこっそり魔力を練ったり、外の狼達を相手に修行してたんだよ!」

「へぇ……フィニアちゃん、駄目じゃないかそんな危ないことしちゃ」

「え?」


 だが、桔音はそんなフィニアの行動に眉を潜めていた。別に強くなることが悪いわけではない。しかし、フィニアが自分の寝ている間に『魔獣と戦っていた』ということが許せないのだ。下手をすれば、命を落とすことだってあり得る。


「万が一あの怪物に遭ったらどうするの? もうそんな危ないことしないでね」

「う、うん……ごめんなさい」


 だから桔音はフィニアを叱った。森の中で出会い、今日までずっと一緒にいたパートナーだ、死んだりされた日には立ち直れる気すらしない。だからこそ、自分の知らない所で危険なことはして欲しくなかったのだ。

 そんな桔音の言葉に、フィニアは素直に謝った。しゅんと肩を落とす様子は、いつものフィニアを見ていれば少し珍しい。


「うん、でも凄いじゃないか! レベルも能力値も大幅に上がってる! 頼もしいね!」

「え……う、うん! 任せて! きつねさんは私が護るんだから!」


 だが、桔音は素直に謝ったフィニアを許し、そのステータスを褒めた。反省すればそれでいい、自分の為に頑張ってステータスを上げたことは感謝しなければならないだろう。そう思ってのことだった。


「でもそうだね……このままじゃフィニアちゃんにも置いてかれちゃうし……」

「ん?」


 桔音はフィニアからリーシェに視線を移動させた。リーシェは桔音の視線にきょとんと首を傾げる。


「うん、そうだね……リーシェちゃん、僕も訓練に連れて行ってくれないかな? 出来れば、でいいんだけど」


 桔音はフィニアに置いて行かれないよう自身の強化を行うことにした。冒険者のランクを上げるつもりは当分ないが、自分の身を自分で護れるようになったほうが良い。この世界はただでさえ、人の命が簡単に失われるような世界なのだから。

 すると、リーシェは顎に手をやり、少し思案した後結論を出した。


「ああ、分かった。今日は私個人の訓練だったし、良いよ」

「ありがとう、リーシェちゃん」

「場所は国の入り口から少し歩いた草原だ。昼間はあそこに、森に住めない野生の雑魚魔獣がうろついているんだ、そいつらを相手にしようと思ってる。先に行って入り口で待っているから、準備してくると良い」

「え、いやこのままで良いけど」


 桔音はリーシェの言葉にそう言う。だが、リーシェはそんな桔音の言葉にすっと目を細めた。


「何を言っているんだ、きつね。雑魚とはいえ武器も無しに魔獣を倒せる筈がないだろう、ふざけてるのか?」

「あ、そういえばそうか」


 桔音は元の世界では武器なんて持つ習慣も無かった故に、武器の存在をすっかり忘れていた。魔獣を倒すのは冒険者や騎士、だがその為には武器が必要なのだ。

 だが桔音が持っている武器らしいものといえば、折れたナイフくらいだ。


「……分かった、それじゃあ用意していくよ」

「ああ、それじゃあ私は先に行っているから」


 桔音は少し考えて、そう言った。リーシェは頷く桔音を見て、立ち上がる。桔音も同様に立ち上がり、リーシェと共に部屋を出た。鍵を閉めるリーシェを見つつ、桔音は自分の部屋へと向かう。


「それじゃ、またあとでね」

「ああ、なるべく早くな」


 リーシェは階段を下りて行き、桔音は自分の部屋へと入った。



 ◇ ◇ ◇



 さて、困った。

 リーシェちゃんと訓練に行くことを決めたはいいけど、魔獣討伐の依頼を受ける予定はなかったから武器なんて買っていない。考えてみれば僕だけじゃないのかな、武器持ってない冒険者とか。

 森ではフィニアちゃんが魔法ぶっ放してくれたから武器はいらなかったし、蜂は踏みつぶせば死んだし、狼は素直に撤退してくれたからなぁ……全く考えになかった。


 そもそも、僕は武器を持ったことはない。定番なのはやっぱり剣だけど、普通いきなり剣を殺す為に使いこなせる奴なんていない。そんなのは小説のや漫画の中だけの話だよ。まして、僕は『ステータス鑑定』以外なにかしらのチートや特典的な力を獲得している訳じゃないんだから。


「どうするの? きつねさん」


 フィニアちゃんがそう聞いてくるけど、訓練の為にはまぁ武器を手に入れないとリーシェちゃんが許してくれないだろう。

 幸いなことに、武器屋は入口に向かう途中にあったし、何か手頃なのを買おうかな。


「うん、買おう。安くて僕でも使える奴」

「おお! やっときつねさんが武器を持つんだね! 冒険者らしくなってきたよ!」

「稼いだお金も大分溜まっているし、武器の一本くらいは買えるでしょ」


 とりあえず今まで稼いだ金をポケットの中に詰め込んで、部屋を出る。階段を下りて行けばもう一週間世話になっている女将さんと目が合った。ちなみに女将さんの名前はエイラさんというらしい。


「お、また出るのかい?」

「うん、リーシェちゃんとちょっと訓練に」

「そうかい、気を付けるんだよ?」


 此処一週間でエイラさんとも気の知れる間柄になった。今では挨拶混じりに雑談する程度には親しくなったと思う。元の世界では周囲の皆から嫌われていたから、こうやって親しくしてくれる人がいるのは少しくすぐったい気分になる。


「はい」

「いってきまーす!」

「はいはい、フィニアちゃんもいってらっしゃい」


 横でぶんぶんと手を振るフィニアちゃんを連れて、宿を出る。相も変わらず賑やかな街並みだなぁ。

 少し感傷的になった所で、リーシェちゃんをあまり待たせられない。早く武器屋に向かうことにしよう。


「ねぇフィニアちゃん」

「何かなっ?」

「元の世界に帰るのってどうすればいいんだろうねぇ」


 元の世界に帰る。それは文字にすれば簡単、言葉にするのも簡単、でも、実現するのは簡単じゃない。本来、歩いたり船に乗ったり飛行機に乗ったりして移動出来る場所でもないんだ。世界を越えて、別の世界に行くなんて、全く方法が思い付かない。

 可能性があるとすれば、フィニアちゃんも使える『魔法』というファンタジーな代物。召喚魔法みたいなものがあるのなら、送還魔法だってある可能性はある。魔法には詳しくないけど、まずはそこから当たってみるかな。


「……あるよ! 探せばきっと!」


 でも、もしもそんな方法が存在しなかったら? しおりちゃんに会う方法が無かったら? そう考えると、僕がこの世界に生きる理由が無くなってしまう。それは……大きな不安だ。

 フィニアちゃんはそう言ってくれるけど、この不安は全く晴れない。あれだけの経験をしたから、怖いものなんて何もないと思ってたけど、こればっかりは無理そうだ。


「……そうだね」


 今気にしても仕方が無い。考えないでおこう。


「あ、きつねさん! 武器屋だよ!」

「うん」


 武器屋に着いた。思考を切り変えて行こう。


「ごめんくださーい」

「あいよー!」


 店に入って声を掛けると、店の奥から野太い声が聞こえた。そして少し待つと、小さなおじさんが出て来た。僕の腰ほどの身長なのに、顔は僕よりも随分年上に見える。

 多分、ドワーフって種族なんだろうね。物作りが得意で、武器屋にいるってのはまぁ印象通りかな。


「待たせたな、何の用だ?」

「武器を買いたいんだよ、安くても良いから僕でも振るえる剣やナイフが欲しい」

「ほぉ……そのナリで剣を振るおうってか、随分と身の程知らずなガキのようだな」


 ドワーフは僕にそう言ってきた。確かに、武器を作る者からすればそれを振るう人間について、見ればそれなりに分かるのも頷ける。多分そういう意味で、ドワーフは僕を身の程知らずと評価した。


「お前さん、なんで武器が欲しいんだ? 遊びで持ちたいってんなら帰れ、コイツらは遊びで欲しがるような低俗な品じゃねぇんだ」


 そういうドワーフは、僕のことを見極めようとしているような、探るような瞳をしていた。本気の意味で、武器を欲しているのか、確かめようとしているのが分かった。

 でも、僕がこの世界でやることは全て同じ目的の下やっているんだ。これは、僕の行動理念であり、たった一つの道標(みちしるべ)


 だから、答えよう。僕が武器を持つ理由は、



「生きるため」



 それだけだ。


「…………その眼、嘘じゃねぇみてぇだな」

「勿論、僕は死ぬわけにはいかない。生きないとならない理由がある」

「……そうかい、お前さんの眼をみりゃ本気なのは分かった。だが、お前みてぇなひょろっちぃ身体で振るえる剣っつったら、大したもんはねぇぞ?」

「それでもいいよ、今の僕には武器が必要だ」


 そう言うと、ドワーフは思案顔で数秒考えた後、一本の剣を取り出してきた。それは剣というには短く、40cmくらいの小剣だった。


「こいつは比較的筋力で男に劣る一般の女でも振るえる。そこそこ頑丈に出来てっから身を護る程度のことは出来るだろうよ」

「じゃあそれが欲しいな」

「ああ、銀貨10枚だ。鞘はまけといてやるよ」

「じゃあこれで」


 銀貨10枚とは結構高くついたけど、払えない額じゃない。ポケットから銀貨を10枚取り出して、ドワーフに渡した。代わりに、小剣を受け取る。命を狩り取る為の武器だからか、本来の重みよりも少し重く感じた。


「手入れが必要なら持ってこい、手入れしてやる」

「うん、ところで貴方の名前は?」

「あん? 俺は見ての通りドワーフのグランだ」

「僕は冒険者のきつね、よろしくお願いします」

「ああ、お前さんが生きている内はな」


 冒険者は自由の人、故にいつ死ぬかは分からない。だからこその言葉だろうが、僕は頷いた。死なない限りはよろしくしてくれるのなら良いことだ。僕は死ぬつもりなんてさらさらないからね。


「ありがとう、それじゃ」

「おう」


 さて、武器も手に入れたことだし、リーシェちゃんの所に行くとしよう。店を出て、小剣をベルトの付いた鞘に収めながら腰に提げた。


「それにしてもなんか静かだったね、フィニアちゃん」

「……なんか顔は渋いのに身体は小さいっていうちぐはぐな感じがちょっと怖かったの」

「あ……そう」


 意外にもフィニアはドワーフが苦手のようだった。






 

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