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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第九章 勇者と桔音

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報復を受ける異世界の因縁

 ―――それは、灯りの無い……暗い、暗い、真っ暗な夜だった。

 ジグヴェリア王国の外門、そこで向かい合う男が2人。真っ暗な空の下、左の赤い瞳を輝かせる少年と、ぼんやりと白い光に身を包む少年。そして互いの後方には、それぞれの仲間がいた。
 片方は勇者と呼ばれ、片方は死神と呼ばれた少年、2人は絆を裂き、裂かれた間柄……深い因縁で繋がれた関係なのだ。

 そして今、その因縁に……決着が付こうとしている。

 お互い、やる事は分かっていた。左目の赤い少年――桔音は、ぼんやりと光に包まれた少年――凪に復讐を遂げる為に来ており、凪もそれを理解している。
 だが、桔音は凪が素直に自分の攻撃を受け続けろとは言わない。そんなものは、凪が自己満足を得るだけで、桔音にとってはストレスの発散にもならないからだ。

 ならばどうするのか?
 決まっている。桔音は、凪に全力で戦うことを要求したのだ。スキル、剣術、力、全ての手札を出し切って戦い、そしてその上で叩き潰す。それが桔音の考えるケリの付け方だ。
 しかし、勇者一行に手を出せば最悪、『即死の呪い』が桔音の身に降りかかる。巫女の仕業だ。

「……きつね先輩、俺は……死ぬ事は出来ない。でも、俺はアンタに殺されても仕方ない事をしたと思ってる。だから、先に謝らせてほしい……勿論、許してくれなんて都合の良い事は言わない」
「……へぇ」
「すいませんでした、きつね先輩。ルルちゃんと、フィニアさんも……貴方達の絆を引き裂き、あまつさえこの手できつね先輩を痛め付けたことを、謝罪します。本当に、すいませんでした……!」

 ぼんやりとした光に包まれた凪、彼は既に桔音の要求通り『希望の光』を発動させている。その状態のまま、凪は桔音に大して深々と頭を下げた。後方にいた巫女も、同じ様に頭を下げているのが見えた。
 桔音は、そんな凪と巫女を見て、本気で反省しているのだなと分かった。やったことに対する反省の意を、彼らは真摯に頭を下げることで桔音に示したのだ。復讐をしようと思ってきた桔音からすると、それはとても面白くない。

「君は、何処まで把握してるのかな?」
「―――それは、どういうことだ……?」
「いやだから、確かに君はあの日、グランディール王国で僕を満身創痍に痛め付けた後、ルルちゃんを連れて行った。奴隷の首輪を見て、可哀想だと思った結果だったんだろう。許せない事ではあるけれど、僕としてもその行動は分からなくはないよ。だからこそ、その後首輪を破壊したんだろうし、僕の言葉を気にして一緒に連れていたんだろう?」

 そう、地球には奴隷制度は在りはするけれど、そもそも多くの人々が内心で容認はしていない。人が人を虐げる制度、平和の国日本ではその存在を許さない。国民全員が嫌悪する存在だ。だからこそ、同じ日本人である桔音が奴隷を連れていたのを許せなかったんだろうし、ルルをそんな桔音から救い出したかったんだろう。
 桔音にも、その心は理解出来る。勘違いとはいえ、許せない事だとはいえ、その行動自体は理解出来ない事はないのだ。

 でも、と桔音は繋げる。

「フィニアちゃんを連れて行ったことは違うだろう。あの時、後ろにいる巫女は動けない僕からこのお面を奪った。思想種の妖精であるフィニアちゃんの、命の依り代をね……ソレは君も見ていた筈だ」
「あ、ああ……言い訳にしかならないが、あの時はきつね先輩が奴隷を虐げていたと思っていたから……それを反省してくれれば直ぐにでも返すつもりだった。少なくとも、セシルもそのつもりで居た筈だ」
「そうかな? なら君は少し巫女に対する認識を改めた方が良い」

 桔音は右眼を閉じて、赤い視線を凪に向けた。掌を空に向けた状態で、人差し指を凪の後方にいる巫女に向ける。巫女、セシルがその指を向けられた事で、身体を硬直させた。ほんの少し、緊張したように息を呑んでいた。
 凪は指差されたセシルを振り返り、もう1度桔音の方へと振り向いた。何を言っているのか、理解出来ないと言った表情だ。桔音は凪のそんな表情に、薄ら笑いを浮かべる。

「君が少し目を放した隙に、彼女は色々やったみたいだよ?」
「な、に……?」

 桔音の言葉に、凪は自分が知らない間に何が起こっていたのかと目を見開いた。セシルによって支えられた心が、桔音がセシルを否定することによって再度揺れていた。

「まず、あの決闘制度は存在しない。君のやることを肯定する為に嘘を吐いた」

 人差し指を立てて、桔音はそう言う。1つ目で、もう凪は驚愕に目を見開いた。

「次に、攫われたフィニアちゃんとルルちゃんの抵抗を防ぐ為に、お面を人質に脅迫した」

 この場合は物質(ものじち)かな? なんて冗談を交えながら、桔音はセシルのやったことを1つ1つ説明する。凪に向かって中指を立てた。
 凪はセシルを見るも、セシルが目を逸らしたことでソレが本当だと理解出来てしまう。

「次に、君と違って僕への罰的な意味で連れ去った訳ではなく、勇者の戦力として連れ去ったという、君との認識の違い」

 薬指を立て、更に追加説明。凪の目が見開かれ、馬鹿みたいに開いた口が塞がらない。

「ああそうだ、僕がやってきたということを知って……僕の戦力が増えるのを恐れたんだろうね。彼女は君に隠れて―――ルルちゃんを殺そうとした」
「ッッ……そんなっ、嘘だッ!?」
「残念ながら嘘じゃない、僕が間に合わなかったら―――ルルちゃんは死んでたんだ」
「そん、な…………!」

 小指を立て、計4本の指を立てた桔音は、不敵に笑みを浮かべながら手を下ろすと……その笑みを潜めて怒りの形相で睨みつけた。凪によって通常スキルの発動が出来ない以上、『威圧』も『不気味体質』も発動出来ないのだが、桔音の視線に凪は強烈な威圧感を感じた。
 思わず足を後ろに1歩下げてしまう。明らかに自分が認識していた以上の事が起こっていたことを思い知らされ、揺れていた心が更に揺さぶられる。

「それも聞いてもう1回聞くけど、お前何を反省したって?」
「っ……すいませんでした……認識が甘かったです。ルルちゃんが死に掛けたことも、到底取り返しの付く様なことじゃない……でも、セシルも反省しているのは確かだ! そこは分かって欲しい!」
「まぁ良いよ、どうせ許されない事は分かってるんでしょ? 謝罪は受けた、さっさと始めようか」

 桔音は凪の言葉に手を振って、この話は終わりだとばかりに『瘴気の黒刃(ゲノムスティレト)』を生成する。同時に、『希望の光』で固有スキルまでは封じ切れないようだと分かった。
 とはいえ、それでも固有スキルに影響が全くないという訳ではない様で、瘴気変換の性質付与は出来ない。細かな所で制限が掛かっている様だ。

 だが、武器が作れるのなら問題ない。切り札である『鬼神(リスク)』や『城塞殺し(フォートレスブロウ)』も使えない今、桔音の使えるスキルは『初心渡り』、『瘴気操作』、『先見の魔眼』の3つだけ。
 それも、時間回帰や瘴気の性質付与が使えない。ステータス上負ける事は一切無いだろうが、勝つには多くの手札を削られていた。とはいえそれでいい、桔音も無抵抗の凪を甚振る趣味はない。

「ああそうそう、もう1つあったね……今の僕にはそこの巫女にある魔法を掛けられてる」
「魔法?」

 そして、桔音は軽くナイフを振りながら言う。

「そう、勇者とその仲間に危害を加えたら……呪いが掛かるって魔法だ。最悪、即死するらしいぜ?」
「!?」

 驚愕する勇者に、桔音は猛スピードで接近し、ナイフを横薙ぎに振るった。慌てて剣で受け止めた凪だが、その太刀筋と威力に何の迷いもない事を理解すると、自殺志願者でも見る様な目で桔音を見た。

 桔音は笑っている。不気味に、薄ら笑いを浮かべている。呪いなど恐れていないかのように。

 だから、凪はその呪い自体嘘ではないかと思った。しかし、セシルを見ると、また目を逸らされた。故に本当だと理解させられる。
 つまり桔音は本当に、凪に掠り傷1つ付けたら最悪―――死ぬ。

「―――ッ!!」

 背筋に悪寒が走った。
 桔音がその場で回転し、再度ナイフを振り下ろしてくる。凪は全力でそれを斬り払った。桔音はその笑みを止める事はない。
 これでは立場が逆だ、本来呪いを掛けられるのは桔音の方であるにも拘らず……それを恐れているのは凪の方なのだから。

 自分が傷を受ければ、桔音が死ぬ。

 そして、そうして桔音が死んだ場合……自分は立ち直れないだろう。何せ、勘違いでも桔音の家族の絆を引き裂き、ルルが殺されかけたというのに、その上で桔音を――同じ異世界の人間を、自分達の施した魔法による呪いで殺す……しかも死んでしまったら取り返しは付かない。
 そうなってしまった時、凪はきっと自分を責め続け……例えセシルが支えようともいずれ潰れる。そんな未来が見えてしまった。

「あはは、僕を死なせるなよ? 一生懸命、全力で防げ―――勇者気取り」

 桔音はそう言って、再度ナイフを振り下ろす。蒼白な表情で、凪は決死の表情で桔音のナイフを受け止めた。
 傷付く訳にはいかない。ほんの少しでも、傷付いたら……桔音が死ぬ。そんな考えが、彼の動きを硬直させる。普段の実力が出せずにいる。自分の身体全てに桔音の命が掛かっている、そんな状況で普段通りに動ける程、凪は非情にはなれないのだ。

 本来ならば戦闘の素人である桔音よりも、ある程度戦闘技術を積んできた凪の方が優勢になる状況で、桔音は自分の命とセシルによる呪いを話すことで凪にプレッシャーを掛けたのだ。
 その効果は絶大、『不気味体質』が発動している時と何ら変わらない恐怖と焦りが、凪の精神を追い詰める。やった事の後ろめたさから桔音を傷付けることが出来ない凪は、スキルも発動する事が出来ない。文字通り、防戦一方になってしまう。

 にも拘らず、ギリギリの緊張感の中で、桔音の攻撃は更に激しくなっていく。
 ステータス上、スピードは桔音の方が上。攻撃の予兆や事前動作を先読みする事で、なんとか桔音の攻撃を防ぐ事が出来ている凪だが、1つ読み違えば桔音によって攻撃を受ける破目になる。そうなれば、桔音に呪いが掛かる。
 がけっぷちの緊張感の中、凪の精神がガリガリと削られていく。焦りは積り、人の死を背負う重圧が彼の動きをどんどん固くしていく。結果、先読みも少しずつずれるのだ。

「あっ……!?」
「おいおい、剣を手放すなんて―――死んでも知らないよ?」
「―――……ッぁぁぁぁあああああああ!!」

 桔音の剣戟に、凪の手から剣が弾き飛ばされる。完全に隙だらけ、桔音はそんな凪に対して攻撃の手を緩めない。漆黒のナイフを振り上げ、薄ら笑いと赤い眼光を輝かせながら―――そのナイフを振り上げる。
 凪は、ナイフが振り下ろされる瞬間に重圧に耐えられなくなった。自分が斬られる恐怖ではなく、自分が斬られた瞬間桔音が死ぬという恐怖と、それに対して何の手の打ち様もない状況に、叫び声を上げるしかなかった。

 張り詰めていた精神が切れる。困惑と重圧に頭の中がぐちゃぐちゃと掻き乱される。迫りくる黒い刃を視界に収めながら、凪の頭は必死に思考を回転させていた。

 どうすればいい! どうすればいい! どうすればいい! どうすればいい! どうすればいい! どうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば―――!!!!


「あ」


 瞬間、

 凪はそんな間抜けな声を上げて、

 桔音の漆黒の刃に右肩から左腰まで斜め一直線に―――斬られた。
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