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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第九章 勇者と桔音

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過ぎ去らない問題

「で、感動の再会をしたのは良いとして、事は急を要する」
「すんっ……なにかあったんですか?」

 さて、ルルちゃんが号泣して僕の学ランを涙や鼻水でびっしょびしょにしてくれた所で、『初心渡り』でさくっと服の状態を戻して乾かした僕は本題に入る。
 まだ鼻をすすっているルルちゃんは、ぐしぐしと赤くなった目を擦りながら聞いてきた。フィニアちゃんにもまだ話していないから、ちょっと注目を浴びている。普段はレイラちゃんとかリーシェちゃんとか僕と同年代組と話してたから、小さい女の子に視線を向けられるのはちょっと新鮮。ニコちゃん以来だし、ルルちゃん達といるのが久しぶりだっていうのもあるんだろうけどさ。

 にしても……

「? なんですか?」

 はー、やっぱりルルちゃんは見てるだけで癒されるね。犬耳とふわふわの尻尾もそうだけど、小動物の様な愛くるしさがあるし、何より一緒に居て疲れないからね。大人しくて素直な子だもんね。今までレイラちゃんとかドランさんとか魔王とか使徒ちゃんとか勇者とか巫女とか魔族とか心底疲れる相手ばっかだったから、余計ルルちゃんみたいな子を見てると和む。
 ついつい頭を撫でちゃうんだよね。

「んにゅ……き、きつね様……?」
「ん、なんでもないよ。じゃあ本題に入ろうか……実はこの宿の中と外に面倒な相手を待たせているんだよ」
「面倒な相手……?」
「迎えに来るついでに厄介事を持ち込んでくるあたり流石だねきつねさん!」
「本当、面倒なのに目を付けられて困った困った」

 とはいえ、今更な話だ。
 僕が言った、宿の中と外に待たせている……というかこっちとしてはどっか行って欲しいんだけど、宿の外には使徒ちゃんが待っていて、宿の中には勇者達が居る訳だよ。
 巫女? ああ、勇者達が帰って来る前に借りてるらしい部屋に叩き込んできた。精神的にはかなりダメージを負ってる様だけど、多分彼女から僕の話が出る事は無いだろうから、勇者達はまだ僕の存在に気が付いていない。どうやらあの冒険者達の中にもいなかったようだしね。

 ああ、ちなみにあの冒険者達は普通に負けたらしい。あの代表で出てきた男はSランクの冒険者だったらしく、最後まで使徒ちゃんと戦ってたけどね。流石はSランク、段違いに強いようだ。まぁそのおかげで、僕も巫女を潰す時間が得られたんだけどね。

「とりあえず、順を負って説明するよ。僕がルルちゃん達を助けた後から」

 そう言って、僕はあの後の事を説明し始めた。


 ◇ ◇ ◇


 桔音が巫女の精神をベッキベキに圧し折った後のことだ。
 項垂れる巫女と気絶しているルルを瘴気で抱え上げ、フィニアと共にジグヴェリア共和国へと戻ることにした。何をするにもまずは色々と思考を整理しなければならない訳で、フィニア達への現状説明も兼ねて一旦腰を下ろすことにしたのだ。3日程は走りっぱなしだった事もあり、ここらで少し休息が必要だったのだ。
 フィニアは瘴気の力に若干驚きを隠せずにいたようだが、良く考えたらなんかきつねさんにぴったりな禍々しさだよ! と言って笑っていた。桔音も同じ様に苦笑していたが。

 でだ、桔音が行きとは違ってゆっくり歩いて帰ってきた時、門の前には物凄い光景が広がっていた。

 まず、あれだけいた冒険者達が地面に転がっている。瘴気の空間把握で確認したが、全員死んでいない。流石はAランク以上の冒険者達というべきか、それとも使徒ステラは彼らを殺す気がなく、手加減をしたのか、だが……結局、彼女は国を護ろうとしているだけの彼らを殺そうと思わなかったらしい。
 でも、まだ彼女は戦っていた。Sランク冒険者、序列第12位ゼス・ヒュメリ。

 彼は『絶剣』という通り名の通り、あらゆるモノを断ち切る絶対的な剣技を持った人外(ぼうけんしゃ)だ。故に、あの稲妻の槍相手に剣を打ち合わせる事が出来ていた。
 神をも殺す絶対的破壊の稲妻と、あらゆるモノを断ち切る絶対的な鋭さの剣技。故に打ち合える、神を殺すその槍は、あらゆるモノを切り裂く剣技に対して、『矛盾』の小噺の様な結果を招いていたのだ。

 稲妻すらも切り裂くその剣技は、全くブレのない軌跡を描く、超高速の剣技。本来ならば、稲妻の槍であろうと切り裂く事が出来る筈だった。
 しかし使徒の武器は神を殺す為の武器。神でも無い限りは、けして破壊される事は無い最強の武装だ。結果、稲妻の槍は斬り裂かれず、またその剣技故に彼の武器も破壊されない。結果、打ち合えるという現象が起こったのだ。

「くっ……ッハァ……ハァ……!」
「……意外に、お強いですね」
「貴様程ではない……化け物め」

 だが、武器と剣技がつりあった所で、ステラとゼスの実力がつりあう訳ではない。
 その証拠にゼスは肩で息をしており、掠り傷ではあるが所々に無数の傷を作っている。対し、ステラは余裕の表情。無表情ではあるが、汗も掻かず、呼吸も乱れていない。なにより、その身に一切の傷を作っていないのだ。
 一目瞭然……ステラが圧倒的に優勢だった。

 桔音はそれを見て、その辺の岩陰に隠れる。巫女はまだ茫然自失の様で、意識はある物の動く様子はない。とりあえず同じ様に岩陰に隠す。見つかったら芋づる方式で自分の居場所までバレてしまうからだ。

「……なんだアレ、マジバトルじゃん。え、今からアレを相手にしないといけないの?」
「うーん……私もちょっとアレは相手したくないかも」

 桔音は2人の戦いを観戦しながら、うげ、と嫌な表情を浮かべながらフィニアとそうぼやく。正直、あんだけ感動の再会をしたあとなんだからちょっと自重してください、と言わんばかりの不満顔だ。
 正直、もうルルちゃん連れてこのまま出発しようかと思う位の気分だった。しかし、桔音は此処にレイラ達を助ける為に必要なモノを手に入れに来たのだ。このまま帰る事は出来ない。

 大きく溜め息を吐いて、桔音は岩陰から出ていく。肩に乗っていたフィニアは、大丈夫なのかと不安な表情を浮かべていたが、いつも通り桔音が薄ら笑いを浮かべているのを見たからか、安心したようだ。
 そして、勇ましく足を踏み出した所で―――

「では、そろそろ終わらせましょう。あの少年を逃がす訳にも行かないので」
「ハァ……ハァ……! 私はまだ、やれるぞ」
「いえ、終わりです。もう少し、本気を出します」
「ッ!?」

 ―――くるりと踵を返した。岩陰に戻る。

「きつねさん?」
「うん、アレ無理だよ。本気出すって言ってたもん」

 桔音もそんなに対策があった訳ではなく、使徒が少し本気出しますと言った日にはもう逃げるしかない。というより、あの武器自体がチート臭いのに、更なる力が解放されるとなっては如何に防御力があろうと防げない。
 あれは、神を殺す為の武器なのだから。


「『神殺しの稲妻(ブリューナク)』―――聖痕解放(オーバードライブ)


 使徒ステラがそう言った瞬間だ。これまでただの電気の塊がかろうじて槍の形を取っていた様な、稲妻の槍が、その形を変えた。
 持ち手が細くなり、槍の形をはっきりさせていく。柄頭からは、雷が弾ける様な音と共に膨張しており、そして刃の側は鋭く尖った。

 しかし、変化したのは形だけではない。その場に居た全員が、最初に感じた異変は形の変化ではない。


 ―――延々降り注ぐような、脅威的威圧感だ。


 地震、落雷、暴風、嵐、津波……そんな自然の脅威を目の前にした時と同じ、逃れられない死を強制する様な威圧感。
 世界の自然の脅威を全てその小さな槍に押し固めた様な圧倒的な気配だった。もっと言えば、ゼスは天井から押し潰される様に身体が重くなり、身体が動かなかった。恐怖しているのだ、その槍に。自然の脅威の前では、人間は無力―――それを体現するかのような反応だった。

「まぁ……これは私にも若干負荷が掛かりますので、今回はほんの少ししか解放してませんが……十分でしょう」

 そして、使徒の台詞に更にゾッとなった。
 これほどの威圧感であるにも拘らず、ほんの少し……具体的に言えば約10%程しか解放されていない彼女の武器……これでまだ本気ではないというのか? ゼスは、使徒の底知れない実力に、意識的ではない……身体が反射反応でぶるりと震えた。

「行きます」

 そう言って、使徒が1歩前に足を踏み出した。

 踏み出して、終わっていた。踏み出したと思ったその瞬間、使徒はゼスの背後に抜けていて……ついでにその槍で背中を縦に大きく切り裂いていた。
 始まった瞬間に、終わっていた。なんとなく桔音は理解した……時間を止めて攻撃するという桔音の最終手段と似ていたからだろう。いつのまにか斬られていたのだ。

 ゼスの身体が、叫び声を上げる前に倒れた。即死ではない、が……放っておけば確実に死に至る程の重傷。ゼスは最早、自力では立ち上がれなかった。

 そこで初めて、桔音は岩陰から出て来た。

「やはり出てきましたね」
「正直、出ていきたくは無かったんだけどね」

 桔音の存在には気が付いていたようで、使徒が驚いた様子でも無く桔音に視線を送って来る。すると、槍が不意に元の不安定な槍の状態へと戻った。ほんの僅かな解放だとしても、少しは身体に負荷が掛かる故に、その解放を再度抑え込んだのだ。
 桔音はその力をぶつけるほど強くは無いと判断した故の、行動だった。

 しかし、先程までの桔音と……今の桔音は少し違っている。

「1つ提案がある」
「……なんでしょう」
「僕も久々にフィニアちゃん達に会えて嬉しいし、使徒ちゃんもさっきのでちょっと疲れてるでしょ? 此処は一旦刃を納めて、明日改めて勝負し直そう」

 大胆にも、そう言ったのだ。
 いや、勿論このまま戦いに突入したって構わない。それでも、桔音はある意味第2の切り札ともいえる力を覚醒させているからだ。巫女へのあまりの怒りで覚醒した、その力を。巫女相手にその片鱗を見せた桔音ではあるが、珍しくその覚醒した力を上手く理解出来ていた。

 だが、それでもあくまで戦闘を避けられればという考えで動いたのだ。
 駄目で元々、使徒の返答がどうであれ、この場を切り抜ける事ができればそれで良い。

 すると。

「―――ああ、家族と会えたのですね……分かりました、確かにあの状態はかなり負荷が掛かります。この状態で少年とやり合うのは、少々苦戦しそうですし……この場は一旦刃を納めましょう」

 使徒は意外にも、そう言ってきた。桔音は目を丸くして意外とばかりに驚いたが、見た所無表情だから分かり辛いが、稲妻が槍の形を最低限でも保てなくなっている。確かに、どうやらあの解放状態は凄まじい半面、反動も大きいらしい。

「明日のこの時間……また来ます」

 使徒は槍をふっと消すとそう言って、一旦去って行った。
説明、次回に続きます。
効率的な思考の使徒ちゃんからすれば、確実に殺せる道を選んだんでしょうね。
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