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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第二章 生きるための仕事

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スタートライン

 Hランク冒険者として、最初の依頼を達成する事が出来た桔音(きつね)は、報酬として手に入れた銀貨をポケットに入れた。
 初めて自分の力で稼いだ報酬を手に入れたことではしゃいでいたテンションも落ち付いて、桔音はこれからの行動を考える。報酬は手に入れた、これでリーシェから貰った金額も含めると銀貨3枚のお金を手に入れたことになる。果たしてこの金額で宿を取れるかどうかは分からないが、まだ時間はある、もう一つ依頼を受けるのも良し、安めの宿を探して休息を取るも良しだ。
 とはいえ、宿を取るにしろ依頼を受けるにしろ、最優先で知らなければならないことがある。依頼に向かう途中でも考えた、通貨の価値についてだ。
 宿に泊まるにはどの程度のお金が必要なのか、一般人の一日の生活費はどれほどの金額なのか、知らねばならない。元の世界でこそ、桔音の金銭感覚は十進法で分かりやすい。10円が10枚で、100円、100円が10枚で、1000円、といったものであり、簡単かつシンプルなものだった。
 しかし、この世界においては銀貨以外の硬貨は知らず、お札があるのかも知らない。

「……これは仕方ない、まずは『常識を聞いても問題ない人』を探すとしようか」
「きつねさん、どうするの?」
「うん、とりあえず宿を取ろう。リーシェちゃんの泊まってる所がいいかな、勝手も分かってるし」
「そっか!」

 桔音の判断には基本的に肯定的なフィニア。既に彼女の定位置と化した桔音の右肩に座り、ご機嫌そうにニコニコと笑顔を浮かべている。
 桔音はそんな彼女を微笑ましく思いながら、ミアの前に移動する。となりの受付嬢がなんだか残念そうな表情を浮かべたものの、とりあえず気にしないでおくことにする。
 桔音が目の前にやってきたミアは、まだ仏頂面を浮かべていたが、座っている故に見上げる形で桔音に視線を送っている。話をするだけの意志はあるようだった。

「それじゃミアちゃん、また来るね。色々教えてくれてありがとう」
「…………いえ、仕事ですから」
「うん、それでもだよ」
「……そうですか」
「またね! ミアちゃん! 私からもありがとう!」

 桔音とフィニアはミアにお礼を言うと、振りかえってギルドの入り口へと歩きだす。ミアの表情は先程よりも心なしか和らいでいた。その視線は桔音の背中を射抜いており、今回の一件で完全に桔音へと興味を抱いた様子だ。
 その証拠に、桔音がギルドの入り口から出て姿を消すと、ふぅ、と重い溜め息を吐いた。


 ◇


「とりあえずさっきの宿に戻ろうか」
「うん!」

 桔音とフィニアは、ギルドから出て、リーシェの泊まっている宿屋へ向かうことにした。道は覚えているのか、桔音とフィニアは迷いない足取りで歩いて行く。
 お昼時を過ぎたことで、食事処の客入りもピークを過ぎている。賑やかだった町並みはどこか落ち着きを見せていた。行きかう人の中には、この国で普通に暮らす人もいれば、店を出して懸命に商売に明け暮れている人もいる。
 中には冒険者然とした迫力あるオーラを纏った者もいれば、騎士然とした正義感溢れる者もいた。桔音も今はその内の一人なのかと考えると、少し気後れしてしまう。

 と、そこで見慣れない人を見つけた。強面の男が台車を引いて歩いている。それだけなら桔音も特に気に掛けはしなかったのだが、その台車に乗っているものが問題だ。台車には檻のようなものが乗せられており、中には老若男女問わず、数名の人が入っていた。そして中の人々は総じて力の無い瞳をしており、似た様なボロ布の服を着せられていた。
 しかも、明らかに人間でない者もいる。頭に動物の耳があり、尻尾を持つ者がいた。おそらく、獣人と呼ばれる種族の者だろう。

「……あれ、なんだろう」
「んー、さぁ? 知らなーい」

 擦れ違い、後方へと過ぎ去っていく強面男。桔音が考え得る可能性として、あの檻に入っていたのは『奴隷』というところか、恐らく誰かに売られたか、奴隷にならねばならない理由があったかで、奴隷に落ちたのだろうが、桔音の気にしているのはそういう所じゃない。
 元々、日本という国には奴隷制度はない。もとより人を虐げ、陥れる行為を嫌う平和の国だ、桔音からしても奴隷というのは少しばかり受け入れ難い現実だった。

「まぁ、確証もない……しかし奴隷がいるとなると……」

 桔音は奴隷というものを受け入れ難く思っているが、同時にこれは丁度良いのではないかと考える。奴隷、となればその人権の全てが所有者にある存在だ。そして、桔音にとって都合が良いことにこの世界の奴隷は総じて、『この世界の住人』だ。
 つまり、奴隷を購入してこの世界の常識を教われば何も問題はないのではないだろうかと考えたのだ。人権を握っている以上、秘密を漏らすことはないだろうし、異世界における行動のノウハウを知ることが出来る。今の桔音にとってとても都合が良い存在だ。

「奴隷、か」
「ん?」
「いや、なんでもない」

 今は宿を取ることが最優先だ。奴隷云々の話は可能性として頭の隅っこらへんに追いやっておこう。
 そう思いながら、しばらく歩き、リーシェの宿泊している宿屋に戻ってきた。フィニアに看板の文字を呼んで貰ったところ、『黄昏の宿屋』という名前らしい。

 中に入ると、一度見たことのある食堂と受付カウンターが目に入る。おやつ時だからか食堂スペースには数名の宿泊客がおり、雑談を楽しんでいる。

「いらっしゃい、お客さんかい?」

 すると、カウンターにいた気の良さそうな女性が話し掛けて来た。年齢は40代ほどで、話しかけやすい温和な雰囲気を纏っている。おそらく、彼女がこの宿の店主で、女将さんなのだろう。
 桔音はカウンターの所まで歩み寄り、女将さんの前に立った。

「はい、とりあえず一泊いくらなのか聞きたいんですが」
「ああ、此処は一泊650ルピだよ」
「……」

 ルピ? なんだそれ、さっぱりわっかんねぇ☆
 桔音は悟った様な表情で薄ら笑いを浮かべた。とりあえず、銀貨を一枚出してカウンターに置いてみる。

「これで、足ります?」
「ん、銀貨1枚ね……これで半月は泊まれるけど、どうする?」
「マジで? じゃあそれでお願いします」
「あいよ、それじゃお釣り250ルピね」

 女将はカウンターの銀貨を持っていき、金を入れる場所にチャリンという音を立てて収納した。そして何やら石の様な材質で作られた硬貨を25枚程渡してきた。
空いている部屋の鍵を持ってきて、カウンターに置いた。

「はい、207号室。2階の奥の方の部屋だよ。この宿では食事を出しているけど、食事代は別料金なんだ。食料さえ自前なら無料で調理場を貸しているけど、食事を出して欲しいなら半月分、3000ルピ必要だよ」
「じゃこれで」
「銀貨1枚ね、じゃはいお釣りの7000ルピ」

 今度は銅で出来た硬貨が7枚帰ってきた。ここまできて、ようやく桔音にもこの世界の金銭感覚が分かってきた。
 銀貨という名前から、銅の硬貨は銅貨、石の硬貨はまぁ石貨とでも言おうか。日本円に治すと、銀貨は1万円、銅貨は1000円、石貨は10円と言ったところだろう。『ルピ』というのは桔音の感覚で、『円』に直すことが出来る。

 3000ルピ、つまり3000円、つまり銅貨3枚だ。だから1万ルピである、1万円である、銀貨1枚を出して、7000ルピ、つまり7000円の銅貨7枚が帰ってきたという訳だ。食事代にしては安いかと思うが、追加料金的な意味であることと世界が違うことを考えればまぁ納得出来る。
 650ルピで半月、つまり650円×15日で9750円、銀貨1枚(1万円)出して、250ルピ返って来る計算だ。100円玉の硬貨がないのが気になるが、まぁそこはそういう常識なのだろう。

 銀貨以上の硬貨があるのかは分からないが、とりあえず今は日本円で3万円もくれたリーシェに感謝が止まらない。

「ありがとうございます」
「食事は朝は7時から9時の間、昼は12時から14時の間、夜は18時から20時の間じゃないと出ないから、気を付けるんだよ」
「はい」

 桔音はお釣りと鍵を受け取って、お礼を言う。そしてそのまま自分の部屋へと向かって階段を上って行った。


 ◇


 部屋について、桔音は中に置いてあったベッドに座った。フィニアもふかふかのベッドに飛び込んでゴロゴロと堪能している。

「さて……一旦休憩」

 桔音はそう呟きながら、思考する。お金については現時点で知り得る硬貨の価値を理解した、そして時間の概念は元の世界と変わらないことも分かった。先程、食事の時間帯を言う女将さんの言葉から、元の世界と全く同じであることを汲み取ったのだ。
 一泊の宿泊代が650円、というのは些か安過ぎじゃね? と思う桔音ではあるが、まぁ部屋にはベッドやテーブルといった最低限の家具くらいしかなく、部屋としてはそれほど広くない。サービスではなく、本当の意味で宿泊する為だけの宿屋ということだろう。それならばかなり安価な値段だと思っても、この世界では常識なのだろう。
 とはいえ、半月の宿を確保出来た訳で、なんとか一息付けそうだと思った。

「はぁ……フィニアちゃん」
「ん?」
「とりあえず、これからの方針を決めよう」
「うん!」
「まず、今日から半月の間は此処で暮らせるので、リーシェちゃんに返す分のお金を稼ぐまで依頼をこなしていこうと思う」
「うん、恩は返さないとね!」
「それ以降は働きたくない」
「この引きニートが!」

 見事なまでに駄目人間っぷりを露わにする桔音。流石のフィニアも全力で罵倒してしまった。

「冗談だよ……とりあえず、元の世界に戻る方法を探す」
「……うん」
「その為には死なないことが最優先だ。別に戦いで勝つ事に意味はないからね、まずは戦いになってもけして死なないようになることが重要だよ」
「なるほど、ということは修行だね! 修行して無双するんだね!」
「いや違う。どうやら僕の能力値的に攻撃力にはあまり期待出来そうにないからね……かわりに防御力に関しては中々見所がありそうだから、防御力を上げまくる! それこそ、何をされてもノーダメージで済むくらい」
「戦う気ゼロだね! いっそ清々しいよ!」

 桔音は密かに、これまで出会った人達のステータスを覗いていた。それ故に、自分のステータスとの比較をし、自分のステータスが一般と比べてどれほどのものなのかを調べていたのだ。例えば、一般人で子供であるミリアであれば、

 ◇ステータス◇

 名前:ミリア・アイリーン
 性別:女 Lv8
 筋力:30
 体力:60
 耐性:10
 敏捷:20
 魔力:30

 ◇

 スキルは省略するが、桔音の倍のレベルを持っていながらもそのステータスは桔音よりも大きく劣っていた。
 そして、一般人で成人しているミアは、

 ◇ステータス◇

 名前:ミア・ティグリス
 性別:女 Lv14
 筋力:50
 体力:80
 耐性:10
 敏捷:40
 魔力:50

 ◇

 こうなっている。レベルはやはりミリアよりも高いが、そのステータスはやはりミリアと大差ない。桔音は此処まで見てみてある程度の予想を立てた。
 おそらく、レベルというのは戦闘経験を積まなくとも上がる。知識や肉体の成長によって上がった能力値でも上がるのだろうと。だがその場合、戦闘経験で上がったレベルよりも能力値の伸びはごく僅かなものになるのだ。故に、Lv4の桔音でも戦闘経験によって上がった能力値はLvで大きく勝るミリアやミアを上回る事が出来たのだ。

 そして、最後にミアに絡んでいたEランク冒険者ジェノだ。

 ◇ステータス◇

 名前:ジェノ・グレアス
 性別:男性 Lv47
 筋力:1160
 体力:1080
 耐性:100
 敏捷:750
 魔力:270

 ◇

 高い。スキルは省略したが、戦闘に役立つスキルを多く習得しているようだった。それに、レベルも桔音の10倍はある。各能力値もそのレベルに違わず高かった。
 だが、魔力においては他と比べて低い。おそらく、筋力の高さからして力で圧倒するパワーファイター型なのだろう。魔力の高い者はおそらく魔法使いとして魔法を駆使して戦闘を行うのだろうと予想する。これは個々の才能に準ずるのだろう。

 そして、桔音が最も着目したのは、『耐性』のステータス。桔音はLv1の時点で『耐性』が100あった。にも拘らず、ジェノはこと『耐性』においてのみ、Lv47にして桔音の初期値と同程度の能力値しかない。
 これはおそらく、桔音の『耐性』における才覚は相当のものと見ていいという確信になった。

 故に、桔音は考えた。自分の戦闘方針、それは、


 ―――何者の攻撃をも防ぐ防御力を手に入れること


 そうすることで、『負けない』戦いに持ち込むのだ。そうすれば、桔音は相手の攻撃を対処しながら、逃げる事が出来る。逃げることが出来れば、生き延びることができる。そして生き延びることができれば、元の世界へ帰る可能性が繋がる。

「でも、逃げられない相手や圧倒的攻撃力を持つ相手もきっと出てくる。出来る限り戦いたくないけど、やっぱり戦う時には戦わないといけないからね……」
「うん……そうだね」
「だからその時の為に、フィニアちゃんには決定打になって欲しい」
「決定打? どういうこと? 凄くカッコイイ響きなんだけど」
「フィニアちゃんには攻撃力になって欲しいんだ、時に逃げる為の援助攻撃に、時に相手を倒す攻撃力に、なって欲しいんだ」

 桔音が死なない為の防御力だとすれば、フィニアは相手を倒す攻撃力。元々、『耐性』のステータスは適性のあるもの以外は上がりにくい、ならば攻撃力において現時点でもかなりの高さを持つフィニアには、とことん相手の殲滅する能力に長けて貰った方がいいだろうと考えたのだ。

「うん……うん分かった! この美少女妖精フィニアちゃんが、振り掛かる火の粉を全て殲滅してみせるよ! きつねさんには酸素だって近づけさせない!」
「それ僕死ぬよね? 僕も殲滅しにかかってるよね?」
「任せてっ!」
「……ははは、全く頼もしいね」

 フィニアの向日葵のような笑顔にはいつも元気づけられる。そう思いながら、桔音は苦笑する。方針は決まった、それぞれの適性を最大限活用した戦闘方針。
 まずは宿を確保し、ようやくスタートラインに立った。ここから、桔音は元の世界に戻る為に行動を開始する。

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