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フィニアと桔音の似た所

昨日は風邪(レイラちゃん)に魘されて投稿出来ませんでした。

で、約3時間程闘った末、気合で治しました。なので投稿しまーす。

 ケイナちゃんの街を出発して、また走り出した僕。途中に幾つか村らしき場所があったけれど、スルーして進んでいる。というより、人の気配がしなかったから廃村なんだろうと思ってスルーしたんだけどね。

 アリシアちゃんから貰った地図によると、ジグヴェリアまで約1週間は掛かるだろうとされていたにも拘らず、『瘴気暴走ゲノムコンフュージョン』を休憩を挟みながら使ったおかげかかなり早いペースで進んでいるみたいだ。

 出発してから約2日、この調子なら明日から明後日辺りにはジグヴェリア共和国に到着出来そうだ。まぁ『瘴気暴走ゲノムコンフュージョン』の時の僕は、馬車の数倍は速いからね。そんな速度で休憩挟みつつ何度も走っていれば、時間短縮も当然だろう。


 ちなみに、この『瘴気暴走ゲノムコンフュージョン』は休憩を挟んでも、使う度に継続時間が減る。最初30分限界まで使った場合、2回目は20分くらいが限界になり、段々と間隔が短くなる。最終的には1分も使えなくなるから、あまり多用出来ない力なんだろう。『初心渡り』の時間回帰でかなりの負荷が掛かる様に、この力も限界以上行使しようとすると、激しい頭痛が走る。耐性が関係無い、自分の身体の警告反応なんだろう。


「にしても……1人で走り続けるだけなんて、つまんないなぁ……」


 そして今は休憩中。段々と山岳地帯になってきて、道もかなりゴテゴテしたような光景に変わって来ている。

 魔獣達の性質も様変わりして、やっぱりこの辺じゃ狼や猿といった山や草原で生きている小中型動物系の魔獣は出て来ない。でもその代わりにゴブリンやオーク、オーガといった魔獣達に加えて、ライオンや虎等の大型動物系の魔獣が姿を見せ、更には毒を持った昆虫系の魔獣なんかが増えてきた。

 といっても、やっぱり『不気味体質』を発動すればその魔獣達は普通に逃げていく故に、ルークスハイド王国から出てから僕は一切魔獣と交戦していない。まぁケイナちゃんの所で強面の男達に因縁付けられたくらいか。


 さて、それじゃ休憩も終わったし出発しよう。こういう時に耐性の高さは便利だね、自己治癒能力の高さはそれだけ疲労の回復も早くなるし。


「ま、今の僕にとって……事態が早く進むならそれでいい」


 呟き、また走り出す。最近学ランが小さくなってきた気がする。身長伸びたかな?



 ◇ ◇ ◇



 さて、その時勇者達はというと、ルル達とジーク達がそれぞれ依頼から帰って来て、先に宿へ戻って来ていた凪達と合流した。

 凪の武器製作が終わらない内は、この国を動けないので、どうしようかという話し合いになっていた。

 凪としては、しばらくこの国で依頼をこなしながらレベルアップを図るのも良いんじゃないかと思っていた。セシルは凪の意向に従うらしく、異論は無い様だ。

 だが、ジークとシルフィは少し意見が違っていた。


「今日シルフィと一緒に依頼を受けて来たんだが……俺達はパーティでありながら連携が取れてねぇ。今日もかなり戦闘中に空回りする事が多かったんだ。依頼を受けるのは文句ねぇが、ここらで少し連携を取れる様にしといた方が良いんじゃねぇかと思う」

「は、はい……私もそう思います。遠距離型の魔法使いと……近接戦闘の剣士なら、お互いの連携が出来ないとパーティとして機能しないと思います……」

「成程……」


 それは、パーティ全員の連携力の向上。使徒との戦いでもそうだったが、未だにお互いの事を良く知らない凪達は、誰が何処でどう動くかの予想が付かない。探り探りのフォローを入れるのが精一杯なのだ。援護を入れられた所をみすみす見逃してしまったり、入れなくてもいい所に援護射撃を入れて味方を危険に晒したり、今の彼らは危なっかし過ぎるのだ。

 凪はそれを聞いてその通りだと思う。個々人が強くなろうと、それを合わせるだけの技術と信頼関係が築けていない以上パーティである必要はないのだから。


「それじゃあ……武器が出来るまでのおよそ4日間、遠距離型と近距離型でペアを組んで依頼を受けよう。まずは遠距離と近距離で組んで行う戦闘に慣れよう」

「私達も、ですか?」

「あ……えーと、ルルちゃんとフィニアさんは……危険の無い範囲なら自由に行動してくれて構わない。ただ、不本意かもしれないけど……ちゃんと宿(ココ)に戻って来てくれると嬉しい」

「依頼を受ける時点で、危険は付き纏ってくるよ。それに……この世界に危険のない場所なんて何処にもない」


 未だに、ルルとフィニアの扱いに関しては少し物怖じしてしまう凪。

 依頼を受ける時点で、危険のない、などという前提は崩壊している。フィニアは言った、この世界に危険の無い場所は無いと。それもそうだ、グランディール王国のギルドに居た桔音は使徒に襲撃されたし、ルークスハイド王国に向かう途中の街の宿、そこに魔王が現れた。フィニアの言う通り、この世界には必ずしも安全な場所など何処にもない。

 勇者はまだ考えが甘い。

 街の中に居れば危険は無い、ギルドに居れば危険は無い、無意識下でそんな風に考えているのだろう。更に言えば、使徒と戦ってなまじ生き残ってしまったから、命を失う実感を知らないのだ。しかも、凪はまだ目の前で人が死ぬという光景を見たことが無い。魔獣を斬り殺したことはあるものの、人が死んだという経験が無い凪は、まだその危機感を分かっていない。


 自分の周囲で人が死ぬという現実を、凪はまだ縁遠いモノだと無意識に思っているのかもしれない。


「きつねさんに謝るとか言ってたけど……そんな考えじゃまだ甘いと思うな」

「それは…………何が、言いたいんだ?」


 フィニアの言葉に、凪は桔音に口撃された時の様な恐怖を少し感じた。

 だが、桔音よりはまだマシだ。凪はフィニアに聞き返す。


「あのね、この際はっきり言ってあげる―――人は死ぬよ?」

「ッ!?」

「まだ理解してないならそろそろ理解した方が良いよ。人は簡単に死ぬ、それこそほんの小さなことで死ぬよ? ほら、貴方の腰に提がってるその剣……」

「え……?」

「その剣はオモチャじゃないんだよ? その剣の一振りで、人を殺せるんだよ?」


 息が詰まった。

 思わず、腰の剣に視線を向けてしまう。そうだ、この腰に提げている剣は……何かを『殺す』為の道具だ。人を救うため、何かを護るため、などと色々言っているものの、結局はその為に何かを殺している。肉を切り裂き、骨を断ち、血に塗れ、命を奪う道具なのだ。


 それを、なにやら勇者らしき男が腰に提げている。それが何をする為の道具でなのか自覚せず、覚悟も持っていないのに。フィニアはソレが、腹立たしいのだ。


「もうちょっと、命の重みを自覚しなよ。きつねさんは、この世界に来た初日から何度も何度も死の危機に遭ってたんだよ? 貴方みたいな力を持たない、普通の人間だったのに」

「……」

「貴方がお城で優遇されていた時、きつねさんは左眼を失ってたよ? 貴方が勇者として慕われている時、きつねさんは生きる為に必死にお金を稼ごうとしてたよ? 貴方は国から色んな物を与えられたんだろうけど、きつねさんは自分の力だけしかなかったよ? この世界に来たばかりの貴方は色んな人に護られてたんだろうけど……この世界に来たばかりのきつねさんを護ってくれる人は、誰もいなかったよ?」

「ッ……それは、そう……だけど」


 フィニアは、勇者のあまりに甘い考えと恵まれた環境に、睨みつけながらそう言う。

 自分が慕っている桔音は、あんなにも酷い目に遭いながら必死に生きようと足掻いて、足掻いて、家族を手に入れて、仲間を手に入れて、やっと平穏を手に入れたというのに。この目の前の男は何不自由なく優遇された暮らしをしていた。

 さらに、桔音はなんとか手に入れた平穏さえも奪われた……何もかも与えられた勇者に。その自分勝手な正義感に。動けなくなるまで痛め付けられ、そして勝手な偽善で絆を引き裂かれた。


 だから色んな意味でフィニアは勇者を嫌っている。最早嫌悪すら抱く勢いだ。その上こんな何の覚悟も出来ていないヘタレ男など、ふざけるなと言いたい。

 

「今の貴方に、剣を握る資格は無いよ。貴方がその気になれば、人が死ぬことを自覚して。負けたら、誰かが死ぬんだよ? その事を理解して。次にあの白い子が来たら……死ぬのは貴方じゃない、貴方を護る誰かだよ?」

「……悪い、危機感が足りてなかった」

「いいよ、私は貴方に何も期待して無いから」


 フィニアはそう言ったきり、もう何も言わなかった。

 勇者達の空気が、かなり重い物になる。セシル達は凪の覚悟が足りていないことに気付いていなかった事を恥じていた。魔獣とは戦えていたし、戦闘に関しては大丈夫だろうと思っていた。しかし、ソレをフィニアは見抜いた。嫌いだからこそ、勇者の欠点が見えた。

 恐らく、フィニアが何も言わずにこのまま進んだ場合……きっと凪は人間を相手にした時、何も出来なかっただろう。剣は鈍り、意志は揺れ、何も出来ないままに自分が死んだだろう。


「……まぁとりあえず、今後の方針は言った通りだ。フィニアさんに言われた事は、俺の中でちゃんと真面目に考えるよ」

「はい。もしもの時は相談して下さいね? ナギ様」

「ああ、ジーク達もそれでいいか?」

「おう」

「は、はい」


 フィニアが空気を悪くしてしまったが、桔音と同じでフィニアも正論を述べただけ。それに、フィニアが気付けたことに気付けなかったのは、仲間として少し思う所があるのだろう。フィニアに対して、ジーク達は何も言わないし、言えなかった。

 当のフィニアは、ルルの膝の上で頬を膨らませながら不機嫌顔だ。凪と同じ場所に居る時は、いつもこんな顔をしているフィニア。ルルはそんなフィニアを膝に乗せながらも、無表情で事の流れを傍観している。基本的に、ルルは勇者達と過ごしている時何も意見を言わないし、言われた事は理不尽でなければ従う。波風立たせない様な立ち居振る舞いは、ルルが見出したある種の処世術なのだろう。


「それじゃあ……そういうことで」


 凪が両手を合わせ、少し困った様な表情を浮かべながらそう言うと、他のメンバーも各々頷いてそれぞれ行動を始める。剣の手入れをするジークや、ベッドに腰掛けて帽子を膝の上に乗せるシルフィ、大きく溜め息を吐く凪に、その隣に寄り添うセシル。


 そんな光景を、ルルはただ無表情に、無感情に、時が流れるままを……見つめていた。


ご心配お掛けしました。

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