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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第八章 覇王と亡霊

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勝負開始

 この幽霊娘に勝つ方法は、実の所幾つかある。といっても、確実に勝つ方法ではなく、勝てる可能性のある手段が幾つかある、といった感じだけどね。

 まず、捕らわれたレイラちゃん達の目をどうにかして覚ますこと。
 勝負する理由自体を解消する事が出来れば、勝負は意味を為さなくなる。つまり、僕の不戦敗で勝利と同じ戦果を得る結果を作り出せる訳だ。ある意味、これも僕の勝利の形の1つと言えよう。

 次に、戦闘以外の勝負に持ち込んで勝利する。
 これは特にくだらない勝負であるほど勝ち易い。例えば、ジャンケンだとか、しりとりだとか、そういう勝負に持ち込んで勝てばいい。卑怯な手を使って勝つ奴が良く『勝ちは勝ちだ』とか言うけれど、それと同じだ。
 負けを認めさせれば良いんだから、『負けは負けだ』。どんな形であれ、それが敗北という形を取っていれば、それは僕の勝ちなんだよ。

 その他挙げるとすれば……それこそ正攻法。戦闘でもなんでも、負けを認めさせる。
 戦闘なら、彼女に攻撃を当てる方法を見つける所からだけど。後はもうバレないイカサマでもするしかないだろう。

『ふひひっ……どうするの? どうやって私に勝つの? 楽しみだねぇ……ふひひひひっ』

 不気味に笑う幽霊娘、てか名前なんだよ。『ステータス鑑定』で見ても、彼女のステータスは見えない。死んでいるからか、彼女が何かしらの力で隠しているのかは分からないけど、多分幽霊のステータスは見えないんだと思う。
 でも、彼女もまた僕に触れられるのか? 防御力に関しては自信のある僕だけど、彼女も僕に触れられないんだったらちょっと戦闘にならないよね。あの蒼焔の鬼火も熱を感じないから、殺傷能力はなさそうだし。

「そうだねぇ……それじゃあ君の暇潰しに付き合うんだ、勝負内容は僕に決めさせて貰う」
『え? んー……まぁいっか。でも、つまらない内容なら……却下だからね? ふひひっ』

 僕が選んだのは、2番目の選択肢。戦闘以外の勝負に持ち込む、だ。
 彼女だって、僕に負けないだけの要素を持ち合わせている上に、正直この勝負は圧倒的に彼女に分があり過ぎる。人質を取られた上に、負けを認めない以上は敗北しないだなんて、ちょっと不利だろう。

 だから、僕の得意分野で勝負しようじゃないか。


「―――僕とお話しようぜ。勝負内容は舌戦と洒落込もうじゃないか」


 口先三寸、巧言令色、口八丁手八丁、言葉だけで丸め込むことなら、僕の得意分野だ。
 故に、勝負の内容は『舌戦』。相手を傷付ける武器や力ではなく、相手を論破し丸め込む言葉での勝負。心を揺さぶり、揚げ足を取って、相手の意見を何もかも否定し尽くし、最終的に黙らせた方が勝ち。

 有る事無い事織り交ぜて、じわじわと追い詰める。

『舌戦……ね。でも、何を話すの? 話し合うテーマが無いんだったら勝負にならないよ?』
「テーマは必要ないよ。今から制限時間以内で雑談して、僕が君に『負けた』、と言わせたら僕の勝ち、制限時間いっぱいまで君が『負けた』と言わなかったら君の勝ちだ。ああ、ちなみに勝負中はリーシェちゃん達に手出しは禁止だ。君は勿論、僕も指1本触れない」
『へぇ……シンプルで面白いね……ふひひひっ……♪ 良いよ、受けてあげる』

 そして彼女は、僕の勝負に乗ってくれた。霊体だから服装は自由なのか、彼女は何処からともなく眼鏡を取り出して掛ける。頭の良い人に見える様に、形から入った様だ。
 でも、服装は変わらない。紺色を基調とした、フード付きのポンチョ。その下にはボロボロで所々破れている灰色の服を着ていて、チラチラと下半身にスカートが見える。スカートの裾からは黒タイツに包まれた脚が覗き、浮いているからか靴は履いていない。

 そこに眼鏡が増えただけ。臆する理由は一切無い。しかしまぁ、眼鏡の向こう側で此方を見る死んだ瞳は、やはり不気味だ。
 『不気味体質』で恐怖心を煽っているけれど、幽霊だからかやっぱりスキルが効いていない様に見える。

「でもまぁ、関係無いか……スキルや高いステータスなんて、元々持ってなかったんだし……」
『ん?』
「なんでもないよ……それじゃあ―――雑談(しょうぶ)を始めよう」
『ふふっ、ふひひっ……大事なことを忘れてるよ? この勝負の制限時間は?』

 ああ、そういえばそうだったね。忘れてた忘れてた。制限時間、僕が彼女に口撃出来る時間の量。しっかり見定めないとね……考えて、僕が彼女に勝てるだけの時間を見定めなければならない。
 でも、これは至極簡単な問題だ。考えなくとも答えは出る。負けたと言わせれば僕の勝ちなんだから。

 僕は、彼女の問いに即答気味に答えた。


「―――1ヵ月だ」



 ◇ ◇ ◇



 桔音は、幽霊娘との勝負を取り付けた後……ルークスハイド王国を『発った』。

 屋敷を出た後、宿に戻った桔音は、荷物を纏めて宿をチェックアウト。その後再度城へと向かい、アリシアとオリヴィアにレイラ達の僅かな荷物を預けた後、屋敷に誰も近づけない様にしてくれと頼んだ後、ルークスハイド王国を出たのだ。
 馬車に乗れない以上、足は自分の身体のみ。桔音は全力で駆けた。

 何故か?

 桔音はあの幽霊娘と約束した。
 1ヵ月の制限時間を取り付けた以上、その期間内でレイラ達に何かする事は出来ない。そして、舌戦である以上、桔音に対して物理的な邪魔や妨害行為をする事も反則だ。あくまで武器は、『言葉』のみなのだから。
 故に、桔音は1ヵ月という時間の中で勝つ為の様々な手段を考え……その為に必要なモノを回収しに行く事を決めた。


 そう、つまり―――取り戻しに行くのだ。


「この際仕方ない……急ごう、待っててフィニア(・・・・)ちゃん、ルル(・・)ちゃん」


 桔音の大事な、家族とパートナーを。
 アリシアは王女であり天才だ、桔音から話を聞いて……勇者の行き先について簡単な予測を立ててくれた。グランディール王国から見て、ルークスハイド王国へ向かう方向とは逆方向へと進んだ勇者達。
 そして、出発時は大した装備では無かったことを聞いて、おそらく行き先は『ジグヴェリア共和国』だろう、アリシアは地図を桔音に渡しながらそう言った。

 桔音は1人、勇者の下へと向かう。

 この勝負で、全て。全てだ。この世界で手に入れた桔音の全ての絆全てを―――


「―――取り戻す……何もかも全て」


 桔音は笑う。
 戦闘技術を学んでいる時間は無かった、でも関係ない。今こそ全部取り戻る好機なのだ。家族も、パートナーも、仲間も、全部まとめて奪い返す。

 桔音の内から放たれる死神の威圧感。その死神の構える鎌の刃が、勇者へと迫り始めた。



 ◇



「……きつねの奴、行っちまったのか?」
「姉様……はい、おそらく。勇者の居場所を聞いてきましたが……仲間を取り戻してはいないようでしたが……きっときつねにとっては必要なことなんでしょう」

 桔音がルークスハイド王国を発った後のことだ。
 城の中では、アリシアとオリヴィアが桔音の事を気にしていた。何故屋敷に誰も近づけない様に言ってきたのか? 何故勇者の居場所を知ろうとしたのか? 何故仲間を放って国を出たのか?
 分からない事は色々ある。しかし、それはきっと桔音にとって必要な事だと考えている。

 アリシアは知っている、桔音が異世界人であることを。

 だから同じ異世界人である勇者と何か接点があるかもしれないという事も、なんとなく察している。もしかしたら、桔音はあの屋敷について何かを掴んだのかもしれない。その上で、勇者の力が必要なのか……はたまた別の目的があるのか……ソレは分からない。

 しかし、桔音は別れ際にこう言った。


『必ず、戻って来る……その時は、君の懸念は全部僕が解決してあげるよ』


 アリシアはこの言葉を信じた。軽快な口調で、なんの重みも信憑性も感じない様な、薄っぺらい口約束ではあったけれど、それもなんとなく桔音らしいと思えた。
 桔音は軽薄で、呼吸する様に嘘を吐く様な、そんな男ではあるけれど。口にしたことはきっと守る。そんな男だ。出来ない事は出来ない、やりたくない事はやらないと、はっきり言う桔音だからこそ、やると言ったことは必ずやり遂げる筈。

 アリシアは、短い時間ではあったが……桔音と過ごしてそう確信していた。

「戻ってきますよ、きっと」
「ま、そりゃ心配してねぇけどさ」

 アリシアの言葉に、オリヴィアははにかむ様にそう言った。

「さて、それじゃあ仕事に戻りましょう」
「ッハハ! それじゃ私は街に出てくるわ」
「……はぁ、まぁ良いです。姉様には特に期待はしてないですから」
「お姉ちゃんだろ?」
「さっさと行けお姉ちゃん」

 どちらにせよ、桔音がやるべきことに彼女達は手を出せない。ならばせめて、普段通りに過ごすまでだ。
 オリヴィアは街へと繰り出し、アリシアは執務室へと戻って行った。



 ◇ ◇ ◇



 そしてあの幽霊屋敷では―――……。

『ふふっ……ふひひっ……あー、面白いっ……何あの子、何考えてるんだろ?』

 幽霊の少女が空中を浮遊しながらクスクス笑っていた。
 桔音が、制限時間は1ヵ月と言った時、彼女は目に見えて分かる様に唖然とした。1ヵ月もの間雑談し続けるのかと思った位だ。
 だが、そうじゃなかった。彼は唖然とした幽霊少女に向かって背を向けると、なんのことは無いとばかりに、軽くさらりとこう言った。


 ―――それじゃ、しばらくしたらまた来るよ。


 引き止める間もなかった。彼は入って来る時とは違って足早に屋敷を出て行った。レイラ達を置いて、1人で去っていった。
 残された幽霊の少女は茫然とした。あの少年が何を考えてるのか、全く分からなかったからだ。舌戦を仕掛けたのは少年の方、なのに敵前逃亡とばかりに姿を消したのだ。

 ただ1つ、また来るという言葉だけを残して。

『私を見る事が出来る子が、あんな子で良かった……ふひひっ、楽しくなりそう……!』

 少女は空中を自在に動き回りながら、意識のないリーシェやレイラ、ドランに触れる。いや、正確には触れている訳ではないが、3人の頭をぽんぽんと叩きながらクスクスと笑う。

『助けに来てくれると良いねー? ふふっ……ふひひっ♪ アハハハハハハ!』

 幽霊の少女は、待つ事にした。もう1度、あの自分と同じく不気味に笑う少年が、この屋敷を訪れる時を。少年の仲間を人質に取りながら。
 深い霧に囲まれた、腐敗した土の臭い漂う不気味な屋敷の中、不気味に笑いながら、少女は少年を待つ―――………


『あ、でも食べ物とか居るかな? 眠ってても栄養位は必要だよね?』


 だがまずは差し当たって、眠ったままの彼女達を生かす事を考えなければならないようだ。

一応色々と謎を残したまま……第八章、終了です。しかし、この話は第九章と続いて行きます。ちなみにキャラ紹介は、第九章終了時に纏めて出しますので、ありません。
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