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親衛隊とぼっち

 図書室で居合わせた少女を、上から下までじっと観察してみた。そして見終わった後、いやいやこれはツッコミどころがあるよ、と嘆息しながら首を振った。

 

 まず彼女の容姿だけど、若干青みがかった銀色の髪を腰の少し上辺りまで伸ばしていて、それを片方の肩から身体の前に流している。頭の上には銀色のティアラが乗っていて、瞳はクールな知性を感じさせるブルーの瞳。

 まぁいいだろう。普通に整った容姿で、普通に何処にでもいそうな可愛い子だ。

 でもツッコミどころは此処からだ。彼女の着ている服装、割烹着だった。エプロンじゃないけれど、小学校とかで給食当番が着ていた様な、白い割烹着を着ていた。しかも、その下はオリヴィアちゃんが来ていた様な制服っぽい服装。

 明らかなミスマッチを体現している。何? お洒落のつもりなの? 本来調理場に居る様な服装の癖に、図書室で本読んでるとか、滅茶苦茶だよね。


 でも何よりこの子、確実に頭良いけど馬鹿だ。多分アリシアちゃん達以外じゃそれほど上手く話せないと思う。お友達居ないタイプのぼっちちゃんだろう。


「……お友達……トモダチ、友達……信頼関係や好感度、共感を抱きあって互いを肯定し合う人間関係……友情の大きさは、互いの為にどれだけ自己犠牲が出来るかで量る……そんな存在が本当に存在したなんて……!」

「何? 君にとっては友達ってユニコーンとかそういう幻獣の類なの?」

「ゆ、ユニコーンはいます……きっと……!」

「友達の存在よりユニコーンの存在を信じるって相当じゃね?」


 この子何がなんでも友達の存在を認めないよきっと。アリシアちゃん達、この子の教育間違ってるよー……もうちょっとこうさぁ……友達の出来る機会をあげた方がいいと思うな僕。普通に可愛い子なんだから、普通に友達出来るって。

 でもまぁこれはもう手遅れだよね。正直もう手の尽くし様がないや。


 まぁいいや、この子ティアラをしてるってことは第2王女だろう。何処となくアリシアちゃん達にも似てるし、十中八九間違いない筈だ。

 しかしまぁ……アリシアちゃん達とは違って普通の子だね。


「あぁところで、君名前は?」

「ッ! ……異性に名前を教えたら孕まされるとオリヴィアから聞いてます。その手には乗りません……!」

「あのシスコンどんだけ過保護なんだ」


 あはは、問題はオリヴィアちゃんにあったのか……妹だからって随分と甘やかしているというか、過保護というか……あの人随分なシスコンだなぁ、この子より7歳のアリシアちゃんの方が性知識的には優秀なんじゃない? というかこの子、本好きっぽいのになんでそういう知識については疎いんだ? もしかしてこの図書室……保健体育系の本なかったりする?

 うわぁ、エロ本ないじゃんそれじゃ。残念だ、凄く残念だ。


「あぁじゃいいや……その教えが正しければアリシアちゃん達はもう孕んじゃってるけど、良いの?」

「貴方……! なんて酷いことを……!!」

「そう来るかー……嘘だと気付いて欲しかったなぁー」

「許しません……! だ、誰か……誰かこの人を……」


 彼女は若干恐怖と怒りの入り混じった視線で僕を睨み付けた後、ぼそぼそと小さい声で兵士を呼ぶ。いやいや、そんな声で届く筈がないじゃない。目の前に居る僕ですらも聞きとれるか分からない程の微かな声、しかも今は僕を探して兵士達も慌ただしいし、物理的に来れないだろう。


 そう思っていたよ。うん、数秒前までは。



『アイリス王女様ぁぁぁあ!! 御無事ですか!!!』



 来たんだよねー兵士数十人位。凄い勢いで扉をぶち破ってきた。そして凄まじい速度で彼女を円状に取り囲んで、厳重な警備体制をとりやがった。剣を抜き、全員僕に向かって剣先を向けている。


 何この人達。アリシアちゃんが攫われた時にこの結束力を出せよ、何みすみす攫われちゃってんだ、馬鹿か。

 というか、良くあの呼び掛けで来れたものだね。なんでだろう? 待機してたのかな?


「……ひ、ひぃ……!」


 アイリスって呼ばれてたっけ? じゃあアイリスちゃんだけどさ、囲まれたから怯えてんじゃん。円の中心で引っくり返ってるじゃん。頭抱えて蹲ってるじゃん。自分を護ってくれる兵士に対して怯える王女ってどうなのよ。

 極度の人見知りなのかな? ぼっちが確実に持ってる性質だね。僕はほら、超コミュ力高いから違うよ。


「貴様……先程の侵入者だな? 何が目的だ!」

「いやうん、確かに門兵をのしちゃったのはやり過ぎたかな? とは思ってたけどさ、あれだよ……ほら、アリシアちゃんかオリヴィアちゃん呼んでくれれば分かるから、ね?」

「貴様ァ! アイリス第2王女だけでなくアリシア第3王女やオリヴィア第1王女のことまで手に掛けようというのか! させん! させんぞ!! 王女達は我々親衛隊が護り抜く!!」

「あはは馬鹿じゃねーのこいつら」


 どうやら親衛隊の皆様らしい。親衛隊、現代の日本ではアイドルの応援団とかのことを親衛隊とかって呼ぶけれど、本当の意味は国家元首とかそういう部類の要人を武装警護する部隊のことなんだよね。

 このアイリスちゃん達への忠誠心とテンションの高さから、アイドルの応援団的な方の親衛隊かと思ってつい笑い飛ばしちゃったけど、普通に武装警護隊の方だよね。うん、思い違いだった思い違いだった。


「アイリス王女様! お逃げください!」

「ひぃぃ……!」

「アイリス王女様! 蹲らないでください!」

「た、助けて……!」

「助けます! だからお逃げください!」

「あ、アリシア……オリヴィア……!」

「無事です! だからお逃げください!」

「む、無理」

「アイリス王女様ぁぁぁぁぁぁあああ!!?」


 コレ漫才か何か? 円の中心で蹲ったまま小さくなっているアイリスちゃんに、親衛隊隊長的な人が逃走を促しているけれど、取り囲んでるせいでアイリスちゃんが逃げられない。異性に対して恐怖心があるのか、それとも大柄な男達に囲まれて怯えているのか、それか人見知りが発動してるのか……なんにせよ、アイリスちゃんが物凄い追い詰められているのは分かる。


 うん、なんか人の厚意で押し潰されるタイプだよね。1人で居たら、気を利かせて話し掛けてくれる1つのグループの中心人物が来て、それに付いて来た人にぞろぞろ囲まれた時のぼっちの心境だろう。あれは正直辛い物があるよね、小学校位の時に味わったなぁ僕も。

 まぁ僕の場合は厚意じゃなくて悪意で話し掛けられたんだけどね。


 それにしてもだ、僕の目の前で親衛隊の皆さまとアイリスちゃんのやり取りを、いつまで見ていなくちゃいけないんだろう? そろそろ移動しても良いかな? アイリスちゃんには悪いけど、アリシアちゃん達に用事がある訳だし、レイラちゃん達をいつまでも待たせる訳にはいかないからね。


「さて……ん?」

「……」

「……えー」


 ふと、親衛隊に囲まれたアイリスちゃんと目が合った。助けてくれと眼で語っている。いやいや、元々を糺せば君が呼んだんだぞその親衛隊の皆さまは。そしてそれを呼ぶ原因の僕に助けを求めるなよ。1周回って僕味方になっちゃってんじゃん。君の頭の中で何が起こってそうなったんだ。

 自業自得ってことで、諦めてね! そういう意味も込めて僕は嘲笑を浮かべた。アイリスちゃんが絶望の表情で肩を落とした。


 さて、アリシアちゃん達は何処かなー?

 

 そう思いながら、僕はわいわいとうるさい親衛隊達の横を通り抜けて、図書室を後にした。



 

 ◇ ◇ ◇




 その頃、アリシアとオリヴィアは侵入者の一報を受けた後、侵入者の特徴を聞いてその正体をすぐに理解した。あ、これきつねだ、と。

 黒い服で、両眼で色の違う少年、極めつけは不気味な薄ら笑いを浮かべているなど、確定的だ。加えて、こんなやり方で城へと乗り込んで来るような馬鹿も桔音しか思い浮かばなかった。


 アリシアは、桔音ならやりかねないという、彼の非常識さから。


 オリヴィアは、自分が呼んだから来ちゃった? という結論から。


 それぞれ別の場所で報告を受けながら、同じ反応で苦笑した。そして、報告に来た兵士にそれぞれ同じ命令を下す。


「その侵入者、生かして捕らえよ―――」

「そんでもって―――」



『私/アタシの(トコ)まで連れて来い』



 兵士はその命令を受けて深く頭を下げ、それぞれ侵入者を探している兵士達の部隊へと戻っていく。

 アリシアもオリヴィアも、元々桔音を城に呼ぶ予定ではあったが、こんな事態は想定していなかった。幾ら自分達が気に入っている相手だからといって、侵入者は侵入者、それ相応の対処をしなければならない。また厄介なことを持ち込んできたものだ、と思ってしまう。


「さて……まずあのきつねが素直に捕らわれてくれるかだが……」


 アリシアはそう呟きながら、盗賊達を轢き殺した桔音達のバイオレンスさを思い出す。おそらくあの馬車で轢き殺すという案は桔音の物だろう、わざわざ1人ずつ倒す手間を省く為に、あんな柔軟な発想し、尚且つそれを実行する胆力、冒険者としての精神力ならトップクラスだろう。

 あれがHランクの冒険者―――とすれば、完全に冒険者は化け物揃いだ、いや、化け物しかいない職業になってしまう。Hランクを桔音基準で考えれば、Sランクの冒険者なぞ、たった1人で魔王を数人軽く倒してしまうだろう。


 アリシアも、桔音の異端さを7歳にしてしっかと理解していた。


「まず無理だろうな……仕方ない、奴がなにを目的にここへ来たのかは知らないが……緊急事態だ、私から会いに行くとしよう」


 だからこそ、兵士達に大人しく捕まる様な男ではないだろうということは、すぐに予想出来た。

 アリシアは自ら動いて桔音を探すことにした。今日の仕事は殆どが書類仕事、文官達には少し負担を掛けてしまうだろうが、その分後で埋め合わせをすればいい。

 自分自身の才能を自分自身で把握出来ているアリシアは、まずは桔音が侵入してきた真正面の入り口から、彼が何処へ行くかを予測する。


「ふむ……まぁ差し当たって図書室か? でも時間経過を見ればもう出た頃か……可能性としては図書室で本を読んでいる可能性も無きにしも非ずだが……まぁ良いだろう、まずは図書室へ行くとするか」


 アリシアはそう呟いて、桔音に会いにレッドカーペットの上を歩き出した。



アリシア(7)、アイリス(16)。



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