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この国の人は個性的

連投連投♪

 オリヴィアちゃんに紹介して貰って、ドワーフのおじさんの名前はゲイツさんだという事が分かった。気難しい人っていうのは、馬鹿だから会話が通用しないという意味だったらしい。なんだそりゃ。

 とはいえ、実力は確からしい。バルドゥルの甲殻を見せた瞬間、眼が変わった。凄まじい迫力を感じさせるほどの集中力、戦闘に関する威圧感なら何度も感じたことはあるけれど、アレは別物だね。


 ―――職人(・・)の威圧感


 確実に1級品を作り出す、という誇りと自信を持ってるからこその、この迫力だ。1つの事に秀でているからこそ、その1つの事を突き詰めようとしている人種。怖いね、なまじ何でも出来る天才よりも、よっぽど怖い。


「こりゃすんげぇ素材じゃねぇの……! 胸が昂る!」

「これで、僕に合った武器を作って欲しい」

「良いだろう。俺に任せな兄ちゃん。そうだな、兄ちゃんに合った武器っつーと……成程、了解了解」


 バルドゥルの素材を見たゲイツさんは、僕の身体をじっくりと見ながらうんうんと頷いてそう言った。僕に合った武器っていうのが何なのか、その人を見ただけで分かるのか……これも職人としての技術と鑑定眼ってことかな? 凄いな。


「で、幾らくらいになるかな?」

「ん? んん? んーと……幾ら?」

「知らねぇよ」


 でもやっぱり馬鹿なんだよなぁ……これどうやって店を経営してるんだろう? 金額の計算が出来ないなんて、店の経営出来ないじゃん。


「あれ? お客様居るなら言って下さいよおじさん」

「お、おお! チェルシー! これ幾らだ!」

「はぁ……ちょっと待って下さい」


 すると、店の奥から普通の人間の女性が出て来た。オリヴィアちゃんよりも年上だろう、作業をしていたのか煤だらけだ。作業着を着ていて、僕達の所まで近づいてくると、素材と作る武器の内容をゲイツさんに確認して、値段を計算し始めた。どうやらこの女の人がこの店の経営担当らしい。

 そして、手早く計算を終えると、ゲイツさんは対応は女性に任せるんだろう、バウドゥルの素材を持って店の奥へと引っ込んでしまった。


 残された女性は、僕に営業スマイルを向けると、1枚のメモを見せた。計算式が書かれている。


「素材の持ちこみと、武器の生成の作業時間を考慮して、お値段金貨1枚と銀貨35枚になります」

「これは今払う感じで?」

「いえ、今回御依頼の武器は、完成までおよそ1週間程掛かりますので、お金は完成後商品と引き換えで構いません」

「じゃあ、1週間後にここに来ればいい?」

「はい」


 まぁ武器が出来る時間はゲームみたいに一瞬じゃないよね。現実じゃかなりの時間が掛かるだろう。この女性はゲイツさんと違ってしっかりしてるなぁ……あの馬鹿なゲイツさんが良く雇ったね……それともこの女性がゲイツさんの腕を見込んで弟子入りでもしたのかな?

 うん、そっちの方がありそうだ。雇用関連の手続きなんて、ゲイツさんに出来るとは思えないし。


 という訳で、僕は商品の引き換えの為の書類をサラサラっと書いた後、商品引き換えの為のナンバープレートを貰った。

 なんでも、この女性―――チェルシーさんが此処に雇われて間もない頃、馬鹿なゲイツさんが依頼された武器を作った後、それを依頼者でない者が受け取りたいと言ってきて、記憶力の乏しいゲイツさんはみすみすソレを渡してしまったという事件があったらしい。

 だからチェルシーさんは、作った武器にはナンバリングをして、そのナンバーと同じナンバーのプレートを持った者にのみ商品を引き渡す、というシステムを作ったらしい。ちなみに、プレートは弟子のチェルシーさんの手作りとのこと。


「じゃ、よろしくお願いします」

「はい、またのご来店をお待ちしております」


 で、そんなやりとりを終えて、僕はレイラちゃんとオリヴィアちゃんを連れて店を出た。


 鉄の匂いに慣れたからか、此処に入って来た時程鉄の匂いが気にならない。

 この後はレイラちゃんの言ってた洋服を見に行く訳だけど、オリヴィアちゃんはこのままずっと付いてくるつもりなのかな?


「オリヴィアちゃんはこれからどうするの? 城に戻る?」

「んー……そうだな、じゃあ私は城に戻るぜ。良ければ今度遊びに来いよ、歓迎するぜ?」

「そんなウチ来る? みたいな感覚で城に呼ばれてもねぇ」

「ッハハ! ま、妹もお前のことは結構気に入ってんだ、会いに来てやってくれ」


 ふーん……アリシアちゃんが僕の事気に入ってくれたんだ? まぁ気に入られたのは良いことだけど、僕あの子に気を遣ったりしてないんだけどな。歓迎してくれるっていうなら今度遊びに行こうかなぁ、図書館とかあったら元の世界に戻る手掛かりとか有るかもしれないし。

 とはいえ、オリヴィアちゃんとはここでお別れか。結構話してて楽だから、このまま付いてくるつもりならそれでも別に良かったんだけど、王女様っていうのはそれなりに忙しいのかもしれない。無理に引きとめる事も無いだろう。


「じゃ、またな」

「うん、またね」

「……またね♪」


 そう言って、オリヴィア第1王女は、城へと駆けて行った。また行く先々で国民に話し掛けられているのが見える。本当に慕われてるんだなぁ、この国が栄えるのも良く分かるよ。

 

 さて、それじゃあレイラちゃんのご要望通り、洋服を見に行こうかな。正直、僕は学ランを毎日新品に巻き戻せば綺麗になるから、他の洋服は要らないんだけど、レイラちゃんが新しいことに興味を持つのは良いことだ。

 こうやって少しづつ成長していくんだね、レイラちゃん。僕は何だか嬉しいよ。涙が出そうだ……出ないけどね。


「じゃ、行こっか」

「あ、うん♡」


 いつの間にか繋ぎっぱなしだったレイラちゃんの手を引いて、来た道を戻る。宿から出たすぐ近くに、服屋が見えていたから、今度は案内もなく辿り着けるだろう。


「それにしても、なんで洋服? レイラちゃんいつもその格好じゃん」

「うん♪ クロエがね、おしゃれしたらきつね君が褒めてくれるって言ってたの♪」

「へー」


 それ僕に言っても良いことだったのかな? いやまぁおしゃれしたレイラちゃんを見てみたいとは思うけれど、この子隠し事出来ないタイプだなぁ、いや隠し事をしないタイプの子なのかな?

 僕の気を惹こうとしてるのか、分かってたけど本当僕の事大好きなんだね。嬉しいことではあるけど、レイラちゃんは恋人とかデートとかそういう知識を持ってないから、僕もレイラちゃんの好意にどう接すれば良いのか分からないんだけど。


「でも、レイラちゃんお洒落出来るの?」

「え? お洋服を着替えたら良いんじゃないの?」

「……店員さんに手伝って貰おうね」

「うん♪」


 この子お洒落が何か分かってないや。かといって、僕も女の子のお洒落に詳しい訳じゃないし、店員さんに任せてレイラちゃんを着飾って貰おう。彼女は魔族だけど、素材は良いしね素材は。最近は中身も乙女モード全開だけど。あれ? レイラちゃん普通に可愛い子になってない?

 最初の頃とは大違いだよなぁ、最初なんて押し倒されて食べられそうになったのに。ていうか左眼喰われたのに。今じゃ手を繋いで赤面する子だもんなぁ……人って変わればとことん変わるんだね。


 でも、魔族には変わりないんだけどね。あの瘴気の力を使ったらその辺の生物皆『赤い夜』になるよ。わー怖い怖い。脅威の感染力、Sランク魔族は伊達じゃないよ。


「あ、ここだね」

「わぁ♪ お洋服がいっぱい♡」


 そんなことを考えながら僕とレイラちゃんは服屋に辿り着いた。扉を開けて中に入ると、服がいっぱい並んでいる空間が広がっている。女物もあれば、男物もある。冒険者用に動きやすい服もあるし、寝巻きや作業着なんかもある。結構幅広い客層狙ってるね。


 すると、入り口で店の中を見ていた僕達に、女性店員の1人が近寄ってきた。


「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」

「あ、丁度良かった。店員さん、この子に似合う服とか色々見繕って下さい」

「は、はい?」

「僕らお洒落とか良く分からないんで、店員さんの良いと思う感じにお洒落させてくれます?」

「は、はい!」


 という訳で、店員さんに全てを丸投げする。レイラちゃんをグイッと差し出して、店員さんの思う良い感じに仕上げて貰おう。

 レイラちゃんはきょとんとした表情を浮かべて僕を見るけど、知らない。良いから黙って店員さんの言う通りにするんだ。


 店員さんは少し呆気に取られていたけれど、言われた事を理解すると、レイラちゃんの素材の良さを見て、やる気が出て来たらしい。服屋で働いている以上、コーディネートには自信がある様だ。

 レイラちゃんの手を掴むと、戸惑うレイラちゃんをずるずると引き摺っていく。僕はレイラちゃんの手を放し、売られていく牛を見る様な眼で彼女を見送る構えを取った。


「さぁさぁお客様! 私がばっちり着飾らせて頂きますよ!」

「え、ちょ、待って、きつねく――――……!」


 やる気満々の店員さんに引っ張られて、レイラちゃんはちょっと慌てながらも試着室へと姿を消して行った。レイラちゃん、女の子のお洒落ってね……結構厳しい世界なんだってさ。


 とりあえず、敬礼。


『お客様!? 下着は付けてないんですか!?』

『え、し、下着? 何それ?』

『女性なんですから服の下にも気を遣うべきです!』

『だ、だって、ひゃん! な、なんで胸に触るの!?』

『大きさを計ってるんです! 着られる服にも色々あるんですよ!』

『ま、待って、やっぱりおしゃれは止め』

『何言ってるんですか! お客様は良い素材を持ってるんですからお洒落しないと勿体ないです!』

『やめ、ふ、服を脱がさないで! ちょっ、駄目っ……!』


 さて、Sランクの魔族であるレイラちゃんが、普通の一般人女性に気圧されている。試着室のカーテンの向こうで、どうやらやられっぱなしになっているようだ。

 まぁコーディネートが好きな人からすれば、ああいう勿体ない素材を見てると色々とコーディネートしたくなるんだろうなぁ。多分あの人レイラちゃんが魔族だって分かってもガンガン行くと思う。なんだか思わぬところで人間の可能性を見たよ。


 とりあえず、レイラちゃんがどんな風にお洒落した状態で出てくるのか、ちょっとだけ楽しみだ。褒める言葉だけでも、考えておこうかな?


レイラちゃんが人間相手に劣勢を喫している! オシャレイラちゃんはどんな感じでしょうね。

それにしてもこの国の人間、モブでも個性的だな。

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