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金色の少女

第八章開始です。

 ルークスハイド王国。


 この国の始まりには、1人の非凡な少女がいた。

 彼女は平凡な家庭で祝福されて普通に生まれた。本当にありふれた家庭の、ありふれた両親から、ありふれた形で、何処にでもいる様な子供として生まれた。


 しかし、その少女は成長するにつれて非凡な才能を発揮し始める。


 彼女は頭が良かった。両親の持っていた本を読み漁り、幼い子供が普通に知る筈の無い知識を数多く持っていた。更には、数字や地理、歴史等にも優秀な子供であり、同年代の子供達では到底話に付いていける筈も無かった。


 彼女は運動が出来た。頭脳明晰であった少女を、両親や周囲の子供達が外での遊びに連れだした所、かけっこ、鬼ごっこ、玉遊び、なんでもそうだった、彼女はなんでも1番だった。走らせればずば抜けた速度で駆け抜ける事が出来、教えればなんでもスポンジのように吸収して、体現する事が出来た。

 もっと言えば、彼女はそこから手加減する理性的な精神があった。子供達に合わせてわざと負けるなど、周囲に合わせる協調性があった。


 彼女は美しかった。幼い頃より金糸の様な艶やかな金髪を持ち、エメラルドグリーンの瞳は優しく煌めき、白い肌を持ち合わせている。更に、成長するにつれてスタイルも発育良く成長し、内面も良心的かつ家庭的で、世話焼きな性格もあって誰からも好かれる少女だった。


 だからこそ、彼女は天才や神童と呼ばれながらも、周囲と上手く折り合いを付けて暮らしていた。暮らせていた。


 しかし、彼女は神に愛されたかのように幸運だった。幸運だったからこそ、彼女の故郷―――今のルークスハイド王国のあった場所を襲った、魔獣の大群から生き延びることが出来た。

 その村は水源の確保が出来ておらず、遠くの川まで汲みに行かねばならなかった。彼女はたまたま、その川へと水を汲みに行っていたのだ。村から離れて居た故に、魔獣の大群の脅威から逃れることが出来た。


 その魔獣の大群は、初代勇者のいる国へと向かっていて、魔獣達の進路上にあった彼女の故郷を滅ぼした。

 彼女は滅ぼされた故郷を見て、まず何があったのかを理解した。既に居なくなった魔獣達だが、人ではない足跡が大量に残っていたこともあって、すぐに理解した。そして何故此処を魔獣達が通ったのかも理解した。地理に聡い彼女は、その先に勇者を召喚した国があることを知っていた。


 彼女は生存者がいないかを探した。しかし、見つかったのは死んだ子供達、喰い散らかされた大人達、生きている者などいなかった。


 それを確認した彼女は、涙を流さず次の行動に移った。全員分の死体を掻き集めて、火葬した。墓を作るのは女の細腕では時間が掛かり過ぎるからだ。家族や親しい人々が燃え尽きるまで、彼女は巨大な火の前でずっと座り込んでいた。



 それからだ、彼女が世界に牙を剥いたのは。



 彼女は故郷を出て、故郷の土地を領土としている国へと向かった。

 そして、その国に着くや否や冒険者となり、瞬く間にSランクで最強の冒険者として名声を得た。依頼をこなすことで大量の財力を得た、名声を得た、そして何より……王家と対面出来る立ち場を手に入れた。

 それからは早かった。彼女はその国の王と対面し、政治に関わる様になった。


 そして王の息子、王子をその美貌と献身的な態度で魅了し、結婚した。

 だが、彼女に王子に対する愛はない。ただ彼女は、その国の王子の妻としての権力を手に入れる為に我が身を投げ打ったのだ。

 暗殺者を雇い、王を殺した。次に国王となるのは、彼女の夫となった王子だ。そしてその妻である彼女は、女王の立ち場を手に入れた。


 国王を殺した暗殺者は、勇者を召喚した国の者であると、周囲の全員をその巧みな話術で信じ込ませ、まだ王政には疎い王子に代わって、女王として王政を執る様になった。


 そこから、彼女の行動は激化する。


 表向きは優しい女王として動き、裏では勇者を召喚した国を滅ぼす為に動いていた。

 軍備の強化、資源の確保、国を豊かにし、優秀な人材を引き入れた。


 そして、遂に―――彼女は勇者を召喚した国と戦争し、滅ぼした。


 彼女は故郷を滅ぼされた復讐として、勇者を召喚した国を滅ぼそうと決めていたのだ。家族を奪われたのは、勇者を召喚した奴らのせい。魔獣達を刺激した、召喚国のせい。

 国王をその国の暗殺者に殺されたことにしたこともあって、国の兵士達の士気も上々、十分に強化した軍備を用いることで、彼女は勝ったのだ。


 あの時故郷の人々を燃やした時、彼女は涙を流さなかった。


 しかし、復讐を遂げたその時初めて、彼女は一筋の涙を流した。復讐の為に、彼女は全てを捨てて来た。己の処女を愛してもいない王子に捧げ、子供を産んだ。女としての幸せを拒絶し、故郷の皆が褒めてくれた己の才能を、醜い復讐の為に使った。そのことに対して、両親に、友人に、謝罪するように泣いた。残ったのは、たった1人の自分だけだった。


 復讐を遂げた彼女は、政治の世界から退いた。自分はこれ以上この国を執り仕切ってはいけないと、それだけの罪を犯したと、そう考えて。

 その頃には王子も十分王政を執り仕切るだけの器になっていた故に、女王が政治から手を引いても国は回った。


 彼女は表舞台に出ることを止め、己の産んだ子供の育児に励んだ。

 自分が貰った愛情を、子供にもあげようと子供にたくさんの愛情を注いだ。幸いなことに、彼女の子供は彼女の才を引き継いで、優秀だった。男の子が2人と、女の子が1人。どの子も優秀だった。将来有望な子供達に、周囲の人間達は国は安泰だと笑顔だった。


 そしてそれからしばらくして魔王が倒され、平和が訪れた。


 ソレを切っ掛けに、彼女は最後の仕事として、彼女の故郷のあった場所に都市を作った。後のルークスハイド王国だ。国は栄え、平和で豊かな国になった。そしてその平和を齎した人物として、王子が彼女の名前を国の名前にした。



 アリス・ルークスハイド



 皆に愛され、美しく、才気に溢れ、国に平和を齎し豊かにした女神の様な女王。

 だが、誰にも知られずに復讐を遂げた女であり、その為に全てを捨てた女。


 彼女は自分自身を醜いと思いながらも、己の子供達を何不自由なく、しかし優しく人を思いやれる子に育て、自分の様な人間にならない様にと祈って愛した。


 そして自分の子供達がこの国をより良い国にしてくれることを願いながら―――彼女は亡くなった。


 何故死んだのかは今はもう分からないが、己の子供が王位を受け継ぐ際の戴冠式を見届けた後、己の部屋で眠る様に息を引き取っていたらしい。外傷は無く、病気であった訳でもなく、薬や毒を使って形跡も無かった。

 まるでもうこの世に未練は無くなったかのように、その命がもう生きるのを止めてしまったかのように、彼女は亡くなったのだ。


 そして時間は流れ、現在。彼女の血は今も続いている……今のルークスハイド王国には、彼女の血を色濃く受け継いだように、金糸の様な金髪に、エメラルドグリーンの瞳を持った女王がいる。才色兼備、文武両道の女王が――――……




 ◇ ◇ ◇




 街を出て、ルークスハイド王国へと向かった桔音達は、馬車で順調に進んでいた。

 道を塞ぐように現れた魔獣は、馬車を止めるまでもなくレイラの『瘴気の弾丸(ゲノムバレット)』で排除される。魔王と戦い、ステータス的には最早他の追随を許さぬほど強くなった桔音達、総合力で言えばこのパーティ程強いパーティなど、数えるほどしか存在しないだろう。


 休息を入れても、馬車で2日程走ればルークスハイド王国だ。

 御者のドランは、クロエ達の歌っていた歌を鼻歌で歌いながら、上機嫌で馬を操縦しているし、桔音達も荷馬車の中で各々好きに過ごしている。

 ちなみに、今この時も周囲の警戒は十分だ。前方はレイラの瘴気による空間把握で、後方は桔音の空間把握で常に警戒されているのだから。


「馬車ってどうもお尻が痛くなるなぁ……ガタガタ揺れるし」

「仕方ないだろう。馬車とはそういう物だ。まぁ高級品になれば多少改善されるようだがな」

「はぁ……仕方ないか。よっと」

「オイ待て、なんだそれはずるいぞ!」


 馬車に不満をたれる桔音は、リーシェの言葉に溜め息を吐くと、瘴気で簡単な座布団を作りあげる。ふかふかの質感を再現したそれは、馬車の揺れによる尻の痛みを軽減していた。

 リーシェはそれを見て立ち上がり、桔音が腰掛けている座布団を指差してずるいと指摘した。桔音は仕方ないなぁと呟きながら、リーシェにも座布団を作った。


「……便利だな、その力」

「そうだねぇ、本当はこんな使い方しないんだろうけどね」

「それはそうだろう。だってそれ瘴気だしな」


 そんな会話をしながら、桔音とリーシェは休息を取る。


「きつねくーん♪」

「ん? どうしたのレイラちゃん」

「前の方に私達とは違う馬車が居るけど……どうする?」

「馬車……どんな様子?」

「んーと……なんか揉めてる……かなっ♪」


 とそこへ、荷馬車の上に乗っていたレイラがひょこっと頭を逆さにして顔を出した。彼女が言う事には、この先に揉めている馬車が居るとの事。揉めている、となれば内輪揉めか、それとも盗賊かだが、桔音はそれを少しだけ考えた後、レイラのいる荷馬車の上に上がった。


 そして、遠くに見える馬車を見る。


「……本当だね、アレはどうみても……盗賊だね」

「どうするの?」

「うーん……ん?」


 確かに、レイラの言う様に揉めている様子だが、近づくに連れて状況が詳しく見えてきた。

 見た所、人攫いの様で、暴れている金髪の少女を数名の男達が抑え込もうとしている。少女は襲い掛かる男達を躱し、逃げようとしていた。中々動きが良いが、数の差で苦戦している様だ。


「はぁ……どうしてこうも行く先々でトラブルがあるんだろう」

「うふふうふふふっ♪ だから面白いんだよ♪ きつね君の傍は♡」

「仕方ないなぁ……ドランさーん、あの馬車轢いちゃってー、この際皆殺しでいいよ」

「いやいやいやいや! お前面倒だからって全部まとめて潰そうとすんなよ!? せめてあの女の子位は助けてやれって!」

「……じゃそれで」


 一旦は纏めて潰して見なかった事にしようかと思った桔音だが、ドランの言葉に渋々少女を助けることにした。

 とはいえ、無関係の子を助けようと思うほど桔音は慈悲深くないので、とりあえずあの女の子からお礼としてお金でも払って貰おうかなぁと考えていたりする。


 とりあえず、牽制としてレイラが『瘴気の弾丸(ゲノムバレット)』を1発ぶち込む。すると、人攫い達はようやく桔音達に気が付いたようで、戦闘体勢を取った。それぞれ剣や斧を構えて、桔音達を待ち構える。

 だが、彼らにとって予想外だったのは―――桔音達の馬車が止まらなかったこと。


「え」


 人攫い達の内の1人がそう漏らした瞬間、桔音達の馬車は人攫い達を轢き殺した。金髪の少女はレイラが『瘴気の黒套(ゲノムクローク)』の要領で雑だが瘴気の楯を創り出すことで護っていた。

 馬車から飛び降りた桔音は、サラサラと消えていく瘴気の楯の向こう側に座り込んでいた金髪の少女に近づくと、薄ら笑いを浮かべて手を差し伸べる。


 すると、少女は助けてくれたと思ったのか、その手を取ろうと手を伸ばす。


 でも、桔音は手を貸すつもりで手を差し伸べたのではなかった。考えていた通り、打算通り、助けた見返りを求める為に、手を差し出していたのだ。


 故に、桔音が発した言葉はこうだ。


「助けたからお礼にお金払ってくれる?」


 だが、その言葉に対して金髪の少女はきょとんとした顔を浮かべた後、納得した様子で返した。



「ふむ、白金貨10枚で良いか?」



 白金貨……日本円にして、1000万円。金貨10枚の価値を持つ硬貨である。



この金髪少女、まぁ予想は付きますよね。テンプレテンプレ。

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