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七章の名前を変更しました!魔王の方がメインっぽくなったので。

 それから、拗ねたリーシェちゃんのレベルを密かに出会った頃の23に巻き戻した。リーシェちゃんも成長が早いに越したことは無いしね。


 それで、とりあえず今日の疲労を回復する為に各々の休息を取る事になり、その場で解散となった。ドランさんは自分の止まっている宿に帰り、僕は自分の部屋へと戻った。

 そして、学ランを脱ぐのも億劫で、そのままベッドに倒れ込んで、急激に襲い掛かって来た睡魔に身を任せて、意識を落とした。



 そして、それからしばらく時間が経って、翌日の正午に僕は目を覚ました。

 どうやら、魔王との戦いだけじゃなく、『初心渡り』の時間回帰は使い方としてはかなり反則染みているみたいで、僕の身体に多大な負荷を掛けていたらしい。朝早く目覚める僕としては珍しく、正午まで眠ってしまったらしい。

 気だるい気分と、まだちょっと重い身体を起こそうとして、ふと僕の身体の上に何か乗っている事に気が付いた。それのせいで身体が起こせない。


 視線を自分の身体に向けると、僕の腹の上に馬乗りになっているレイラちゃんが居た。なんかデジャヴを感じるけれど、レイラちゃんの表情が発情時と違って理性的だ。顔も赤くないし、笑ってはいるけど微笑みって感じの表情だし、それほど危機感は感じない。


「おはよっ♪ きつね君お寝坊さんだよ♡」

「……うん、おはようレイラちゃん。なんで乗ってるの?」

「うふふっ♪ きつね君がいつまでも寝てるから起こしに来たの、そしたら寝顔が可愛くて起こすの忘れちゃった♡ 可愛い寝顔だったよ?」


 なんなのこのシチュエーション。何処のギャルゲ? 恋愛に目覚めたレイラちゃんの乙女モード? 発情モードとの落差が激し過ぎるんだけど。

 超デレデレの妹か幼馴染が起こしに来た感じの台詞を愛情たっぷりに吐いてくる。あと可愛い寝顔って言われても嬉しくない。それを言うならカッコイイ寝顔だと思う、ほら僕って真面目で健全で聡明で格好良い青少年だし、普段からクールで理知的な表情が格好良いでしょ?


 まぁそれはさておいても、取り敢えず僕の上からどいて欲しいなぁ。レイラちゃんのお尻の柔らかさと温もりがお腹に伝わってくるのは内心嬉しいんだけど、起き上がれないし、ちょっと重い。一体何時から乗ってんの?


「下りてくれる?」

「イヤ♪」

「えー……重いんだけど」

「……そんなに私重い? 太ってはいないと思うんだけど……」


 え、何それ凄い調子狂うんだけど。君体重とか気にする様な子じゃなかったじゃん! お腹をさすりながらしゅんとしないで欲しいんだけど。

 超乙女じゃん。なんなの? もう何処に出してもヒロインとして十分やっていける乙女度なんだけど。何があったの? 僕そんなにレイラちゃんの事焚き付けちゃったの? この変化は行き過ぎてない? それともレイラちゃんがちょろいのかな、感受性豊かというか、僕の言葉をかなり真に受けちゃったとか。


「ねぇねぇきつね君、ちゅーしよ♪ ちゅー♡」

「んむっ……僕まだ良いって言ってないんだけど」

「約束だもん♪ 最近してなかったでしょ?」


 あ、忘れてた。確かにレイラちゃんと約束してたなぁ、1日1回のキス。最近はして無かったから有耶無耶になってたけど、レイラちゃん覚えてたのかよ。こういう都合の良い時だけは無駄な記憶力を発揮するんだからなぁもう……朝からガンガン来過ぎでしょ。どんだけ押せ押せなスタンスなの。


「はぁ……もう十分でしょ? 下りて」

「はーい♪ うふふ……うふふふふっ♪ きつね君の唇ぷにぷにであまーい♡」


 やっとレイラちゃんが僕の腹の上から降りてくれた。圧し掛かる重みがなくなったことで、僕は身体を起こす。朝から……いやもう昼か、どちらにせよ寝起きでこんな展開、ギャルゲの主人公でも無い限りはサラッと流せないよ本当。寝た筈なのにドッと疲れた。

 ベッドから足を下ろして、頭を掻きながら欠伸を1つ。学ランを着たまま寝ちゃったからちょっと皺になってるかもなぁ……まぁいいか、『初心渡り』で戻せば万事解決。物に対してはかなり便利だよね、この力。


「ねぇきつね君きつね君♪」

「何かな?」

「私ときつね君って恋人?」

「違うけど」

「恋人ってどうやってなるの?」


 誰だ余計な事吹き込んだの。さてはクロエちゃんだな? うちの子に変な事教えないでよ! 教育に悪いじゃないか! 将来グレたりしたらどう責任取るつもりだ! 君が変な事吹き込んだから僕がこんな面倒な展開に巻き込まれるんだよ?


「ねぇねぇ、きつね君、どうやるの? どうすれば恋人になれるのー?」


 黙っていたらレイラちゃんがぐいぐいと僕の腕を引っ張って問い詰めてくる。教えたら教えたで即実践しそうだなぁ……そんなに恋人になりたいの? 残念、僕の好感度が足りてないので無理です。出直して来て下さい。


「レイラちゃん、いつまでも部屋に籠ってたら駄目になるよ。ギルドに行って依頼を受けよう、時代は勤労だよ!」

「わわっ、きつね君!?」


 レイラちゃんの手を取って、部屋を飛び出す。とりあえず、誤魔化す事にした。手を繋いだからか、レイラちゃんの顔が赤い。なんでキスは平気で手を繋ぐのは恥ずかしいのか、レイラちゃんの基準が全く分からなかった。



 ◇



 レイラちゃんを連れて階段を下りると、食堂で昼食を食べているリーシェちゃんとドランさんがいた。ドランさんもいるってことは、何かしらの話でもあるのかな? あるとすればレイラちゃん絡みだろうけど、どうしたんだろう。


「やぁドランさん、今日はどうしたの?」


 声を掛けながら近づくと、僕に気が付いたドランさんは苦笑しながら僕に向かって手を挙げてきた。一応服装を見る限りでは、剣も腰に提げているし、防具も装着しているから、ギルドへ行く予定なんだろうけど、もしかして僕が起きるのを待ってた? あ、それともドランさんが来たからレイラちゃんが起こしに来たのかな?

 だとしたらさっさと起こしてよ。何寝顔観賞してるんだ。


「よう、きつね……今日はお前に話があって来たんだ。ちょっと、時間良いか?」

「……ふーん、まぁ良いよ。時間はあるしね。レイラちゃん、リーシェちゃんと一緒に居てくれる? なんならギルドで依頼を受けててもいいからさ」

「う、うん……分かった」

「……顔赤いけど、照れてるの?」

「だ、だって……て、手を繋ぐなんて……は、初めてだもん……」


 そっぽを向いて、レイラちゃんはたどたどしくそう言った。だからお前そんなキャラじゃなかったじゃん。もっとガッツガツ来るような超肉食系(物理)の発情魔族だったじゃん。手を繋ぐぐらいでそんな純情な乙女にならないで欲しいんだけど。


「……じゃ、また後でね」

「あ……」


 手を放して、レイラちゃんから離れる。同時に、ドランさんが立ち上がった。

 他の人に聞かれたくない話だとすれば、何処か落ち付ける場所が良いだろう。この前クロエちゃんと行った喫茶店にでも行くかな。

 あそこは結構落ちついた雰囲気の喫茶店だから、あまり冒険者もいないしね。血生臭い話をしても、誰かに聞かれることはないだろう。


「行こうか、ドランさん」

「ああ、悪いな」


 先導する僕にドランさんは軽く謝るが、僕は苦笑を返す。そして、ドランさんを連れて僕は宿を出た。



 ◇ ◇ ◇



「……それで、話って言うのは?」


 喫茶店に辿り着いて、僕は昨日のクロエちゃんの様に対面に座ったドランさんに、そう聞いた。

 ドランさんは、この喫茶店に来る途中何も言わずに黙って付いて来てた。多分穏やかな話ではないんだろう。魔王を撃退出来て良かったねとか、廃人から戻れて良かったねとか、そういう話じゃない。

 多分、レイラちゃん絡みか……復讐に付いての話。正直、どうすればいいと思う? とかいう話なら今すぐ帰るけど、ドランさんもその辺は分かってるだろう。


 だから、話を聞くだけは聞いておこうと思う。


「ああ……まず最初に言っておくっつーか……頼みがあるんだ」

「頼み?」

「俺を、お前のパーティに入れてくれないか?」


 ドランさんは、テーブルの上で両手を握り締めながら、僕に向かってそう言った。

 理由はどうであれ、ドランさんが僕のパーティに入る事は特に問題ない。寧ろ、戦闘技術を教えてくれる人が入るのなら大歓迎だけど……ドランさんは元々パーティを組まない、組んでも一時的だったはず。どういう心境の変化だろうか?

 そう思って、首を傾げると、ドランさんも僕の疑問を分かっているんだろう。言葉を続けた。


「俺がパーティを組まなかったのは、個人的な魔族への復讐に仲間を巻き込みたくなかったからだ……だからいままで1人でずっとやって来た。でも、やっと復讐の相手を見つけたってのに、それが元々は人間だ、なんて知らされて……俺はどうしたらいいか分からなくなった」

「へぇ」

「勿論、今でも憎いさ。あの日の『赤い夜』は、今でも殺してやりたい位憎い……でも、お前も知ってるだろう? いや、お前以上に知らない奴はいないだろ……今のレイラの幸せそうな顔を」

「うん、乙女モード全開だよね」


 アレはもう魔族とか人間とかの次元越えちゃってるもんね。魔族の癖して人間みたいで、人間みたいなのに正体は魔族なんだから、あれほど意味不明な存在もないだろう。


「今のレイラの姿が、あの日の『赤い夜』と全く別人過ぎて、本当にレイラが俺の復讐の相手なのかと疑っちまうくらいだ!」

「あー……うん、分かる。僕も初対面の時とは大違いだと思ってる」

「元は人間で、俺の妻を殺したのも本意じゃなくて、今のレイラは俺の妻を殺した時のことを覚えていない……もう訳分かんねぇよ」

「つまり、レイラちゃんが復讐の相手だと言われても過去との違いで信じられなくて、元々は人間で彼女も被害者だと知ったら復讐していいのかも分からなくなり、どうしていいか分からなくなったと」

「ああ……」


 不憫だな、ドランさん。同情はしないけど。


 まぁレイラちゃんは傍目からすれば人間にしか見えないし、今の恋する乙女モードなレイラちゃんは、昔残虐非道に人間喰い散らかしてましたって言われても信じられない位幸せそうだもんね。

 要するに、見た目からして殺すのに躊躇いを覚えるのに、色々とブレーキになる要素が多過ぎて憎悪が空回りしちゃってるわけか。昔のレイラちゃんなら容赦なくやれたんだろうけどね。

 

 でも、そこでなんで僕のパーティに入るなんて結論に至るんだろう? レイラちゃんもいるんだし、僕のパーティに居たらそれこそストレスが溜まると思うんだけど。


「それでだ、憎悪は消えねぇけど復讐して良いのか分からなくなった……だから俺は、この際復讐するのをすぱっと止める事にした。きつね、お前は『奥さんは復讐を望んでいるかもしれない』と言ったが……やっぱり俺にはアイツがそんなことを望んでいるとは思えないんだよ」


 復讐を止める。ドランさんはそう言った。

 まぁ止めるなら止めるで良いけどね。結局の所、最後の最後でドランさんは復讐なんか出来る様な人じゃなかったってことか。復讐するにはちょっと優しすぎるよね。


「でもここでレイラに何もしないのは俺の気が済まない。さっきも言ったが、憎いのは変わらないんだ」

「うん」


 ドランさんは続ける。復讐は止めるけど、レイラちゃんに何も仕返ししないのは気が済まないと。

 まぁ復讐に終止符を打つ為にも、何かしらのけじめを付けたいんだろう。その為に、僕に話を持ち掛けて来たって所か。


 やっぱり大人だなドランさんは。自分の憎悪から、復讐以外の方法で前に進もうとしているんだ。憎しみの相手を前に、こうやって前に進もうとするなんて、誰にでも出来る事じゃない。

 それなら、僕もある程度力を貸そう。


 ドランさんが、前に進む為に。


 ドランさんが、復讐心から解放される為に。


 そしてこれから先、過去に囚われず、自分の人生を歩んでいく為に―――!



「だから、殺す以外でレイラが1番嫌がることを教えてくれ」

「子供かお前」



 前言撤回、駄目だこの人。


「はぁ……レイラちゃんの嫌がる事? んー……僕から離れることじゃない?」

「……仮に、3日間ぐらいきつねと引き離したらどうなるんだ?」

「今のレイラちゃんなら泣くんじゃない? 乙女モード全開だし」


 僕の中で、ドランさんへの尊敬度がぐんぐん急降下していく。この人こんな子供っぽいひとだったっけ? 復讐心に囚われてたから大人っぽく見えただけかな。


「うーん……問題はきつねをどう引き離すかだよなぁ……」

「……」


 まぁなんにせよ、レイラちゃんへの嫌がらせを考えるドランさんは、復讐心に囚われている時よりかはどこか気の晴れた顔をしている。図体はデカイ癖して子供みたいな人だなぁ。


 とはいえ、僕のパーティには僕以外に男がいなかったし、戦闘技術も教えて貰えるし、仲間としては中々面白い人だ。これから先も、上手くやっていけるだろう。


 そんな訳で、この僕の目の前でうんうんと唸りながら嫌がらせに付いて考えている、子供みたいな大男が、僕の仲間になった。



 ◇



「ああ、俺がパーティに入りたい理由は、復讐に拘らないって決めた以上、まずはその第1歩として……仲間と戦ってみるのも悪くないかなって思ったからだ」

「レイラちゃんへの嫌がらせも出来るしね」

「ソンナコト考エテマセーン」


 とにかく、仲間が増えたってことで。


ドランさんが本格的にパーティに加わった!第七章ももうすぐ終わります!

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