表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/388

魔族襲来

 魔族襲来の知らせが僕達の下へと伝達されたのは、僕がフロリア姐さんと朝出会った後。

 なんとか溜まった欲情を発散出来たらしく、つやつやした肌のレイラちゃんと、ドランさんから何か得るものがあったのか、少し思案顔のリーシェちゃんを連れて、ギルドに行った時のことだ。


 まず最初に、いつもよりも騒がしいと感じた。

 もっと言えば、いつもとは違う雰囲気で騒がしかった。緊張感で満ちている、と言っても良いかな。

 そこで、既にギルド内に居たドランさんが、僕達に気が付いて歩み寄って来た。神妙な表情ではあったけれど、このギルドの喧騒の原因と、現状について順を追って説明してくれた。



 まず、1番最初に―――ドランさんが追っていたCランク魔族がこの街の近辺に現れたこと。



 魔族によっては、魔獣を従えている魔族もいるのだが、今回の魔族は1体のみ。周囲の味方の様な魔獣はおらず、黒く堅い装甲の様な肌をしており、通った道が分かる程分かり易く木々が圧し折られていることから、まず間違いなく強い怪力を持っているらしい。


 次に、その魔族が既に街の入り口へと踏み込んでいること。

 それを聞いてちょっと焦ったけれど、どうやらルークスハイド王国領内の騎士達も、冒険者に負けず劣らずの実力を誇るようで、各街にAランク相当の騎士を1人は配属しているらしい。今は、そのAランク騎士を含めて、十数人の騎士達が魔族を足止めしているようだ。


 そして最後に、現在冒険者達は騎士達の足止めが突破される前に装備を整え、援助に向かう最中であるということ。

 ドランさんはそれだけ説明すると、急いでギルドを飛び出し、魔族の下へと向かって行った。他の冒険者達も、準備が整った者から援助に向かっている。


「……僕達も行くべきかな?」

「えー、依頼はー?」

「中止かなぁ……どうやら、Fランク以上の冒険者は強制参加の緊急依頼みたいだしね」


 ギルドの規則には、採集依頼や討伐依頼、お手伝い系の依頼などの他に、緊急依頼と呼ばれる依頼が存在する。

 それは、国や街など、多くの人々が存在する場所において、今みたいに魔族や強力な魔獣が侵入して来た時、それに対峙し、速やかに撃退する依頼。Fランク以上の冒険者は強制参加、これは少しでも撃退出来る戦力を上げるためだ。

 ちなみに、僕はHランクだから参加しなくても良いんだけど……力を持つ者は弱い者を護らないとね。それに、この街にはニコちゃん達の家もあるんだ。さっさと倒して平穏を取り戻さないと。


「行こうか、レイラちゃんにリーシェちゃん。こうなったら仕方ないよ、さくっと倒しに行こう」

「はーい♪」

「……ああ、分かった。私の力がどこまで通用するのかも見てみたい所だしな」


 レイラちゃんは機嫌が良いからか、素直に乗ってくれたけれど、リーシェちゃんはまだ思案顔だ。言葉自体に嘘は無いんだろうけど、何か新しい一歩でも踏み出そうとしているのかな?

 ドランさんの教え方は分かり易いもんね。僕も体術のスキルアップを図りたい所だよ。Cランク魔族相手に、どこまで通用するのか楽しみだ。


 まぁ、死にそうなようなら早々に逃げるけどね。


 そんなことを思いながら、僕達はやって来て早々、ギルドを出た。



 ◇ ◇ ◇



 で、やってきた訳だけど。僕達がやって来た時には、既に騎士達はボロボロだった。Aランクの騎士は、同ランクの冒険者と違ってかなり実力で劣る。冒険者でいえばCランク程度だろう。

 人間の犯罪者を相手にする為の騎士だ。魔獣や魔族を相手にするのは、基本的に冒険者の役割なのだ。騎士も相手にしない訳ではないが、あくまで魔獣が限界。魔族までは相手には出来ない。


 最悪、足止めが限界という訳だ。


 現状、魔族を相手にしているのはドランさんを含めて、数名の冒険者。それも、ドランさん以外はやっぱり魔族相手に悪戦苦闘の様子だ。攻撃をしても簡単にいなされ、反撃を喰らっている。

 正直、相手になっていない。ちっとも敵になれていないみたいだ。


「ハハハハハァッ! やるじゃねぇか人間! じゃあこういうのはどうだァ?」

「ギッ……!!」

「オオオッラァ!」


 そしてドランさんも、魔族相手に攻めあぐねている。

 というより、劣勢だ。話に聞いていた通りじゃ、Cランクの魔族らしいけど、レイラちゃんと比べてみたら、どう考えてもCランクじゃ説明が付かない実力だ。


 ―――なんせ、動くスピードがレイラちゃんと大して変わらないのだから。


 もしかしたら……あの魔族はSランクの実力を持っているのか、それともレイラちゃんの身体能力がCランク並なのか……僕が思うに、多分後者だ。


「とりあえず、介入するよ」

「ああ、分かった」

「うん♪」

「僕があの魔族からドランさんを引き離すから、作戦でも練ってよ」


 そう言って、僕はドランさんと魔族の間に走っていく。


 そして、



「アァ?」



 ズドン、という地面を揺らす様な音と共に、ドランさんに放たれた凄まじい威力の踵落としを、僕は自分の腕を盾にするようにして受け止めた。

 魔族の眉がつり上がり、怪訝そうな声を上げた。

 その顔に浮かぶのは、驚愕と、疑問。人間の腕で自分の踵落としを受け止められた事の驚愕と、僕という人間に対する疑問。


 踵落としの為に跳んでいた魔族と、それを受け止めた僕の視線が交差する。お互いに相手の顔が見えた。

 そして、魔族は僕の腕を踏み台に後方へと飛んで距離を取る。改めて僕の顔を含めて、身体全体をそのオレンジ色の瞳で見て来た。

 まるで、獣の様な野生を感じさせる瞳。好戦的で、獲物を狩る獣の眼をしていた。


 でも、その奥にはしっかりと知能を感じる。魔族というだけあって、ちゃんと理性と知能を持っているらしい。


 ああ、だからだろうか―――



「どうりで強そうじゃないね」



 ―――寧ろ、負ける気がしない。


 自然と、『不気味体質』が発動した。

 魔族の表情がピクリと変化する。僕に対する視線が、完全に警戒心に染まった。獣としての本能か、それとも魔族としての理性か、僕への警戒が最高潮まで高まったらしい。


「―――お前かァ……! 魔族とも、人間とも、どっか違ェ匂いの……面白ぇ奴は!」


 でも、僕に対する警戒心とは裏腹に、魔族の表情には笑顔が浮かんだ。滲み出る強者の威圧感は、完全に魔獣のそれを大きく超えている。あのジェネラルオーガよりも、確実に格上の存在。


 あはは、でもだからこそだ。


「力試しには、丁度良い」

「お? てめェ……良く見りゃ魔族の匂いもすんなァ……てことは、そこの白髪が魔族か」

「『赤い夜』とか呼ばれてる唯のストーカーだよ。まぁ、最近じゃ多少マシになったけどね」


 そう言うと、きょとんとした表情を浮かべた魔族。でも、すぐに俯き、なにやら肩を振るわせている。

 仲間を悪く言われて怒っているのか? とも思ったけれど、次の瞬間それは違ったと分かる。魔族は顔を上げると、腹を抱えてこう言い放った。


「『赤い夜』? ……ハハハハッ! ってことはソイツ、レイラ・ヴァーミリオンかァ!! あの中途半端な魔族とも言えねぇ半端者が、ちょっと見ない内に一端の魔族になってやがる! 面白ぇなァオイ! お前どんな魔法使ったんだァ!? ッハハハハハハ!!!」


 どうやら、魔族同士で仲が良い訳ではないようだ。名前も知られてるってことは、レイラちゃんは魔族の中でも中々有名な魔族だったらしいね。

 まぁ、有名といっても悪評の方が多いみたいだけど。半端者、ってことは僕と出会った頃のレイラちゃんは、完全に魔族ではなかったらしい。世界の『赤い夜』に対する認識は、魔族の認識とは違っている様だ。


 とはいえ、レイラちゃんは魔族の中では迫害される様な半端者だったってことかな?


「魔法は残念ながら使えないんだ。どうやら気に入られたらしくてね、追い回されるのも面倒だから傍に置いてるんだよ」

「ほぉ……ってことは、そこの半端者が魔族に覚醒したのは……人間、お前が原因ってことか」

「そうかもね、でもまぁ……今のレイラちゃんは半端者じゃないんだ。正しい呼び方で変態と呼べよ」

「ハハハハッ! 随分とまぁ入れ込んでるみてぇだなぁ……ま、いいや……取り敢えず今はテメェだ。テメェは一体何だァ?」


 その笑みは、レイラちゃんへの嘲笑か、それとも溢れ出る好戦的な感覚からの楽しいという笑みなのか、ソレは良く分からないけれど、どうやら僕は魔族に好かれるらしい。あまり嬉しくない事実だけど。


「ただの人間だよ。ちょっと防御力固めだけどね」

「嘘付け、恐怖を押し固めた様な奴が、人間な筈あるか……死神とか魔王とか言われた方が信じられる」


 酷い言い草じゃない? 僕普通に人間なのに、なんでこんな風に言われないといけないの?

 同じ人間ならともかく、見た目で化け物な魔族から言われるとか、凄い傷付くんだけど、黒く装甲みたいな身体の真っくろくろすけの癖に、良く吠えるじゃないか。


 とはいえ、ドランさんとリーシェちゃん、それにレイラちゃんは作戦会議中。その間、僕はこの魔族を相手に力試しだ。いざとなれば、殺しても構わないだろう。


 カウンターなら、こんな相手瞬殺だ。


「確かめてみれば良いよ」

「じゃ、そうさせて―――貰うわッ!!」


 僕の言葉に、魔族は地面を蹴って僕の側頭部を蹴り抜こうとしてきた。


 でも、その蹴りは僕の側頭部にぶつかり、一切傷付ける事も出来ずに停止する。無論、僕は何もしていない。ただそこに立っていただけ、それだけなのに魔族の蹴りは僕の頭になんのダメージも与えられずに終わった。

 魔族の顔が更に驚愕に見開かれる。やっぱり、そこそこの力とはいえ魔族の力で蹴ったのに、人間相手でなんのダメージも与えられなかったことは、驚愕に値するのであろう。


「なんだァ? 随分堅ェな! いよいよもって人間らしくねぇ」

「まぁ、それにはかなり自信がある。掛かって来いよ格下魔族……精々頑張って僕の経験値となり、力試しの定規となり、華々しく獣の様に散って頂戴」


 僕はそう言って、薄ら笑いを受かべる。


 今までなかった、自分に丁度良いレベルの相手。いきなりすっ飛ばして強かったレイラちゃんでもなく、一方的な蹂躙をする勇者でもなく、桁違いに強い使徒ちゃんでもない。

 僕の今のレベルに合う、勝てるか勝てないか分からない様な相手。力試しにはもってこいだ。



そういえば100話超えてましたね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ