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発情悪魔

 それから3日程、僕達はこの街で依頼をこなす日々を送っていた。

 本当ならルークスハイド王国へ行きたい所だけど、僕の目的である『実力の底上げ』が、此処までで十分出来てしまったこともあって、多少行動に余裕が出来たというか、そう急ぐ意味がなくなったんだよね。

 まぁ、早々にフィニアちゃん達を迎えに行きたい所ではあるけれど、勇者達の居所が分からない以上、行き当たりばったりで動くのはあまり得策じゃない。


 余裕が出来たからには、ここで軍資金の調達、休息が必要だと思う。だからこそ、今はこの街に留まってる訳だ。

 で、今日はリーシェちゃんはまたドランさんと依頼を受けにギルドへ、彼女もドランさんから色々学んでいるようだ。


 僕とレイラちゃんは、ニコちゃんとヒグルドさんを連れて違う場所へ来ていた。元の世界でいう、不動産屋だね。

 レイラちゃんの財力をあてにして、ニコちゃん達の家を買いに来た訳だ。グランディール王国の庇護下の街から出た訳だし、そろそろニコちゃん達の家を買って……ここでお別れだ。レイラちゃんはニコちゃんを気に入っている様だから、少しごねるかもしれないけどね。


「確かに助けて貰って行き場がないのはそうなんだが……いいのだろうか? 家まで用意して貰うとなると、かなり遠慮してしまうのだが……」

「いいんだよ、助けたからには最後まで面倒見るよ。僕は勇者気取りと違って後は放置なんてことはしないからね」

「……そうか、何から何まですまないな」


 色々と家の情報を見ながら、僕は申し訳なさそうにするヒグルドさんに苦笑する。レイラちゃんはニコちゃんを肩車しながら、店の中をうろうろしていた。どうやらギルドや宿といった店以外に来るのはもの珍しいようで、色々見て回っている。

 まぁ、適当な場所で良いだろうと思う。2人しかいないんだし、それほど大きな家でなくとも良いだろう。元貴族だとしても、今はもう平民と同じなんだし、その辺は我慢して貰おう。


「いらっしゃいませ、どんな家を所望でしょうか?」


 そこへ、店員の女性から声が掛かる。

 僕はその女性の方へ視線を向けて、少し考えた後答えた。


「とりあえず、小さくてもいいから2人で暮らすのに十分な家を探してるんだけど、ある?」

「ええ、少々お待ち下さい」

「うん」


 店員がカウンターの奥へと姿を消し、すぐに資料を持って戻ってきた。そして、僕達をテーブルのある場所へと誘導する。

 テーブルに広げられた書類の数は3枚。どれも僕の言った条件に合う大きさの住居みたいだ。


 1つ目。


「此方は多少手狭ですが、2人程度であれば余裕で住めると思います。場所は住宅街の外れですので、買い物等には少し手間が掛かるかもしれませんが、綺麗ですし、中々住みやすい場所かと」

「次行こう」


 2つ目。


「此方は先程よりも大きめですね。6人程でも十分暮らせる大きさだと思います。場所は街の出入り口近くですね。緊急時には外が近いので少し危険かもしれませんが、商店街が近いですし、お風呂も付いているので、快適に暮らせると思いますよ。値段の方は少し高いですが」

「一応次行こう」


 3つ目。


「此方は2つ目と同じくらいの大きさですね。場所は商店街ですね。以前そこで店を開いていた方が居たのですが、先日街を移動する際に売却されまして、現在空き家となっています。2階建てとなっていて、1階は店として使用する事も出来ます。ちなみに以前住んでいた方は、そこで喫茶店をしてましたね。少し古いので、多少値段は下がりますよ」

「ふむ……」


 ということで紹介して貰ったけれど、住むなら2番目か3番目かなぁ。安い方を選ぼう、それにこの街での収入源を確保するなら、店として使えるのは良いポイントかもしれない。

 となると、やっぱり3番目かな? まぁ店を開くにしても、ヒグルドさんがどんな事が出来るかとか、そういうのが重要になってくるけどね。


 取り敢えず確認。


「何処が良い? ヒグルドさん」

「む……そうだな、きつね君も考えているだろうが……正直、3つ目の住居が良いな。店を開けると言うのは大きいし、何より賑やかな商店街に面した場所の方がニコも寂しくないだろう」

「あ、やっぱり? まぁ、将来成長したニコちゃんと一緒にお店を切り盛りするのも悪くなさそうだもんね」

「ははは……そうだな、父親としてはそれが望ましい所だがね」


 苦笑するヒグルドさん。まぁニコちゃんは将来看板娘になるというよりも、やんちゃな子になりそうだよね。なんだったら冒険者になりそうなお転婆さんだ、父親としてはあまり危険なことはさせたくはないんだろうけどね。

 じゃ、3つ目でいいか。


「3つ目で」

「かしこまりました」

「レイラちゃーん」

「はぁーい♪」


 店員さんが何かしらの手続き書類を記入しているのを見て、レイラちゃんを呼ぶ。お会計はレイラちゃん任せだからね、ニコちゃんの為にその家を3つは買えるとかいう財力を振るいたまえ。


 とまぁそんな感じで、僕達はニコちゃん達の家を購入した。




 ◇ ◇ ◇




 ニコちゃん達の家は、業者の方が住めるように掃除とか家の点検とかするらしく、住めるようになるのは明日かららしい。

 故に、今日は宿で過ごすことになる。

 だから僕とレイラちゃんはそのままギルドへ、ヒグルドさんにはニコちゃんを連れて宿へと帰って貰うことにした。リーシェちゃんはドランさんと依頼へ行ったからね、今回の依頼は僕とレイラちゃんの2人きりだ。


 この3日間で受けた依頼で僕が討伐した魔獣は、雑魚が9体、ゴブリンが4体、オーガが1体だ。ちなみに、これら全ては依頼での討伐対象じゃない。Dランク魔獣『極小熊(ミニマムホワイト)』という、サイズ的には子猫サイズの白い熊の魔獣を討伐する過程で、それだけの数の魔獣を倒した。

 ちなみに、『極小熊』は強かった。その小さな身体で立体的に動きまわり、そして地面を抉る様なパワーで殴り掛かって来る。小さいから攻撃が当て辛い上に、一撃でも喰らえば中々にダメージを貰う。厄介な魔獣だ。


 まぁ、『先見の魔眼』で行動を先読みすれば動きは捉えられたし、それ以前にレイラちゃんが凄い速さで瞬殺したから意味は無かったけどね。


 という訳で、今の僕のステータス。


 ◇ステータス◇


 名前:薙刀桔音

 性別:男 Lv1

 筋力:12300

 体力:34560

 耐性:67900

 敏捷:35670

 魔力:15670


 【称号】

 『異世界人』

 『魔族に愛された者』

 『魔眼保有者』

 

 【スキル】

 『痛覚無効Lv5』

 『直感Lv6(↑1UP)』

 『不気味体質』

 『異世界言語翻訳』

 『ステータス鑑定』

 『不屈』

 『威圧』

 『臨死体験』

 『先見の魔眼Lv6』

 『瘴気耐性Lv6』

 『瘴気適性Lv6』

 『瘴気操作Lv5』

 『回避術Lv5(↑2UP)』

 『見切りLv5(↑1UP)』

 『城塞殺し(フォートレスブロウ)Lv5(↑1UP)』

 

 【固有スキル】

 『先見の魔眼』

 『瘴気操作』

 『初心渡り』


 【PTメンバー】

 トリシェ(人間)

 レイラ(魔族)

 ドラン(人間)


 ◇



 あはは、分かる? これでレベル1なんだよ僕。レイラちゃんの攻撃程度ならもう完全に効かないよ!


 しかも、『城塞殺し』の力には続きがあったらしいんだよね。

 このスキルにはアクティブスキルだからレベルが付いているんだけどさ、このレベルの分だけカウンター時の数値が倍増するらしい。まぁある程度威力の調節は出来るようだけどね。

 

 つまり、僕の攻撃力はカウンター時に限り、最大で『筋力+(耐性値×5)』ってことになるね。数値にして、『351800』。35万ってもう攻撃力半端無いよ! 僕も晴れて人間を止めてしまったようだ。死神とか言われても仕方ないね!


 成長する為に此処まで来たけど、もうこれ成長し過ぎじゃない?

 ルークスハイド王国に急いでいかなくても良いと判断した理由が、良く分かると思う。カウンターのみの攻撃力とはいえ、僕には『先見の魔眼』を始め、『見切り』、『回避術』、『直感』といったカウンターに適したスキルが多い。35万という攻撃力を当てるのは、そう難しくない。


 ドランさんに試した時は、軽く実験程度な感覚だったから良いものの、全力でやってたらドランさんの身体が消し飛んでいたかもしれない。そう考えると、少し冷や汗が出る。


「怖いのはこれがまだ成長出来るってことだよねぇ……」

「ん? どうしたの? きつね君♪」

「なんでもないよ」


 レイラちゃんとギルドに向かいながら、僕はステータスを閉じる。

 ステータスを見れるのは僕のスキルだから、誰も彼もが見れる訳じゃない。しかも、僕の固有スキル『初心渡り』については、僕以外誰も知らないんだよね。だって誰にも言ってないし。


 だから、隣を歩いているレイラちゃんも、僕の耐性値がレイラちゃんの攻撃力を超えている事や、カウンター時に限れば攻撃力的にもレイラちゃんを超えていることを知らない。勿論リーシェちゃんもだ。


「レイラちゃん」

「ん♪ なぁに?」

「レイラちゃんってまだ僕の事が食べたいの?」

「食べたいよ? でも約束だからね♪ 舐めるだけにしてあげる♪」


 この子って大概馬鹿だよね。おあずけ喰らってんのになんで行動に移さないんだろう?

 だって、食べないことでレイラちゃんに何の得もないよね。長期的に味わえるって点ではそこそこ利点ではあるんだろうけど、レイラちゃん的には噛んで飲み込んで、って方が良いんじゃないかな。

 

「食べる? 無理だろうけど」

「え?」


 レイラちゃんの前に指を差し出して、そう言うと、レイラちゃんはきょとんとした表情で僕と指を交互に見た。

 そして、いいの? という風に首を傾げたから、僕は頷いた。すると、レイラちゃんは口を開けて、僕の指に喰らい付いた。でも、食い千切ることは出来ない。僕の耐性の高さ故に、僕の身体に傷は付かない。


「ん!?」


 レイラちゃんもそれに気が付いたらしい。ガジガジと噛んでいる感触が指から伝わってくるが、けして噛み千切られることはない。


「んっ……ちゅ……ふぁ……んむ……!」


 あれ? おかしいな、噛み千切れないのにレイラちゃんの顔がどんどん赤くなっていく。それに、久しぶりに瞳にハートマークが浮かんで見える。赤い瞳は爛々と輝き、瘴気が無意識に漏れ出ている。やばい、これめちゃくちゃ発情してる状態だ。

 指を伝って、レイラちゃんの唾液が地面に落ちる。

 流石にこのままはヤバいと思って、指を引き抜こうとすると、レイラちゃんは両手で僕の腕を掴み、逃がさない。噛んで、舐めて、また噛んで、と僕の指を味わっている。


「……」


 周囲の目線が痛いんだけど。滅茶苦茶見られてるんだけど。

 レイラちゃんの足ががくがくと震え、今にも崩れ落ちそうになっている。でも、僕の腕にしがみ付き、指から口を放さんとばかりに噛み付いている。


「んっ……あっ……ふっ……! ちゅ……んちゅ……む……はぁ……はぁ……!」

「はいもう終わり!」

「ああん♪ きつね、くんっ……もっと……もっとぉ……♡ ちょうだい……おいしーの……ちょうだぁい……♡」

「眼がイッちゃってる! 落ち付け、落ちつくんだレイラちゃん!」

「もぉ我慢出来ない……はぁ……はぁ……無理ぃ……きつね君……きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君きつね君………♪」


 ゲシュタルト崩壊を狙っているのかこの子は。僕の名前を連呼しないで欲しいんだけど。

 というか、レイラちゃんの口から涎が垂れてるし、眼はイッちゃってるし、瘴気はどんどん溢れてくるし、顔は真っ赤だし、吐息も熱い。今まで思っていた発情状態の最高値を完全に振り切っている。精神面でもヤバい所までイッちゃったらしい。


「依頼どころじゃねぇ!!」


 結論を言えば、踵を返して逃げた。

 今のレイラちゃんは完全に獣のソレだ。一緒に居たら場所なんて構わず襲い掛かって来るに違いない。極上の餌が目の前にありながら見逃すなんて、レイラちゃんでなくともしないだろう。


「あはっ♪ きつねくーん♪ 待って待ってぇ♡」


 やっぱり追ってきたぁ! 耐性値では絶対傷は負わないからといって、正直あの子に指を差し出したのが間違いだった!

 噛み千切れないって事は、噛み続けられるってことだ。つまり、スルメとかガムとか、そういったものみたいな味わい方が出来るということ、しかも僕に関しては味が無くならないしね。


 畜生、レイラちゃんにとって、舐めると噛むでは此処まで違うのかよ。選択をミスったね。


「きつねくーん♡」


 結局、追いかけてくるレイラちゃんを街の外まで誘導し、途中で混ざってきた雑魚を倒しつつ、その日はずっとレイラちゃんの発情が収まるまで相手をする破目になった。


 結論を言えば、腕が歯型塗れになった。


次回、レイラちゃんのお尻叩き。

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