第八話 幻術師の怒り
霊夢side
【霊夢】
「…何で?」
さっきまで、あの木偶の坊たち、全然動かなかったじゃない…守ってた城も無くなったじゃない…なのに、何で?
【霊夢】
「チルノ!」
何で、チルノが撃たれるのよ!
私も散々手こずったあの光線…それが、チルノの胸部を貫いた。直撃箇所を中心に、服が燃え、穴がジリジリと広がっていく。さらに、その中心…チルノの胸に空いた小さな穴…そこから全身に、幾筋ものヒビが……。
【大妖精】
「チルノちゃーん!」
落下するチルノの体…それを追う大妖精…だけど、後少し届かない……このままじゃ、
【妖夢】
「行け!」
もうダメかと思った時、妖夢が自身の半霊を飛ばして、チルノの体を掬い上げた。半霊は柔らかいみたいで、落下の衝撃を全て吸収してくれたらしい。
おかげでチルノは、粉々になるのを免れた。
【霊夢】
「ふぅ~。危機一髪だったわね。」
【妖夢】
「はい…ですが、あの体ではもう…」
妖夢が言わんとしている事は分かる…チルノは、もう保たない…。ただでさえ、この夏の暑さで小さくなってたんだから、無理もない。
でも、その前にせめて…
【霊夢】
「紫、藤堂さんを助け出す方法は?」
藤堂さんと、話をさせてあげたい。
【紫】
「理屈は簡単。あれを倒して、お腹…が何処かは分からないけど…捌いて引きずり出せばいいのよ。」
【霊夢】
「わ~、凄いかんた~ん(棒読み)。私スペカもお札も残ってないんだけど?」
もっとまともな案は無いの?
【魔理沙】
「行くぜ姐さん!」
【幽香】
「その呼び方やめて。」
【魔理沙&幽香】
「「ダブル・マスタースパーk…」」
【霊夢】
「止めんかいっ!」
ゴンッ×2
何を考えてるのよ、この二人は!?城ごと吹き飛ぶわよ!
【にとり】
「よし。ここは私の最高傑作である、非想天則Mk-3の出番だ。まだ試運転前だけど、何とかなるでしょ。」
【霊夢】
「試運転にしてはハードル高すぎよ!」
【にとり】
「非想天則Mk-3、発進!」
早苗サイド
【早苗】
「いよいよ、この時が来たんですね。」
【諏訪子】
「気をつけてね、早苗。」
【神奈子】
「無茶はするんじゃないよ。」
【早苗】
「はい。行ってきます。」
にとりさんが造った、非想天則Mk-3は、普段は神社の地下に建設された格納施設に厳重に安置されている。
そしてついに、今日始めて…出撃の許可が下りたのです!小さい頃からの夢だった、巨大ロボットのパイロットになるという夢が、今…叶うのです。
【早苗】
「……ぅぅ…幻想郷、来て良かった~…」
【にとり】
『おーい、早苗~?聞こえる~?』
【早苗】
「あ、にとりさんから通信だ…でも、どうやって返事すれば…」
【にとり】
『応答はいいから、まず起動ボタンを…』
【早苗】
「起動…あ、これかな?」
私は、非常ボタンみたいに、蓋がされてるボタンを発見し、その蓋を外して、中の赤いボタンを押してみた。
霊夢side
【にとり】
「おーい、早苗~?聞こえる~?」
にとりは、何か変な機械に向かって一人で喋り始めた。
傍から見てると、かなり怪しい光景だ。
【にとり】
「応答はいいから、まず起動ボタンを押して…あ、気をつけてよ?赤いのは…」
ドーンッ
にとりの言葉を遮るように、妖怪の山…というか、守矢神社の辺りから爆発音が鳴り響いた。
見れば、山に火の手が…空に向かって巨大な…
【魔理沙】
「キノコだ!」
きのこ雲が上がっている。
【にとり】
「非想天則ーっ!」
守矢神社side
【諏訪子】
「さ、早苗~っ!」
【神奈子】
「しっかりするんだ、早苗!早苗ーっ!」
藤堂side
ん?ここは…何処だ?
【藤堂】
「なっ!」
何だこれは?岩に、囲まれて…いや、岩の中に、閉じ込められたのか?
【藤堂】
「くっ!何とかして脱出せねば…」
私は、狭い空間の中で必死に身じろぎ、もがいてみた…が、非力な私の力じゃびくともしない。
【藤堂】
「…ダメか。」
【チルノ】
「パパーっ!パパーっ!」
【藤堂】
「この声…チルノ!」
外から微かに聞こえる、私を呼ぶ娘の声…その声に、私はハッとした。
また、諦めてしまうところだった…どうしようもない、上手くいかない事ばかりで、諦め癖がついていた。だが、
【藤堂】
「私はもう、諦めばかりの死に損ないではいられんのだ!」
非力なら、その事実ごと偽ってくれる!幻術師をナメるn…
【チルノ】
「こっのぉーっ!ダイヤモンドブリz」
…?娘の声が、途切れた?何が…
【大妖精】
「チルノちゃーん!」
っ!今の叫び声は、大妖精ちゃん?いや、それより…何だ?娘に何が…?
【藤堂】
「チルノ…チルノ!」
落ち着け、まずは冷静に…チルノ…自分への幻術で、一時的にでも力を…チルノ…まず術式を、チルノ!
【藤堂】
「うわあああぁぁぁっ!」
…空間転移!
霊夢side
状況その1、異変はどうやら問題が大きくなっている模様。
状況その2、チルノがピンチ。
状況その3、妖怪の山で山火事が発生…守矢神社が全焼らしい。
【霊夢】
「そして現在、私はスペカもお札も無い、袖無し巫女…改め、役立たずです。」
【アリス】
「かなり落ち込んでるわね…」
【魔理沙】
「私も初めて見る…」
【紫】
「そう?修業前はいつもあんなよ?」
【霊夢】
「もう!帰ったら修業でも特訓でも何でもするから、誰か何とかしてよ~!」
【萃香】
「霊夢…よし、上手くいくか分かんないけど、アタシの能力で…」
【霊夢】
「萃香…」
そうか…萃香の能力は、疎と密を操る…アレの体を疎に…スカスカにして、藤堂さんの逃げ道を…
【萃香】
「行くよ!大江山悉皆殺s…」
【霊夢】
「だから、力技は止めぇいっ!」
その時だった。
萃香の力で引き寄せられたのか、大きな岩が何処からともなく現れた。
【萃香】
「おりょ?まだ集めてないよ?」
【幽香】
「だったら、これ何処から…あ、落ちた…」
謎のその岩は自由落下していく…その先には、チルノたちが!
【霊夢】
「危ないっ!」
【大妖精】
「え?きゃああっ!」
ピシッ ガァンッ
【藤堂】
「…チルノ!」
【霊夢】
「と、藤堂さん?」
【紫】
「自力で脱出できたみたいね。」
間一髪の所で、岩は粉々に弾け飛んで、中から藤堂さんが現れた。
良かった…。
藤堂side
【藤堂】
「チルノ!」
【大妖精】
「藤堂さん!」
大岩から脱出した私の前には、大妖精ちゃんに付き添われて横たわる娘の姿があった。その姿に…私は、絶句した…。
【藤堂】
「チ、チルノ?チルノ!」
【チルノ】
「…パ…パ?よか、った…無事、で……」
【藤堂】
「もういい、喋るな!チルノ、あぁっ!」
握って持ち上げた娘の腕が、粉々になって消えてしまった…これでは、触れる事も……消えゆく娘に、何も出来ないのか!?
【藤堂】
「誰か!誰か医者を…」
【大妖精】
「落ち着いて、藤堂さん!チルノちゃんは妖精だから、また再生できます。冬になれば…ですけど…」
【藤堂】
「分かっている。妖精の生態については、チルノを娘にしてからすぐに調べた。再生の事も、頭では分かっている…だが…」
【チルノ】
「…パパ?」
【藤堂】
「消えゆく娘を前に、平静でい゛ら゛れ゛る゛か゛っ!」
【大妖精】
「藤堂さん…」
【チルノ】
「…ねぇ、パパ…」
普段の元気な声とは打って変わり、力無い声で呟くチルノ…。
【藤堂】
「何だ?」
【チルノ】
「…も、いっか、い…ギュッて、して…ウチ、でるまぇ……みた、い…に。」
【藤堂】
「だ、だが…そんな事をしたら…」
【チルノ】
「…お願い……」
【藤堂】
「…っ!」
私は、チルノの体を抱き起こし、力いっぱい抱きしめた…。
【チルノ】
「…ありがとう…パパ、大好きだy…」
愛しい娘の、ひんやりとした小さな体…
【藤堂】
「チルノ…っ!」
その温度と感触が、腕の中から…完全に消えた…。
【藤堂】
「…チルノーっ!」
霊夢side
【霊夢】
「……」
チルノは、大好きな藤堂さんの腕の中、幸せそうな顔をして消えていった…。
【魔理沙】
「…ぐすっ…」
【アリス】
「…魔理沙も、泣いてるの?」
【魔理沙】
「なっ!泣いてないぜ!これは…あれだ!コショウのせいだぜ。」
コショウ?何の話かしら?
【霊夢】
「ま、何にせよ…これで、遠慮なくアレを叩き潰せるわね。」
睨みつける先、ろっく…なんちゃらは、不気味に震えていた。
【映姫】
「現しますね…」
【紫】
「えぇ。」
【岩喰い人】
「ガアァァァッ!」
え?何あれ?
今まで、巨岩に顔が彫ってあるだけだったのに…そこから、手と足が…申し訳程度の体が生えてきた。
ば、バランス悪っ!
【幽々子】
「ひどい不格好ちゃんね~。キモカワ?」
【妖夢】
「全然かわいくないです。」
【岩喰い人】
「グアァァァッ!」
あ、怒った?
【幽香】
「来たわ、霊夢!貴方は私の後ろに…」
【霊夢】
「大丈夫よ。お札もスペカも無くたって…」
私には…巫女のカンがあるのよ。
迫る木偶の坊たち…でも、もう怯まない。怯むものか!
【萃香】
「霊夢!」
木偶たちがレーザーでこっちを狙ってるわね…上!
パシュン
左、下、右斜め上、下、右、左斜め下、急上昇…
【霊夢】
「…これが、巫女の直感よ…」
さらにレーザー光線の雨が激しさを増す…でも、今の私にはどう動けばいいのかカンで分かる。
下、左、上、右、左、左、上、右、上、下…
【霊夢】
「はぁぁっ!」
距離を詰めたところで、霊力を込めた足で、蹴り飛ばす!
ガァンッ
あ、頭だけ吹っ飛んだ…まぁ、ロボットだしいいか。
ドォンッ
【霊夢】
「に゛ゃ!?」
頭を蹴り飛ばしたヤツが、突然爆発した。煙で前が…降下!
ピシュンッ
見えなくても、関係ないわよ!
紫side
【萃香】
「な、なぁ紫…今の動きって…」
【幽香】
「本人は、分かってないみたいだけど…」
二人の同志にも、今の霊夢の動きが分かったらしい。
ま、当然ね…今のは、私たちの掛け替えのない親友のものと、全く同じだったのだから。
【紫】
「やっぱり、親子ね。さ、私たちも行くわよ。」
【萃香】
「おぉっ!」
【幽香】
「ふふ…ふふふっ♪」
藤堂side
【大妖精】
「…藤堂さん…」
【藤堂】
「…ヤツか…ヤツが、チルノを…」
岩石の巨人を睨み上げる…その周りを飛んでいたロボットたちと、巫女さんを始めとする少女たちが戦っていた。
だが…せっかくのところ悪いが、娘の仇は譲れんよ。
【藤堂】
「幻術師の怒りを買っておいて、楽に死ねると思うなよ!」
私の、本気の幻術を見せてやろう。
【大妖精】
「と、藤堂さん?」
【藤堂】
「大妖精ちゃん、目を閉じていなさい。」
【大妖精】
「え?」
【藤堂】
「かああぁぁぁっ!」
【大妖精】
「!?」
霊夢side
【霊夢】
「やあぁっ!」
ズガァンッ
御幣でぶっ叩いて、また一体叩き落とした。でも、これじゃ効率悪いわね…何とかなんないかしら。まぁ、でも…
【魔理沙&幽香】
「「ダブルマスタースパーク!」」
【アリス】
「上海軍団、展開!」
【萃香】
「ミニミニ萃香部隊、いっけぇー!」
【上海】
「突撃~!」
【映姫】
「小町、援護は頼みましたよ。」
【小町】
「…zzz…」
【映姫】
「小町!」
みんな頑張ってくれてるし(?)、問題ないか。
ん?あれは…
【ジーク】
「魂魄 妖夢、背中は預けるぞ。」
【妖夢】
「ジーク殿…はいっ!お任せを!」
ふーん、何か名コンビ誕生って感じね。
【紫】
「霊夢!少し離れて!」
【霊夢】
「え?」
見上げると、私の遥か頭上を飛ぶ、紫と幽々子の二人がいた。
私のカンが、ここに居ちゃヤバいって言ってるわね…逃げよう!
【紫】
「行くわよ、幽々子。」
【幽々子】
「えぇ。反魂蝶!」
【紫】
「二重黒死蝶!」
【幽々子&紫】
「「死蝶乱舞四重奏!」」
何で二人で四重奏?って、何あれ!?青と白…赤と紫の蝶が……あ、だから四重奏なのか。
いや、そうじゃなくて…範囲広すぎ!巻き込まれるぅっ!
【霊夢】
「え?ひゃぁっ!」
不意に、後ろから引っ張られた私は、気がつくと蝶の大群を見下ろしてた。
【紫】
「まったく、まだまだ修業が必要ね。」
【霊夢】
「紫!」
なるほど、紫のスキマに助けられたみたいね。
【紫】
「でもま、スペカもお札も無しで、よくやったわ。」
【霊夢】
「う…」
な、何よ…普段は褒めてくれる事なんて絶対ないのに…頭まで撫でてくるなんて……まぁ、悪い気はしないけどさ。
【幽々子】
「ふふ、霊夢テれてる?」
【霊夢】
「なっ!ち、違うわよっ!」
【岩喰い人】
「ガアァァァッ!」
ん?アイツ…いよいよ本気で暴れ出す気ね。
上等よ。お札が無くたって…っ!
【霊夢】
「…え?な、何?」
【岩喰い人】
「ギ、ガ…ア?」
突然、ロックなんちゃらの前に…巨大な化け物が…てか、
【霊夢】
「デカ過ぎでしょ!」
萃香だって、こんなデカくならないわよ?何なのこれ?どっから…
【紫】
「落ち着いて、霊夢。あれは幻術よ。」
【霊夢】
「え?幻術?」
…私は、現れた怪物の足元に目を凝らした。するとそこには…確かに、藤堂さんの姿があった。
【紫】
「にしても…これだけの幻影を作り上げるなんて…あの男、油断ならないわね。」
【霊夢】
「藤堂さん、何する気かしら…いくらアイツより大きい怪物を見せたって、所詮は幻でしょ?」
【幽々子】
「なら、人が私たちを怖がる意味もない…この世で一番、恐ろしくて、強い力を持つもの…それは、触れられないものよ。」
幽々子は扇子で口元を隠し、そんな小難しい事を言い出した。
触れられない、が強い?実体も無しにどう攻撃するのよ…幻の巨人に踏まれたって、痛くも痒くも…。
【紫】
「…意味は、すぐに分かるわ。」
【霊夢】
「え?」
【岩喰い人】
「グオオォォッ!」
急に、ヤツが苦痛に満ちた叫びを上げた。
一体、何が起こってるの?
藤堂side
まずは威嚇で、巨大な幻影を見せてやろう。
巨人というに足るヤツのサイズから察するに、自身より巨大な敵と遭遇した事は無いだろう。
【岩喰い人】
「ギ、ガ…ア?」
案の定、ヤツは私が見せる幻影に怯んでいる。無理もない…まるで大人と子供というくらい、大きさに差があるんだからな。
とは言え、これは飽くまで威嚇だ。この幻影が、ヤツを叩き潰すわけじゃない。
【藤堂】
「さぁて…貴様にお誂え向きの幻術は、これか?」
【岩喰い人】
「…グオオォォッ!」
苦痛の叫びを上げる、岩石の巨人…そして、自身の体のあちこちを、自らの平手で叩き始める。
【岩喰い人】
「ガァッ…ガァァァッ!」
まるで、おぞましい何かに、体中を這い回られているかのように。
そう、今のヤツには…自身の体を食い荒らす、蟻の大群が見えている。しかし、蟻は幻に過ぎず、いくら叩いても潰せやしない。
【岩喰い人】
「アアアァァァッ!」
逃れる術はない。終わることなき永遠の痛苦は、やがてその心が壊れる時まで、止むことはない。
【藤堂】
「幻術…悪夢の牢獄。」
【岩喰い人】
「…………」
岩石の巨人は、もう叫びも呻きもしない…動くための意識すら無くなったそれは、もはや宙を浮くただの(?)岩だ。
【藤堂】
「…砕くのは容易いが、楽にしてやる気はない…苦痛も超えた絶望を、一生味わえ。」
その日の夜、私は一人になった家で、紅魔館から貰ってきたワインを飲んでいた。
【藤堂】
「久しぶりの酒は効くな。」
あの後、岩石の巨人…岩喰い人らしい…は、地獄へ連行された。数日前に、あの城と一緒に彼岸入りした物だったらしいが、その城をジーク・ハルバントが盗み出し、地獄から脱走してきたのが今回の一件の真相だったとか。
そのジークだが、何故か冥界の姫こと西行寺 幽々子が身柄を引き取ったそうだ。チラッと見かけただけだが、何を考えてるのか全く読めない感じの人…いや、亡霊だったな。
河童のにとりという少女は、ロボットの残骸を一つ拾って、意気揚々と山に帰って行った。が、射命丸の話だと、そのロボットは取り上げられ、廃棄されたらしい。
山と言えば、そこの神社が大破して、山火事になったとも聞いた。大丈夫だろうか。
他の面々は、異変解決の宴を開くため、巫女さんの住んでいる東の神社に帰って行った。きっと、今頃は宴会の真っ最中だろう。
【藤堂】
「人妖入り乱れての宴会か…まったく、この世界は本当に不可思議な所だ。」
ワインを飲み干した私は、家から出て湖を眺めた。
【藤堂】
「冬…この湖が凍るまで、チルノは帰って来ないのか…」
こんなに冬が待ち遠しい年もないな。
【藤堂】
「いや、待てよ…湖さえ凍ればいいのか?」
そうだ…いい方法があるじゃないか。多少準備に時間を要するし、確実な作戦じゃないが…冬をじっと待つよりかはマシだからな。
【慧音】
「ふぅ、藤堂先生。」
【藤堂】
「…上、白沢先生?何故、こんな所に?」
森を抜けて現れたのは、私の雇い主である上白沢 慧音先生だった。
【慧音】
「藤堂先生を呼びにきたんです。聞きましたよ、今回の異変解決は藤堂先生の活躍だとか。」
【藤堂】
「何の事でしょうか?私は、娘の仇をとった…それだけです。」
【慧音】
「いいんですよ、それで。巫女にしろ白黒にしろ、異変解決なんて結果であって、目的じゃないのがほとんどなんですから。」
それでよく解決出来るな…まぁ、結果解決してればいいのか。
【慧音】
「…チルノの事は、私も残念です。ですが、送り酒という風習もある…皆で酒を飲み交わすのも、供養の一つですよ?」
【藤堂】
「まぁ、それは知っていますが…あまり、騒がしい空気は…」
【慧音】
「大丈夫、すぐに慣れますよ。それにチルノが戻って来たら、いやでも参加する事になりますよ?あの子も、宴会にはよく来ますから。」
つまり、今のうちに慣れておけと?
【慧音】
「それに…こんな時間に、か弱い女を一人で帰すなんて、酷い方でもないでしょう。」
いたずらっぽく微笑みながら、慧音先生はそんな事を言ってきた。
恐るべき、フラグ体質…何て破壊力だ。
【藤堂】
「分かりました…神社でいいんですね?何度か行った事もあるし、すぐに空間座標を取れますから…」
【慧音】
「あ、いや…」
【藤堂】
「?」
【慧音】
「出来れば、ゆっくり話しながら、歩いて行きませんか?」
【藤堂】
「……まぁ、構いませんよ。」
この人、自覚ないのか?それとも狙ってるのか?
散々調子を崩されながら、私は慧音先生と共に博麗神社を目指した。
一ヶ月後…私は、無縁塚と呼ばれる場所にいた。
この一月の間、私はこの世界…幻想郷の事を調べ回った。博麗大結界、その外の世界の事も…まぁ、変なお札を買わされたが、情報料と考えれば安いものだ。
さらに、この無縁塚という場所は、どうやら外の世界と繋がり易い場所らしい事も分かった…ここなら、出来るかもしれない。
娘を、蘇らせるだけの力の持ち主である彼を、呼び出す事が…出来るかもしれない。
【藤堂】
「待っていろ、チルノ…もうすぐだ。」
さぁ、始めよう…邪魔が入らないうちに、な。
東方異聞録もよろしくお願いします。




