第七話 強者集結
霊夢side
紫に急き立てられ、私は空飛ぶ城へ向かっていた。
【霊夢】
「…近づいてみて分かったけど、確かにヤバそうね。」
この邪悪な気に気づかなかったなんて、ひょっとしなくても修業不足?
帰ったら隣にいる紫に怒られるのかなぁ…怒られるよねぇ、やっぱり…
【紫】
『修業サボってぐーたらばっかしてるから、そんなだらしない事になるのよ!明日から特訓よ!』
ひぃーっ!
【紫】
「…!霊夢、来たわよ!」
【霊夢】
「へ?」
前を見ると、確かに城から何か…黒い物体が無数、飛び出してきていた。あれが、この城の弾幕ってわけね。数も大した事ない。これなら簡単に避けr…
【紫】
「あれ、弾幕じゃないわよ。」
【霊夢】
「え?」
言われて、よく見てみると…確かに違う。人…?みたいな形…けど大きいし…手長いし……あれって…
【紫】
「ロボット、ゴーレム…何て呼ぶにせよ、要は機械の兵隊ね。」
【霊夢】
「ロボット?それって早苗が好きな…」
ピシュッ
【霊夢】
「へ?何か光っt…」
ボォッ
【霊夢】
「アッチ!熱っ…袖、袖が!」
み、右袖が燃えた?何で?何なのよ!あーっ!私のスペカ!
【紫】
「これは、厄介ね…」
いや、シャレになんないわよ…いつの間にか百体ぐらい出てきてるじゃない!スペカも無いのに、どうしろって言うのよぉっ!
【霊夢】
「帰っていいですか?」
【紫】
「…特訓決定ね。」
【霊夢】
「いやぁーっ!」
さよなら、私のお茶の時間…。
ん?あれは…
【魔理沙】
「はっ!」
城が向かってる方角から、魔理沙とアリス…それに、にとりまで…こいつら、河童の作品じゃなかったのね。
【魔理沙】
「お、霊夢ー!お先だぜぇー!お宝は私のモノだ!」
いや、宝なんてあんのかしら…。
【魔理沙】
「マスタースパーク!」
ドォーン
【霊夢】
「相変わらず派手だわ…」
マスタースパークで道を開けて、魔理沙たちは先に城へ侵入してしまった。
【霊夢】
「って、こっちも少し手伝ってよーっ!」
【紫】
「騒いでる場合じゃないわよ、霊夢!」
【霊夢】
「もうヤケクソよぉっ!」
藤堂side
【藤堂】
『外が騒がしい割に、中は静かだな。』
窓から外の様子を窺うと、何やら大量のロボットが出現していたが…中はまるで無人の城だ。部屋らしい部屋も無い、入り組んだ通路がずっと続いているだけ…本当に謎の多い城だ。
【藤堂】
『まるで迷路だな…しかも、この壁も普通の壁じゃないようだし…少し離れて歩いた方がよさs…』
ドカーンッ
【藤堂】
「うわーっ!」
何だ!?この馬鹿デカい光線は?あと一歩前に出てたら、直撃するとこだったぞ。
それに、衝撃で幻術も掻き消されてしまった。
【??】
「いやっほー♪一番乗りー!」
【??】
「待ってよ、魔理沙~。」
【??】
「あのロボット…後で解体してみたいなぁ~。」
何だ、この子たち?今のは彼女たちが?年頃の娘がなんつー無茶苦茶な事を…。
【魔理沙】
「あれ?お前…」
しまった、透化が解けたんだった…魔理沙というらしい少女と目が合い、その事を思い出した。
そういえば、この子…前に神社で会ったな。
【魔理沙】
「何だよ~。先客いたのか…がっかりだぜぇ…。」
【藤堂】
「君たち、何故ここに…」
【魔理沙】
「愚問だぜ!私たちはお宝を探しに来たんだぜ!だよな?アリス、にとり。」
【アリス】
「私は、宝を見つけて喜ぶ魔理沙の顔を、心のアルバムに収める為よ。」
…犬走以上に百合属性の強い子だな。理解に苦しむ…。
【にとり】
「ん?わらひは、このひろが、ろーらってんのか、ひらへに…シャクシャク…」
きゅうりを食べながら喋るな!
【魔理沙】
「というわけだぜ!」
【藤堂】
「団結力ゼロだな、君たち…」
これでよく一緒に来れたもんだよ…。
まぁいい、私には関係ない事だ。私には私の目的があるのだから…というわけで、
【藤堂】
「私は先を急ぐとしよう。」
先の光線で、上の階層に出られる穴も開いたしな。
【魔理沙】
「あ、待て!お宝は私のだ!」
はぁ~、お宝ねぇ~…嫌な男の事を思い出すよ。
【藤堂】
「お宝なんて興味ない。私は、この城を落としに来たんだ。探すのなら好きにしろ、ただし…逃げ遅れても知らんからな。」
【魔理沙】
「あ、おいっ!」
少女たちを置いて、私は先を急いだ。無論、再び幻術で透化してからだ。
魔理沙side
「ちぇっ!行っちまったぜ。」
あいつの能力をうまく利用すれば、楽にお宝にありつけたかも知れないのに…惜しかったぜ。
【魔理沙】
「にしても、一人であいつ大丈夫なのかな?」
来ちまってから言うのもなんだが…ここ、結構ヤバい城みたいだぜ。
【アリス】
「っ!魔理沙!」
【にとり】
「うわぁ…」
周囲の壁がグニグニぐねぐね蠢きだしたと思ったら、何か気色悪いのが生えてきた…。
触手か…先端に目があるタイプだな。ますます気持ち悪いぜ。でも、これじゃ弱点の数が増えるばかりだと思うんだがな…。
【にとり】
「うげぇ~…きゅうりマズくなるぅ~…」
【アリス】
「まだ食べてたの?」
【魔理沙】
「二人とも、来るぜ!」
無数の触手が四方八方から襲い掛かってくる。その数と同じだけ目があるんじゃ、逃げても死角は無いだろうな…。
【魔理沙】
「チッ!」
藤堂side
上の階層は、まだ下より分かりやすいな。おそらくここは、所謂エントランスホール…正面の扉の先は大広間で、階段を上がった先にあるのが…城の主がいるだろう謁見の間、という感じだろう。
となると…私が目指すべき、この城の動力部分は…正面脇のあの通路の先が怪しいな。
【藤堂】
「行くか…おっと、声が…」
しまった!いつもの透化だけだった!い、急いで音と気配を…
【??】
「そこにいるのは誰だ?」
ギクッ!ば、バレた?い、いやまだ姿は見られていない…このまま幻術に集中を…
【??】
「そこかっ!」
ズガァーンッ
【藤堂】
「ぎゃっ!」
足元に落ちた衝撃波に、私は軽々と吹き飛ばされた。おまけに透化も解けて、完全に見つかってしまい、まさに絶対絶命のピンチである。
【??】
「貴様、何者だ?」
そりゃ、こっちの台詞だ…黒い体に、黒いマント、大きく不気味なデザイン(目玉のある)の剣を持った怪物、いや怪人よりかは、私の方がまだ人間らしい見た目をしてるはずだ。
【ジーク】
「まぁいい。我が名は、妖魔剣士ジーク・ハルバント。人間、私の城に何の用だ?」
こいつが、この城の城主か…にしては、あまり邪気を感じないのは何故だ?城全体からは、禍々しいまでの邪気を感じるのに…このジークとかいう怪人からは、力こそ魔の者特有の禍々しさを感じるが、彼自身からは邪悪な感じが全くしない。
【ジーク】
「答えろ!貴様の目的は何だ?」
【藤堂】
「…娘との平和な暮らしを守る為に、この城を落とす事だ。」
【ジーク】
「ほぅ…ならば、貴様は私の敵だな。」
くっ!なんて殺気だ…久し振りに感じる、本物の殺気…だが、力の質は紛れもなく魔の者のソレでありながら、なんて澄んだ殺気なんだ。悪意や邪気といったものが、まるで感じられない。
【ジーク】
「…はぁっ!」
迅いっ!
油断はなかった…なのに、こうもあっさり距離を詰められるとは……
ズバッ
【藤堂】
「ぐっ!」
咄嗟に後ろへ跳んだが…右腕が、肘より少し上の辺りからばっさり無くなってしまった。
斬り飛ばされた右腕を左手で捕らえ、そのまま後退し距離を取る。まぁ、あまり意味のある行為ではないが、それでも敵の間合いにいつまでも留まり続ける理由はない。
【ジーク】
「…貴様、人間ではないな?」
なっ!バカな…今の一太刀で、私の正体を見破った?
【ジーク】
「死臭がするぞ?」
【藤堂】
「…人に言われると、腹立つな!…我に付くもの、我に従うもの、汝に自由を与えん、汝に束縛を与えん、我が身は汝を守る盾、汝は我が身を守る矛なり!ヴィシャス・オヌ・ホルン!」
私の影が蠢き、床と背後の壁から飛び出してきた。その先端が無数に枝分かれし、鋭く尖った幾本もの槍となって、ジークめがけ伸びて行く。一直線に伸びるものもあれば、上下や左右にジグザグ曲がりながら進むものも…神技以外で、私に出来る数少ない攻撃技の一つだ。
この隙に右腕はくっつけたが…まだ動かせそうにないな。
【ジーク】
「フン。ぬるい攻撃だ。」
え?あれ…?右腕の状態を確認してる間に…何があった?
そりゃあ、倒せるなんて期待は微塵もしてなかったが…無数の影の槍は、一つ残らず弾かれ、あらぬ方へ刺さっている。全てだ…ただの一つも、ヤツにかすりもしていない。
【ジーク】
「終わりだ。死ねぇっ!」
ダメだ、さっきより迅いっ!や、やられるっ!
ガキィンッ
【ジーク】
「何っ!?」
死…それに近い苦痛を覚悟した瞬間、何者かがジークと私の間に割って入り、彼の凶刃を受け止めた。
そこに立っていたのは、白髪の少女…二本の刀で、ジークの大剣を受け止めている。
【??】
「…大丈夫ですか?」
【藤堂】
「あ、あぁ…ありがとう。」
【ジーク】
「ほぅ…貴様、剣士か?」
【妖夢】
「魂魄 妖夢です。貴方は?」
【ジーク】
「私はジーク・ハルバント。」
ジークが後ろに跳び、距離を取る。
【ジーク】
「貴様の剣、見せて貰おう。魂魄 妖夢。」
どうやら、ジークの注意は完全に彼女に向いているようだ。今なら逃げられそうだな。
【妖夢】
「妖怪が鍛えた我が刀に、斬れぬ物などあまりない!」
おぉ、カッコイイ…あれ?でも、あまり?あまりって言った?
【ジーク】
「いざ…」
【妖夢】
「尋常に…」
うっ、この気迫…巻き込まれる前に逃げなければ、今度こそ本当に死ぬ。
【妖夢&ジーク】
「「……勝負!!」」
ガギィーンッ
背後から、二人の声と剣のぶつかり合う音が響いてきた…同時に、肌を斬るような衝撃が我が身を襲う。間近で喰らっていたらと思うとゾッとする…。
【藤堂】
「に、逃げてて正解だった…」
とか思った矢先に、城全体が大きく揺れた。
【藤堂】
「何だ!?ぐあっ!」
バランスを崩して倒れた私は、側頭部を壁に強く打ち…同時に、世界が暗転した。
チルノside
【チルノ】
「…ねぇ、大ちゃん…」
【大妖精】
「ダメだよ、チルノちゃん。」
【チルノ】
「早っ!まだ言ってないじゃん!」
アタイの言葉は、あっさり遮られた。
【大妖精】
「言わなくたって分かるよ…助けに行くって言うんでしょ?」
うっ…さすが大ちゃん。ちくわの友なだけあって、アタイの事を分かっている…。
【大妖精】
「約束したでしょ?おとなしく待ってるって。」
【チルノ】
「そうだけど…でも、パパが…」
パパとの約束…でも、だけど…。
アタイ、実はバカだけど…パパの嘘くらい分かるもん。
痛いのに、平気だって言ったり…悲しいのに、何て事ないって顔したり…危ないって分かってるのに、死んじゃうかもしれないのに……
【チルノ】
『…大丈夫だよね?帰って来るよね?』
【藤堂】
『…あぁ。勿論だ。』
【チルノ】
「っ!約束なんかより、パパの命の方が大事なんだもん!」
【大妖精】
「チルノちゃん…」
【チルノ】
「怒られたっていい…叱られたっていい…それでも、パパに、生きて帰って来て欲しいんだもん…そうじゃなきゃ、もう怒っても、頭撫でてももらえないもん…そんなの、そんなのイヤだぁっ!」
【大妖精】
「はぁ~、チルノちゃんは本当に、藤堂さんの事が大好きなんだね。ちょっと妬けちゃうな…」
【チルノ】
「大ちゃん?」
【大妖精】
「行こう、チルノちゃん!」
【チルノ】
「うんっ!」
パパ…待っててね。今、行くから。
霊夢side
【霊夢】
「だぁーっ!もう、何なのよこいつら!」
倒しても倒しても、次から次と…スペカさえあれば、こんな木偶の坊たちなんて一発で…
【霊夢】
「!」
マズい!来る!
私は頭を下げ、右膝を曲げた。
パシュン ピシュンッ
横から頭、正面から右足を狙われてた…気づくの遅かったら死んでたわ。っていうか、何なのよアレ?目がピカッて光ったと思ったら、次の瞬間には焼かれてるし…両袖とも無くなって、だいぶピンチよ!
【紫】
「この…邪魔よ!」
紫とも分断されるし…お札ももう無いし…どうしろって言うのよ?
【紫】
「霊夢!」
うげっ!四方八方から…こんなの避けられるわけないでしょ!
あ、死んだかも……
【紫】
「くっ!霊夢っ!」
【??】
「…マスタースパーク。」
【??】
「ミッシングパワー!」
ドォーンッ ドガガガァンッ
目の前に現れたチェック柄のベスト…背後に現れた日差しも陰るほど大きな体…顔を見なくても相手が誰か分かる。何よ、やっと来たわけ?
【霊夢】
「遅かったじゃない!幽香。萃香。」
でも、おかげで助かった…本気で死ぬかと思ったわ。
【萃香】
「ゴメンゴメン。紫に呼び出された時、勇儀と飲んでて…さすがに今回はヤバいって言うから、少し抜いてから来たんだよ。」
なるほど…暢気に構えてたのが私だけじゃなくて良かったわ。
【幽香】
「霊夢っ!」
【霊夢】
「むぐっ!」
いきなり、幽香に抱きしめられた…顔が胸に埋まって息が……
【幽香】
「ゴメンねぇーっ!本当はすぐに駆け付けたかったんだけど…最後のヒマワリが中々咲かなくて…」
苦しいからっ!ヒマワリの話とかいいからっ!
【幽香】
「ケガしてない?何処も痛くない?」
だから、苦しいって!
【紫】
「二人とも!私の心配は?」
【萃香】
「ん?紫、何遊んでんの?」
【幽香】
「心配する必要なんかないでしょ。」
この温度差…喜んでいいのかしら?
【紫】
「あんた達ねぇっ!それが友人であり、同志に対する態度?あんまりだわ!」
何の同志なのよ…何か良からぬ事を企んでんじゃないでしょうね?
【萃香】
「……何だ?」
萃香が、何か怪訝そうな様子で城の方を睨んでるけど…私からは幽香の胸が邪魔でよく見えない。
【幽香】
「これは…何?城が…」
【霊夢】
「もうっ!いい加減に放して、私にも見せてよ!」
【幽香】
「うぅ…霊夢が反抗期だわ~…」
何をくだらない事で嘘泣きしてんのかしら?
【霊夢】
「って!ちょっ、これ何!?何が起きてんの!?」
目の前で起きている事を、私には何て表現したらいいのか分からない。
城の後ろに、小山のようにそびえていた巨岩が、突然動き出した…さらに、その岩肌に目、鼻、口が現れた。
【??】
「ガアアアッ!」
大きく口を開けたソレは次の瞬間、城を地盤ごと…食べ始めたのだ。
【霊夢】
「あ、あれって…生き物なの?妖怪?」
【紫】
「違うわね…ロックバイター、岩喰い人という岩石の体を持つ巨人よ。」
岩の怪物は、どんどん城を食べ進めて行く。まるで、共食いしてるみたい…気分のいいものじゃないわね。
と、ロボットたちが、城の方にひき返して行く…。
【幽香】
「この機械兵たちは、城を守ろうとしてるのね。」
幽香の言う通り、ロボットたちは城を食べるそいつを攻撃し始めた。
ピシュンッ ピシュンッ
赤い光線が、岩の怪物に降り注ぐ…が、まるで効いてないようだ。
【霊夢】
「…ていうか、まだ城の中に魔理沙たちがいるんじゃないの?」
あのままじゃ、城ごと食べられちゃうじゃない!
【霊夢】
「魔理沙ぁっ!」
魔理沙side
【魔理沙】
「くちゅんっ!」
うぅ…くしゃみが…
【魔理沙】
「誰だよ?コショウなんてバラ撒いたの…」
【アリス&にとり】
「「魔理沙でしょ(だよ)!」」
【魔理沙】
「…ぜ?」
でもま、効果は絶大だったぜ。
襲い掛かってきた触手どもは、涙流しながらのた打ち回ってるからな。
【アリス】
「くしゅんっ!もうっ!ダメじゃない、魔理沙!せっかくのサービスお色気シーンのチャンスが…」
【魔理沙】
「は?」
【アリス】
「触手に巻き付かれて、身動き出来なくなった魔理沙…粘液にぬめる触手で全身を舐め回され、服を剥ぎ取られて、終いには…魔理沙ぁ~」
【魔理沙】
「ファイナルスパーク!」
ドガーンッ
【魔理沙】
「はぁ、はぁ…なんつー妄想してくれるんだ、この変態人形使い!」
お前なんて明日からドールマスターじゃなくて、どスケベマスターだ!
【にとり】
「へくちっ!…あれ?何か、この城揺れてない?」
【魔理沙】
「そういえば…何か、今にも崩れてきそうな……」
バガンッ ガラガラガラッ…
いきなり、私たちの横にあったはずの天井とか床が無くなった。さっきまで、そこには通路が続いてたはずなのに…何で大景観が広がってるんだ?
【魔理沙】
「何がどうなって…」
外を見た私の目に飛び込んで来たのは…こっちに齧り付こうとしてる、巨大な化け物の口だった…
【魔理沙】
「…ぜああああっ!」
私はにとりとアリスを引っ掴んで、大急ぎでその場から飛び出した。
その背後で、私たちがいた場所が化け物に食われた音がした。
【上海】
「危機一髪ね。」
【魔理沙】
「お前、いつから私の帽子の中に!?」
【上海】
「アリスが、ファイナルスパーク喰らったあたりから。」
なんて薄情な人形なんだぜ…。
にしても、何なんだありゃ?
妖夢side
この御仁、強い!
【ジーク】
「どうした?その程度か?」
【妖夢】
「くっ!」
隙が無い…その癖、こっちも隙を見せずにいるのに、仕掛けられても反応が追い付かない…私は、やはり半人前の未熟者なのか…?
【幽々子】
「妖夢~、頑張って~♪」
幽々子様…私は、何をしているのだ?こんな所で、主を足止めさせられて…
【ジーク】
「貴様の剣は、何を求めている?剣に貴様は、何を求めている?」
【妖夢】
「何を…だと?」
【ジーク】
「貴様の剣は、何も伝えて来ない。いや、違う…答えを求め、彷徨ってばかりだ。」
【妖夢】
「!」
【ジーク】
「剣は拳より正直に、振るう者の心を映す。迷える剣は、何も伝えず、何にも届かぬ。振るうだけ虚しいだけだ。」
【妖夢】
「くっ!」
剣技は及ばず、心の弱ささえ見透かされるとは…私の、完敗だ…。
【映姫】
「そこまでです!」
それまで、幽々子様の隣で黙って見守っていてくれた映姫様は、私が膝をつき敗北を悟ったのを見届けてから歩み出てきた。
【ジーク】
「…閻魔か…」
【映姫】
「おとなしく、地獄に帰りなさい。ジーク・ハルバント。」
と、その時…先ほど感じたものより、遥かに大きな揺れがこの城を襲った。
【ジーク】
「ん?何だ?私の城が…」
同時に、激しく城が崩れ始めた。
【映姫】
「くっ!マズい…小町!」
【小町】
「zzz……」
小町さん…さようなら、貴方の事は忘れません。
【映姫】
「こ~ま~ち~…」
普段は小さくて可愛い映姫様も、怒るとやっぱり閻魔なのだと気づかされる。
【ジーク】
「お前たち、早く逃げろ!崩れるぞ!」
バガンッ
【ジーク】
「な!?」
な、何ですか!?あれは?
化け物が…この城を食べてる?でも、こんな怪物、今まで何処に?
って、また来た!逃げなきゃ…だ、ダメ!間に合わない!
【幽々子】
「妖夢!」
…幽々子様…申し訳ありません…。
【映姫】
「小町!早く起きなさい!」
映姫様、帰ったらよろしくお願いします…。
【小町】
「んぁ?はっ!四季様!?い、いえサボってないですよ!」
…なんか、私も小町さんに腹立ってきた。
くっ!ここまでか…
【妖夢】
「え?」
諦めかけた瞬間、私の体は持ち上げられ、あっという間に幽々子様たちのもとへ…
【ジーク】
「行くぞ、時間がない!」
私は、ジーク殿に抱きかかえられていた。そのまま、私たちは城から飛び出し、間一髪で逃げ切る事が出来た。
霊夢side
【霊夢】
「魔理沙っ!」
【魔理沙】
「ん?おぉ、霊夢!」
魔理沙たちは、間一髪のところで城から脱出してきた。にとり、それからアリスも……無事?みたいね。よかった…。
【紫】
「あ、幽々子~!」
紫が呼びかけた方には、冥界のお姫様に…何で死神と閻魔までいるわけ?おまけに…
【妖夢】
「あ、あの…もう大丈夫ですから…」
黒い変なヤツに、お姫様抱っこされてる妖夢がいた。
珍しい構図よね…。
【??】
「私の城が…おのれ、あやつは何だ?」
あぁ、あの食べられちゃった城の主なんだ。それはご愁傷様。
もう城は半分近く食べられちゃったわね。ま、全員脱出できたみたいだからいいけど…それに、城を守ろうとしてたあの木偶の坊たちも、さっきから全然動かなくなっちゃったし、手間が省けて良かったわ。
【霊夢】
「というわけで、異変も解決した事だし、帰るとしますか♪」
【紫】
「そんなわけ無いでしょ!」
【映姫】
「そうです。むしろ、今回の一件で一番の問題は…他ならぬアレですよ。」
紫と閻魔が、眉間にシワを寄せてあの怪物を睨んでいる。
え?アレってそんなにヤバいの?
【紫】
「放っておいたらアレ、幻想郷の大地を食い尽くすでしょうね。」
【幽々子】
「そ、そんな事になったら、お米もお野菜も作れなくなっちゃう!」
【紫】
「いや、まぁ、うん…そうだけど、それだけじゃなくって…」
【チルノ】
「パパーっ!」
ん?あれは、チルノ?と、大妖精?
【チルノ】
「霊夢!パパは?」
【霊夢】
「パパって、藤堂さんのこと?」
藤堂さんなんて、最初から来てな…
【魔理沙】
「そういえば、あいつ居ないな?姿消してんのか?」
【霊夢】
「え?魔理沙、藤堂さんに会ったの?」
【妖夢】
「私も会いましたよ。ジーク殿に襲われていたので助けましたが、その後は巻き添えを恐れてか、何処かに行ってしまわれたようです。」
って事は何?まさか…逃げ遅れたの?
気づけば、もう城は跡形も無い…。
【チルノ】
「っ、パパーっ!」
【大妖精】
「チルノちゃん!待ってーっ!」
【霊夢】
「ちょっ、二人とも!」
チルノと大妖精が、後先考えずに突っ込んでいく…その時、
チルノside
【チルノ】
「パパーっ!」
嘘だ!嘘だよ!パパ…無事に帰って来るって…今度、本物のハンバーグ作ってくれるって…約束してくれたんだもん!
【チルノ】
「パパーっ!パパーっ!」
【岩喰い人】
「グァ…?」
こいつが…こいつが、パパを…っ!
【チルノ】
「こっのぉーっ!ダイヤモンドブリz」
パシュンッ
【チルノ】
「あ…え?」
【大妖精】
「チルノちゃーん!」
大ちゃんの叫び声が、遠くから聞こえた…。




