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第六話 謎の天空城へ侵入せよ!

映姫side


私は四季 映姫。ヤマ・ザナドゥ…つまり、この幻想郷の地獄を統括している閻魔です。閻魔である私の仕事は、本来であれば非常に忙しいものであるハズなのですが…お昼休みから戻ってみれば、ありゃ不思議!私の審判を待つ霊魂が一人もいないじゃありませんか。

死者がいないのはいい事?バカを言ってはいけない…死んでこちらに来る者がいなければ、輪廻転生を待つ者たちがいつまで経っても向こうへ渡れないんですからね。


【映姫】

「…はぁー…」


原因は分かっているんです…毎度の事ですから。えぇ、毎度の…怒りを通り越して、溜め息しか出ないくらいに毎度の事です。

まったく、どうしてあの子は…。向こう三ヶ月、給金の半分以上を減俸されているというのに、それでもまだ懲りていないのでしょうか?


【映姫】

「困りましたね…」


何か別の方法を考える必要があるようです。何がいいでしょう?


【獄卒A】

「し、四季様っ!」


サボり癖の酷いあの子にどんなお仕置きをしようか考えていたら、獄卒の一人が血相を変えて部屋に飛び込んできた。


【映姫】

「どうしたんです?」


獄卒とは、地獄を直接管理している…看守みたいな役目を果たす地獄の鬼たちで、妖怪の鬼とは少し違います。一応、彼らも私の部下という事なるんですが、あの子と違って働き者ですから、手もあまりかからず助かっています。

働き者故、滅多に持ち場を離れる事のない獄卒である彼が、これほど慌てた様子で駆け込んで来たという事は、間違いなく一大事なのだろう。

この後、彼が何を言おうとも取り乱さず、冷静でいられるように私はしかと身構えて待った。


【獄卒A】

「地獄より、脱走者が一名!現世…幻想郷への逃走を許してしまいました!」


【映姫】

「な、何ですって?」


脱走?いや、そんな馬鹿な…地獄から逃げ出しても、三途の川を渡って現世に出られるワケが…何しろ川には、距離を操るあの子が……あの子が……


【映姫】

「…小町ぃっ!」


かくして…私が幻想郷の閻魔に就任して以来、最大にして最悪の不祥事が起きてしまったのです。



藤堂side


幻想郷の北方の空より出現した空飛ぶ謎の城は、その後も進路を西へ向けて進んでいた。


【藤堂】

「一体、あれは何なんだ?」


胸騒ぎが止まない…チルノ、また危ない事をしでかしてやいないだろうか?

やっと家につき、その勢いのまま私は家に飛び込んだ。


【藤堂】

「チルノ!チルノ!」


呼び掛けるも、娘の元気な声は返って来ない。案の定というか…家の中はもぬけの殻だった。


【藤堂】

「まさか…本当あの城に向かったのか!?」


【チルノ】

「あ、パパお帰り~。」


【藤堂】

「ぬおっ?チルノ、何処に行って…」


チ、チルノ…良かった、取り越し苦労か。だが、いきなり背後から声を掛けないで欲しい…心臓に悪い。いや、私の心臓がどの程度機能しているかは知らないが…。


【チルノ】

「大ちゃんと湖で遊んでた。」


【藤堂】

「そうか。なら、いいんだ。」


なるほど、確かに後ろにいる大妖精ちゃんは、可愛らしい水着姿で髪も濡れている。嘘は言ってないようだ。にしても…


【藤堂】

「チルノ、その水着は何処で…?」


何故か…チルノはスク水、紺のスクール水着だった。しかも、胸の部分に入ってる名前は『田中』だった。誰?


【チルノ】

「前に、こーりんのとこで貰ったんだよ。似合う?」


【藤堂】

「…あぁ、良く似合ってるぞ。」


そりゃあ、家の娘は何を着ても可愛いさ。だが、さすがにこれはマニアック過ぎるだろう。

その、こーりん?なる人物には、今度文句を言ってやらねば…。


【チルノ】

「ねぇ、パパ!見た?あの空飛ぶでっかいの。」


やはり、チルノはあれに興味を持ってしまったらしい。好奇心の旺盛な娘だからな…仕方ない事ではある。

だが…あの城は何か危ない気配がする。近づかないよう言って聞かせなければ…。


【藤堂】

「チルノ。あの城には絶対に…」


【??】

「藤堂 実継さんですね?」


背後からの突然の声…驚き、振り向こうとした矢先に、


ドガッ


【藤堂】

「がっ!」


首筋を襲った衝撃に、私の意識は暗転した。




【チルノ】

「…き……」


……。


【チルノ】

「起きてよ!」


…チルノの声が…くっ、体が思うように動かない……。

私は、死んだのか?


【チルノ】

「む~っ!起きろーっ!」


ドーンッ


【藤堂】

「グハッ!」


娘の突然のボディープレスで、文字通り…かは微妙だが、叩き起こされた私は…自分の腹の上で不機嫌そうな顔をしている娘を睨んだ。


【藤堂】

「ち、チルノ!私を殺す気か!」


【チルノ】

「あ、パパやっと起きた。なかなか起きてくれないから心配したよ。」


【藤堂】

「…ここは?」


周りを見て、状況を確認…チルノと、大妖精ちゃんもいる。二人とも、ケガはないようだ。

だが、場所は明らかに自宅じゃない。どこの屋敷だ?


【??】

「やっと起きたみたいね。」


今度は何だ?

振り向くとそこには、真っ赤な瞳の少女が椅子に座っていた。今の幼さが残る声は彼女のものか?

しかし、このオーラ…明らかに少女という域を超えている。

背中の羽…あれは、蝙蝠の羽か?


【藤堂】

「何のつもりだ?私だけでなく、娘とその友達まで拉致して…何が目的だ?」


彼女が座っている椅子…立派な作りをしたそれは、まるで玉座。まさか…ここは、あの空飛ぶ魔城?彼女が城主?お、大いに有り得る!


【??】

「何か誤解してるみたいね。貴方の娘は、勝手について来ただけよ。」


とすれば、ひとまずチルノたちに危険はないな。


【レミリア】

「私は、レミリア・スカーレット。貴方の事は知ってるわ。藤堂…で、いいのかしら?」


こ、この子、私が偽名を使っているのを知っている?

そんな事、チルノに知られるわけにはいかない!


【藤堂】

「そうだが…私に、何の用だね?」


【レミリア】

「新聞で貴方の記事を見たんだけど、貴方ヒマなのよね?」


【藤堂】

「仕事なら、もう見つかった。それと、決してヒマではないぞ。」


【レミリア】

「そう。でも、貴方は私の頼みを聞いてくれる。そういう運命なの。」


運命だと?バカバカしい…そんなものに翻弄されるのは御免だ。

変な事を言うから、昔の事を思い出してしまったじゃないか…。


【レミリア】

「幻想郷に城は二つと要らない。あるべきは、夜の王たる私の城…この紅魔館のみ。というわけで藤堂、貴方…あの空飛ぶ城を潰して来てちょうだい。」


…こ、紅魔館?まさか、ここって……湖を挟んでウチの向かいに建ってる、あの真っ赤な趣味の悪い館か?


【レミリア】

「報酬だって払うわ。ワインはお好き?」


現物支給かよ!


【藤堂】

「まぁ、酒は種類を問わず好きだが…」


そういえば、こっちに来てからは、金銭的な余裕もなくご無沙汰だったな。ふむ、悪くないかもしれ…いやいやいや!どう考えても割に合わない!


【レミリア】

「そう。なら、後で咲夜に用意させ…」


【??】

「るー☆」


ん?何だ、あれは…?

レミリアの言葉を遮り現れたのは、小さな…とても小さな女の子だった。背中からカラフルな宝石のついた…羽だろうか?…何かが生えている、ぬいぐるみサイズの少女。


【レミリア】

「あら、フラン。どうしたの?」


【フラン】

「るー、るー♪」


フランと呼ばれたそれは、レミリアの頭…彼女の被るナイトキャップの上にちょこんと、腹ばいになって乗っかった。


【レミリア】

「ごめんなさい、何の話だったかしら?あぁ、そうそう…報酬の内容だけど、他に何か希望があれば、出来るだけ沿うようにするわ。という事で、頼んだわよ?」


拒否権は無しか?しかし、頭にそんな愛くるしい生物を乗せてては、さっきまでのカリスマや威圧感も台無しというもの…


【藤堂】

「故に断る!」


【レミリア】

「バラすわよ?いろんな意味で。」


【藤堂】

「引き受けましたです、はい。」


こうして、私は城攻めの大役を仰せつかったのでした、と。(泣)




霊夢side


【霊夢】

「…何なのかしらねぇ~。」


空飛ぶ城って…私にケンカ売ってるのかしら?空飛ぶ○○は私の専売特許なのよ?

まぁ、冗談は置いといて…ゆっくり飛行している城を眺めながら、私は縁側でまったりお茶を飲んでいた。


【霊夢】

「ま、被害も出てないし、ほっとくに限るわね。」


それが、博麗の巫女としての私のスタンスだ。中立を保ち、幻想郷の秩序を守るのが博麗の巫女である私の務め…らしい。だから、何の被害報告もないうちは、動かないのである。

というわけで、こうしていつものお茶の時間を満喫…


【紫】

「してる場合じゃないわよ!」


【霊夢】

「ぴきゅっ!」


いきなり頭を叩かれ、危うくお茶を零すところだった。


【霊夢】

「何すんのよ、紫!」


【紫】

「何すんの、じゃないわよ。すぐに支度なさい、霊夢。」


【霊夢】

「やーよ、面倒じゃない。放っておきなさいよ。別に被害が出てるわけじゃないでしょ?」


ボカッ


【霊夢】

「いった!何すんのよ!」


突然の紫のげんこつに、私は涙目になりながら抗議した。


【紫】

「いい、霊夢?貴方は博麗の巫女なのよ。分かってるの?」


【霊夢】

「だから、何の被害もないうちは動かないんじゃない。」


【紫】

「あの城は危険よ。被害が出るのを待ってたら、取り返しのつかない事になる…幻想郷の秩序と平和を守るのが、貴方の役目なの!」


【霊夢】

「あぁ、もう!分かったわよ…行けばいいんでしょ!行けば…」


仕方なく、私は準備にかかった。


【紫】

「今回は、本気で危ないから…私と、萃香、それに幽香にも掛けたわ。まぁ、二人とも少し遅れるって言ってたけど…」


【霊夢】

「…それ、私が行く必要、ある?」




魔理沙side


【魔理沙】

「ミニ八卦炉よし、スペカよし、非常食のキノコよし、魔法の箒よし…私、絶好調だぜ♪」


【アリス】

「あぁ、テンション高めな魔理沙…素敵」


【にとり】

「あの城がどうやって飛んでるのか…絶対に解明してやるわ。」


【上海】

『…このチーム、大丈夫なのかな?』




妖夢side


【妖夢】

「あの、幽々子様…」


【幽々子】

「なーに?妖夢。」


【妖夢】

「この布陣は、一体…」


【小町】

「ん~…四季様~。帰っていいっすか?」


【映姫】

「ダメです!今回の一件は、私たちの落ち度なんですからね!」


【小町】

「っていうか、獄卒たちの責任であって、あたい関係ないじゃん……」


【映姫】

「何か言いましたか?」


【小町】

「さ、張り切って行こうかね?」


【妖夢】

「はぁー…」


【幽々子】

「うふふ。楽しくなりそうね。」




藤堂side


いやはや、さてはて…どうしたものか。

遠い空に浮かぶ魔城を眺め、私は途方に暮れた。あの城を落とせと言われても、な。

準備があると言って一度帰宅を許されたわけだが…正直なところ準備などない。ただ事を先延ばしにしたかっただけだ。


【チルノ】

「パパ~、早く行こうよ~♪」


娘は行く気満々らしいが…無論、連れて行くわけにはいかない。

長年、色々とヤバい橋を渡ってきた私には、あの城が危険なものであると、この距離からでも分かるわけで…そんな城に、ホイホイと乗り込む勇気などあるわけもなかった。いや、違うか…前の私なら、何か金儲けに繋がるものがあるかも知れないと、姿を消して堂々と乗り込んだだろう。今は、そんな事より、娘との平穏な日常の方が大事なのだ。だから、出来るだけ危険なマネはしたくないし、娘にも絶対させたくない。

だが…


【チルノ】

「パパ?」


もし、私の直感通りに、あれが危険なものなら…娘の安全を脅かすものであるなら、命がけで排除する必要がある。


【藤堂】

「チルノ…大妖精ちゃんと一緒に、おとなしくしてなさい。」


【チルノ】

「えー!ヤダヤダっ!アタイも行くーっ!」


【藤堂】

「チルノ!」


【チルノ】

「っ!」


わがままを言う娘を一喝する。本当は、こんな風に怒ったりしたくはないんだが…私もそんなに出来た人間ではないので、ついつい感情が先走ってしまう。父親としては最低だな…。


【藤堂】

「大人しくしていなさい。いいな?」


【チルノ】

「…わかった…」


不満げではあったが、素直に言う事を聞いてくれた娘の体を、私はギュッと抱きしめた。


【チルノ】

「パパ?」


出会った頃より、すっかり小さくなってしまった体…愛おしいこの子の未来に、暗い影を落とさせたりはしない。たとえ…


【藤堂】

「行ってくる。」


【チルノ】

「パパ!大丈夫だよね?帰って来るよね?」


【藤堂】

「…あぁ。勿論だ。」


…たとえ今度こそ、死ぬ事になったとしても…。

家を出て、今一度城を見上げる。


【藤堂】

「行くか。ウィング。」


私は決意を固め、目に見えない翼を羽ばたかせ空へ舞い上がった。

さらに、姿を透明にし、音、臭い、気配まで完全に私の周囲から消す。世界からほぼ完全に存在を消した状態だ。唯一、私を知覚できるのは触覚のみ。

しかし、油断は出来ない。機械による探知に、幻術は相性が悪いからだ。特に、サーモグラフィーなんかは、どうやっても誤魔化しきれない。


【藤堂】

「…さて…どうなる?」


思い切って、城に接近…距離はすでに100を切ったはず。だが、城は迎撃の態勢を見せない…どうやら大丈夫なようだ。

それにしても、この城…デカいと思っていたが、なるほど…正確には地盤となっている岩盤に、小山のような岩が引っ付いてるのか。それが城の背後に聳えているから、全体が大きく見えた、と…。

しかし、岩肌の色が全く違うな…断層というやつなのか?

まぁいい…さっさと潜入するとしよう。下から穴を開けた方が安全そうだな。

私は高度を下げ、城の地盤の下側へ潜り込んだ。


【藤堂】

『この辺が、城の真下だな。よし…』


私は右手を握り力を込め、岩肌に押し当てた。


【藤堂】

『ランス!』


ズガンッ


見えない槍が、岩盤を貫いていく。傍から見れば、岩に勝手に穴が空いていくという、異様な光景だろう。


【藤堂】

『さすがに…貫通には時間が掛かるか…なら、出力を上げる!』


ズガガガガ…


砕けた岩が降り注ぐが、構わず掘り続けていると…不意に、先端に感じていた反発が無くなった。


【藤堂】

『開通したな。』


自らが空けた穴を抜け、いよいよ城の中へ突入した。


【藤堂】

『ここは…地下牢の中か。』


上下左右背後を岩壁に塞がれ、目の前には鉄格子…普通の城らしい造りだが、そんな普通の城がどうして飛んでいるのやら…。


【藤堂】

『にしても、私に牢屋はお似合い過ぎるだろう?』


などと呟いたが、この声も今は周囲に聞こえていないので、賛同は得られなかった。

さて、牢屋の格子を見てみると…どうやら鉄製ではないようだ。鉄サビの色や質感はリアルだったが、これは石…魔力の宿った特殊な石で作ったものだ。知らずに触ろうものなら…痛い目を見ただろう。


【藤堂】

『ウェーブ!』


ドガーンッ


右手に最小限の力だけ込めて、目に見えない鞭でもって格子を粉々に砕いた。

魔石はその大半が脆いので、ある程度の覚悟をして攻撃すれば、砕くのは容易だ。まぁ案の定、力を吸い取られてしまったが、それも最小限で済んだし良しとしよう。


【藤堂】

『さて、さっさと終わらせるか…』


目指すは城の動力部だ。

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