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第四話 歴史はロマン(なのか?)

【東堂院】

「…ん…ん、ここは?」


気づくと、私は何処かの部屋に寝かされていた。辺りを見回してみたが、言えることは一つ。自宅ではない…それだけだ。


【東堂院】

「いって、てて…」


額が…おデコが割れるように痛んだ。あまりの痛みで、状況の把握が出来ないほどだ。


【東堂院】

「くっ…仕方ない。幻覚変換…この痛みを、幻に変換する。」


自身の脳に幻術をかけ、痛みを幻覚の痛みだと認識させる。要は自己暗示による誤魔化しだが、幻覚の痛みなら、幻術師である私には無いに等しいものだ。

とはいえ、ゾンビのハズの私がこれほどの痛みを覚えるという事は…本当に頭蓋骨の額部分が割れているのかもしれない。まぁ、屍の体クセして、回復力だけは高いからな…そのうち治るだろう。


【東堂院】

「ふぅ~…それにしても、私は何故こんな所に?」


【??】

「やぁ、気がついたのか。」


部屋に入って来たのは、水色の髪の上に、小さな…明らかに小さすぎる帽子を乗せた女性だった。被るというより、本当に乗っかっているだけだ。まぁ、人のセンスをどうこう言えるほどオシャレでもないので、ツッコミは控えておこう。


【東堂院】

「えーと…貴方は?何故、私は見覚えのない部屋で寝かされていたんだ?」


【??】

「……え?」


彼女は、何故か甚く驚いたというか…ショックを受けたようだった。

まさか…酔った勢いで、行きずりの女性、つまり彼女と一夜の過ちを……いやいやいや!それは無い。断言できる。彼女は相当な美人と言っていい…私なんかが相手にされるわけもない。


【??】

「す、済まない…強く打ち過ぎたようだ。」


【東堂院】

「?」


どうにも話が見えてこない。いや、そもそもここは何処で、今日は何曜日だ?何時だ?仕事はいつも昼からだが、まだ平気なのか?


【東堂院】

「とにかく、帰らなければ…」


【??】

「あ、待て!まだ起きては…」


【東堂院】

「仕事があるんだ。珠算塾で、講師をしていてね。」


【??】

「…マズい…これは、完全に……」


彼女は何やらブツブツ言っているが、構っている暇は無い。

私は部屋を出て、やけに古い型の日本家屋的な造りの廊下を歩き、玄関を探した。

造り方は古いのに、床や壁はしっかりしている。築年数を感じさせない、しっかりした造りという事なのか、はたまた古い形で新しい家を建てたのか…どちらにしろ、いいとこのお嬢さんなのかもしれない。だが、そんなにバカみたいに広くはない。玄関もすぐに見つかったし…さっさと帰るとしよう。


【??】

「ま、待ってくれ!帰る前に、医者に診てもらった方がいい!かなり強く頭を打ったんだから…まだ痛むだろう?」


【東堂院】

「あぁ、どうりで…しかし、痛みなら問題ない。迷惑をかけて済まなかった。ありがとう。」


【??】

「いえいえ、どういたしま…違うっ!そうじゃない!とにかく来てくれ!」


【東堂院】

「い、いや…だから…うわっ!」


私は腕を捕まれ、彼女に引っ張られながら走らされた。

情けないとか笑わないで欲しい…凄い力なのだ。女性の細腕には似つかわしくない腕力なのだ。おまけに脚も速い…瞬脚という高速歩法が使えれば良かったんだが、生憎と私は使えないので、ほとんど引きずられるようにして何とかついて…行けてないし、ように何も完全に引きずられてるし。


【東堂院】

「た~す~け~て~!」


まったく…今日はどうやら厄日らしい。女難の相ありなんて厄日は、後にも先にも今日きりだろう。

そんな、今日の自分の運勢を思いながらも、私は引きずられ続けた。…ボロ雑巾のようになるのも、時間の問題だな。




深い竹林を抜けた先に、驚くほど立派な屋敷が建っていた。

彼女の金持ち仲間の家だろうか?連れて来られたのはいいが、どう見ても病院には見えない。


【東堂院】

「えーと…ここは?」


【??】

「永遠亭だ。この幻想郷で一番腕のいい医者がいる診療所さ。」


診療所、ね…こんな辺鄙なとこで医者やってるなんて、よっぽどのヤブか、ブラックジャックみたいなモグリの名医か…まさに天国と地獄だな。

さて…どっちだ?


【??】

「あら、慧音じゃない。どうしたの?」


通された部屋にいたのは、美人な女医さんだった。服が左右で色違いになっているので、何か変な印象もうけたが…色香漂う美人なのは間違いない。

この際、彼女がヤブでもモグリでも関係ない。


【東堂院】

『天国決定♪』


【慧音】

「済まない。実はかくかくしかじかで…」


【??】

「これこれうまうま、なのね。記憶喪失ねぇ…方法は色々あるけど、この薬を飲むのと、河童がこの間売りに来たこの機械を使うのと、どっちがいいかしら?」


女医さんの手に握られているのは、怪しい色をした液体の入った試験官だ。機械の方は、ここには無いらしい。


【慧音】

「危険の少ない方で頼む。」


【??】

「…記憶を失った時と同じショックを与えるって方法もあるわ。」


あれ?女医さん、急につまらなそうな態度になったが…どうしたんだ?


【慧音】

「いや…さすがにそれはもう…私も気が退けるというか…」


【??】

「もう、我が儘ねぇ~。記憶喪失なんて、大半は時間が経てば治るわ。放っておいて大丈夫よ。」


その通りだと思うけど何か酷っ!主に態度…。


【慧音】

「しかしだな、永琳…彼には義理とはいえ娘がいるんだぞ?あの子に何て説明するんだ?」


【永琳】

「あぁ、例の…確かに、あの子にいくら説明してもねぇ~。」


何か二人、小声でひそひそ話しているが…そろそろ帰っていいだろうか?私は、現在自分がいる時空座標を割り出そうとした。が、うまくいかない…。


【東堂院】

『…何故?』


私は、一体どこに来てしまったんだ?

さっきの町といい、明らかに私のいた世界、時代とは違う。

それに、記憶喪失と言われても、真偽のほどはかなり怪しい。何しろ、私は自分の名前も覚えているし、自分が何者なのかも把握しているのだから。

それよりも危惧すべきは、彼女たちが私の事を知っているらしい点だ。私は彼女たちを知らない…だが向こうは知っている、その理由は?私を知る人間に、好意的ないし友好的な者などいないはずだ。

…警戒した方がいいかもしれない。


【慧音】

「…本当に大丈夫なんだろうな?その機械…?」


【永琳】

「河童は自信作だって言ってたわよ。使う機会があるか心配だったけど、買っておいて良かったわ。」


【慧音】

「まだ使った事ないんじゃないか!まさか、そっちの薬も…」


【永琳】

「出来たて新薬よ♪とっても新鮮よ♪」


【慧音】

「やっぱりか!せめて、いつもみたく自分の弟子で試してからにしてくれ…」


…これは、本気で逃げた方が良さそうだ。

モルモットにされる前に、私は空間転移で表に出た。




慧音side


【慧音】

「はぁー…仕方ない。ここは当人に決めて貰おう。」


【永琳】

「最初からそうすれば良かったじゃない。」


【慧音】

「記憶を失くしてる今の彼に選ばせるのは、酷な話だと思うが…藤堂さん、どうします?薬も機械も最新の…もの…で……」


振り返った私は、思わず固まってしまった。

そこに座っていたはずの彼が、いつの間にか居なくなっていたのだ。


【慧音】

「…永琳…どうしよう?」


彼は、私の頭突きを受けて記憶を失っている。恐らく、チルノの事もだ…もし、今の状態でチルノと遭遇したら…あの子の事だ。記憶喪失なんて理解出来ず、酷く傷つくに違いない。

それに、下手をすれば妖怪に襲われるかもしれない。彼なら大丈夫かもしれないが、山での一件みたく、また面倒な揉め事が起きるとも考えられる。


【慧音】

「私の、せいだ…」


【永琳】

「やれやれ…ウドンゲ!」


【鈴仙】

「はい、師匠?」


奥から出てきた鈴仙は、薬を作っていたのか、手に乳鉢と乳棒を持っていた。


【永琳】

「悪いけど、人を捜してきて頂戴。てゐも連れて行くといいわ。」


【鈴仙】

「誰を捜すんです?」


【永琳】

「この新聞に出てる彼よ。」


鈴仙は新聞を見て、何故か不快そうな顔をした…。


【鈴仙】

「この人ですか?う~…わたし、何かこの人苦手なんですけど…」


そう言う鈴仙は、本当に渋そうな顔をする。彼女は、この永遠亭でも一番まともな性格をしている。礼儀正しいし、滅多に人を嫌ったり、嫌悪感を前に出したりしないのに…。


【永琳】

「な~に?ウドンゲ…自称・ゾンビなんて書いてるから、怖いのかしら?」


【鈴仙】

「そ、そそっ!そんなんじゃありません!」


あぁ、なるほど。

ゾンビが怖いなんて、かわいい性格をしているな。自分だって妖獣だろうに…。


【永琳】

「彼を連れて来ないと、この新薬あなたに飲んでもらう事になるわよ?」


【鈴仙】

「すぐ行きます!てゐーっ!」


脱兎も追い抜く勢いで、玉兎が駆けていく。よっぽど嫌なんだろうな。

と、私もこうしてはいられない。急ぎ、彼を探さなければ…。


【慧音】

「じゃあ、永琳。また後で。見つかったら知らせてくれ。」


【永琳】

「えぇ。」




東堂院side


【東堂院】

「ダメだ…完全に迷った。」


姿を消し、竹林を歩く事およそ15分…道に迷った…いや、ような気がする。いっそ完全に迷子だという確信が持てるなら、開き直ってしまえるのだが…


【東堂院】

「行けども行けども…竹、竹、竹っ!もうどっちに進んでるのか全然わからんっ!


見た感じ同じような光景が延々と続いていて、ちゃんと出口に向かっているのか、それとも近くをぐるぐる回ってるだけなのか…自分でも分からなくなってきてしまった。

空間転移するにしても、どっちの方角に向かって行けばいいか分からないし、空は…ここがどういう世界か分からない以上、迂闊に飛ばない方がいい。

…姿を消してさえいれば平気だろうか?どのみち、このままじゃ追っ手に捕まるのも時間の問題だ。頭の痛みを抑え続けるのに、だいぶ力を割いてしまっている…姿を消していられる時間も、そう長くはない。


【東堂院】

「一か八か…ウィング!」


私は飛び上がり、竹林の上空へ出た。

辺りを見回すが、とりあえず何もいないし、何もない。大丈夫なようだ。


【東堂院】

「とにかく、ここを離れよう。」

私は、特に方角も定めずに飛んだ。日の傾きから見ると…東か?

と、その時…


ゴオォッ


【東堂院】

「うわーっ!」


背後から、凄まじい突風が吹いてきた。私はそれに煽られバランスを崩し落下…透化も解けてしまった。


【東堂院】

「くっ!」


見えない翼を操り、何とか体勢を取り戻した。


【??】

「あやや?藤堂さんじゃないですか!先日はどうも♪」


ん?誰だ?この娘は?背中に黒い翼を生やしているが…それに、ずいぶんと高い下駄を履いてるし。


【??】

「あや?どうしました?」


【東堂院】

「……どうやら、記憶喪失は事実らしいな…済まないが、私は記憶喪失中だ。」


【??】

「なんと!」


【東堂院】

「私について、知っている事を教えてくれ。」


記憶の無い私に、今一番必要なもの…それは情報だ。自分の置かれた状況、敵味方の把握こそが急務なのである。


【??】

「そういう事なら、これを。この間、インタビューさせていただいた時の記事です。会話の内容を、ほぼそのまま載せてあります。」


【東堂院】

「助かる。えーと…」


【??】

「幻想郷の清く正しい新聞記者、射命丸 文です。」


【東堂院】

「ありがとう、文。この礼は必ず…」


【文】

「では、密着取材させてもらいましょう。件の幻術師が記憶喪失!?その真相は…次の見出しも決まりです!」


【東堂院】

「…信用する相手を、間違えたか?」


不安を覚える私だったが、そんな私の背後から近づいてくる気配が二つ…今度は敵か?味かt…


【??】

「待てぇーっ!」


…分かり易く敵でした。

ウサ耳の少女二人が、こっちに向かって飛んで来る。うちの背の高い方の子は、真っ赤に血走った目でこっちを睨んでおり、物凄く怖いっ!


【文】

「あやや…これは一体?」


【東堂院】

「追われているんだ。捕まったら、人体実験の材料にされかねない…」


【文】

「つまり、逃げたいと?そういう事なら…」


【東堂院】

「?何を…」


腕を捕まれ、何だか嫌な予感がした次の瞬間…世界の光景が、ブレた。


【東堂院】

「ぎゃあああぁぁぁっ!」


何だ?腕が、体が…引きちぎられるっ!何が起きた?何が起きているんだ?


【東堂院】

「た~す~け~て~く~れ~!」




鈴仙side


【鈴仙】

「なっ!待って!」


師匠に言われ、ゾンb…じゃなくて、藤堂さんを追っていたわたしとてゐは、程なくして彼を発見した。

彼を捕まえて連れて行けば…師匠の危ない薬の実験台にされずに済む。何が何でも連れて行かないと!

それに、彼は仕事を探しているらしい…なら今後は、わたしの代わりに色々と実験台になってもらえばいい。無論バイトとして。自称・ゾンビなんだし、大丈夫ですよね?

などと考えてる隙に、彼の前にいた文さんが、彼の手を掴み飛び去ってしまった。


【鈴仙】

「くっ!追うわよ、てゐ!」


【てゐ】

「いや、無理ウサ…あの天狗のスピードには、誰も追いつけないウサ。諦めて帰r…ウサ?」


帰ろうとするてゐの耳を根本から掴んで、締め上げた。


【てゐ】

「い、痛っ!痛いウサーっ!」


【鈴仙】

「絶対に捕まえるわよ?いいわね?」


【てゐ】

「わ、わかったウサ…」


そうよ、何としても捕まえないと…でないと……


【永琳】

『ウドンゲ~♪さぁ、お薬の時間よぉ~♪』


……い、イヤァーッ!


【てゐ】

「…今日の鈴仙は怖いウサ…逆らわない方がいいウサ…」


【鈴仙】

「てゐ?」


【てゐ】

「な、何も言ってないウサ!」


【鈴仙】

「?」


何を耳押さえて怯えてるのかしら、この子は?

まぁ、とにかく今は彼を捕まえないと。


【鈴仙】

「あなたの能力で、わたしの幸運度を限界まで上げて。」


【てゐ】

「え?でも…」


【鈴仙】

「いいからやる!」


【てゐ】

「ひんっ!分かったウサ…もう、どうなっても知らないウサ!」


てゐの能力は、幸運を操る程度の能力…昔は人間を幸せにする程度だったけど、成長と共にグレードアップしたらしい。ま、おかげでわたしの運気は今、この上なく絶好調になったわ。

どっちに逃げたか知らないけど、今なら木の棒が倒れた方に進むだけで見つけられるハズ。適当に飛んでも、また然り。


【鈴仙】

「逃がさないわよーっ!」




てゐside


あーあ、行っちゃったウサ…。

鈴仙には話してないけど、ワタシの能力…切れた後が大変なんだウサ…。しかも、元々幸の薄い鈴仙じゃ、あんまり効果望めないウサ。


【てゐ】

「もう帰るウサ…後はどうなっても知らないウサ~。」




霊夢side


私は午後のお茶の時間を楽しんでいた。

魔理沙も来て、縁側で二人、まったりお茶を飲んでたわけよ…そこへ、こんなサプライズは無いんじゃない?


【文】

「どーも、霊夢さん!突然ですが匿って下さい!」


【魔理沙】

「おいおい、どうしたんだぜ?」


【霊夢】

「妖怪を匿う神社って…」


もう、ここが神社だなんて誰も思ってないわね…こんなだから、お賽銭が集まらないんだわ…。


【霊夢】

「ていうか…彼、死んでない?」


【文】

「あや?あやややっ!」


文の横に、顔面から地面に激突したまま動かない男性…藤堂さんの姿があった。

文は、幻想郷最速の鴉天狗…その飛行スピードを考えると、あれはどう見ても間違いなく即死だろう…まぁ、生身の人間だったらの話だけど。


【東堂院】

「ぐっ!い、いててて…が、ぁ…ぁ……」


【霊夢】

「あ、生きてた。」


さすがに、ゾンビを自称するだけ頑丈(?)みたいね。


【東堂院】

「人を、勝手に殺さんでくれ…射命丸、助けるつもりだったのか?それとも、とどめを刺すつもりだったのか?」


【文】

「あははは…ん?そういえば、藤堂さん記憶…」


【東堂院】

「今の衝撃で戻ったようだ。頭は、割れるように痛いが…」


何だか分かんないけど、無事だったみたいだし結果オーライね。

ひとまず二人の分のお茶を…


【鈴仙】

「見つけたわ!」


…三人分追加、ね。

永遠亭のウドンゲが、どういうわけか文と藤堂さんを追って来たらしい。つまりこれは、どういう事なのかしら?

まさか、藤堂さんを巡って、ウサギとカラスが泥沼の争いを…な、わけないか。言っちゃ悪いけど、取り合いするほどの殿方には思えないし。


【鈴仙】

「さあ、藤堂さん?帰って、お薬の時間ですよ~。」


【東堂院】

「ひぃっ!」


思わず悲鳴を上げたくなる気持ちがよく分かるくらい、ウドンゲは両目を血走らせていた。

ていうか、そんな真っ赤な狂気の瞳をこっちに向けないで欲しいわね…狂うじゃない。

でも、藤堂さんは平気らしかった。


【鈴仙】

「てゐの能力で、今のわたしはツキにツキまくってるから、抵抗しても無駄ですよ?さぁ、おとなしくわたしの身代わr…もとい、師匠の新薬の被験者になって下さいね。」


【文】

「あやや…よっぽど鬱屈してたんでしょうね。」


【魔理沙】

「まったく、穏やかじゃないんだぜ。」


【鈴仙】

「あなたたちは、師匠の薬がどんなに怖いか知らないから、そんな暢気な事が言えるのよっ!」


泣くほど怖いのかしら…まぁ、苦労してんだろうなぁとは思ってたけどさ。


【東堂院】

「そんな薬の被験者なんて、誰がやるものか!」


【鈴仙】

「仕方ないですね…それなら、実力行使するだけです!」


【霊夢】

「境内で暴れんな!」


ゴンッ


【鈴仙】

「ぴきゃう!?」


ピチューン


ウドンゲは私のゲンコツ一発でピチュってしまった。ツキまくってるんじゃなかったの?


【鈴仙】

「いたた…あれ?何で?今のわたしは…」


【東堂院】

「ツキが尽きたんだな。幸運なんて、そうそう長く続かんよ。」


【鈴仙】

「そ、そんなぁ~…」


ガックシと、その場にへたり込んでしまったウドンゲ…おそらく、帰った彼女を待っているのは、新薬を掲げながら嬉しそうに微笑む永琳なのだろう。




東堂院side


はぁーっ、何だか散々な一日だった。頭はまだ痛むし…すっかり遅くなってしまった。チルノは妖精で、食事を取る必要性は無いが、帰りを待っているに違いない。


【東堂院】

「ただいま。」


【チルノ】

「あ、パパ~っ!」


家に帰ると、娘が元気に出迎えてくれた。この子の笑顔を、一時でも忘れていたなんてな…。


【東堂院】

「ごめんな、チルノ。遅くなってしまったし、晩御飯は何を…」


【慧音】

「やぁ、お帰り。無事だったみたいで何よりだ。」


……。


【東堂院】

「なしているん?」


思いもよらぬ客人の姿に、言葉遣いまでおかしくなってしまった。

だって無理もないだろう。昼間会った、寺子屋を開いているという女性、上白沢 慧音が割烹着を着て台所にいたのだから。

何がどうなっている?


【慧音】

「昼間の詫びさ。私のせいで、大変な目に合わせてしまったからな。」


【東堂院】

「そんな気を遣わなくても…この通り、私なら何ともな…い…?」


フラッとした…そう思った次の瞬間、私は床に手をついていた。


【チルノ】

「パパぁっ!」


【慧音】

「お、おい!しっかりしろ!大丈夫か?」


【東堂院】

「……大丈夫だ。ちょっと、立ちくらみを起こしただけだ。」


そう言って、私は椅子に腰を下ろした。

想像以上に、頭部へのダメージが大きかったようだ。その上、痛みをずっと幻覚に変えて誤魔化し続けていたからな。疲労も限界…か。


【チルノ】

「パパ…大丈夫?」


【東堂院】

「チルノ…心配するな。私は、ゾンビみたいなものだから、このくらいどうって事はない。」


【チルノ】

「本当?」


【東堂院】

「あぁ。簡単には死なんよ。」


そう、簡単には死ねない…忌み嫌われながら、人々の悪意に晒されながら…それでも死ねない自分が、恨めしかった時期もあったな。

だけど、今は…もう少しだけ、長く生きたい。心から、そう思う。


【東堂院】

「そして、早く仕事が欲しい。」


無職のプー太郎パパは嫌だ!


【東堂院】

「と言っても、里の人にも嫌われたようだし…就職は絶望的だな。」


【慧音】

「だったら!だったら、私の寺子屋で働かないか?」


【東堂院】

「は?」


突然の慧音の申し出に、私は面食らってしまった。

寺子屋は学校ではない。子供を通わせる義務などない、いわば塾と一緒だ。そんな所に、嫌われ者の私を雇い入れたりしたら、評判が落ちるのは目に見えているだろう。


【東堂院】

「詫びというには、度を超しているぞ。」


【慧音】

「いや、そればかりではないんだ。この幻想郷の基礎教養は読み・書き・そろばんだ。私も教えられるんだが…専門は歴史でね。だから、そろばんだけでも教えてくれるなら、私としても非常に助かるわけで…どうだろう?」


確かに、バイトとはいえ珠算塾の講師をしていたわけだし、出来ない事はないだろう。だが…


【東堂院】

「生徒が来るとは、とても思えんがな…寺子屋が潰れても、責任は取れんぞ?」


【慧音】

「大丈夫、大丈夫♪私がちゃんと説明するから。」


と、笑顔で慧音は言っているが…こちらとしては、不安で仕方ないんだが?

まぁ、何にせよ…仕事の当てが出来た事は、素直に喜んでおこう。これが、糠喜びで終わらなければいいんだが…。

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