第二話 妖怪の山騒動
【チルノ】
「行ってきま~す!」
今日も元気よく、チルノは出かけて行った。
私がこの変な世界に来て、すでに一週間…。
【東堂院】
「未だに、仕事が見つからない…」
改めて自己紹介しよう…私は東堂院 紗樹。現在無職…ろくでなしの幻術師である。
【東堂院】
「まぁ、食うに困っているわけではないし、別にいいんだが…」
湖には少なからず魚はいるし、山に行けばいくらか山菜も手に入る。それに……
【東堂院】
「はぁ~、夕飯の食料を調達して…里にも行ってみるか。」
今日こそ仕事が見つかるといいんだが…。
やって来たのは山…どうやら、妖怪の山と呼ばれているらしい。
最初ここへ入った時は、犬耳としっぽをつけた少女に追い回されたが…まぁ、いい勉強になった。やはりこの世界はおかしい、というより危険だ。なので基本、姿は消すようにしている。
【東堂院】
「さて、まずは山菜…も、少なくなってきたな。秋になれば木の実もなるんだろうが、この時期の山菜となると……」
決して多いとは言えない知識を総動員して、私はある程度の山菜を集めた。我が家で使うには少し多いくらいだ。多い分は、里で米や醤油、味噌と交換してもらえるので、無駄はない。どうやら、里の人達はここに近づけないようで、取れたての山菜は大いに好評だ。まぁ、確かに…
【??】
「ギィーッ、ギィーッ!」
あんな得体の知れない生き物があちこちにいる山だ…一般人が近づけるわけがない。
とりあえず、この山菜を米と換えてもらおう。今晩の献立はそれから考えればいいか…。
【??】
「グォォォッ!」
【東堂院】
「……献立を考える必要がなくなったな。」
姿は消していたが、獣の…狼の姿をしたこの怪物には、臭いで私の存在が分かったのだろう。
【??】
「グォォォーッ!」
チルノside
【チルノ】
「…パパ?」
【リグル】
「どうしたの、チルノちゃん?」
【ミスティア】
「何かあったんですかぁ~?」
【チルノ】
「いや…たぶん、気のせい。」
一瞬、パパの声が聞こえたっていうか…気配を感じたんだけど…気のせいだよね。
【リグル】
「そういえば、チルノちゃん。チルノちゃんのパパになった人って、どんな人なの?」
【チルノ】
「どんなって…」
リグルに聞かれ、パパの事を思い返してみた。でも、アタイはうまく説明できなかった。
考えてみれば、パパの事ってあんまり知らないんだよね。
【ルーミア】
「おいしそうなのかー?」
【チルノ】
「いや、食べないでよね…」
ルーミアならアリエールだし…。
【ミスティア】
「でも、お父さんですかぁ。何だか憧れちゃいます。」
【リグル】
「そうだね。羨ましいなぁ。」
【チルノ】
「えへへ、そうかなぁ~。」
アタイも、人間の親子とか見てて、何度も裏山しいなって思ってた。アタイたち妖精には、親なんていない…自然そのものから生まれる、それが妖精だから。
だから、とうどうがパパになってくれて、アタイもすごく嬉しかった。
東堂院side
今日は大漁…ではなく大猟だ。バカでかい狼の怪物を仕留めた私は、それはもう上機嫌で家に帰ってきた。小さいのは先日、襲い掛かってきたのを仕留めたが…今回はその五倍はあろうかという大物だ。
焼いて食べるか、煮て食すか…はたまたフライにするか…悩みどころである。
【東堂院】
「とりあえず、少し焼いて食べるか。」
私は火を起こし、取ってきた肉を少し切って焼いてみた。
【東堂院】
「どれどれ…こんなもんかな?」
怖いので、よく火を通してから、一口…
【東堂院】
「…っ!美味いっ!」
いつぞやの小物の肉より、遥かに柔らかく、臭みも少ない。しかも、ただ焼いただけなのに、この味わい…肉の旨味が噛むたびに、口の中いっぱいに広がる…。
【東堂院】
「…ゴクッ…ん!」
何だ?飲み込んだ瞬間、まるでわた飴みたいに喉の奥で溶けちまった。そのくせ、まるで脂っぽさを感じない…。
【東堂院】
「グ○メ細胞が活性化しそうな美味さだ。」
なんて、冗談は置いといて…半端なく美味い肉が手に入ったし、今夜はご馳走だな。
待てよ…山菜もいいが、この肉も里で売れるんじゃないか?何しろこの美味さだ…みんな飛びつくに違いない。
そう考えた私は、ウチでは食べ切れないだろうと思い残してきた肉を採取しに、再び山へ向かった。
???side
【??】
「…あやや…とんでもない人間が幻想入りしたものですね~。
新聞のネタを探しに行こうとしていた私の眼下で、化け狼の大物を仕留めた人間…これはいいネタになると思い、つけて来はしましたが…よもや、妖怪の肉を里の人たちに売り広めようだなんて…とんでもない事を考える人間がいるものです。
このまま彼を野放しにしては、幻想郷が大変な事に…
【??】
「こうしてはいられません。先回りして、山の皆に知らせないと…」
霊夢side
境内の掃除も終わり、私はまったり縁側でくつろいでいた。
最近はめっきり暑くなった。神社の夏は暑く、冬は寒い…また今年もあの茹だるような暑さがやって来るのかと思うと…思わず溜め息など吐きたくなる。
【霊夢】
「で?何の用なのよ、紫。」
私の隣では、スキマから上半身だけ出した紫が、ちゃっかり煎餅を頬張っている。
【紫】
「…霊夢は、あの氷精に取り入った人間の事、知ってるわね?」
【霊夢】
「直接は知らないわ。話を聞いた事があるだけ…妖怪の山で採った山菜を、里に回してるんでしょ?」
ウチにも持って来てくれないかしら。まぁ、交換できるお米なんて無いけど…。
【紫】
「山菜くらいなら良かったのよ…でもその人間、ついさっき化け狼の群れのボスを一匹殺しちゃったの。」
【霊夢】
「は?」
化け狼のボスって…アレかなり大きいし、強力なはずだけど…人間が勝てるわけないのに…。
【紫】
「さらにね~、その化け狼の肉を、里で売り出そうなんて考えているみたいで…山の妖怪たち、かなりご立腹みたいよ。」
そりゃそうでしょうよ…妖怪は人間を襲い、人間の恐怖によって存在している。人間が妖怪を食べるようになったら、妖怪の存在…延いては、幻想郷そのものが脅かされる事になる。
【霊夢】
「面倒な事になりそうね。山の神様たちは何て?」
【紫】
「妖怪側を支持してるわ。ま、当然ね。」
確かに、この幻想郷において、妖怪の山は一大勢力…その結束力は馬鹿に出来ない。
【霊夢】
「山のゴタゴタは、早苗たちに何とかして欲しいけど…事態が事態だし、私も行った方がいいわけね。」
【紫】
「そういう事♪」
仕方ない…まぁ、何かあったらチルノがかわいそうだしね。それに…
【霊夢】
「行くわよ、紫。」
【紫】
「フフフ♪貴方も、博麗の巫女としての自覚が出来てきたわね。」
嬉しそうに笑う紫を連れ、私は妖怪の山へと向かった。
東堂院side
やれやれ、これは厄介な事になったぞ。
【??】
「逃がすな、追え!」
山に入ってすぐ、手痛い歓迎を受けた私は、道なき山の中を駆け回っていた。
姿を消しても、先の狼の怪物の小物たちが嗅ぎ付けてくるので意味がない…臭いまで完全に消すには、ある程度の術式を踏まなければならない…この状況では、ちと難しいな。
【東堂院】
「どうしたものか…迎え撃とうにも、さすがに多勢に無勢だし…」
【??】
「弾幕放てぇっ!」
【東堂院】
「ぬおっ!」
ドドドドドドッ
四方八方から放たれた弾幕に包まれ、私は吹き飛ばされた。
マズい事に、ダメージで動く事が出来ない…その上、ダメージを受けた事で、透化も解けてしまった。
【??】
「…観念しろ。侵入者め。」
そう言い、初めて山に入った時に追い回してきたあの犬耳の少女が、剣の切っ先を私の喉元に突き付けてきた。
【??】
「あやや…椛、捕えたんですね。」
【椛】
「文さま。大天狗様は何と?」
突然、空から降ってきた少女…随分と高い下駄を履いているが、何者なんだ?いや、それ以前に…背中の鴉の羽は?
まさか、この子たちもウチの娘と同じような存在なのか?
幸い、鴉羽の少女…文という名前らしい…が来て、注意が私から逸れているようだ。今のうちに、状況を把握しよう。この子たちの力は……
【東堂院】
『なっ!』
思わず声を上げそうになってしまった。
何だこの子たち…神通力51500に、45000!?
一体、この世界は何なんだ?常人の神通力なんて100あればいい方だ。規格外過ぎるだろ…。一体、
【文】
「と、まぁそういう事です。」
この少女たちは…
【椛】
「わかりました。では…」
何者なんだ?
…ここは、空間転移で逃げた方がいい。家くらいまでなら、何とかなるはずだ。
【椛】
「!」
【東堂院】
「っ!」
鼻先に突き付けられた切っ先に、空間転移を諦めざるを得なかった。
【椛】
「妙なマネをしたら、殺す。」
め、目が本気だ…。
どうやら、かなりマズい状況らしい。い、いや大丈夫…何とかなる。なるはずだ…。似たような状況なら、幾度となくくぐり抜けてきたじゃないか!
【文】
「あやや。まだ何か企んでますか?椛、腕の一体ぐらいならいいんじゃないですか?」
何を平然と恐ろしい事を…いや、まさか本当に本気ではあるm……
【椛】
「はい、文さま。」
ザシュッ
【東堂院】
「…え?」
おいおい、何の冗談だ!?本当に、左腕ブッ刺されたんですけど?
【東堂院】
「ぁ、ぐっ!」
【文】
「あやや…意外と我慢強いですね?」
【東堂院】
「はぁ…はぁ……人でなしのろくでなしに相応しい目になら、何度もあってきた……見くびってくれるなよ、小娘ども…」
ぐりっ…
【東堂院】
「ぎっ!」
突き刺された剣が捻られ、傷口をえぐられた…激痛が、脳天を突き抜けていく…。
【椛】
「口を慎め。文さまを愚弄すると許さぬぞ。」
くっ!この子、さっきより目つきがヤバいんだが…どうやら、そっちの黒髪の子を敬愛しているみたいだな。にしても…えげつないマネを…。
【チルノ】
「あぁーっ!」
な?この声は…チルノ?何処から…
【文】
「…あやや…これは、これは…」
文と呼ばれた子が、頭上を見上げている。
そこには…
【東堂院】
「チルノっ!」
友人たちと遊んでいたはずの娘、チルノが飛んでいた。
こっちを見て、愕然と…怒りの表情を浮かべている。
【チルノ】
「このーっ!パパに何するんだぁっ!アイシクルフォール!」
叫んで、スペルカードを発動するチルノ。助けようとしてくれているみたいだ。だが、娘よ…父は腕を突き刺されていて、身動きがとれないんだが?そんなやったらめったら、つららを落とさないでくれ…避けれないから!
【文】
「…よっと!」
と思っていたら、文という少女が、何やら羽扇を取り出し大きく扇いだ。するとどうだ…突如目の前に発生した大きな竜巻によって、チルノの放った氷の弾幕が吹き飛んでしまった。
…半永久式とはいえ、やはりチルノでは力の差は歴然か…
【東堂院】
「チルノ!私の事はいいから、早く逃げるんだ!」
【チルノ】
「ヤダっ!」
チルノは言うことを聞かずに、この場に下りてきてしまった。
マズい…チルノの力じゃ、この子たちに勝てるはずもない。弾幕バトルとか、スペルカードルールとかいうものもあるらしいが、通常の戦闘とそれほど差異があるとは思えない。
そもそも、神通力のケタからして違う…神通力は、存在の根源たる魂の力…知力・体力・戦闘力…全ての力は神通力の大きさによって決まる。神通力7000分の戦闘力しかないチルノでは、およそ50000の神通力を誇るこの子たち二人を前に、逃げ切る事さえ出来ない。
私だって、チルノを連れながら、守りながらの逃走となると厳しいというのに…。だが、諦めるわけにはいかない…分の悪い賭けだが、まだ逃げる手はある。この犬耳の…椛という少女の隙さえ突ければ…
【リグル】
「チルノちゃん!置いてかないでよ~!」
【ミスティア】
「待って下さいです~。」
【ルーミア】
「どーしたのかー?」
何かぞろぞろと来ちゃった!
【椛】
「面倒な事に…」
【文】
「あやや…」
少女たちは頭を抱え、溜め息を吐く…しかしそれは、私も一緒だ。
チルノ一人なら、何とか一緒に逃げきる方法もあった…だが、娘のお友達を含め四人となると、全員が無事にこの場を離脱できる可能性は低い。もともと、サイコロで1を三回くらい連続して出さなきゃならない程に、分の悪い賭けだった。それが…サイコロを一度に四つ振らなければならなくなったわけである。えーと、この確率って何分の一になるんだ?確率計算の公式?ハッw、そんな何十年も前に習った事は忘れちまったな。
話を戻すが…はっきりいって、絶望的だ。チルノに至っては、逃げる気なんてさらさら無いようだし…どうする?どうしたら……
【チルノ】
「天狗め~、パパを虐めたな~…」
【文】
「やれやれ、そういうワケではないんですが…困りましたね。」
どうすれば……
【椛】
「文さま。ここは私が…」
犬耳の少女・椛が、私の腕から剣を抜こうとする…。
どうやら…覚悟を決めねばならないようだ。
【東堂院】
「ま、待ってくれ!」
【椛】
「?」
【東堂院】
「…後生だ…その子たちは見逃してくれ。私なら、煮るなり焼くなり…好きにしてくれて構わない!だから……」
【チルノ】
「パパ…?」
このままチルノたちが戦えば…どう考えても無事では済まない。
チルノたちを無事に逃がすには、これしか…
【文】
「そうですか♪いやー助かります。私も、あまり戦闘は得意ではないので。」
【チルノ】
「何言ってるのさ、パパ!そんなのダメ!」
【東堂院】
「チルノ!」
聞き分けのない娘に言うことを聞かせる為、腕の痛みすら忘れ怒声を張る…甲斐あってか、駆け寄ろうとしていたチルノが、肩をビクつかせて止まる。
【東堂院】
「帰りなさい。私なら大丈夫だから…」
【チルノ】
「…ぅ…ぅぅ……」
はぁ~、肝心な時に限って…どうしてもっと上手く嘘をつけないのだろう。
嘘と偽りだけで、過去を塗り固めてきたはずなのに…。
【文】
「まぁ、別に我々もあなたをとって食おうなんて言いませんよ。ただ、今後は山の妖怪に危害を加えないで頂きたい。それと、化け狼の肉を人里で売ったりしないで欲しい。と、まぁ我々からの要求はそれだけです。」
【東堂院】
「分かった…持ち帰った肉も返す。あの化け狼…だったか?埋葬などは君たちの流儀で行ってくれ。必要なものがあれば、用意を手伝おう。」
娘や、お友達の子たちの命には代えられない。その上、私の命まで見逃してくれるというのだから、言うこと無しではないか。
【文】
「…ありがとうございます。では、我々はこれで…椛。」
【椛】
「はい。」
私の腕を突き刺していた刀が、容赦なく引き抜かれ…
【東堂院】
『…痛い……』
少女たちは立ち去ろうとする。が…
【化け狼A】
「ウゥーッ!」
【化け狼B】
「ガルルル…」
小型の化け狼たちは、唸り声を上げながらこっちへにじり寄ってくる。これは…?
【文】
「あぁ、一つ忘れてました。我々は天狗であって、化け狼とは種族が違います。別と考えておいて下さいね…って、遅かったですか?」
【東堂院】
「なっ!」
狼たちは、今にも飛び掛かってきそうだ…くっ、結局はこうなるのか?
【チルノ】
「パパっ!」
【東堂院】
「くっ、チルノ!早く逃げるんだ!皆も、早く!」
この程度の連中、追い払うのは簡単だ…だが、その後でチルノたちに狙いを変えられる可能性もある。それは危険だ。だから、早く逃g…
【文】
「いやー、立派な父親魂ですね。じゃ、彼らの敵討ちの為に、潔く食べられてあげて下さいね。あ、手は…出さない約束ですよ?」
【東堂院】
「っ!」
まさか…さっきの条件は……これの為?
気づいた時には、狼たちが飛び掛かってきていた。
【チルノ】
「パパーっ!」
【東堂院】
「くっ!」
覚悟を決めた私は、ギュッと目を閉じて、無数の牙が私の全身に食い込むその瞬間を待った。
【??】
「夢想封印!」
ドンッ ドドッ ドドドンッ
なっ!何だ?今のは…何が起きたんだ?
【文】
「あ、あやや…こ、これは…霊夢さん。」
【霊夢】
「ふぅ~、間に合ったわね。」
目の前に現れたこの少女は…誰だ?
御幣を持っているから神職…巫女さんか何かだろうか?いや、服が違う気がする…紅白だけど何か違う…と、とにかく、また正体のよく分からない少女が現れた。もう何なんだ?
【霊夢】
「山のゴタゴタに首を突っ込みたくないけど…ちょっと、やり過ぎよ?」
【文】
「い、いえ…これには、色々とワケが…」
【霊夢】
「彼が化け狼のボスを殺したあげく、その肉を売り出そうとした事?」
【文】
「そ、そうなんですよ!そんな事になったら、妖怪である我々は…」
【霊夢】
「それについては、販売を中止させるだけで十分でしょ?それについては、私もそのつもりで来たわけだしね。けど…明らかにこれはやり過ぎよね?」
【文】
「あ、あやや…いえ、これは、その…」
な、何だか分からないが…霊夢というこの少女が現れてから、こっちの二人の様子がおかしい。
一体、何者なのだろうか?まぁ、とりあえず私は、彼女の応援をした方がいいらしい。
【文】
「こ、これはですね、大天狗様の直々の命でありまして…私も下っ端として、上の意向には逆らえないといいますか…」
【霊夢】
「あ、ちなみに大天狗の所には、紫が行ってるから…スキマで全部筒抜けよ?」
【文】
「何ですとっ!?」
見てるこっちがビックリするぐらい、文という少女は驚愕の声を上げ、絶望の表情を浮かべた。
こっちは話についてけなくて、ほとんど空気になっているのに。
【椛】
「…文さま?」
【文】
「……ごめんなさい!新聞のネタに行き詰まってて…彼の特集を組めば、何かいいもの書けるんじゃないかと思い…内容の、盛り上げの為に……」
新聞?特集?
【文】
「ちょっとピンチな写真を撮りたかっただけなんです!ちゃんと狼たちも止めるつもりだったし…本当なんです!信じて下さい、刑事さん!」
誰が刑事なんだ?
【霊夢】
「…なら、彼が山菜を採りに来ても、今後は襲わないようにお触れ出しておきなさいよ。それと…」
霊夢という少女は、今度は私に向き直った。
【霊夢】
「採るのは、山菜だけにしときなさい。」
【東堂院】
「元より、そのつもりだよ。」
【霊夢】
「ならいいわ。あと…うちにも少し分けてくれない?山菜とか。」
【東堂院】
「あ、あぁ。と言っても、そろそろ食べ頃を過ぎてしまっている山菜がほとんどだが…」
やはり、山菜の旬は春…夏に入った今の時期、よほど山の上まで行かないと、もう山菜もほとんど無くなってきている。有っても、固くなってて、湯がいても何しても食えないという方が正しい。
【霊夢】
「食べれればいいのよ。胃に入れば同じだし。」
見た目とっても綺麗な巫女さん風の女の子なんだけど、言ってる事がガサツで豪胆なのは何故だろう。食えば一緒って…。
【霊夢】
「ふぅ~。紫!これでいいんでしょ?大天狗も、文句はないわね?私はもう帰るわよ。」
そう独り言を言って、彼女は飛んでいった。
いや、何で飛べるの?
紫side
【霊夢】
「ふぅ~。紫!これでいいんでしょ?大天狗も、文句はないわね?私はもう帰るわよ。」
スキマの向こうで、霊夢はそう言って飛び立った。
【紫】
「と、いう事よ。これで満足かしら?大天狗?」
【大天狗】
「ふむ…八雲、相変わらず小ズルいな。」
【紫】
「フフッ♪褒め言葉として受け取っておくわ。」
私の開けたスキマから、一緒に事の一部始終を見ていた大天狗は、眉間にシワを寄せたままそう言った。山の天狗たちの頂点に立つ大妖怪…ま、私には及ばないけどね。
【大天狗】
「…博麗の娘を連れて来るのは、反則であろう?」
【紫】
「あれ?どうして?」
【大天狗】
「……」
あらら、黙り込んじゃった…。ま、彼も私たちと一緒みたいなものだしね。
【大天狗】
「…感謝はしておく。」
【紫】
「あの子も立派になってきたでしょ?」
【大天狗】
「そうだな。正直、不安はあったが…博麗の巫女として、立派に成長してくれたようだ。」
【紫】
「心配だったなら、少しは手を貸してくれても良かったんじゃない?」
【大天狗】
「生憎と、後進の育成が気掛かりでな。」
ま、第一候補の子があれじゃ、ねぇ~。
スキマの向こうで、話題の彼女は各方面に土下座していた…。
【文】
「いや、ホントにスイマセン!やり過ぎました!ごめんなさい!や、椛!剣をしまっ…あやーっ!」
東堂院side
【東堂院】
「チルノ、帰るぞ。」
【チルノ】
「は~い。じゃあね、みんな。」
私は娘を連れ、さっさと家に帰る事にした。疲れたし…あまり気分も良くないからだ…。
【チルノ】
「パパ…腕、大丈夫?」
【東堂院】
「…すぐ治る…」
事実、傷口からの出血は異常なほど少ない。それは、私が幻術師だからだ…人ではない、人でなしだからだ。
何処に行っても、忌み嫌われる存在…だから、今日みたいな事は慣れっこだ…気にする事はない。
【チルノ】
「パパ…」
【東堂院】
「それよりチルノ、今夜は何が食べたい?」
【チルノ】
「え?あ、うーんと…かき氷!」
【東堂院】
「……聞いた私がバカだった…」
私は苦笑しつつ、隣を歩く娘の頭を撫でてやった。




