6.この扱いは嫌いです
誰もこんなに目立つことを望んでなんかない
こんなに注目されることも、
誰かに弄られることも、
どれもこれも大嫌い
だから、その中にほんのちょっとだけ
好きが含まれていてもあたしはきっと気づかない
【6.この扱いは嫌いです】
……視線が、めっちゃ痛いんだけど。
ステージ上で他の参加者と同じように並んでいるあたしは、観客席から向けられている痛々しい程の視線に逃げ出したくなった。
視線だけで人が殺せるのだとしたら、あたしは何回殺されたか分からないくらい居心地が悪い。
「おーい、大丈夫か? まだ緊張してんのか?」
「誰のせいだと思ってるんですか? 洒落にならなく射殺されそうな勢いなんですが」
「安心しろ、もしそうなったら喜んで放置プレイだ」
「先輩は間違いなく羞恥プレイ中ですけどね」
「馬鹿言え、羞恥だとは微塵とも思ってねぇよ」
ひそひそと小声でのやりとりでも、ぐんっと眼力が強くなったように思える。
何を隠そう、原因はあたしの両側にいるギャルソン服着た暁先輩と、ドSな男装メイドの美少女ばりのルックスの恐らく先輩がいるのだ。
嫌になるくらいの悪目立ちだよ、本当に。
「会場の人のためにも、改めてルール説明をします! この春海高校文化祭目玉行事、クラス対抗ポイント稼ぎドキドキレースは、こちらにいるクラス代表が催し物を全て回ってポイントを稼ぐという、至って単純明快なレース! 催し物で出されるお題をクリアすればポイントゲット! 最後に一番多くのポイントを手に入れた出場者のクラスが優勝です!」
ちなみに言うと、実況に放送部、映像に映画部、写真部と広報部によって後日記事にされるから物凄いクラスや自己アピールに最適だ、って写真部の一員として宣伝しとく。
「まぁ、妨害工作も支援も援助も負傷者を出さない程度に認めているので、観戦者の皆さまは巻き込まれないようご注意くださいね! 尚この出場して手に入れたポイントは、クラス評価に加算されますので、自己クラスが文化祭最優秀賞に輝けるよう頑張ってください!」
少なくとも、笑って言うことじゃないと思うんだけど。
なんて、絶対今回の妨害工作はほぼ暁先輩のためにあるような気がする。
巻き込まれないよう本当に注意しないと………。
では、意気込みを今回唯一のペアに伺ってみましょう、と唐突に司会者がマイクを向けてきた。
あたしは答えるつもりがさらさらないので、さりげなく後ろに下がって暁先輩に任せることにした。
「もちろん、狙うは優勝だろっ!?」
「あっはっはー、ですよねぇ。ところで、暁選手は何故ペアを?」
「何故って、そんなん決まってんじゃんか!」
そう言うなり、暁先輩は見計らったようにメイド姿の先輩と同じタイミングであたしの前に膝を付いた。
「「ご主人様を御守りすることこそ、私の使命なのです」」
「きぃいやぁあああああああっ!!」
あえて言わない。なにも言わない。
まともに付き合ってたら、レース始まる前に疲れ切ること間違いない気がする。
「あっはっはー、さっすがですね! 殺し文句に黄色い歓声! ところで、こちらのメイドさんは?」
「3―A遠野結徒、性別は歴とした男だ」
「え、野郎!?」
「きぃいやぁあああああああっ!!」
「ゆいとさまぁああああっ!!」
会場からはまたしても割れるような絶叫。耳が痛い。
でも半分くらいは名前と性別に関する驚きによるざわめきだった。
まぁ、驚いたのはあたしも一緒なんだけど。
まさか、学校内外でも特に有名な二人に一般人のあたしが挟まれてるとは……。
しかも遠野結徒先輩と言えば、超甘党美人なドSピアニストとして有名な人だ。
なんか、先輩が言ってた苦労が分かった気がした。
今度からはちょっとだけ労ってあげよう。
「なっ、なるほど! 金の王子と銀の女王のお二人に、黒の令嬢ってことですか!」
く、黒の令嬢って……。
見かけだけはそう見えるかもしれないけど、あたしはそんな柄じゃない。
「助っ人のメイドさんを含めて、色んな意味で目が離せないペア、いやいやいや、トリオですね!」
「俺たちから目を離せると思ってんのか?」
「無理いいいいっ!!」
「ゆいとさまぁああああっ!!」
「あっはっはー、すごい人気ですね! 最後に暁先輩、一言どうぞ」
「そうそう、なら言うけど。我らがご主人様に害なすものは……」
スタスタとステージの中央まで語り歩いた暁先輩は、くるりと観客に背を向けて出場者を一望して睥睨した。
「容赦しねぇぞ?」
きらりと、緑掛かった瞳を妖しく輝かせながら、暁先輩はそう言った。口元に笑みが浮かんでるけど、目が全然笑ってないですよ暁先輩。
あからさまな牽制と挑発に、怯む者もいれば逆に挑みかかろうとする者もいる。
あたしはただ、深くため息を吐く他なかった。
暁先輩の一言の後、直ぐにレース開始が告げられた。
スタート、と言われた直後に飛び出していく代表者たち。頭の中にプランは立てられているんだろう、きっと。
暁先輩なんか先陣切って駆け抜けていったし。
「それじゃ、あたしもぼちぼち行きますか」
「おい、どこ行くんだよ?」
「どこって、とりあえず校内ですけど」
歩きだそうとしたら、結徒先輩に腕を捕まれて止められた。
その際に上がった絶叫に眉をひそめて、この場から逃げるようにして外へと抜け出した。
叫び疲れないのかな、あれ。あたし十分耳が痛いんだけど。
「て言うか、あたし暁先輩から結徒先輩のことは全く聞いていなかったんですけど」
「聞いてなくても分かれ」
「そんな無茶苦茶通じるのは暁先輩だけですって。あたしは先輩方と違ってただの一般人ですから」
「あいつと一緒にすんな。暁はただの規格外なだけであって、俺はまだ普通だ」
「ナチュラルにメイド服が似合って、ミニスカに羞恥心を持たない男の人のどこが普通なんですか?」
「言うじゃねぇか。その口今すぐ接着剤で止めてやろうか? 丁度ここにあるわけだし」
「なんで持ってるんですか!? て言うか、本当にやろうとしないでくださいよっ!?」
ぎょっとして腕を振りほどこうとしたあたしだったけど、そう簡単に解いてくれない。
言葉の応酬でなら負ける気はしないけど、実力行使されるなら負けるに決まってるって!
本気でやろうとしてくる結徒先輩から少しでも距離を置こうと、腕いっぱいに離れた。
「ったく、いーか。よく聞け」
「ちゃんと聞いているので、とりあえずその接着剤捨ててくださいお願いですから!」
「ちっ」
舌打ち!?
いかにも渋々といった感じでふりるのエプロンに接着剤を閉まった結徒先輩は、さらりと、銀色の長い髪を後ろになでつけた。
「俺はてめぇの助っ人なわけ。んな格好でアクティブなことできねぇだろ? だから俺がやるの、分かったか」
「いやいやいや、好きでこんな格好してるわけじゃないですから! 意味分かんないですから!」
「奇遇だな、それは俺もだ」
ぐいぐい引っ張りながら言うものだから、軽くあしらわれたような気になる。
……あたしたちの格好が変に注目されるから、大人しく着いていくけど。
「それで、どうするんですか?」
「決まってんだろ、食うんだよ」
「は?」
当たり前だろ、とでも言いたそうな結徒先輩が分からない。
普通だとか言ってたけど、全然普通なんかじゃない。
誰か結徒先輩の通訳をしてください。一体何したいのこの人は。
「唯先輩、視線ください!」
あたしと役目を変わってくれた後輩が、無邪気にカメラを向けて声を掛けてくる。
ものすごく不本意だけど、役目を変わって貰ったって言う後ろめたさから、仕方なしにレンズの方に顔を向けた。
苦笑いくらいは勘弁してほしい。
「ゴメンね、変わってもらっちゃって」
「いえいえ、唯先輩のドレス姿をフィルムに映せたのでやりがいありますよ! あ、結徒先輩もこっちお願いします!」
「被写体料、寄越せよな」
「それは広報部にお願いします」
意地悪なこと言いつつも、ピースしてレンズに向かってくれる結徒先輩は、なんやかんやで優しいのかもしれない。
優しいって言いきれないのは、仕方ないとして。
便乗して携帯のカメラ向けてくる女の子たちには見向きもしないのが、結徒先輩らしいけど。
「おら、行くぞ」
「あ、はいはい。それじゃね! 引き続き任せた!」
「任されました! あ、唯先輩!」
再び腕を引かれて連行されかけたあたしに、思い出したように引き止めてくる。
何か、あったかな?
あたしは連行されながらも振り返った。
「前部長にも、その姿見てもらえるといいですね!」
「先輩に?」
にこにこと笑う後輩のどこか意味深な言葉に首を傾げると、結徒先輩は思わずと言ったように吹き出した。
「ちょっ!? なんで笑うんですか!!」
「別に? そーか、そりゃ難関なわけだ」
「なんなんですかさっきから!」
「だから別にー? なんでもねぇって」
そう言いながらも声を殺して笑う結徒先輩に、あたしは釈然としないものを感じながら睨む他なかった。
甘いのは所々に詰めていきますが、この、どうでもいいグダグダな会話書くのが一番さらっと進む部分です。
彼女の心情とリンクしているのかもしれませんね。
まぁ、この扱い易さから結徒登場させるのが好きなのですけれども。
そしてそろそろサブタイと書き出し部分に困ってきました。