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5.好きも嫌いも弾き飛ばしてあげる

 


 文化祭、それはあたしにとって決戦の日。


 好きだとか、嫌いだとか、もうそんなの関係ない!


 あたしはただこの、龍神 暁って言うトラブルメーカーに巻き込まれすぎないようにするので精一杯!


 好き嫌いなんて、そんなことに巻き込まれてから、厄介なことばっかに巻き込まれてる気がする。




 全部全部、あんたが原因なんだからね!






【5.好きも嫌いも弾き飛ばしてあげる】







 今更だけど、ものすごく引き返したくなった。

 足はガクガクしてるし、手の震えは止まらないし、緊張して上手く息が吸えないし……ダメだ、打ち合わせ内容全部忘れそう。


「おいおい、そんな緊張すんなよなっ! もっと気楽に気楽に」

「暁先輩と一緒にしないでくださいよ。あたし昨日までただの一般人だったんですから」

「俺だって、一応一般人だぞ?」

「どこが? 一応付けたって一般人の規定に入るような人じゃないでしょう、確実に」


 上手く頭が回らないって言うのに、嫌味ばかりがでる言葉は滑らかだなんて。どれもこれも日頃の言葉の応酬のたまものかな。あんまり嬉しくないけど。


「大丈夫大丈夫っ! 多少の失敗なんざ気付かねぇし、もしもがあってもフォローは任せとけって!」

「失敗前提で言うのやめてくれませんか? って言うか着替えてきてもいいですかこれ」

「それは聞けねぇな。ほら、そろそろ俺等の出番だぜ?」


 あたしたちは最後の登場らしく、後ろには誰も並んではいない。

 緊張がピークに達しそうだ。前の人への歓声がやけに大きく聞こえる。

 願わくば今すぐにでも倒れてしまいたいけど。


 今日は文化祭。あたしの決戦当日日。

 数週間前に公衆の面前で告白してきた、しっつこいあいつに潔く諦めさせようっていう決意を固めている。

 のはいんだけど、何故か文化祭学校名物レースに、何もかもが派手で目立つ有名人な龍神暁先輩とペアで出場することになって、今がその舞台裏で待機な状態だ。

 話が大きくなりすぎて、正直かなり困ってる。

 ……困りごとはまだまだあるんだけど。


「ところで、相手さんには何か動きがあったか?」

「あったもなにも、時々部活さぼって一緒に帰ろうとか、クラスの人たちの余計な気遣いとか、そりゃもぅ精神的疲労が色々」

「あとは、さっきのだよな―……」

「ですね、まさかのですね。何考えてるんだか、迷惑も迷惑ですよ」


 困ったことその二。

 そんな諦めさせようとしている相手に、全くその気がないこと。この準備期間ですら、あたしの意見とか完全に無視で周りとそいつばっかが盛り上がって、はっきり言って迷惑だった。

 そのたびに、事情を話した部活仲間とか、あたしの言葉の応酬相手の先輩とか暁先輩に助けてもらったくらいに。

 さっきだって、行事イベントの一つ“告白暴露大会”で呼び出されてたわけだし。


「マヂでないですね、ないないない。デリカシーってのを買って出直して来てほしいくらい」


 “告白暴露大会”はその名の通り良い機会だから言いたいことを伝えよう、ってイベント。

 テストをもっと簡単にしてくれ!って言うくだらないものから、愛の告白なんてものまである。

 いろんな人の眼が向けられる中、NOと言える勇者はいないもの。


 そんなイベントで呼び出しくらったあたしはもちろんスルー。何故来なかったのかって言う視線が痛いけど、気付かなかったふりをする。

 はっきり断ろうとは決めてたけど、公衆の面前で悪役になるほどあたしは心が強い人間じゃない。


「イライラしてきて、緊張なんざぶっ飛んだか?」

「ぶっ飛びはしませんけどね。戦場に向かう武士の気分ですよ」


 もしくは戦いに挑む兵士。

 あたしにとっては大勝負だから、緊張はするけど尻込みはしない。ぐっと長いスカートを握って、光溢れる舞台を見据えた。


 あたしはあんたのことなんか嫌いなんだから。

 ちらりと見えたあいつをきっと睨み付けると、出番まであと数人と言う緊張なんかどうでもよくなる。


「おいおいおい、勇ましいのは頼もしいけどな。忘れんなよ?」

「……何がですか」


 暁先輩の方を見向きもせずに言葉を返したら、行動で返ってきた。

 決意して握り締めた拳をやんわりと解いて、そっとあたしの手をとった。

 まっ、待って……! 何この自然な流れの淑女扱い……!!


「今日の貴女は、私どもの姫ぎみなのですよ? どうか私がエスコートをすることをお許しください」


 軽く屈んであたしの右手に額をつけて、祈るように暁先輩は言った。

 気取って私とか言っちゃって、口調まで変えて。

 柄にもなくドキドキしちゃったじゃないか。

 スタッフとして動き回っている人たちが、苦笑したり睨み付けたりしてくるのは、全部この龍神暁と言う存在のせいにしよう。視線が痛いのは、この先輩に関わってしまったからって諦めるしかないし。


「……お願いしますよ、エスコート」

「お気に召すままに」


 照れ臭いながらもそう返したあたしに、暁先輩はキラキラと瞳を輝かせてにやりと笑った。

 何そのいたずらっ子みたいな顔。楽しくてわくわくしてるみたいな……つられてあたしも笑っちゃうじゃないか。

 背筋をぴんと伸ばして、口元には笑みを浮かべて、長い裾を華麗にさばいて。

 大丈夫、私はできる。


「せいぜい、頑張りますよ。あっちもこっちも」

「おう、頑張れ。サポートは俺に任せとけって!」

「……サポートって言うか、主役は暁先輩でしょう? 最初から最後まで」

「おいおい、今回の主役は俺じゃねぇぞ? 競技での主役は譲らねぇけど」

「正直ですね、自分の欲望に」

「まぁな」


 にかっと笑って、それじゃ、打ち合わせ通り頼むぜと、暁先輩と別れた。

 緊張は、気にはならないけどしてる。

 でも……


「やってやろうじゃない」


 きっと前を向いて、あたしは静かに踏み出した。






 * * * * *






 ステージにはずらりと並ぶ出場者たち。

 部活動のユニフォームだとか、出店の衣装やアニメのキャラクターのような目立つ格好でパフォーマンスを済ませた、各クラスの代表者。

 司会者の声とアップテンポのBGMが、観客たちの期待を高めていた。


「最後を飾るのは、今回唯一のペア!2ーCの皆川(みながわ) (ゆい)と3―A我らが龍神 暁だぁっ!」


 叫ぶように紹介されて、沸き上がる歓声。

 誰もが登場口に視線を向け、彼らの登場を待った。


 数秒。


 登場口からは誰も現われない。どうしてだろう、と疑問に思う観客たちから歓声が消え、ざわめきが生まれた。

 唐突にBGMが切り替わる。ノリの良いアップテンポの曲から、重厚で神聖な雰囲気を感じさせるアリアへと。


 そして、登場口に一人の少女が姿を現す。






 カツン、とそう高くもない靴がしんと静まり返った会場に響いた。

 ぱっと向けられるスポットライトと多くの視線。


 伏せていた瞳を上げて、真っすぐ前を見る。

 暁先輩の手回しで音楽はなぜか変わっているし、誰も言葉を発しない。

 大勢の観客と出場者の視線を受けたあたしは、靴音を響かせながら舞台の中央へしずしず歩きだした。


「スゴい、あのドレス凝ってる……」

「今までの比じゃないね」


 インパクトも必要だぜ? とか言われて着飾らされたあたしが誰だか分からなくて戸惑っているってのもある気がする。

 そもそもが、目立たないようにして生きてきたわけだし。

 毛先だけ軽くウェーブかけて、黒のハードチュールで形作られたハットを頭にちょんと乗せる。

 いつ測ったの? と聞きたくなるくらいピッタリと体にフィットする、これもハードチュールがふんだんに使われた黒のドレス。

 普段のスカートよりちょっと眺めの裾や膨らんだ飾りやらが、動くのには邪魔にならない程度だけど、正直邪魔だ。


「て言うか、皆川唯って……さっきのイベントで呼ばれてなかったか?」

「そうだっけ?」


 ……やっぱり、覚えてる奴は覚えてるんだよね。

 嫌そうな顔を表面に出さなかったあたしを誉めてあげたい。

 似合っているかどうかなんてどうでもいい。


 これは戦闘服だから、と堂々と歩く。

 戦闘服なんだから、準備に今日の午前中全く動けなかったことくらい、仕方なかったんだと思い込む。

 そうやって自己暗示して自己正当化しないと、周りの空気に呑まれそう。


 特設で作られた、会場の中央へと続く一本道を真っ直ぐ歩く。

 モデルがファッションショーで歩いてく、あんな感じのステージ。

 中央までたどり着くと、あたしは静かに立ち止まった。


 かつん、と靴音が響く。


 誰もが何も言わずに、あたしの次の行動を待った。

 大丈夫、打ち合わせ通りにすればいい。あの暁先輩が立てた計画だし、失敗してもなんとかしてくれるって言ってた。

 だから、あたしはまずやらなくちゃならない。

 そう自分に言い聞かせて、渇いた喉から声を押し出した。


「この声が聞こえたなら、今すぐ参上なさい!」

「「Yes,my lady」」


 ……あれ?

 恥ずかしいの我慢して言った言葉に、返ってくる返事は二つ。

 打ち合せにない状況だ。


 きょとんとしたあたしの両脇に、ギャルソン服を着た暁先輩とメイド服着た銀髪の美人が華麗に登場した。

 え、誰? とか驚くあたしをよそに、会場からは割れるような絶叫が響き渡った。


「きいいいいやあああっ!!」

「あかつきいいいいいいいっ!!」

「ゆいとさまあああああああっ!!」

「きゃあああああああっ!!」

「ぎゃああああっ!!」


 唖然、呆然。何この絶叫、悲鳴とか可愛いような表現で済まないよこれ。

 面食らったあたしのことなんか気にしないで、二人はあたしの手をそっと持ち上げて恭しく両側からエスコートし始めた。


「え、ちょ、どういうことですか」

「臨機応変臨機応変。ほら、二人ともスマイルスマイル!」

「きゃああああああああっ!!」


 ふっと、左側の暁先輩が笑みを浮かべると、左側から割れるような絶叫がまた聞こえた。

 すみません、左耳痛いです。


「うるせぇのは嫌なんだよ」

「え、声低っ」

「ったりめぇだ、俺は正真正銘男なんだからな」

「え、何ですか女装趣味でもあ」

「えー、ご主人様。ロープがいいですか? 蝋燭がいいですか? それとも俺様じきじきに」

「謹んでご遠慮します」


 無理矢理浮かべた笑顔を引きつらせながら、即答で断った。

 何このドS女装メイド。


「結徒さまぁああっ!!」

「メイド姿可愛いいいいいっ!!」

「うぜぇ」


 煩わしそうに吐き捨てた言葉が、美少女とも言えるその外見と合わない。苛立ったのか、エスコートとしてとられているはずの腕が、強く引かれる。

 スミマセン、エスコートって言うか連行みたいな気分なんですけど。


 右側には満面の笑みを浮かべてファンサービスをする暁先輩。

 左側には美少女とも言える麗しい姿をしたドS女装メイド。

 ありえないような両手に花な状況についていけない。


 ただ間違いなく言えるのは、この両側から上がる絶叫が納まった後、あたしには刺さるような敵意を向けられるだろうってこと。

 そのことに憂鬱になっていたあたしは気付かなかった。気付く余裕なんかなかった。


 あいつから向けられていた、鋭い視線に。



名前がようやっとでてきました。

そして、ここから分割始まりました。

今後ちょっと中途半端……かもしれない部分で途切れるかもしれないです。

あ、一応最後までは書けているので、打ち切りとか長時間待ちとかもないです。


暁と結徒がチートキャラです、えぇ。

厨二の塊みたいな感じですが、空想学園とか物語のなかだからこそこういうキャラがいたらいいなっていう願望です。どうもスミマセン。


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