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3.嫌いの一言が出てこない



 春海高校には、変り者が何人もいる


 変り者と言うか、ある意味有名人


 才能と自由を認めるここだからこそ、


 入学した天才たちと言ってもいい。



 例えば、


 虐められっ子だけど、カリスマ性がある御曹司。


 度が過ぎる甘党のピアニスト。


 第三実験室を自分のラボにした科学者。



 その中でも群を抜いているのは、


 間違いなく、龍神(りゅうじん) (あかつき)だと思う。






【3.嫌いの一言が出てこない】







「……は? それ何の冗談?」

「冗談じゃないんだって、本気で困ってるの。お願い、やってくれない?」


 可愛く小首を傾げられた。

 女の子らしい女の子。あたしとは縁がないようなただのクラスメイトの一人。はっきり言って、今までまともに話したことですらない。

 そんな子が、本気で困ってるようなお願いをあたしにするか普通。


「あたし、文化祭当日写真部の仕事で忙しいんだけど……」

「でもこれ、クラス代表だから……。どうしても出場しなくちゃいけないの、お願い」


 春海高校文化祭目玉行事。クラス対抗ポイント稼ぎドキドキレース、のことを言っているみたいだ。

 催し物のポイントと、クラス代表者一名が出場して手に入れたポイントの、合計が高いクラスが文化祭最優秀賞に輝くと言う、変なレース。

 クラス代表に選ばれたら、そりゃ名誉のことだし責任も重い。

 学校中が注目する行事だから、尚更かもね。


「あたしの他に、暇な人だっているよね?その人たちじゃダメなの?」

「ダメってわけじゃないんだけど、当日どたキャンするような人たちだから……」


 してもいいならあたしもするけどね。完全に人選を間違えてると思うよ。


 何か裏があるんじゃないかと疑って、真っ先に思い浮かんだのがこの前の告白もどき事件のこと。

 でも、それから一週間経った今は、特に何もない。本人からの接触がないってことは、裏の意味が通じて引き下がってくれたんだと思う。

 周りの好奇の目に曝されることもない。正直、何事もなくてほっとした。


「お願い、これ今提出してこなくちゃいけないの」


 じゃあ、あんたがやればいいじゃん。

 なんて、先輩じゃないからそんな言い方はしないけど。

 拝み倒されるのも良い気分だとは言えないし、深く考えすぎても疲れるだけだし。諦めに似たような気持ちで、あたしは深くため息を吐いた。


「……分かった。いいけど、結果がどうであれ恨まないでね」

「ありがとう! それじゃ、申し込んでくるね!」


 仕方なく引き受けたあたしとは対照的に、その子は可愛らしい笑顔であたしの名前を書いて駆けていった。

 あたしにあんな可愛らしい笑顔なんかできないな、うん。するつもりもないけれど。


 成り行きとは言え、面倒臭いことを引き受けた自分に、あたしは再び深くため息をついた。

 目立つってガラじゃないんだけどなぁ。

 カバンを手に、部室へと向かう足取りが重く感じた。


「あ、あの……!!」


 唐突に後ろから掛けられた声に、ビクリと足が竦み止まった。


 冗談でしょ? 普通このタイミングであんたが声を掛けてくる!?


 ゆっくり振り替える。

 やっぱりそうだ、こいつだ。一週間前あたしに爆弾発言をしやがった、最低な迷惑な野郎だ!


「レースの、クラス代表になったみたいですね」

「あ……、まぁ、成り行きで」


 声が震える。

 大丈夫、こいつは話をぶり返すつもりはないはず。それにあたしには、先輩の断り方を真似することもできる。

 だから、大丈夫。

 そう、ただの世間話をするだけだって、自分に言い聞かせないと。


「……僕も、クラス代表なんですよ」

「そう、……えっと、お互い頑張ろうね……?」


 差し障りのない会話の言葉を、慎重に探す。

 待って、差し障りのない会話ってこれでよかったんだっけ?

 先輩との毒された会話のせいで、普通が分からなくなってきてるみたいだ。なんてことしてくれるんだ、馬鹿。


「あの……!! その……よかったら、ペア組みませんか?」

「え?」


 ペア。

 ポイントを効率よく稼ぐために二つのクラスの代表者が、手を組むこと。


 はめられた……。

 あの子はこいつが別のクラス代表だって分かっていたから、あんなに熱心にあたしをクラス代表にさせようとしていたんだ……!!

 どれもこれも、あたしをこいつとペアにさせるために。


 一週間前のことを見てたから、可哀想なこいつに愛の手助けでもしようとしたんだろうと思う。

 でも、可哀想なのはあたしなんだ!!最低な奴だと思っているこいつとペアになんかされるくらいなら、いっそ当日サボってしまおうかとも思うよ!!


「悪い話じゃ、ないと思うんですけど……」


 ダメですか? と視線が訴えてくる。

 ダメに決まってる。ダメ以前にあたしは嫌だ。あんたと組むなんて死んでもゴメンだ!


 男女でペアを組むと、あたしたち写真部はこぞってその様子をカメラに納める。その写真が広報部に渡されて、あることないことでっちあげの記事を書きあげられる。そして次の日から新たな好奇の目に曝される。

 こんな最悪な悪循環を作り出したのは誰だか知らないけど、こいつとそんなこと書かれるなんて考えただけでも気持ち悪い!

 写真部のあたしだって、その写真を差し押えることができない決まりなんだ。

 絶対、無理。


「あ、あのね。あた」

「あ、こんなとこにいたのか!? やっと発見!」

「え?」


 後ろから腕をとられた。

 そいつの目が驚きのあまり真ん丸くなって、その人を凝視している。

 聞き覚えのない声に、あたしもゆっくりと後ろを振り返った。


「……え」

「本当に、何処にいるか探したんだぜ? 部室にもいないし帰ったのかと思って焦っちまった」

「り、龍神 暁、先輩?」

「おう。フルネームじゃなくて暁でいいぞ?」


 人懐っこく笑う、蜂蜜色の髪したいろんな意味で目立つ長身の先輩。

 この学校の一番の有名人で、秀才と呼ばれながらもやることなすこと派手な三年生。

 龍神暁と呼ばれるこの人のことは、あたしでさえもなんとなく知っている。知っているって言っても、遠目から見たとか言った程度だけれど。

 でも、あたしとは全く縁がない人のはずなのに、なんであたしの腕をとっているわけ?


「え、龍神先輩」

「暁でいいって。っと、こんなとこで道草食ってる場合じゃねぇんだった!」

「……は?」

「あー、悪い。ちょっと時間おしてるから二人の話はまた今度にしてくれな? はい失礼失礼」

「え、ちょっ……」

「レースのペアについてだから大至急だって言っただろっ?」


 腕をとられたまま歩きだしたあたしとり……暁先輩。

 引き止めようとしたあいつの動きが止まった。

 あいつだけじゃない、あたしも。


 レースのペアについてって、どう言うこと?

 そんな疑問を投げ掛けるより前に、暁先輩はあたしを引っ張って部室へと連れてきた。あいつはあまりにも驚いたみたいで、追ってくる気配もない。

 正直助かった、とか思う。あれ以上あいつと会話なんかしたくなかったし。


「……よっし、ついてきてはいねぇようだな」


 暁先輩は用心深く辺りを見渡してから、静かに扉を閉めた。

 え、何? どういうこと?


「あ、唐突に悪かったな。うまい機転があんま思いつかなくてこんな風になっちまったけど」


 つまりは、あたしを助けてくれたってこと?

 そんな義理立ても必要ないのに?


「しっかし、ペアとか言っちまったのはまずかったな……。まぁ、その辺はなんとかするからいっか」

「あ、あの。一ついいですか?」

「ん? 一つでいいのか?」

「一応は。なんであたしなんかにこんなことしてくれるんですか? 接点なんて一つもないのに」


 あたしをあの場所から連れ出す理由なんかないし、そもそもそのためにペアとか言う必要もない。この人がやることのどれもこれも、全くよく分からなかった。

 暁先輩はまぁ座れよ、とあたしを近くの椅子に座らせて、ずいと手を前に出した。


「一つ、たまたま通り掛かったから。二つ、あんたが嫌そうな雰囲気を出してたから。三つ、ここの部員から実は毒舌だってことを聞いてたから。四つ、一週間前のことを知っていたから」


 順々に折られていく指を茫然と見ていた。

 なんだ、やっぱり大半は成り行きなんだ。て言うか、三つ目誰がバラしたんだか物凄く気になるんだけど。


「……あたし、そんなに嫌そうな雰囲気出してました?」

「今すぐここから立ち去りたいって感じだったぞ? 俺からして見れば。そんなに悪い奴には見えなかったけどな、あいつ」

「悪い人じゃないのは分かりますけどね……」


 深くため息を吐いた。

 あいつが悪い奴じゃないとか、そんなのはなんとなく分かっている。

 ただあたしとは合わないだけ。何事もなく関わりもそんなになかったなら、あの人はいい人だったらしいね、で終わりだったのに。


「一週間前も、遠回しに振ってたよな? 何が嫌なんだ、友達からとかは?」

「……なんでそんなこと聞くんですか?」

「一番は単なる興味。残りはあんたが吐き出したそうだから」


 違うか?

 そう問われて違うとは言えなかったのは、やっぱり吐き出したかったのかもしれない。こんな人に言うのもアレだけど、お言葉に甘えさせてもらおう。

 穏やかな表情をしている暁先輩に、言葉をぶつけた。


「あたし、あいつの名前未だに知らないんです。知らない誰かがいきなりあたしのこと好きだとか、何馬鹿なこと言ってんの? って言ってやりたかった」

「さすがに言わなかったみてぇだけどな」

「当然ですよ。そもそも、あいつはそこから距離を測り間違えてるんですよ。あんたが飛び込んできてもいいポジションじゃない! しかも皆の前で言うとか神経疑っちゃいますよ!」


 これでどうあいつに好意を持てと言うのか、全然分からなかった。

 迷惑だとはっきり言えなくて、逃げ回っているあたしも悪いとは思ってるけど。


「つまりは、知らない誰かに立ち入られたくない領域に、いきなり踏み込まれて居座ろうとしてるのが気にくわないわけだ」

「まぁ、そんなところです」

「んじゃ、馴々しく話し掛けてる俺も迷惑ってこと?」

「……あの場から連れ出してもらえたことは感謝してます」


 正直に言えば、ウゼぇとか言ってしまいたいんだけど、あたしの中であいつと二人きりの場所に居させないでくれたことは凄く助かった。

 暁先輩が乱入してくれなかったらって考えると、あたしは未だにあいつと二人きりのままだ。マヂでそれだけは嫌だ。


「……暁先輩は、そういう人だって噂で聞いてましたから」

「なら問題ねぇか! あ、俺もレースのクラス代表なんでペアよろしく!」

「……は?」


 え、ちょっと待って。それってその場しのぎの嘘だったんじゃないの?


「俺とペアってことにしとけば、あいつも強くは言ってこねぇだろ」

「まぁ、暁先輩に立ち向かおうとする人なんてそうそういないでしょうね……」

「だろ? 俺やるからには優勝狙いだし」


 呆れながらの相づちも気にしない暁先輩は、何が楽しいんだかけたけたと笑った。

 かと思いきや、急に真面目な顔をしてあたしのことを真っすぐに指差してくる。


「気ぃつけろ。俺の勘だけど、あいつまたなんか仕掛けてくるぜ」

「え?」


 ぶるり、と寒気が走った。

 それ、一体どういうこと?


「あいつは執念深いタイプだ。そんな気がしてならねぇんだよ、俺は」


 暁先輩の言葉に、あたしは言葉を失った。

 茫然と真面目そうな顔に眉をしかめた暁先輩の、やけに整っている顔を見つめること以外になにもできない。


 ただの、暁先輩の思い過ごしだ。気にすることじゃない。


 そう何度も何度も呟いていても、不安が消えることはなかった……。



脇役チートキャラその1です。

厨二病の権化である彼が一番最初に名前が出されました。

この学園モノ、色々と考えすぎて……というか、暁の登場物語が多く頭の中とかネタ帳にあるくらいに大好きです。


嫌い面がとてもよく出てくる部分でした。

次、先輩いきます。

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