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11.大好きで大嫌いで

 大好きと、あなたに伝えた


 大嫌いと、あなたに叫んだ


 共通しているのはそれがあたしの心からの叫び



 届いてますか?


 あたしはあなたが……






【11.大好きで大嫌いです】







 他人事みたいに聞き流していた現実に、急に引き戻された気がする。

 あたしだけじゃない、あいつも。

 この人、今なんて言った?

 あたしの聞き間違いじゃなかったら、告白暴露大会って……。


「それくらいでしたら今すぐにでも! ……まさか、暁選手がここで告白でも」

「いやぁあああっ!!」

「やめてぇええっ!!」

「あっはっはー…阿鼻叫喚ですねぇ」


 そんな至極どうでもいいことが聞こえて……、ざわつく会場であたしは動けなかった。

 どうして今それを繰り返すの?

 せっかく、無事にやりすごせたと思ったのに。

 今すぐ、ここから逃げ出したかった。でもあたしの腕を掴んだ暁先輩がそれをさせてくれない。それどころか、ぐいぐいとステージの中央まで引っ張られる。


「決着つけるには、いい舞台だろ?」

「……暁先輩なんか嫌いです」

「そう言うのは予想済みだったけどなー」


 だから言ったろ、とか言われても、あたしは嫌そうに顔をしかめるのをやめなかった。

 決着って言ったって、あたしはもうどうすればいいのか分かんないんだから。どの言葉を選べられるのかですら、分かんないんだから。


「2―Cの皆川選手ですね! 呼び出し人は彼女でしょうか!? さぁ、相手は……!?」


 はやしたてられる声がする。

 好奇の目に曝されてるのがよくわかる。

 あのときと同じだ。あたしが逃げだした、あの日と。


「答え、出すんだろ?」

「……僕が!」


 ビクリと肩が震えた。

 暁先輩の穏やかな声と、少し震えたあいつの声が被って聞こえる。

 余計なお世話だ、変な気を回さないでほしい。こんなこと、あたしは望んでないのに。

 言葉が何も出てこない。どうして、こんな時ばっか!

 考えなくても紡げる言葉が、口撃が出てこないの……!?


「僕が、伝えたい……ですっ!」

「昼間の仕切り直しですね! それでは、舞台はお二人のために!」


 パッと辺りが暗くなって、スポットライトがあたしとあいつを照らしだした。

 どうしよう、逃げられない。

 こんなにたくさんの人の前で、どうしろって言うんだ。

 何も言えない。何も出てこない。


「君の、……皆川さんのことが誰よりも、好きです」


 やめて。


「もちろん、恋愛感情的な、好きですから……」


 これ以上言わないで。


「だから、皆川さん」


 あたしは、ここで断る勇気なんかないから。

 ここで嫌だとも、馬鹿言わないでよとかも、言葉が出てこないから。


「僕だけのものに、なってください」


 嫌だって、あんたなんか大嫌いだなんて、心では何度も何度も叫び続けているけど。言葉としては全然、出てこなくて……!!

 しんと落ちる静寂。固唾を飲んで見守る観客たち。期待を込めた視線を向けられる。

 あの日と同じ状況に唇が震えた。

 頭の中が真っ白になって、こいつから目を離したくても、固まった体は動けなくて……。

 あの日みたいに、逃げ出してしまいたい。

 逃げて、

 部室に行って、

 先輩に会って。

 いつもみたいに言葉の応酬をして、

 それから……、






「皆川っ!!」






 先輩にしがみついて、泣きだしたかった。

 先輩の声が聞こえたような気がした。らしくもないこと考えてたから、都合のいい幻聴なんじゃないかって、そう思った。

 それでも暗い会場内に射し込む光は、この場所にいる誰もの目を奪って……


「せ、んぱい……?」


 扉を開け放った格好で、先輩がそこにいた。あたしの、言葉の応酬相手の先輩が、そこにいた。

 なんでここにいるんですか?

 どうして、そんな肩で息をして焦ったような顔してるんですか?


「頷くな、絶対頷くな!」

「……貴方には聞いてない!」

「あぁ、俺だってお前に言ってるわけじゃねぇよ!」


 あいつと先輩が、声を荒げて叫んでいる。

 突然の展開についていけないのはあたしだけじゃなくて、観客席にいる人も、司会者だって何も言えない。

 でも頷くなって……、それって、あたしを止めている言葉で……。


「皆川さんは、貴方のものじゃないっ!」

「自分のだってか? 図々しいこと抜かせるような立場か」

「結徒、お前ちょっと黙ってろよな」


 困ったような声で、あいつがあたしにのばしてきた手をやんわりと遮った暁先輩は、いつの間にか合流した結徒先輩とあたしの両隣についた。

 ステージの真ん中にいるあたしと、端っこにいるあいつ。

 それから、出入口で荒い息をしている先輩。


「舞台に役者は揃った! 結末を決めるのは、我らが主人」

「え?」

「貴女の御心のままに御決断ください」


 両側で深々と礼をする暁先輩と結徒先輩に、あたしはただ戸惑うばかりだった。

 暁先輩が揶揄したように、これではまるっきり舞台だ。

 二人の協力者に、異なる二人の求婚者。どちらかを選ぶのは姫の役割で、決めないと話は終わらない。

 そんな姫の役なんか、誰も好き好んでなろうとは思わないけど。


「いい加減言え。つーか、決めろ」


 結徒先輩が、そうボソリと呟いた。

 煮え切らないあたしに、イライラしてるんだろうと思う。

 あいつの方を見た。

 どこか焦ったような顔で、じっとあたしを見つめている。その顔は階段で追い詰められたときを思い出させて、嫌だった。

 いくら見つめても、拒絶しか出てこなかった。

 先輩の方を見た。

 真っ直ぐあたしを見ている、珍しく真面目な表情の先輩に、なんだか涙が出そうだった。あの人なら、泣いてもいいんだって、そう思えるのはなんでなんだろう?

 答えなんか、決まってた。


「ごめん……!」


 誰の顔も見れなくて、あたしは上を向いて叫んで走りだした。

 この場所から逃げ出すために。逃げ道を作ってくれた、先輩の方へ。

 はやしたてられるような声がする。ステージの両脇に並ぶ観客席から、指笛とか歓声がわっと聞こえた。


「皆川さん……っ!」

「未練がましいしつこい男はますます嫌われんぜ?」

「馬に蹴られるか、俺たち番犬に噛まれるか、……どっちがいい?」

「わんっ」


 妙に真面目な声でふざけたことを言う先輩たちの言葉が、何故か頼もしく感じた。あいつを止めてくれてるんだったら、ありがたいし、あいつにはざまぁみろ、だ。

 先輩がいるところまで、そんなに距離はないんだけどな。

 靴擦れした痛む足で走るのが難しくて、なかなか前に進めない。


「皆川っ!」


 そんなあたしを見兼ねたのか、先輩が駆け寄ってきて……!?

 って、ちょっと!?


「先輩っ!?」


 あたしの背中と膝裏に腕をまわして、先輩はあたしを抱き上げた。

 急な行動で思わずしがみついたあたしだけど、それがますます周りの歓声を大きくさせたみたいで……。


「やるなー、信紀も」

「うわ、超ウゼー」


 冷やかすようなからかいの言葉に、女の子たちの黄色い歓声。

 なんなんだもぅ! なんであたしが、“お姫さま抱っこ”されなくちゃならないんだ!本当に、何を考えてるんだこの先輩はっ!

 何か言ってやらないと気が済まないとか思うんだけど、ドキドキでうまく口がまわってくれない。

 そんなあたしを抱き上げたまま、先輩はくるりとあいつの方を向いた。


「悪いな、俺の方が先約済みなんだ」

「っ!?」


 恥ずかしくて顔を伏せてたから、二人がどんな顔していたかとか知らない。先輩があいつに向かって言った瞬間、割れるような歓声が沸き上がった。

 本当に、あたしはこんな目立つことなんか嫌いなのに……!!

 ……でも、しっかり抱き抱えられた腕がたくましくて、

 暖かくて、

 頼もしくて、

 居心地がよくて。

 ドキドキと早くなる鼓動が聞こえちゃうんじゃないかって思ったけど、反撃しようとしていた先輩への言葉が出てこなかった。

 だから、大ホールを抜けた後もあたしは抱き抱えられたままだったけど。恥ずかしかったのとそうしたかったので、あたしは先輩の肩に顔を埋めた。

 化粧が落ちようが何だろうが、この温もりに安心したあたしは、せき止めていた涙を流した。

 大ホールから出てどこに向かうんだろうって思えば、先輩は部室に駆け込んだ。

 誰もいないがらんとした部室で、器用に扉を閉めるなりズルズルと先輩は座り込んだ。それから、大きく息をつかれる。

 あたしは慌てて涙を拭って、先輩から離れようとしたんだけど……離れられないんですが。

 先輩ががっちりと掴んでて、立ち上がることすらできないんだけど。


「……せ、んぱい?」

「……お前さぁ、心配させんの本当にやめろよな」

「は?」


 は? じゃねぇよ、と頭を叩いてくる先輩に、あたしは仕返ししようと思ったけど……できない。

 何でって、近いから。先輩の膝に横座りになった体勢で、なんでこんなに近い距離に顔があるのか不思議に思わなかったあたしなんなの?

 それくらい、この場所に安心感があるってこと?

 こんなに心臓うるさいのに?


「心配するようなこと、あったんですか? ……先輩が、あたしに?」

「心配すんなって方が無理だろーが。さっきにしろ電話にしろ」

「あれは不可抗力って言うか、二人に嵌められたって言うか……」


 なんやかんやで、暁先輩と結徒先輩に振り回されっぱなしだったからな、なんて。

 ただの言い訳にしかならないけど。


「て言うか、先輩受験は?」

「さっさと終わらせて駆け付けてきた。……いや、そんなことが言いたいわけじゃなくて」


 どこかいつもの先輩と違うような気がした。

 歯切れが悪いって言うか、言葉を投げ掛けてもうまく返ってきてくれない。

 ……あたしもまだうまく口がまわってくれないんだけどね。


「……何もなかったわけじゃねぇんだろ?」

「大丈夫です。普通じゃない人たちに守ってもらいましたから」


 主に、トマト攻撃からだけど。

 あいつからの接触は一回だけ。その一回で涙出かけたけど、あのときは暁先輩と結徒先輩が助けてくれた。

 振り回されて、かなり目立つことばっかだったけど、二人がいなかったらあたしはどれだけ悲惨な姿になってたことだか。


「ならいんだ。二人を嵌めて手伝わせたかいあったな」

「先輩黒いの出てますけど」

「お前も言葉に毒が含まれてんだけど」

「いつものことですから」


 さらりと口から飛び出す言葉は、考えなくたって滑らかに紡げる。

 何も言えなかったさっきとは全然違う。探さなくったって、選ばなくったって、ぽんと出てくるんだ。

 あぁ、いつものあたしで、いつもの会話だ。

 そのことが無性に嬉しかった。


「……皆川」

「なんですか、腹黒先輩」

「一言余計だ」

「事実ですから」


 先輩なのに……先輩だから言えるんだ。

 きっと、この人だから肩の力が抜けるんだって。気を遣ったり自分を押し込んだりしなくていいんだって。

 そう思うと、あたしの中での先輩って思ったより大きかったのかもしれない。

 あたしがそんなことをぼんやりと実感してると、先輩があたしの頬に手を添えて向き合わせてくる。

 大ホールの時と同じ、真面目な顔した先輩があたしの目の前にいた。


「今こんなこと言うのも卑怯だとは思うけど」

「何がですか……?」

「あいつが皆川に告ったって知ってから、結構後悔したんだわ」


 ドキドキと速まるばかりの心臓を押さえて、あたしは先輩の言葉を待った。なんとなくだけど、何が言いたいか分かるような気がして、妙に期待してしまう。

 自分で導きだした答えは、嫌じゃないって。そうだったらとか思う。

 先輩は、少し照れくさそうに眉を下げて言葉を紡いだ。


「俺さ、皆川のこと好きなんだ」


 その言葉が、すとんと胸に納まった。

 あいつのときみたいに嫌だって思ったり、頭ごちゃごちゃしたりしない。逃げ出したいとも思わないし、むしろそう言ってもらいたかったのかもしれないって、そう思った。


「あいつのことがあったから、今言うのは卑怯だって自分でも思ったけどさ」

「……じゃあ、言わないほうがよかったんじゃないですか?」


 違くて。こんなことが言いたいわけじゃなくて。

 条件反射みたいに飛び出してくる言葉に、情緒も何もないあたしなんかに伝えてくれた言葉が、嬉しいのに信じらんなくて。

 ……冗談で言ったんじゃないかって、あたしは自分のために一歩引いた。いつもの戯れ言なら、深く気にしちゃいけないから。


「本当は言うつもりなかったんだぜ?」

「え、本当に?」

「皆川と気まずいままだと、捻た言葉に誰も応えてくれねぇだろ」


 確かに、こんな容赦ない会話を飛ばしあえるのは、あたしも先輩だけだけどさ。


「そう言うの、全部ひっくるめて好きなんだろうな」


 まじまじと真っ正面に向かい合わされた顔を覗き込まれて言われた。確かめるように、納得するかのように言われた言葉に顔伏せたい。

 先輩の手がひんやりと感じるくらいには、あたしの顔、熱いんじゃないかな。


「あたしも、こうして先輩と言葉を交わすのは好きですよ。先輩には、遠慮しなくてもいいし」

「おい、少しは年上敬えよ」

「敬えるような人柄だと自分でも思えるんですか?」

「思わねぇな。俺って言う奴の後輩になった奴が可哀想だとも思う」

「是非とも可哀想だと思ってやってください、あたしを」


 気付けばいつもの言葉の応酬をしている。

 ……また、あたしは逃げたんだ。先輩からは逃げられなくても、言葉で逃げた。答えたくなくて、あたしは逃げたんだ。


「……先輩」

「ん?」


 結徒先輩が言った言葉が思い浮かんだ。


『なんで信紀やあいつには本当のこと言わねぇんだよ』


 って、少し怒ったように言われた。

 結徒先輩だけじゃなくて、暁先輩にも。


『頭で分かってんなら、否定しない方が楽だと思うぜ?』


 二人にそう言われて、振り回されてたのにお膳立てされてたような気がしなくもないけど。

 でも、ね。


「あたしは……」


 今なら分かったような気がする。

 なんで先輩の言葉に過剰反応しちゃっうのか、

 どうして先輩といると落ち着けるのか、

 こんな体勢でいでも離れたいって思わないのか、

 あの時居もしない先輩に助けを求めたのか、

 あんなこと電話越しに言ってしまったのか、

 あたしがそれを認めちゃえば、理由なんか簡単で明確なものじゃないか。


「あたしは……、あたしも、先輩のこと好き、ですよ」


 誰かに強く想われてるような人間じゃないって、そう一線引いてたけど。先輩なら……、先輩にはそう想ってもらいたいかもしれない。

 こんなこと思うなんて、全然あたしらしくなんかないけど。


「それ……」

「嫌いでもありますけど」

「なんだよそれ」


 どっちかはっきりしねぇのな、そう困ったような顔で言われたけど、照れ隠しだってことくらい気付いてほしい。

 熱い顔を隠すことできないんだから、いつもの捻くれた言葉から察してよ。


「白黒つけんの、嫌いだもんなお前は」


 あたしが好きなのはあいまいなライン。

 そんな中であたしは先輩のこと、嫌いじゃないなんて位置付けができなくて……。


「でも、あたしは先輩が大好きでだ」

「そこでやめとけ」


 “いきらい”の言葉は、困ったような笑みを浮かべた先輩に封じられた。思わず目を閉じたあたしに、先輩は小さく笑って唇を重ねてきて……。

 あぁ、もう本当に。

 先輩なんか、






 大好きで大嫌いだ。





 Fin.

予想通りの終わり方だったでしょうか?

自分が書くと微糖にしかならないですが、いつかは甘甘とか書きたいとか思っています。えぇ、読んでニヤニヤしてしまう感じの甘い恋愛小説書けたらな。


なにはともあれ、ここまでのご拝読ありがとうございました!

評価やお気に入り、見るたびにドキドキしていました(*´∀`*)

感謝、感謝です!


気が向いて、手が空いたときにでも先輩の裏工作視点っぽいじれじれ度が高いのとか公開できたらな、とか思ったり思わなかったりしています。

公開できるかできないか、は神のみぞ、いや作者のみぞ知るってところで。

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