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10.好きと嫌いの境界線



 好きじゃない、と言えば嫌い寄り


 嫌いじゃない、と言えば好き寄り


 そんな言葉遊びがしたいんじゃないのは分かってる



 それでも、この曖昧なラインのままでいたいと思う


 あたしはおかしいのかな……






【10.好きと嫌いの境界線】







 制限時間まで残り2分。出場者はほとんど揃っていた。

 ……約一名を除いて。


「来ませんね、皆川さんたち」

「来ないはずねぇだろ? いとが一緒だしな」


 表面上は笑顔で、視線は出入口に向けられたまま交わされる言葉は互いにしか聞こえない。

 制限時間ギリギリだと言うのに現れない人物は、彼が仕掛けた妨害に苦戦しているんだと考えられる。

 それ以外に、彼女が遅くなる原因は考えられないのだ。


「貴方が言った通り、僕はあれから皆川さんには近付いてませんから」

「お前はな。トマトはちゃっかり仕掛けてるくせに」

「遠野先輩つけてる貴方に言われたくないですよ」


 レースポイントを効率よく稼ぐために共に行動させたと思われている結徒だが、きっとそれだけではない。

 彼が仕掛けるであろう罠から、彼女を守るためと言う目的があったはずだ。

 そしてそれは全て実行され、遂行された。

 ……彼女がここにたどり着いてないと言うこと以外は。


「僕は正直に言って貴方たちが嫌いです」

「俺はそんなに嫌いじゃねぇんだけどな」

「……笹川先輩だけなら、こんなことしなくったってなんとかできたんですけどね」

「どうだか。あいつも相当腹黒いぜ?」


 お前といい勝負なんじゃねぇの?

 そう言われて、彼は嫌そうに眉をひそめた。


「さーて、残り時間1分を切りましたぁっ!!」


 司会者が意味もなく声を張り上げている。

 会場からざわめきが生まれて、たくさんの声が反響している。


「龍神先輩」

「ん?」


 特に焦った様子もない暁に、彼はゆっくりと顔を向けた。


「僕はこのレースの勝敗なんかどうでもいいんです」

「なんだよ、試合放棄はいただけねぇな」

「だって僕は、皆川さんさえ僕のものになってくれればそれでいいんだから。このまま間に合わなくてもいいって思ってる」


 あくまでも余裕な表情を崩さない暁に、彼は静かに告げた。

 司会者と観客が、声を揃えてカウントダウンを始めた。


 30……29……28……


「それを邪魔する龍神先輩は、嫌いです」

「そりゃ残念だ」


 特に残念だとは思っていなさそうな暁は、ひょいと肩をすくめて一歩前へと進んだ。

 カウントダウンは続く。


 18……17……16……


「まぁ、俺の気に入ってるあいつらに、手ぇ出すあんたも悪ぃんだぜ?」


 ニヤリと振り返って笑う暁に、忌々しそうな表情を隠すこともせずに、彼はギリと唇を噛み締めた。

 残り10秒前と司会者がマイクに向かって叫ぶと、観客たちは更に声を大きくしてカウントダウンを続ける。

 会場は奇妙な熱気に包まれていた。


 10……9……8……7……


 5秒前を切るかといった瞬間、暁はステージの真ん中に躍り出た。

 突然のことに驚いた司会者からマイクをひったくり、観客たちの声をも途切れさすように叫んだ。


「遅ぇぞ、ギリギリだ!」


 急激にしんと静まり返ったホールに、一人の少女が飛び込んできた。






 * * * * *






 セーフ?

 これでセーフじゃなかったら、あたしは結徒先輩のこと本気で恨むぞ。

 肩で息をしながら飛び込んだあたしに向けられる視線なんか、一々気にしてられない。荒い息のままステージを見上げると、暁先輩はイタズラが成功したような顔をして、ニッと笑った。


「主役は遅れてやってくるってか?」


 誰が主役だ。今この状況で主役なのは、暁先輩の方でしょ。

 おどけたように笑う暁先輩の言葉に心の中で言葉を打ち返して、あたしは小走りで出場者が並ぶステージへと向かった。


 その時に嫌でも感じるあいつの視線。

 それには見向きもしてやらない。

 目も合わせたくなんかなかった。


「さて、ギリギリではありますが出場者も全員揃ったので……! いきなりポイント集計に入ってもいいかー!!」

「いいともーっ!!」


 仕切り直しとでも言うように、暁先輩からマイクを返してもらった司会者が、観客たちを湧かせながらイベントを進行していく。

 暁先輩と定位置についたあたしは、素直に実行委員の人に集めたポイントを渡した。

 暁先輩ほどじゃないけど、結徒が先輩手伝ってくれた分だけ多い部類に入ったんじゃないかと思う。


「そーいや、いとは?」

「通話中だったので置いてきました」

「あのやろ、逃げたんじゃねぇだろうな……」

「結徒先輩ならあり得そうですよね」


 結徒先輩なら面倒臭ぇとか言って、そのままエスケープしてそうな気がする。

 そう言ったら、暁先輩はニッと笑った。


「内側入られんの、嫌だったんじゃねぇのか?」

「嫌だって言ったら、先輩たちはあたしに関わらないでくれるんですか?」

「んなわけねぇだろ。全力で構い倒す!」

「そんなことしたら全力で無視しますね」


 お前って本当に辛辣な言葉ばっかなのな、と暁先輩はケタケタと笑った。


 ……やっぱり、暁先輩には考えなくても言葉が勝手に出てくる。結徒先輩が言ってた“本当に伝えるべきこと”が、暁先輩にはないからってこと?


 あたしが、言いたくないって思ってることがあるから、うまく話せないだけなのかもしれない。

 言わなくちゃいけないのは、分かってるんだけどな。


「さぁ、集計が終わりましたよっ! 結果発表の前に、ここで改めてルールの確認をさせて頂きます! 各代表者が集めたレースポイントは、各クラスの出し物の最終合計ポイントに加算されます! また、一番多くポイントを稼いだ代表者の方にはなんと! 一つだけ好きな願いを叶えられると言う特典があります!!」


 おおー! と盛り上がる観客席。

 毎年のことでも驚けるそのノリの良さが逆に羨ましいよ。

 無駄に上がっていく会場内のテンションとは裏腹に、あたしの気分は下がっていくばかりだった。


「ではっ、お待ちかね! 三位から発表して参ります!」


 あいつの視線を感じるけど、あいつの方なんか見れない。

 大嫌い以外に伝えられる言葉が分からなくて、どうすればいいのか全然分からない……!!


「おいおい、なんでそんな顔してんだよ?」

「そういう暁先輩こそ、そんなに余裕でいいんですか?」

「だって俺が一位なのは確実だし」

「ただの自意識過剰なだけじゃないんですか?」

「おう、当たり前だろ!?」


 その気楽さを分けてほしいくらいだ。人がこんなに真面目に悩んでるっていうのに。

 むっとして視線だけで暁先輩を見上げると、暁先輩は扉の方を静かに見ていた。

 言葉も表情も楽しそうなのに、その視線だけは妙に静かだと感じる。

 その寒暖差に、あたしは何故かぞくりと身を震わせた。


「続いて、第二位の発表ですっ!」


 あたしと暁先輩の間に流れた奇妙な沈黙とは対照的に、会場はますますヒートアップしている。


 ここだけ……、あいつを含めた水面下で動き回っていたあたしたちだけ、この世界から切り離されたような感覚がした。

 暁先輩は視線を逸らさないまま、ゆっくりと口を開いた。


「頭で分かってんなら否定しない方がいいと思うぜ?」

「それ、どういう」

「二人……いや、三人に言えることだけどな」


 何なんだろう。

 暁先輩も結徒先輩も、何か隠しているような気がする。二人だけが何もかもを分かってるような、そんな気がしてならないんだけど。

 あたしが分かってることなんか、そんなにないのに。

 頭なんかごちゃごちゃで、全然分かんないままだし。


「さぁ、いよいよお待ちかねの……第一位はぁ……っ!!」


 遠くでドラムロールが聞こえているような気がした。

 スポットライトが忙しなく動いて、目がチカチカする。


「俺が今からすることやると、ぜってぇ嫌われんだろうけど……」

「今更じゃないんですか」


 ポツリと呟いた暁先輩に、声だけで返した。

 自意識過剰だろうがなんだろうが、きっとこのスポットライトは暁先輩のところで止まるんだろうから。余計なことしてこれ以上目立ちたくなんかないし。


「そうかもなっ」


 ニッと横目で見下ろしてきた暁先輩に、前を見ろと言ってやりたい。

 あたしはもうレースなんか気にしてないし。どう、決着をつけるかでいっぱいなんだから。

 だんっ、とドラムロールが止んだ。


「一位を手にしたのは、我らが龍神暁だぁああっ!!」


 ピタリとライトが暁先輩を照らすのと、観客席から大歓声があがるのは同時だったのかもしれない。

 予想通りで期待を裏切らない結果に、ステージ側でやっぱりね、と言う空気が流れた気がする。

 暁先輩が一位になるのは仕方がないって、一位になるんだろうなって。暁先輩はそう言う人だから、周りにそう思わせてるんじゃないかって思う。


「暁ぃいいっ!!」

「龍神先輩ぃいいっ!!」


 耳が痛くなるような歓声に暁先輩は笑顔で応えて、少しおどけた仕草で司会者のもとへ歩いてく。

 さっきまでの、どこか人を寄せ付けない雰囲気なんか微塵も感じさせない。この人も周りのために偽っている人なんじゃないかって、漠然と思った。

 あたしが、あいつに天然ぶって逃げたのと同じだ。本当に、それが同じって言ってもいいのか分からないけどさ。


「おめでとうございますっ! 今の気持ちを、皆に教えてくださいっ」

「当然の結果、だよなっ!!」

「もちろんーっ!!」


 ニヤリと笑って会場に宣言すると、テンション高い会場から同意の声があがる。


 あぁ、これであたしが目立つのも終わりだ。

 やっとどうすればいいのか分からない決着について考えれる。あいつから向けられた視線を感じ続けながら、あたしは小さく息をついた。


「さて、見事一位に輝いた暁選手に尋ねます! 特典の権利はどうしますか!?」

「何でも一つ、願いが叶うんだろっ!?」

「はいっ! ……でも我々実行委員会でできる範囲でお願いしますよ」


 どっと沸き上がる笑い声に、暁先輩も面白そうにケタケタと笑った。

 あたしには、何が面白いか分からないけど。今ばっかりは、あわせて笑う気にはなれなかった。


「大丈夫だって! 今すぐできることだから!」

「それはひと安心です。では、願い事をどうぞ」


 向けられたマイクに向かって、暁先輩は、それはそれはイイ笑顔で願いを言った。


「アレ、告白暴露大会だっけか? 今もう一回やって欲しいんだけど」



余談ですが、唯は四位です。

ベスト5に入っているのは結徒の力添えだからです。

唯だけだったら底辺さまよってるくらいかと。


その辺を割愛したのは、心理描写というか、ちゃんとその気持ちを見つめたいからですかね。それでもまだぐるぐる回っているみたいですけれども。


さて、次でラストです!

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