7話 side:ユキ
オレたちが今後を話し合おうとしていた、まさにその瞬間だった。
彼女の足下に召喚魔法陣が浮かび上がる。
神殿の連中が彼女を呼び戻そうと、再び召喚の儀を執り行っているのだ。
冗談ではない。
散々罵って捨てておきながら呼び戻すなど、どれだけ自分に都合の良い考えをしているんだ。
徐々に消えていく彼女。
「飛び込むぞ!」
「承知した」
ディオと共に、彼女の手を掴んだ。
気を失っていたらしい。
そう気づいたのは、彼女の苦しむ声が聞こえてからだった。
首を絞め、人の精神へ干渉する魔具を身に着けた神官長が、彼女の心を壊そうとしている。
一瞬にして現状が判明し、オレは動いた。
「彼女を放せ!!」
まず魔具の手、その肘を下から蹴り上げる。
次によろめいた身体に、気を集中させ強化した蹴りを叩き込む。それは確かな手応えで、骨が何本か折ってやったと感じさせた。
剣を抜き、腕を斬り落とせば良かったなどとは、動いてからの後悔。
その腕が、罵声を吐く口がある限り、彼女は何度でも傷つけられてしまう。
「……最初から胸くそ悪い連中だと思っていたが、ここまで性根が腐っているとはな」
本当に、最低だ。
「――光魔剣士、貴方のような方がなぜ?」
「話すつもりはない」
「わたくしたちには魔王を倒す義務と責任があります。そのためには勇者様のお力が必要であることを、貴方もご存じでしょう?」
「理由になっていない」
彼女を殺すことの。
この女、それを自覚していない。むしろ『勇者のため』ならどんなことをしても、それは『勇者のため』としか思っていないのだろう。
基準は全部、『勇者』、そのため――
ディオが腹黒姫、暗黒帝国というのも、ある意味では的を射ている。
「一人の命と世界の命を天秤にかけているつもりだろうが、その時点で世界を救おうなどとは傲慢だ。一人の命救えずして、世界が救えるか!」
かつて、親父が言っていた。
国を守るために、国の民である者、誰一人犠牲にしてはならない……と。
偽善かもしれない。しかし、間違いだとは思わなかった。
それが――――だから。
「光魔剣士さん、あなたは世界の何を分かって言っているの?
勇者は世界を救う義務がある。私『が』世界を救うためには必要なことよ。
……一応、その子も勇者として招かれたからには義務がある。だけどその子じゃ果たせないから、私が『代わって』あげるだけ」
そう言ったのは、アカリという勇者。
リコの姉だが、似ても似つかない。
召喚された時は分からなかったが、今なら分かる。
オレの直感が告げていた。
『この『勇者』は、リコの負の部分だ』
だが、双子であるため『勇者』の資質を持っている。
それ故に、自分が真なる『勇者』であって、リコは恩恵を持っているだけの偽物――か。
彼女を劣等扱いすることにより、自らをまるで優秀であるかのように見せているのだな。
引き立て役の妹。
影(陰)にされた、咲けない花。
……我ながらキザっぽい喩え方だな。
ディオが聞けば『気色が悪い』と言うほどに。
「私は魔王軍の一つを壊滅させ、いくつもの村や町を救ったわ。明日は北側の魔王軍を滅ぼすわ。
――ねぇ、愚妹。この一月、アンタは何をやっていたの?
人を助けられた? モンスターを倒せた? 魔王軍を滅ぼせた?
ほら、言ってみなさいよ。アンタは何の役に立ったの?」
その口を、一生開けないようにしてもいいよな?
※実は黒い光の剣士。
次回更新日は未定です。年内にもう1話更新できたらいいなと試行錯誤しております。