6話
「――え?」
それは何の前触れもなく訪れた。
呆然とする。
言葉は出ない。いや、出せなかった。
そこは、わたしを否定された場所。
全ての始まりとなった場所、その真ん中だったから。
わたしの側にはユキとディオルが倒れている。
覚えているのは、三人で話をしていたこと。矛盾の指摘をしていた辺り……だったと思う。
一体、どうして……?
「『勇者』の資質が必要とはいえ、このような者を再び神聖なる場へ呼ばねばならぬとは」
声は、覚えていたくはない。
聞こえた瞬間、都合よく記憶から消えてくれないだろうか。
「顔も平凡、身体つきも平凡。本来でしたら輝くはずの方陣も、薄い輝き。やはり『勇者』はアカリ様ですわね」
「その通りで御座います。姫様、さっそくこの者から『勇者』の資質を取り出しましょう」
「ええ、許可しますわ」
上げられない自分の顔。
しかし首を絞められたことで、彼らの顔を見てしまった。
笑っている。
わたしのことなど、人とも思っていない。
姉の足を引っ張る、枷――
彼らの言う『勇者』の資質がなくなったら、わたしは……ユキたちと居られなくなる?
「……は……な、し……てっ!」
首にかかる手へ、爪を立てる。
息苦しくて、目の前がだんだんと白く霞み始めた。
資質を取り出すということは、殺すということなら、わたしは死にたくない。
一緒に居られる理由を失ってしまう。
……わたし、ユキに『オレの勇者はキミだ』と言われたのが嬉しかった。
嫌だな。
独りは慣れっこだけど、二人が落胆した姿が浮かんだら、嫌だと思った。
ちらりと見えた、奥に立つ姉は…………無表情。
うん、分かっていた。
祖父が、祖母が亡くなった時も、無表情だったね。
「ぅ、あ……っ!」
擬音のたとえるなら、ズンッ――という衝撃音に近いものだろうか。
胸の辺りに異物感がある。
「……え?」
視線を向けると、神官長の手が『わたしの中へ』入っていた。
出血はなく、空間を捻じ曲げているかのような歪みが手と、わたしの胸の間に発生している。
ググッと抉られるような手つき。
気持ち悪い。
心が、掻き乱されているようで……――
「っ、ゴホッ!」
急に身体が楽になり、呼吸を戻そうと咳き込む。
視界が滲んでいるのは、生理的に出た涙のせいだろう。
「リコ、気を確かに持つのだ」
背中をさすってくれたのはディオル。
ユキがわたしの目の前に立ち、神官長は蹲って倒れている。蹴り飛ばして、助けてくれた。
「……最初から胸くそ悪い連中だと思っていたが、ここまで性根が腐っているとはな」
低く呟かれる言葉は、普段の優しいユキからは想像できないほど。
多分、人を殺めかねない。
そう思わせるには十分なほど、怒りを露にしていた。
※この展開になった経緯(理由)は次回以降で。