5話
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欠けていた何かが、戻っていくような……〝わたし〟が満たされていく気がする。
泣いている間、ユキはずっと手を握ってくれていた。
嬉しいやら恥ずかしいやら、情けないやら。
そしてわたしは、あと何回泣けばいいのだろう?
擦った目が痛かった。
「…………ユキ、いつからお主は女子を泣かす男になっておったのだ?」
ジロリとユキを睨んだ青年は、ディオル・エクストと言う名で、先に聞いていた二つの理由を持ちながら追い出された人だ。
彼は『風魔弓士』の異名があるらしいが、そこはユキと同じく呼ばれたくないらしい。
気軽にディオルと呼んでくれと言われた。
「キミも、意図してボケるクセは相変わらずだな。
――で、今回はどんな問題を起こしたんだ?」
「某を問題児である言い回しは止さぬか」
「……ということは、今回は発言が引き金になっていないと?」
「うむ。神官長と対峙際、最低限の礼節を述べた。しかし何故か、『貴方の言葉は醜いですわ』と姫が言い出しおってからに」
「追い出された、と。なるほど、キミの話し方は文化独特のクセみたいなもの。理解されなかったんだな」
ディオルの国の文化を聞くと、何だか日本に近い気がする。
言葉遣いも、時代劇で聞くような言い方だ。
方言という言い方は、何だか悪い気がした。日本の場合、時代によって移り変わっただけで、未だ残っている。
「しかし、である。年端も行かぬ女子を放置するなど、聖女、聖王国とは到底呼べぬ。腹黒姫、暗黒帝国が相応しかろう」
「けど、あの反応っていかにも貴族、王族って感じだったから……わたしからすると、当たり前かなって」
言うと、ディオルはわたしの両肩を掴み、
「断固として、否定する!」
と言った。
多分それは、あの国特有のものであって、他国は違うという弁明だ。
一緒にされたくない、思われたくない。
気持ちは、十分に分かる。
「……分かった。俺様主義は召喚した国だけって認識しておくから。
それより、ユキとディオルが待ち合わせて、これからどうするの?」
どうして待ち合わせることになったのか、そう言えば聞いていなかった。
「元々、ディオと共に『勇者』を見極めるつもりで、城で合流するはずだったが……」
追い出された、と。
そしてわたしも追い出されることになった。
ユキにしてみれば、予想外のことばかりだっただろう。
「ディオには、リコを保護してからハトを飛ばした。居場所が真逆であったため、合流に時間がかかった――と言う訳だ」
方向音痴め、と呟いた声は聞き間違いではない。
真面目なユキもと、正反対みたいだ。
「うむ。気づけば何故か、道がはぐれるのだ。方角を示す針も、ぐるぐる回りおる」
確かめよと差し出された方位磁石(のような物)は、ぐるぐる忙しそうに回っていた。
わたしが持てば正常になるが、ディオルに近づけると回る。
彼自身の磁場とでも言うのかな、それが狂っているのか、それとも強いのか。
一つだけ分かるのは、このせいで方向音痴になっている可能性がある――ということだ。
方向音痴の人の理由は、もしかして方位感覚が狂わされているから……かな。
「――話を戻すが、構わぬか?
結論から申す。某は『勇者』となった者を見ておらぬ。故に、某の直感は何も告げぬ」
はっきり言ったディオルに、ユキはやはりそうかと返した。
言葉はどこか、落胆している。
「えーっと、やっぱりわたしって『オマケ』だよね?」
「いや。某はそうは思わぬ。ユキの直感は正しきことを告げておるとも言えよう。
少なからず、『勇者』の資質を持ち得ていたからこそ、共に召喚されたと考えることもできよう」
「……双子だから、なか?」
「ならばユキは、片割れにも感じたであろう」
「………………ごめん、理解できない」
ギブアップ宣言。
そもそも、ユキのこともディオルのことも詳しくは知らないのだから、この時点で理解できるはずもない。
……それに、そこまで頭は良くないし、察することも悟ることもムリだ。
理解するには、一から順を追って行かないと。
たとえるなら数学。どうしてその計算式になるか、どうしてその数字になるのか、一から解かないと分からない。
こんなわたしだから、人の倍以上勉強しなければならなかった。
文字を覚えるのも遅かったと聞くけど、あれは教えてくれる人(両親)が居なかったせいだ。
一時期、発達障害じゃないと病院に連れて行かれた。思えばそれが、両親と共に出かけた最初で最後の記憶かも。
「簡単に言えば、オレとディオが持ってしまった三番目の理由が、どちらにあったか……その確認だ」
「三番目……神の啓示?」
「ああ。オレは間違いなくリコを『勇者』だと思った。しかしディオルは違う。もう片方を見ていないため、無反応だった。ここまでの説明で分からない点は?」
真っ先に挙手をする。
「二人の言っていることに矛盾を感じる」
今の発言ではなく、今に至るまで聞いたことに関して。
仮に、わたしたち二人資質があったたとして、それがどうして片方にしか感じないのか。
わたしに『何なのだ?』と叫んだ神官長に対し、わたしを『勇者』と言ったユキなど。
人によっての反応が正反対で、矛盾しかない。
「……それは自覚している。なぜ――そう考えても、答えはどこにもない。自分の心を信じるしかないんだ」
「史実上、召喚されし『勇者』はたった一人。故に、二人の『勇者』が現れ出でし時点で、既に矛盾が発生しておるのだろう。
リコ、気に留める必要はない。真実、理由はいずれ、時と共に訪れることである。推測や可能性等は、考えすぎるが故に無駄となる」
「そう、だね」
いつか、わたしにも意味があるという日が、訪れるように……――