1話
「おお! ついに『勇者』が現れましたぞ!」
そんな歓声を、ぼんやりとする意識の中で聞いた。
頭がグラグラする。酷い乗り物酔いみたいな気分だ。
わたしの隣には、側に居ないはずの姉が居る。
「姫様、成功ですな!」
「ええ……成功には、成功ですが………………変なオマケも、一緒のようです」
多分じゃない、間違いなくわたしに対しての言葉だ。
これまで姉と一緒に居て、わたしを褒めたりなんだりする言葉は聞いたことがない。あるのはけなす言葉だけ。
だから、変なオマケというのは間違いなくわたしのことだ。
起き上がり、周囲を見回すと……あからさまな表情でわたしを見ている人たちと目が合った。
第一印象は最悪に近い。
「――これは一体、どういうことでしょう?」
「わたくしにも分かりません。ただ……」
「ただ、何でしょう姫様?」
「顔がどことなく似ていますから、そのせいではないかと」
「……姉妹、ですか。もしそうならば、この事態にも納得できますが…………どことなく、似ているでしょうか?」
「それは……」
そこで言葉に詰まられる。
どことなく似ている――初見でそう感じる人は少ない。
姉は髪が長く、顔立ちも整っていて、同じ年なのに『大人』だ。
妹のわたしは、多分平凡。可愛いとも言われたことがないし、姉と比べてなら『ブス』と言われるくらい。
昔からそうなので、今更どう思われようと、どう言われようと傷つくような軟な精神はしていない。平気と大口は叩かないが、何も思わない。無関心。
とりあえず、言葉が通じていないフリをして、様子を見ることにしておく。
姫様と呼ばれた少女は、未だ気を失っている姉に、優しく声をかけた。
勇者様――と。
最初に『ついに勇者が現れた』と聞こえていた時点から、何となく予測はできていた。
ここは地球ではない世界。
勇者召喚というファンタジー現象によって、姉が召喚された。わたしは巻き込まれたオマケ。
彼女たちは多分気づいていないが、わたしが巻き込まれた原因は、姉と双子だからだろう。
「…………あれ、ここは?」
優しく揺すり起こされた姉の第一声。
その視線がわたしを捉えたみたいだが、すぐに視線を逸らす。
「ここはリアントゥーク王国。わたくしはハルフィニア・ハーヴェ=リアントュークと申します。
勇者様、突然の出来事で驚かれているでしょう。まずは勇者様のお名前をお聞かせください」
「……朱里。七瀬、朱里よ」
「アカリ様……世界に光をもたらすお名前! まさに勇者様!」
――意味が分からないっ!
名前で勇者を選んだのなら、地球の日本には、『ひかり』や『ひかる』、『こうき』や『のぞみ』、『みらい』など多く居る。
「お願いします、勇者アカリ様! わたくしたちにお力添えを」
「国民を代表し、神官長である私からもお願い申し上げます」
土下座をする神官長。
普通の日本人なら、土下座をされると困ってしまう。どうにかして頭を上げてもらおうと、
「わ、分かったわ。とりあえず、話を聞かせてもらうところから初めて頂戴」
相手の望むような答えを返すしかない。
この返答を受け、姫様とやらは満面の笑みを浮かべた。
計算高いと言うべきだろうか。
他の人たちも、それぞれ喜びやそれに近い感情を浮かべている。無表情なのはわたしだけ……じゃ、ないらしい。
一人、仏頂面が居た。
金色で、きらきらで……あれは、誰だったのだろう?
わたしの視界に映る金色のきらきらと、同じだったような……――
※次回更新日は未定です。