序章
「何なのだ、お前は?!」
それがわたしに対して投げられた言葉だった。
地図と保存食、簡単な着替えと僅かなお金。
これがわたしに与えられた『旅』の仕度。
武器もない。
ロクな説明もなく、見知らぬ場所に放り出された。
理由は、わたしが姉のオマケだから。姉のように、勇者の資質どころか、何にも持っていなかったから。
居ては困る。
だから追い出された。
見知らぬ世界。
通じない常識。
助けてくれる人など、誰も居なかった。
唯一の味方だと思っていた……いや、姉すらわたしの味方でもない。手など、差し伸べてはくれない人だ。
姉とわたしは双子で、真逆の存在だった。
よくあるお話。
姉は誰からも愛される優等生。
妹は劣化版。姉を引き立てる役。
わたしという人間は、姉が居て存在価値があるらしい。
名前だって、引き立てるかのよう。
姉は七瀬朱里といい、名前の通り明るい人柄である。
一方で妹のわたし。七瀬里子。姉が朱里だから、妹にも同じ字を使おう――そう思ってつけられたのが、この名だ。
わたしに名前を選ぶ権利はない。拒否しても仕方ないので、受け入れるしかない。
どうしてわたしは、こんなあからさまな差を持って育てられたのだろう?
一生懸命生きていて来たけど、我慢の限界など、とうの昔に臨界点を突破している。
……突破しすぎて、逆に冷めてしまったけど。
唯一の救いは、祖父母の存在かもしれない。それも小学校四年生までの短い間。あの時は、幸せだったかな。
誰もわたしのことを知らない世界――
真の孤独とは、こんな状態なんだろう。
さて、生きるためにはどうしようか?
帰る方法が分からない以上は、ここで生きていくしかないと、覚悟を決めるしかない……けど……。
右も左も分からない。
わたしは一体、どこに捨てられたのだろう?