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短編の「ただの幽霊ですが?」の連載版です。

この世界にやって来て何年経ったか分からない幽霊です。

いやあ〜世界って分からないものですね。だって前世では日本に住む普通の人だったんですよ?「私」。それがなんの因果か亡くなったと同時にこの世界に飛ばされたわけですよ。納得出来ますか?そこのあなた。よくある転生ものならさ、ここで神様やチュートリアルが発生するはずですよね?そうだと思いますよね?


無いんだな、これが。


そうなると自力で色々知っていかないといけない。自力で。「私」幽霊なんですよ?実体は無いし触れないし。大体知ったところでなんの役にも立たないんじゃ意味もない。そうなるとさ...暇なんだよね〜



さてそんな暇だらけの「私」に最近面白い事ができた。それは音楽家の青年ことルディ君。「私」が棲みついているこのお屋敷の専属音楽家である。正確に言うと「私」の記憶から出した音楽を屋敷のみんなに聴かせている。一時期パトロン契約が終了する危機もあったがなんとか乗り越えたようだ。


ルディ君は今日もピアノの鍵盤にその長くて美しい指先で音楽を奏でる。「私」の特等席は専らピアノの上だ。たまに屋敷の奥様がピアノに寄り掛かる時があるが「私」の身体を素通りするだけなので問題なし。今日の音楽はそれは優しくゆっくりとした音楽で……



前世でよく歌ったアニソン。アニメのエンディング曲だ。ルディ君は上手く編曲し演奏してくれる。ただ、イメージが大幅に変わっているんだが?まあ「私」が原曲を知っているだけなので良しとしている。

本当はオーケストラで聴きたいがこのお屋敷には楽器はピアノだけ。切ない。最初に教えた曲だって凄い良い曲なんだよ、どうにかしてもう少し楽器と演奏者を確保できないかなあ。




庭先の木々が次第に色づき始めたある日、背が高く恰幅の良い赤ら顔の男がやってきた。ちなみに髪の毛も赤いがやや薄く…まあいい。応接室に案内されたその男は屋敷のご主人夫婦とルディの向かい側に座り頭を下げた。彼は街にやってきた音楽興行の責任者。去年から新人も多く入り演奏を行なっていたが曲目がいつも同じで演奏者から苦情が出ている。ルディ君が演奏をしているのを聞きつけ曲を教えてほしいという事だった。夫婦はすぐに快諾しルディ君も頷いた…までは良かった。しかし彼はひとつ要望を出してきた。


それは低く大きな音の出る楽器を使った曲に編曲して欲しいと言う事だった。ルディ君は困った表情になった。確かに今の彼が奏でる音楽は耳に心地よく流れる風の様な曲になっている。大きな音、しかも低いともなれば難しい。

とりあえず考える時間が欲しいと言って頭を下げるルディ君と何度もお願いする赤ら顔の男。そこまでのやり取りを見て「私」は窓をすり抜けて黒猫のブラッキーを探しに出掛けた。


最近の黒猫のブラッキーには恋人が出来たようだ。これが美人で青磁の様な瞳がさらに美しさを際立たせている白猫のスノウ(勝手にそう呼んでいる)。良いねえ〜若いって。ブラッキーは相変わらず「私」を見つけると威嚇が激しくなるが、スノウが傍に居ると少々威嚇濃度が下がる。


おや?ルディ君が「私」を探しているようだ。誰もいない部屋でキョロキョロしている。窓をすり抜けて部屋に戻ると「神様?いますか」と小声で呼んでいた。いつもの様にピアノの天板の上に座る。『神様じゃなくて幽霊だよ。どうしたんだい?』と尋ねると「先程 お客様が見えてまして今弾いている曲を演奏したいとおっしゃっています。しかし曲調に合わない楽器を使いたいそうで…どうしたら良いですか?」そういえば途中で抜け出したから話半分しか聞いてなかったなあ…『その楽器をどうしても使いたいのかい?それは何故?』一体どんな音が出る楽器なんだろうか?「演奏者のお父上の遺品だそうです。しかし今まで演奏する曲目が無かった為に使っていなかったようで…。いつもは違う楽器を演奏していますが今回でも使う事がなければ演奏者の方は脱退すると言っているそうです。」


『脱退しても良い…とはならないね。その楽器を奏でたいのだろうし、1人いなくなると音楽のバランスが崩れるからねえ。』


そこまで話していると気になるのがその楽器だ。『聞いてみたいね』と言えばルディ君は「私もです。」と笑顔で答えると彼は大急ぎで連絡を取りに部屋を出て行った。



余程切羽詰まっていたのか赤ら顔の男は次の日の午後にやって来た。背の高い大柄なヒゲもじゃ男を連れて。

夫婦とルディ君の前で責任者は隣に座る男の話しをする。「私」は触れないので男が持って来た大きな楽器入れの匂いを嗅いだり上に座ってみたりした。何も起きませんけどね。


どうやら演奏者の父親は結婚前は楽団に所属していたが結婚を機に退団し軍部に勤めていたらしい。子供が大きくなるにつれ親子で演奏をしてみたいと常々口に出していたようだ。しかしその子供は父親の奏でる音色に驚き音楽から離れてしまった。いつからか父親は楽器を触らなくなり親子で演奏する事なくこの世を去った。

「俺は親父のあの音をまた聴きたい。この楽器の音を子供達に聞かせてやりたいんだ。だけど、今の曲はどうやってもこの楽器に合わない。それどころかこの楽器が使える曲がないんだ。どうしても聴かせてやりたいのに……。」そう言って彼は楽器入れを抱き締め涙をこぼした。


ヒゲは涙でぐっしょりと濡れている。ルディ君は必死に歯を食いしばっているし、奥様はハンカチで目元を押さえている。「どうか、こいつの望むような曲をお願いしたいのです。お金ならなんとか用意します。頼みます。」責任者は深く頭を下げる。

その様子を楽器入れに座ったままの「私」が声を出す。『音を聞かせて欲しいな。「私」の思ってる音なら良いんだが。』そう言うとルディ君が「聴かせてください。その音色を。」とヒゲの演奏者に伝える。そして…



その音色はまさに前世でいうところの{ゾウ}だった。あの「パオー」ってやつだ。夫婦もルディ君も驚き、そして屋敷中の人達が物凄い速さで集まった。凄い効果だ。さっきまで泣いていたはずの奥様ですら顔色真っ白の失神寸前の表情だ。笑える。『ああ、この音色なら「私」の好きな曲があるんだ。ぜひ聴きたいね。』そう答えると驚きのショックからようやく立ち直ったルディ君が「数日お時間をいただけますか?考えますので。」と返事をしてくれた。


2人を玄関で見送ると早速ルディ君はブラッキーを探し始めた。しかしなぜか見つからない。恋人に振り回されているのかブラッキーはいつも通りの動きになっていないのが現状だ。「どうしましょう。見つからない…」焦り始めたルディ君を見ながら考える…。それは伝播の媒介がブラッキーにできるならカラスのバートにも出来るのではないのか?ということだ。カラスは魔女の使いっていうじゃないか?ルディ君に伝えると「行って来ますっ!」と大急ぎで飛び出して行った。


想像では網に入ったバートがやってくると思ったら、まさかの首輪を着けた状態でルディ君の後ろを付いて来た。人慣れしているじゃないか!「私」にはあんなに威嚇してくるのにどういう事ですか?野生じゃ無かったって事ですか?ピョンピョンとルディ君の後についてくる真っ黒いバート。「カラスって光る物が好きなんですよ。だからガラス細工の首輪を見せたらすんなり降りてくれました。」と破顔するルディ君。なるほど。


そしてブラッキーの時と同じように指先に魔力を集めて集中しながらバートの頭に触れてみた。ブラッキーの毛並みと違い滑らかな羽根に触れた。この瞬間が1番嬉しくなる時だ。「私」が幽霊でありながら触れる実体があると感じる唯一の瞬間。高鳴る鼓動なんてない。頬が上気してくる感じなんてない。それらは全て生きているものの特権だ。(触れる)ことが出来るって感動だよ。本当に。ゆっくりと「私」の記憶の音楽を伝える。伝播が終わると無いはずの身体が重く感じられ(疲れ)を認識する。そうしているとルディ君の表情が大きく変化してくる。高揚感と感動と焦る気持ちと、色々入り混じって、しばらく喋れなくなるようだ。



数日後ルディ君が書いた楽譜を2人の大男が大事そうに抱えていった。「なかなかテンポが早くて難しいかもしれませんよ?」と言っても彼らは「良いんです。早くこの楽譜通りの曲調を知りたいのです。本当にありがとうございました。」と満面の笑顔だった。



その後新しい曲を披露した楽団はまさかのロングランとなり、その周囲ではいくつかの店舗が作られ飲食や娯楽そして



触れる事ができる楽器屋が開店したようだ。




不思議な気分だ。あの曲はそんなにも人気になるとは。


前世で大好きだった





時代劇のテーマソングなんだが?






拙い文章を読んでいただきありがとうございました。

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