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第52話 籠いっぱいの希望

 しかも、そこらの路端に生えている痩せたものとは違う。


 葉が肉厚で、瑞々しい緑色をしており、マナをたっぷりと溜め込んでいるのが見て取れる。


 最高級品だ。


「わあ、あったよアミナ! これこれ!」


 私はしゃがみ込み、指差した。


 アミナが追いついてきて、不思議そうに首を傾げる。


「これですか? 普通の草に見えますけれど……」


「ううん、違うの。見て、ここの線が光ってるでしょ? これが『元気な薬草さん』の印なんだって!」


 私は説明しながら、慎重に手を伸ばした。


 ここでも前世の知識が光る。


 素人がやりがちな失敗は、力任せに引き抜いて根を傷つけたり、茎を強く握って組織を潰してしまうことだ。


 私は指先に神経を集中させる。


 根元の土を優しく掘り起こし、一番薬効が高い「根に近い茎の部分」を傷つけないように、そっと、まるで赤子の手を握るようにして採取する。


 プチン、と小気味よい音を立ててはいけない。


 自然に離れるポイントを探るのだ。


 綺麗に抜けた。


 土を軽く払い落とすと、その『ヒールグラス』は宝石のように美しかった。


「ほら、見て見て! すごく綺麗!」


 私が掲げて見せると、アミナは感嘆の声を上げた。


「まあ……。本当ですね。言われてみれば、色が濃くて、香りも強いような……。お嬢様、よくこんな岩陰にあるものを見つけられましたね」


「クロが教えてくれたの! クロ、すごいんだよ!」


 私はクロを撫で回して褒め称える。


 クロは誇らしげに胸を張っている。


 それから私たちは、クロの先導に従って次々と『お宝ポイント』を巡った。


 大人が歩く視線の高さでは見落としてしまうような、木の根元の窪み。


 倒木の下の隙間。


 あるいは、ツタ植物に覆われた奥のスペース。


 クロは的確に、マナ濃度の高い場所だけを選んで案内してくれた。


 私はそのたびに、プロの手際で最高品質の部位だけを選定して摘み取っていった。


 枯れかけた葉は取り除き、虫食いのないものだけを厳選する。


 その選別スピードと正確さは、熟練の薬師も裸足で逃げ出すレベルだろう。


 しばらくして、籠がいっぱいになってきた頃。


 アミナが私の手元をじっと見つめながら、ぽつりと呟いた。


「お嬢様は本当に植物にお詳しいのですね。摘み方も手慣れていらっしゃるというか、迷いがないというか……」


 アミナの目に、微かな畏敬の色が混じっている。


 私は動きを止めて、ニコッと笑った。


「えへへ、そうかな? 私ね、お庭でお花を摘むの好きなの! お母様にもよく花冠を作ってあげたでしょ? それと同じだよ!」


「そういえば、奥様もエルシア様の手先が器用なのは天性のものね、とおっしゃっていました」


 アミナは納得したように頷いた。


「それにね、図鑑で見たの! 『根っこの近くを優しく持つのがコツ』って書いてあったんだもん!」


「ふふ、お嬢様は本当にお勉強熱心ですね。旦那様も鼻が高いでしょう」


 アミナが微笑み、私の頭を撫でてくれた。


 籠の中は、瑞々しい緑色の山になっていた。


 これだけあれば、診療所の患者全員に行き渡るだけのポーションが作れるはずだ。


 しかも、今までとは比べ物にならない最高品質のやつが。


「よし! いっぱい採れたね!」


 私は立ち上がり、泥んこになった手をパンパンと払った。


 服の裾には草の実がついているし、靴も泥だらけだ。


 きっと、屋敷に帰ったら母に叱られるだろう。


 でも、この籠の中身が、村の人たちの笑顔に変わると思えば、そんなお説教も勲章みたいなものだ。


「そろそろ戻りましょうか、お嬢様。日も傾いてきましたし、ハンク先生も首を長くして待っているでしょう」


「うん! 早く帰って、お薬作ろう!」


 私はアミナに籠を持ってもらい、クロを抱き上げた。


 森の出口に向かって歩き出す。


 夕暮れが近づく森は、黄金色の光に包まれて幻想的だった。


 その光の中を、希望の材料を携えて帰路につく。


 私の胸は、これから始まる「魔女のポーション作り教室」への期待で高鳴っていた。


 待っていてね、ハンク先生。


 そして、痛みに苦しんでいる人たち。


 本物のポーションの威力、たっぷりと見せてあげるから。

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