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第49話 お見舞いと市場調査

 クライブと会話を交わした後、彼は「さて、そろそろ戻らないと本当に大目玉を食らっちまう」と言って、ひらひらと手を振りながら仕事へと戻っていった。


 その背中は、来る時よりも少しだけ軽やかに見えた。


 頼もしい騎士だ。


 彼のような存在がいてくれることは、これからの私の計画にとって大きなプラスになるだろう。


 私は村に戻り、大きく伸びをした。


 お腹はいっぱい、心も満たされた。


 けれど、私の頭の中は既に次の思考へと切り替わっていた。

 

 私は、復興作業に勤しむ村人たちの姿を改めて見渡した。


 皆、必死に動いている。笑顔も見られる。


 だが、その笑顔の下にある「無理」も見えてしまうのだ。


 壊れた家屋、失われた農具、そして冬を越すための備蓄の不安。


 アシュレイン領は、もともと裕福な土地ではない。


 そこへ来て、今回の魔物襲来だ。


 父は私財を投げ打ってでも領民を守ろうとするだろうが、それにも限度がある。


 先立つものが必要だ。


 つまり、お金。


 そして、領民たちの命を守るための、より直接的な手段。


 魔物の時もそうだったけど、この世界……少なくともこの辺境において、医療体制が脆弱すぎるわ。


 回復魔法を使える人間は稀少だ。


 教会に行けば神官がいるが、高額な寄付を求められることもあるし、そもそも緊急時に間に合わないことが多い。


 となれば、頼りになるのは『ポーション』だ。


 しかし、流通しているポーションは高価な割に質が悪い。


 これをどうにかしないと、次は守りきれないかもしれない。


「アミナ」


 私は控えていたアミナの方を向いた。


 彼女は私の顔についたお米粒を取ってくれようとしていた手を止めた。


「はい、お嬢様。もうお屋敷に戻られますか? 少しお疲れでしょう」


「ううん、まだ帰らない。次はね、村の診療所に行ってみたいの」


「診療所、ですか?」


 アミナが怪訝そうな顔をする。


 無理もない。


 健康になった子供が、わざわざ怪我人の多い場所に行きたがるなど、普通なら止めるべき案件だ。


「うん。怪我をした人がたくさんいるんでしょう? 私、お見舞いに行きたいの。みんながどんなふうに治療してるのか、心配だもん」


 私は嘘は言っていない。


 ただ、その動機の半分以上が「市場調査」と「技術介入」であることを隠しているだけだ。


 アミナは少し考え込んだが、私の真剣な眼差しに負けたのか、ため息交じりに微笑んだ。


「……本当にお嬢様はお優しいですね。わかりました。ですが、長居は無用ですよ。血の気配に当てられて、気分が悪くなってしまうかもしれませんから」


「わーい! ありがとうアミナ!」


 私は無邪気に喜び、足元にいたクロを抱き上げた。


「行くよ、クロ。大事な任務の始まりだよ」


「キュ!」


 クロは私の意図を察しているのかいないのか、元気よく鳴いて尻尾を振った。


 ◇ ◇ ◇


 村の診療所は、広場から少し離れた場所にある、比較的被害の少なかった石造りの建物を利用していた。


 近づくにつれ、独特の匂いが漂ってくる。


 煮詰まった薬草の青臭い匂いと、鉄のような血の匂い、そして澱んだ空気の匂い。


 衛生環境がいいとは言えない。


 入り口の扉は開け放たれており、中からは時折、苦痛に耐えるような呻き声や、慌ただしく動く人の気配が伝わってくる。


「お嬢様、私の後ろに」


 アミナが庇うように前に出る。


 私は彼女のスカートの影から、そっと中の様子を窺った。


 広い土間には、簡易ベッド代わりの藁と毛布が敷き詰められ、十数人の怪我人が横たわっていた。


 魔物との戦闘で傷ついた自警団員や、逃げる際に怪我をした村人たちだ。


 彼らの間を、数人の女性たちが忙しなく動き回り、包帯を変えたり水を飲ませたりしている。


 そして、部屋の奥で、一人の老人が怒鳴り声を上げていた。


「おい、新しい水はまだか! 傷口を洗わんと化膿するぞ!」


「すみませんハンク先生、今、井戸から汲んできているところで……!」


「ポーションはどうした! この傷の深さじゃ、薬草の湿布だけじゃ追いつかん!」


「それが……在庫がもう……」


 あれが、この村の医師、ハンク。


 白髪交じりの髪を振り乱し、血に汚れたエプロンをつけたまま、必死に患者に向き合っている。


 その表情には、疲労と焦燥が色濃く刻まれていた。


 状況は、想像以上に悪そうね。


 私は眉をひそめた。


 明らかにキャパシティオーバーだ。


 何より気になったのは、部屋の隅にある棚だ。


 そこには、数本のガラス瓶が並んでいるのが見えた。


 おそらく、あれがこの診療所にある「ポーション」の全てだ。


 私はアミナの手を引いて、中へと入った。


「おや、アミナさんじゃないか。それに……ええっ、エルシアお嬢様!?」


 入り口近くにいた手伝いの女性が、私たちに気づいて声を上げた。


 その声に、奥にいたハンクも顔を上げる。


「なっ……領主様の姫様ですか!?」


 ハンク医師が慌ててこちらへやってくる。


 手を洗う暇もなかったのか、その手は赤黒く汚れていたが、彼はそれに気づいてハッとし、急いで腰のエプロンで拭った。


「ご、ご無礼を。こんな汚い手で……。私は、村の医師をしているハンクと申します。一体何用で?」


「ハンク先生。私、みんなのお見舞いに来たの。お邪魔してごめんなさい」


「お見舞い……? いや、邪魔なんてことはありませんが……」


 ハンク医師は困惑したように頭を掻いた。


 私はその隙に、トテトテと部屋の奥、気になっていた棚の方へと歩み寄った。


「お嬢様、あまり触ってはいけませんよ」


 アミナが注意するが、私は「見るだけー」と言って、棚に並べられたポーションの瓶を覗き込んだ。


 そして――愕然とした。


 嘘でしょう?


 私の内心の声が、思わず裏返った。


 目の前にある瓶に入っている液体。


 それは、「ポーション」と呼ぶにはあまりにもお粗末な代物だった。


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