第47話 木陰の休息と、クロの秘密
午後の日差しが、木漏れ日となって降り注いでいる。
村の広場から少し離れた、大きな樫の木の下。
そこは、復興作業の喧騒が遠くに聞こえる、ちょっとした特等席だった。
お腹いっぱいにおにぎりを詰め込んだ私は、そこでゴロンと横になっていた。
満腹感と、程よい疲労感。
そして背中から伝わる草の感触と大地の匂い。
六歳児の体は正直なもので、油断するとすぐに瞼が重くなってくる。
「ふわあ……」
大きなあくびが出た。
本来なら、このままお昼寝コースに突入するところだ。
けれど、今の私には確かめておかなければならないことがあった。
私は、腕の中に抱きしめている黒い毛玉――クロに視線を落とす。
クロも私と同じようにおにぎりを食べて満足したのか、私の胸元で丸くなって喉を鳴らしていた。
その規則正しい寝息に合わせるように、私は意識を内側へと沈めていく。
やっぱり、そうだ。
私は確信する。
自身の体内に流れる魔力脈の状態を。
今回の魔人討伐で、私は魔力欠乏に陥った。
これは、転生者である私が抱える最大の弱点であり、解決策はないと思っていた課題だった。
だが、今はどうだ。
枯渇していたはずの魔力が、驚くべき速度で回復している。
いや、それだけではない。
以前よりも、魔力の通り道である「脈」が、わずかに、しかし確実に太く、強靭になっているのを感じる。
原因は、間違いなくクロだわ。
私はそっと、クロの背中に手を添える。
温かい。
そして、その奥に感じる、底知れない闇のような、それでいて清浄な気配。
私がクロに触れている間、私の魔力とクロの不思議な力が、目に見えないレベルで循環しているのがわかった。
それはまるで、クロが私の未熟な魔力回路を補強し、拡張するための「触媒」となっているようでもあった。
一緒にいるだけで、私の器が育てられている。
呼吸をするように自然に、私の魔力を吸い上げ、そしてより純度の高い力として還流させてくる。
「……君は、一体何者なの?」
私はクロの耳元で、誰にも聞こえないような小声で囁いた。
ただの魔物じゃない。
精霊?
あるいはもっと高位の存在?
魔王軍のナードルでさえ、クロの正体には気づいていないようだった。
クロは私の問いかけに答える代わりに、「キュゥ……」と寝言のような声を漏らし、私の服に顔を擦り付けてきた。
その無防備な姿を見ていると、正体なんてどうでもよくなってくるから不思議だ。
「まあ、いっか。クロはクロだもんね」
私は愛おしさを込めて、その漆黒の毛並みをさらに強く抱きしめた。
もふもふとした極上の感触が、思考を溶かしていく。
その時だった。
ザッ、ザッ、と草を踏む足音が近づいてきたのは。
「――お嬢様、ここにいたんすね」
聞き覚えのある、軽薄そうでいて芯のある声。
目を開けて顔を上げると、そこには騎士クライブが立っていた。
彼もまた、復興作業で汗を流していたのだろう。
額には汗が滲み、まくり上げた袖からは泥に汚れた腕が覗いている。
手には水筒を持っていた。
どうやら彼も休憩中のようだ。
「クライブも休憩?」
「ええ、まあ。村長たちに少し休めと追い出されましてね。若手が張り切りすぎると、年寄りの立つ瀬がないんだと」
クライブは肩をすくめると、「失礼しますよ」と言って、私から少し離れた木の根元に腰を下ろした。
ふう、と大きく息を吐き、水筒の水をあおる。
「お疲れ様。クライブも頑張ってるね」
「お嬢様ほどじゃありませんよ。……あんな小さな体で、村中を走り回って。みんな感激してましたぜ。アシュレイン家の姫様が、泥だらけになって俺たちのために動いてくれてるって」
クライブは笑った。
その笑顔は、いつもの飄々としたものではなく、どこか兄が妹を見るような、温かいものだった。
彼と話していると妙に落ち着く。
六歳児の演技を、少しだけ緩めてもいいような気がして。
「でも、さっきは参りましたよ」
クライブが苦笑いを浮かべ、頭をポリポリと掻いた。
「どうしたの?」
「いやあ、旦那様……お父上に、こっぴどく叱られましてね」
【作者からのお願いです】
・面白い!
・続きが読みたい!
・更新応援してる!
と、少しでも思ってくださった方は、
【広告下の☆☆☆☆☆をタップして★★★★★にしていただけると嬉しいです!】
皆様の応援が作者の原動力になります!
何卒よろしくお願いします!




