第45話 病み上がりのお願いと、小さな決意
目覚めてから数日が経ち、私の体調は驚くほどの速さで回復していた。
魔力欠乏による倦怠感はすっかり霧散し、手足には力が漲っている。
鏡を覗き込めば、頬には健康的な赤みが差しており、どこからどう見ても元気な六歳児そのものだった。
ベッドの上でじっとしているのは、もう限界だ。
「……暇だ」
私は自室の窓から外を眺め、ぼんやりと呟いた。
窓の外には、のどかなアシュレイン領の風景が広がっている。
しかし、その静けさが逆に落ち着かなかった。
ここ数日、父ローウェンは早朝から屋敷を出て行き、夜遅くに泥だらけになって帰ってくる。
騎士クライブたちも同様だ。
屋敷に残っているのは、母とアミナ、そして数人の使用人たちだけ。
皆、魔物襲来によって傷ついた村の復興に全力を注いでいるのだ。
私だけ、こうしてぬくぬくと休んでいていいわけがない。
あの戦いで村を守ったとはいえ、被害はゼロではなかった。
家を失った人もいるし、畑が荒らされた場所もあると聞いている。
領主の娘として、何もしないでいることは罪悪感以外の何物でもなかった。
「よし」
私は決意を固め、拳を握りしめた。
振り返ると、クロが私の足元で欠伸をしている。
「クロ、行くよ。私たちも手伝うの」
「キュ!?」
クロは首を傾げたが、私のやる気を感じ取ったのか、パタパタと尻尾を振ってついてきた。
一階のサロンに降りると、母とアミナが洗濯物を畳みながら、深刻な顔で話し込んでいた。
村への救援物資や、炊き出しの手配について相談しているようだ。
「お母様、アミナ」
私が声をかけると、二人は弾かれたように顔を上げた。
「エルシア!? もう起きて大丈夫なの?」
母が心配そうに駆け寄ってくる。
私はその手を取り、真剣な眼差しで見つめ返した。
「うん、もう元気いっぱいだよ。だから……お願いがあるの」
「お願い?」
「私、村に行きたい。お父様たちのお手伝いがしたいの」
その言葉を聞いた瞬間、母とアミナの表情が曇った。
「だめよ、エルシア。あなたはまだ病み上がりなのよ? それに、村はまだ片付いていなくて危険だわ」
「そうですよ、お嬢様。お気持ちは立派ですが、瓦礫も多くて危ないですし、砂埃もひどいです。ここで大人しくしていてください」
予想通りの反対だ。
二人の言うことはもっともだ。
六歳の子供が現場に行っても、足手まといになる可能性が高い。
だが、ここで引き下がる私ではない。
私はコホン、と一つ咳払いをし、内なる「演技スイッチ」をオンにした。
大人の理屈が通じないなら、子供の武器を使うまでだ。
「でもぉ……!」
私は瞳を潤ませ、声を震わせた。
上目遣いで母を見上げる。
「お父様、ずっと帰ってこないんだもん……。お父様、疲れちゃってるよ。私、お父様にお水とか持っていってあげたいの。お父様のこと、応援したいの……っ」
きゅっ、と胸の前で手を組む。
健気な娘アピールだ。
さらに追い打ちをかけるように、足を踏み鳴らす。
「私だけお家で寝てるなんてやだ! 私もアシュレインの子だもん! みんなと一緒に頑張りたいの! 連れて行ってくれないなら、一人で歩いていっちゃうから!」
「エ、エルシア……」
「ううっ、お嬢様のそんな健気なお姿……」
母がたじろぐ。
アミナも涙ぐんでいるようだ。
ちょろい。
いや、私の演技力が素晴らしいと言うべきか。
母はしばらく悩んでいたが、私の頑固さを知っているだけに、ため息をついて折れた。
「……わかったわ。その代わり、約束して」
母は私の肩に手を置き、厳しい顔で言った。
「絶対に、無理はしないこと。それから、危ないことはしないこと。そして――」
声を潜め、母は言った。
「『魔法』は使わないこと。いいわね?」
「うん、約束する! 魔法は使わない。物運びとか、簡単なことだけする!」
「……アミナ、お願いできるかしら。この子が飛び出さないように、しっかり見ていてあげて」
「はい、奥様。私の命に代えても」
こうして、私はまんまと村への同行許可を勝ち取ったのだった。
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