第38話 守ると誓った魔女
騎士たちが悲鳴を上げる。
父は地面を転がり、血を吐いて動かなくなった。
私は、その光景を見ていた。
父がやられたショックはもちろんある。
だが、それ以上に――私の思考を真っ白に染め上げたのは、あの男が使った『魔法』そのものだった。
六角形をハニカム構造状に連結させ、衝撃を分散・無効化する多重結界。
物理干渉を拒絶する、絶対的な聖域。
「あれは……ッ!」
呼吸が止まる。
心臓が早鐘を打つ。
見間違うはずがない。
だって、あれは――。
私が開発した『対物理・絶対遮断結界』だ。
数百年前。
魔女と呼ばれていた私が、竜のブレスを防ぐために編み出した、私オリジナルの魔法。
教科書に載っている一般的な結界とは、構成も理論も全く異なる。
私が書き記した魔書にしか存在しないはずの、失われた魔法だ。
なぜ、あいつが使える?
なぜ、こんな辺境で?
嫌な予感が、背筋を氷の手で撫で上げるように這い上がってくる。
私の死後、それが、こんな邪悪な形で利用されている?
「お嬢様! ここはマズいっす!」
クライブが私の腕を掴み、強く引いた。
彼の顔からは、血の気が完全に引いている。
「あいつはヤバい。次元が違う。ローウェン様ですら手も足も出ないなんて……化け物だ」
「……」
「逃げましょう! 今なら、奴は俺たちに気づいてない! お嬢様だけでも逃がさないと!」
クライブの判断は正しい。
あの男――おそらく魔王軍の幹部か、それに準ずる存在。
今の満身創痍の私たちで勝てる相手ではない。
全滅する。
逃げて、王都へ援軍を要請するのが最善手だ。
でも。
私は視線を巡らせた。
地面に倒れ、ピクリとも動かない父。
その周りで呻いている騎士たち。
そして、恐怖に震えながらも、まだ剣を捨てずに男を取り囲んでいる数名の兵士たち。
置いていくの?
彼らを見捨てて、私だけがおめおめと逃げる?
そして何より――あの魔法。
私の知識が、私の作った力が、父を傷つけ、人々を殺すために使われている。
その事実に、私の魂が、怒りで煮えたぎっていた。
「……クライブ」
私は静かに、彼の手をほどいた。
「お嬢様!? 何を……!」
「貴方は行って。父様を……ローウェン・アシュレインを回収して、後退して」
私の声は、自分でも驚くほど冷静だった。
「はぁ!? 何言ってんすか! お嬢様だけ逃がすって言ってるんすよ! 俺が囮になって……」
「ダメよ。あの男は……私の魔法を使っている」
私は男を睨みつけたまま、一歩踏み出した。
「責任を取らなきゃいけないの。あれは、私の『罪』かもしれないから」
「意味わかんねぇっすよ! 死にたいんすか!」
クライブが叫ぶ。
私は振り返り、彼に微笑んでみせた。
六歳の幼女の笑顔ではない。
千年の業を背負った、魔女の顔。
「死なないわ。……この領地を守るって、約束したの」
私はクロの背中を撫でた。
クロも「ミャウ」と短く鳴き、臨戦態勢を取る。
魔力は満タンだ。
覚悟も決まった。
「お嬢様ッ!!」
クライブが伸ばした手は、空を切った。
私はスカートの裾を翻し、死の匂いが充満する戦場へと、たった一人で歩みを進めた。
コツ、コツ、コツ。
乾いた足音が、静寂に響く。
魔物たちが、怯えたように道を空ける。
その先で、青白い肌の男が、ゆっくりとこちらを向いた。
「……ほう?」
フードの下の瞳が、爬虫類のように細められ、私を捉える。
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