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第28話 サボり騎士、覚悟を決める

追いついてきたアミナが、私の肩を掴もうとする。


 逃げ場はない。


 アミナも、クライブも、大人たちは皆「子供を守る」という正義で動いている。


 その正義を突破するには、もっと強力な利を提示しなければならない。


「……できるわ」


 私はアミナの手をすり抜け、クライブの目を真っ直ぐに見つめた。


「クライブ。今回の敵は数百よ。騎士団の数は五十。いくら精鋭でも、多勢に無勢だわ」


「……だからこそ、俺たちが増援に行くんじゃないっすか」


「足りないわ。怪我人が出たらどうするの? 前線が崩壊したら?」


 私は一歩踏み出す。


 クロが肩の上で「ミャオッ!」と援護射撃のように鳴く。


「私を連れて行けば、戦況が変わるわ」


「お嬢様の攻撃魔法がすごいのは知ってます。でも、ガス欠の問題があるでしょ。数発撃って倒れたら、誰が守るんすか」


 痛いところを突かれた。


 確かに、攻撃魔法だけでは説得力に欠ける。


 ならば。


 私は一つの「嘘」を吐くことにした。


 いや、完全な嘘ではない。理論上は可能なはずだ。クロの魔力供給さえあれば。


「……攻撃だけじゃないわ」


 私はハッタリを利かせた、自信満々の笑みを浮かべた。


「私、『治癒魔法ヒール』も使えるの」


「「は……?」」


 クライブとアミナの声が重なった。


 この世界において、治癒魔法は希少だ。


 教会に属する高位の聖職者か、聖女、もしくは魔法の極致に至った者しか使えない。


 ましてや、辺境の騎士団には専属のヒーラーが少なく、回復手段はポーションに頼りきりなのが現状だ。


「嘘をおっしゃらないでください!」


 アミナが即座に否定する。


 「お嬢様では、高位魔法である治癒など……」


「使えるわよ。試したことはないけれど、理論は頭に入ってる。細胞の活性化と魔力による縫合。私の精密操作なら可能よ」


 私は畳み掛けた。


「考えてみて、クライブ。前線で傷ついた騎士を、その場で治療できたら? 戦線を維持できるわ。ポーションが尽きても、私がいる」


「……」


 クライブの目の色が変わった。


 彼は騎士だ。戦場におけるヒーラーの価値が、どれほど重いかを知っている。


 数百の魔物を相手にする消耗戦。


 そこにヒーラーがいれば、勝率は劇的に跳ね上がる。


「……マジっすか。本当に、使えるんすね?」


「ええ。私の『天才』ぶりは、貴方が一番知っているでしょう?」


 私はニヤリと笑った。


 クライブは数秒間、天を仰いで沈黙し、そして大きく息を吐き出した。


 ガシガシと乱暴に頭を掻く。


「あー、もう! クソッ! わかった、わかりましたよ!」


 クライブは覚悟を決めた顔で、私を見た。


「乗ってください。……ただし! 俺の背中から絶対に離れないこと。そして、ヤバくなったら俺が何としても逃がしますからね!」


「クライブ様! 正気ですか!?」


 アミナが金切り声を上げる。


「旦那様の命令に背くのですか! もしお嬢様に何かあれば、打ち首では済みませんよ!」


「わかってますよ、アミナさん。でもね……」


 クライブは私を軽々と抱き上げ、鞍の前――彼と馬の首の間の安全なスペースに座らせた。


「このお嬢様、テコでも動かないっすよ。だったら、ここで問答して時間を無駄にするより、俺が責任持って守りながら連れて行った方が、結果的に生存率は高い。……それに」


 クライブは鐙に足をかけ、ヒラリと馬上の人となった。


 そして、手綱を握りしめ、ニカっと笑った。


「俺の勘が言ってるんすよ。お嬢様を連れて行かないと、俺たち負ける気がするってね」


 その言葉に、アミナは言葉を詰まらせた。


 彼女もまた、私の「異常性」と「可能性」を肌で感じていたからだろう。


「……お嬢様」


 アミナは諦めたように肩を落とし、そして、祈るように両手を胸の前で組んだ。


「必ず……必ず、生きてお戻りください。もしお怪我をなされたら、私が一生かけてクライブ様を呪い殺します」


「ひえっ……! アミナさんの呪いとか、魔王より怖ぇ……」


 クライブが顔を引きつらせる。


 私は馬上で振り返り、アミナに向かって力強く頷いた。


「行ってきます、アミナ。お母様とデイルを頼んだわよ」


「はい。……ご武運を」


 アミナが深々と頭を下げる。


 それが、出陣の合図だった。


「しっかり捕まっててくださいよ、ボス! 飛ばしますからね!」


「ええ、お願い!」


「ミャウ!」


 クライブが手綱を振るう。


 ヒヒィンと馬がいななき、大地を蹴った。


 風が顔を叩く。


 景色が後方へと飛び去っていく。


 私の小さな体は、クライブの大きな腕と馬の首に挟まれ、安定している。


 肩の上のクロも、爪を立てて私の服にしがみついている。


 目指すは東。


 黒煙が上がり、空が不吉な赤色に染まりつつある、グレイル村。


 待っていなさい、魔物たち。

 

 私は胸元をギュッと握りしめた。


 父には悪いけれど、アシュレイン家の最終兵器は、後方待機なんてしていられない。


 こうして、最弱にして最強の令嬢と、サボり魔の騎士、そして空飛ぶ黒猫の、奇妙な混成部隊が出撃したのだった。

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