第27話 アミナの叫び、エルシアの決断
氷のように冷徹な声。
振り返ると、そこには鬼気迫る表情のアミナが立っていた。
その瞳には、メイドとしての恭しさはなく、ただ幼子を危険から遠ざけようとする大人の必死さがあった。
「ここから離れましょう。旦那様は、お嬢様を守るために出撃されたのです。その想いを無駄になさるおつもりですか」
「離して、アミナ! 私も行くの! 父様一人じゃ危ないわ!」
「騎士団がついております! それに、お嬢様が行って何になるのですか! 的当てとは訳が違います。本物の殺し合いなのですよ!」
アミナが珍しく声を荒げた。
彼女の言うことは正しい。正論だ。
六歳の子供が戦場に出て何ができる。足手まといになるだけだ。
常識で考えれば、そうなる。
だが、私は常識の枠にはいない。
それを証明するには、言葉ではなく行動で示すしかない。
「ごめん、アミナ。でも、私は行かなきゃいけないの!」
私は腕に魔力を込めた。
攻撃魔法ではない。
瞬間的な身体強化。
「ッ!?」
アミナの拘束を一瞬だけ強引に振りほどく。
彼女が驚いて目を見開いた隙に、私は脱兎のごとく駆け出した。
目指すは厩舎の方角だ。
父はもう行ってしまった。
徒歩では追いつけない。
ならば、まだ残っている誰かの馬に乗せてもらうしかない。
「お嬢様! お待ちください!!」
背後からアミナの悲鳴のような制止が聞こえる。
速い。彼女の足音は、風のように迫ってくる。
身体強化なしでも私より速いとは、どういう身体構造をしているのか。
捕まるのは時間の問題だ。
その時。
厩舎の前で、一頭の馬の手綱を握り、鞍の確認をしている騎士の姿が目に入った。
深緑の騎士服を少し着崩し、眠たげな目をこすりながら、それでも手早く準備を整えている黒髪の男。
――いた!
「クライブ!!」
私は叫んだ。
クライブがビクリと肩を震わせ、こちらを振り返る。
「うおっ、お嬢様!? なんでここに……ってか、避難したんじゃなかったんすか!?」
「乗せて!」
私は彼の前に滑り込み、息を切らせながら懇願した。
「私を、グレイル村まで連れて行って!」
クライブは目を白黒させ、それから「はあ?」と素っ頓狂な声を上げた。
「いやいやいや! 無理っすよ! 何言ってんすか! 戦場っすよ? ピクニックじゃないんすから!」
「分かってるわ! でも、私が必要なの!」
「ダメっす! 旦那様に殺される! それに、俺はお嬢様の『共犯者』にはなりましたけど、死なせる手伝いをするつもりはないっすよ!」
クライブは頑として首を横に振った。
彼はサボり魔だが、命に関しては真面目だ。
私が森に行きたいと言った時も止めたように、ここでも彼は私を守るために拒絶している。
「そこまでです、お嬢様!」
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