表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/51

第25話 父の試練、娘の答え

 静寂を破ったのは、デイルの歓声だった。


 彼はパチパチと小さな手を叩き、クロと一緒に飛び跳ねている。


 その声につられるように、母が震える声で言った。


「エルシア……今の魔法、あなたが作ったの?」


「はい、お母様。私の魔力は少ないですから、無駄な爆発はさせません。必要な場所に、必要な熱だけを届ける。これなら、少ない魔力でも戦えます」


 私は胸を張って答えた。


 だが、父の表情はまだ晴れなかった。


 彼はスタスタと的の前に歩み寄り、空いた穴を指でなぞり、それから私に向き直った。


「……見事だ。技術に関しては、文句のつけようがない。私の知る騎士団の専属魔導師たちよりも遥かに上だ」


「では!」


「だが……ダメだ」


 父は短く、しかし冷徹に告げた。


「え……?」


「戦場は的当てではない。魔物は動く。殺意を持って襲ってくる。一度外せば、次はない。それに、今の魔法を一発撃っただけで、お前の顔色は少し青ざめているではないか」


 図星だった。


 精密誘導は魔力消費はなくても、この体では精神力を削る。


 額にはうっすらと汗が滲んでいた。


「その程度の魔法で青ざめているのならば、戦場ではただの案山子だ。そんな危うい状態で、魔物と戦わせるわけにはいかん!」


 父の声には、確固たる拒絶があった。


 それは領主としての判断であり、何より、娘を死なせたくないという父親としての叫びでもあった。


 母も心配そうに私を見つめている。


 アミナも、痛ましげに顔を伏せた。


 ここで引き下がるのは簡単だ。


 「はい、分かりました」と言えば、私は安全な屋敷の中で、蝶よ花よと育てられるだろう。


 でも、それでは守れない。


 あの熊が言っていた「襲撃」は、もうそこまで迫っているのだ。


「……反対されるのは、分かっていました」


 私は一歩前に出た。


 父の威圧感にも、怯まずに見上げ返す。


「確かに、私の魔力は少ないです。お父様の言う通り、持久戦になれば負けます。でも……だからこそ、工夫したのです」


 私は指を一本立てた。


「魔力が足りないなら、正面から勝てないなら、弱点を突けばいい。私は自分の弱さを知っています。知っているからこそ、誰よりも慎重に、誰よりも効率的に戦えるのです」


 私は父の目を真っ直ぐに見つめた。


 大魔女の魂を、瞳に宿して。


「お父様。貴方は、私を守りたいと言ってくれます。それはとても嬉しい。でも……私だって、守りたいのです」


「守る、だと?」


「はい。お父様を、お母様を、デイルを。そして、この領地に暮らす人々を。……ただ守られるだけの存在でいたくはありません。私も、アシュレイン家の娘ですから」


 風が吹き抜け、私の黒髪を揺らした。


 父はハッとしたように息を呑んだ。


 私の瞳に、かつて自分が戦場で見せたものと同じ「覚悟」を見たのかもしれない。


 長い、長い沈黙があった。


 やがて、父は大きなため息をつき、ガシガシと頭を掻いた。


「……まったく。誰に似たのやら」


「あなたそっくりですよ」


 母がクスクスと笑いながら近づいてきた。


 彼女の目には、もう不安の色はなく、頼もしい娘を見る誇らしさが宿っていた。


「頑固で、一度言い出したら聞かないところなんて、瓜二つだわ」


「う……痛いところを突くな」


 父は苦笑いし、私の前に片膝をついて目線を合わせた。


 そして、そのゴツゴツとした大きな手を、私の頭にポンと置いた。


「……分かった。お前の覚悟、そしてその技術。認めてやろう」


「お父様!」


「ただし! 単独行動は禁止だ。必ず私の、あるいは信頼できる騎士の許可を得てから動くこと。そして、決して無理はしないこと。……約束できるか?」


「はい! 約束します!」


 私が大きく頷くと、父はいつもの豪快な笑顔を見せて、私の頭をわしゃわしゃと撫で回した。


「よし! ならば、これからはアシュレイン家の切り札として期待しているぞ、エルシア!」


「父様、髪がボサボサになります!」


「わはは! いいじゃないか!」


 父の笑い声につられて、周りのメイドたちからも拍手が起こった。


 アミナも、いつもの澄ました顔を崩して、目元を緩ませている。


「おねえちゃん、すごい! ぼくもまほうつかいたい!」


「ミャ~!」


 デイルがクロと一緒に飛びついてきた。


 私はよろけながらも、二人を受け止める。


「デイルはまだ早いわよ。もう少し大きくなったら、お姉ちゃんが教えてあげる」


「ほんと? やくそく?」


「ええ、約束よ」


 指切りをする。


 温かい。


 父の大きな手、母の優しい眼差し、デイルの無邪気な笑顔、そしてクロのフワフワした感触。


 アミナやメイドたちの信頼。


 これが、私が守りたかったものだ。


 千年の孤独の果てに見つけた、私の居場所。


 この輪の中にいられることが、何よりも幸せで、そして力をくれる。


「さあ、そうと決まれば祝いだ! 今日の昼食は豪華にするぞ!」


「あらあら、朝ごはんを食べたばかりですよ?」


「いいんだ! エルシアの魔法デビュー戦だからな!」


 父が立ち上がり、高らかに宣言する。


 平和で、騒がしくて、愛おしい時間。


 この幸せな時間が、ずっと続けばいいのに。


 そう思った、矢先のことだった。


 ダダダダダッ!!


 練兵場の入り口から、尋常ではない速度で駆けてくる馬の蹄音が響いた。


 砂煙を上げて飛び込んできたのは、一人の伝令騎士だ。


 その鎧は汚れ、顔は蒼白で、馬から転がり落ちるようにして父の前に膝をついた。


「ほ、報告します!! 緊急事態です!!」


 騎士の悲痛な叫び声が、家族の笑い声を切り裂いた。


 父の表情が、瞬時に凍りつく。


 領主の顔へ、戦士の顔へと戻る。


「何があった! 報告せよ!」


 騎士は息も絶え絶えに、しかしハッキリと告げた。


「グ、グレイル村より狼煙が上がりました! 魔物の大群です! その数、数百……いえ、もっとです! 村が……村が包囲されています!!」

【作者からのお願いです】


・面白い!

・続きが読みたい!

・更新応援してる!


と、少しでも思ってくださった方は、


【広告下の☆☆☆☆☆をタップして★★★★★にしていただけると嬉しいです!】


皆様の応援が作者の原動力になります!

何卒よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ