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第24話 小さな指先が描く軌跡

 翌朝。


 空は突き抜けるような青さに包まれ、絶好の「演習日和」となっていた。


 私は朝食を早々に済ませると、父ローウェンとの約束通り、屋敷の裏手にある練兵場――普段は騎士たちが訓練を行う広場へと向かった。


 足取りは重くない。むしろ、これからのことを思うと高揚感すらある。


「おねえちゃん、まってー!」


「ミャウ!」


 私の後ろから、元気な足音と軽い鳴き声がついてくる。


 弟のデイルと、黒猫のクロだ。


 クロは翼もないのに、ふわりふわりと重力を無視して宙を泳ぎ、デイルの頭の上に着地したり、私の肩に飛び乗ったりと自由気ままに振る舞っている。


「こらデイル、走ると転ぶわよ」


「だいじょうぶ! クロちゃんがいるもん!」


 デイルは満面の笑みだ。


 昨日の今日で、すっかりクロと仲良くなっている。


 どうやらクロの方も、無邪気なデイルのことが気に入ったらしい。


 この平和な光景を守るためにも、今日のプレゼンテーションは絶対に失敗できない。


 練兵場に到着すると、そこにはすでに観客たちが勢揃いしていた。


 腕を組み、仁王立ちで待ち構える父、ローウェン。


 不安そうに両手を握りしめている母、ヘルミナ。


 そして、私の背後に音もなく控えるメイド長のアミナをはじめ、屋敷中のメイドや使用人たちが、興味津々といった様子で遠巻きに見守っている。


 まるで公開処刑か、あるいはサーカスの開演前のような緊張感だ。


「……待っていたぞ、エルシア」


 父の重厚な声が響く。


 その表情は、昨晩の優しい父親の顔ではなく、領地を守る騎士団長の顔だった。


「約束通り、お前の『力』を見せてもらう。だが、言っておくが私は甘くないぞ。少しでも危険だと判断すれば、即座に中止させる」


「はい、望むところです」


 私はスカートの裾を摘んで一礼し、広場の中央へと進み出た。


 父の懸念はもっともだ。


 魔力欠乏の六歳児が、魔法を使う。


 それだけで自殺行為に見えるだろう。


 だからこそ、私は技術で証明しなければならない。


「アミナ、あれを」


「はい」


 父が合図すると、アミナが用意していた的を並べた。


 厚さ五センチほどの木の板を三枚。


 それぞれ十メートルほど離れた位置に設置されている。


 普通のファイアボールなら、表面を焦がすのが精一杯の距離と厚みだ。


 戦熊のような上位魔物は、鋼鉄のような毛皮を持っている。


 木の板を焦がす程度の火力では、くすぐったくもないだろう。


「見ていてください」


 私は右手を前に突き出した。


 深呼吸を一つ。


 クロが心配そうに「ミャ?」と鳴いて、私の足元に寄り添う。


 大丈夫。今の私は、昨日の私よりも上手くやれる。


「酸素よ集え、一点に宿れ――《ヒート・バレット》」


 短く、鋭く詠唱する。


 私の指先に、ルビーのように赤く輝く光球が生成された。


「小さい……」


 メイドたちのひそひそ話が聞こえる。


 父も失望の色を隠そうとしていない。


 だが、真価はここからだ。


 シュッ!


 私が指を振ると同時に、熱弾が射出された。


 その速度は、弓矢を遥かに凌駕する。


 一枚目の板に直撃――するかと思われた瞬間。


「曲がれ!」


 クッ!


 熱弾は直前で直角に軌道を変え、板を回避した。


 そしてその背後にある二枚目の板へ向かい、さらにS字を描いて回避。  まるで意思を持った生き物のように空を舞う。


「なっ……なんだあれは!?」


 父の目が大きく見開かれた。


 単純な射出魔法ではない。発射後の遠隔制御リモート・コントロール


 宮廷魔導師でも扱える者は少ない高等技術。

 

 でも、私にはできる。

 

 魔女として積み上げた経験と技術があるから。


 魔力量なんて関係ない。

 

 私は熱弾を再び操り、一枚目の板の前へと誘導した。

 

「――貫け!」

 

 一枚目、二枚目と一直線に貫通し、最後の三枚目へ。

 

 私はその中心に描かれた小さな黒点を指差す。

 

 熱弾が一気に加速した。

 

 空気を裂き、ただ一点へ。


 ジュッ!


 乾いた音と共に、板の中心に小さな穴が空いた。


 爆発も、炎上もしない。


 ただ、板の裏側まで綺麗に貫通し、その先の地面に突き刺さってジュウと白煙を上げた。


 静寂。


 誰も言葉を発しない。


 板が燃えていないからではない。


 その穴の断面が、まるで高熱の針でくり抜いたように、炭化して焼き固められていたからだ。


「……貫通力、そして精密誘導」


 父が呻くように呟いた。


「すごい! おねえちゃん、かっこいいー!」

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