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第22話 黒猫クロ、家族の前に現る

 食堂の重厚な扉が開かれる。


 その音は、まるで断頭台へ向かう足音のように重く響いた。


 広い食堂には、沈黙が支配していた。


 長テーブルの上座には、腕を組み、仁王像のような険しい顔をした父・ローウェン。


 その隣には、ハンカチを握りしめ、目を腫らした母・ヘルミナ。


 そして、何も知らずにスプーンでスープを遊ばせている弟のデイル。


「……戻りました」


 私が蚊の鳴くような声で言うと、三人の視線が一斉に私に集まった。


 泥だらけの服。ボサボサの髪。


「エルシア!!」


 父の怒号が響き渡った。


 ビリビリと窓ガラスが震えるほどの大音声。


 父は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、大股で私の方へと歩み寄ってきた。


 怖い。


 森で出会ったベアロスよりも、遥かに恐ろしい迫力だ。


「今までどこに行っていた! こんな時間まで、連絡ひとつ寄越さずに!」


「お父様、その……」


「お前は自分の体がどういう状態か分かっているのか!? もし外で倒れていたら、もし何かに襲われていたら……! 我々がどれほど心配したか!」


 父の大きな手が、私の両肩を掴んだ。


 痛いほど強い力。


 けれど、その手は小刻みに震えている。


 怒りではない。これは、恐怖だ。


 娘を失うかもしれないという、親としての根源的な恐怖。


「エルシア! ああ、よかった……!」


 母が駆け寄ってきて、父ごと私を抱きしめた。


 母からは、優しい花の香りと、涙の味がした。


「もうダメかと思ったわ……。あなたがいない部屋を見た時、心臓が止まるかと……」


「ごめんなさい、お母様。お父様」


 私は二人の腕の中で、小さくなった。


「おねえちゃん?」


 その時、空気の読めない、しかし救いのような声が響いた。


 デイルだ。


 彼は椅子から降りて、トテトテとこちらへ歩いてきた。


「おねえちゃん、どろんこ! どこいってたのー?」


 無邪気な笑顔。


 その明るさに、張り詰めていた緊張の糸が少しだけ緩んだ。


「……ちょっとね、冒険に行ってたのよ、デイル」


「ぼうけん? ずるい! ぼくもいきたかった!」


 デイルが頬を膨らませる。


 父は大きく深呼吸をし、私から体を離して膝をつき、目線を合わせた。


 その瞳は、まだ厳しい光を宿している。


「……デイル、席に戻っていなさい。エルシア、説明しろ。その格好、そしてその怪我。それから――なぜお前の身体から、これほどの魔力を感じるのだ」


元・四大騎士の鋭い眼光。


 誤魔化しは効かない。


 私は覚悟を決めた。


「お父様。私は……嘆きの森へ行っていました」


「森だと!?」


 父の顔色が変わり、母が悲鳴のような声を上げて口元を覆った。


後ろに控えていたアミナも息を呑む。


『嘆きの森』は、騎士団ですら警戒する危険地帯だ。


「魔法を……試したかったのです」


「魔法?」


「はい。庭で練習していましたが、もっと広い場所で試したくて。……そうしたら、魔物に出会いました」


 正直に話す。


 父の眉間の皺が深くなる。


「魔物……だと? エルシア、嘘をつくな。魔物に出会って、お前が無事で済むはずが……」


「嘘ではありません。私は……」


 そう言いかけたとき、服の内側で、もぞりと何かが動いた。


「ミャウ」


 私の首元から、ひょっこりと黒い顔が覗く。

 

 次の瞬間、その小さな身体は、ふわりと宙へ浮かび上がった。


「「「ッ!?」」」


 三人が同時にのけぞった。


 まるで重力がないかのように、優雅に空中を泳いでテーブルの上へと着地した漆黒の子猫。


 そのアメジストの瞳が、静かに家族を見回す。


「エルシア、離れろッ!!」


 父の反応は劇的だった。


 彼は私を背中に庇い、帯剣していない腰に手を伸ばし、それがないと知るや近くにあったテーブルナイフを逆手に構えた。


 全身から、凄まじい殺気が放たれる。


「あなた、何を……!」


「分からんのかヘルミナ! こいつから漂う魔力を!」


父は脂汗を滲ませながら、クロを鋭く睨み据えた。


「先ほどから、なぜかエルシアの身体から異常な濃度の魔力を感じていた……。まさか、それが服の中に潜んでいたとは……! 見た目は猫だが、中身は――化け物だ。こんな小さな体に、高位魔物クラスの魔力が圧縮されている!」


 さすがは元・四大騎士。


 見た目の愛らしさに騙されず、クロの魔力を瞬時に見抜いたようだ。


 アミナも即座に戦闘態勢に入り、デイルを抱きかかえて距離を取る。


「パパ、だめー! ねこちゃんいじめないでー!」


 デイルが泣き叫ぶが、父の警戒は解けない。


「お父様、待ってください! その子は敵じゃないです!」

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