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第15話 天使の弟と、魔女の誓い

 か、可愛い……!


 天使か。いや、天使を超越した何かだ。


 クリクリとした大きな瞳、モチモチとした白い頬っぺた。


 そして、お姉ちゃんに甘えたいけれど、忙しいかなと遠慮している健気な態度。


 前世の私は孤独だった。


 弟子はいたが、あれは育てる対象であり、こうして無条件に甘えてくる守るべき存在ではなかった。


 姉弟という関係が、これほどまでに破壊力のあるものだとは。


「遊ぶ! もちろん遊ぶわよ!」


 私は即答し、デイルの手を引いて部屋の中へと招き入れた。


 森への潜入計画? アミナ対策?


 そんなものは後回しだ。


 今は目の前の天使のご機嫌取りが最優先事項である。


「わーい! おねえちゃん、すき!」


「私も大好きよデイル!」


 デイルは満面の笑みを浮かべ、抱えていたクマのぬいぐるみを絨毯の上に置いた。


 そして、ポケットからもう一つ、小さな木彫りの人形を取り出した。騎士の形をした人形だ。


「きょうはね、これするの」


「お人形遊びね。いいわよ。……設定はどうする?」


 「せってい?」


「ええ。このクマさんは敵? 味方?」


 私が聞くと、デイルは少し考えてから、キリッとした顔で宣言した。


「これはね、わるい魔物なの! ガオーってして、村をいじめるの!」


「なるほど、討伐クエストね」


「でね、ぼくが騎士さまで、おねえちゃんが……おひめさま!」


 デイルは騎士の人形を自分の胸に当て、私を指差した。


「ぼくが、おねえちゃんをまもるの!」


 その言葉に、私は一瞬、言葉を詰まらせた。


 三歳の、まだ剣も持てない小さな男の子。


 本来なら私が守らなければならない、か弱き存在。


 それなのに、彼は小さな胸を張り、精一杯の勇気を振り絞って「守る」と言ってくれたのだ。


 ここ数日、私は「自分が強くなること」ばかり考えていた。


 弟子の陰謀を暴き、領地を救うこと。


 頭の中はずっと戦闘モードで、ピリピリしていた自覚がある。


 けれど、本当に大切なのはこういう時間なのかもしれない。


 守るべき日常。守るべき笑顔。


 それを肌で感じることで、私の戦う理由はより強固なものになる。


「……ふふ。分かったわ。じゃあ私は、囚われのお姫様ね」


 私はベッドの端に座り、淑女らしく手を組んでみせた。


「キャー、助けてー。恐ろしいクマの魔物が襲ってくるわー」


「まかせて! とぉー!」


 デイルは騎士の人形を手に、勇猛果敢にクマのぬいぐるみへと突撃していった。


 ポスッ、ポスッ。


 木の人形が、ふかふかのぬいぐるみに当たる優しい音が響く。


「えい! やー! わるい魔物は、あっちいけー!」


「グオオオ……やられたー」


 私はクマのぬいぐるみを操作して、大袈裟に倒れる演技をした。


 デイルは「やったー!」と歓声を上げ、私の元へと駆け寄ってくる。


「おねえちゃん、だいじょうぶ?」


「ええ、ありがとう勇者様。あなたのおかげで助かったわ」


 私が頭を撫でてやると、デイルはくすぐったそうに、でも誇らしげに笑った。


 その温かい体温が、私の手のひらに伝わってくる。


 しばらくの間、私たちは時間を忘れて遊び続けた。


 クマの魔物が復活して逆襲したり、時にはクマと和解して一緒にティーパーティーを開いたり。


 デイルの発想は自由で、私の凝り固まった魔法理論の脳を柔らかく解きほぐしてくれるようだった。


「あのね、おねえちゃん」


 ひとしきり遊んで疲れたのか、デイルは私の膝に頭を預けて、ウトウトしながら呟いた。


「ぼくね、もっとおおきくなったら、ほんとうにおねえちゃんをまもるよ」


「……うん」


「父様みたいに、つよくなって……こわい魔物をやっつけて……ずっと、いっしょにいるの」


「……ええ。期待しているわ」


 私はデイルのサラサラとした栗色の髪を撫でながら、優しく答えた。


 弟の寝息が、スー、スーと規則正しくなり始める。


 窓の外を見れば、日はすでに西に傾き、空は紫色に染まりかけていた。

 

 私は眠る弟の寝顔を見つめ、心の中で誓いを新たにする。


 あなたが私を守ると言ってくれたように。


 私は、陰からあなたを守り抜く。


 あなたが大人になって、本当に剣を持てるその日まで、この理不尽で残酷な世界の悪意から、お姉ちゃんが盾になろう。


 そのためにも。


 やはり、森へ行かねばならない。


「……さて」


 私はデイルを起こさないようにそっと抱き上げ、ベッドへと運んだ。


 私の瞳に、再び魔女としての鋭い光が戻った。


 明日の早朝。


 太陽が昇る前、世界がまだまどろんでいるその時間こそが、勝負の時だ。


 私は眠るデイルの額にそっとキスを落とし、静かに、しかし力強く拳を握りしめた。

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