第13話 嘆きの森
私が何気なく呟いた瞬間。
隣を歩いていたクライブの足が、ピタリと止まった。
「……はい?」
「だから、森よ。屋敷のすぐ裏にある、あの深い森」
「いやいやいや」
クライブは全力で首を横に振った。
「ダメっす。絶対ダメ。何言ってんすか」
「なぜ? 今の私の実力なら、狼やゴブリン程度なら撃退できるわよ?」
「そういう問題じゃないっす!」
クライブは珍しく真剣な表情で、私の前に立ち塞がった。
「森は屋敷の庭とは違うんすよ。足場も悪いし、視界も悪い。何より、最近は魔物の動きが活発になってる。お嬢様の実力は認めますけど、万が一ってことがある」
「でも、実戦経験を積まないと、いざという時に家族を守れないわ」
「そのいざという時に、お嬢様が怪我したら元も子もないでしょうが!」
クライブの声が、少し荒げられた。
私は少し驚いて彼を見上げる。
いつも飄々としている彼が、本気で心配しているのが伝わってきたからだ。
「旦那様も、奥様も、アミナさんも。もしお嬢様に何かあったら、どれだけ悲しむか。……俺だって、嫌っすよ」
クライブはバツが悪そうに視線を逸らし、頭を掻いた。
……なるほど。
サボり魔で不真面目に見えるけれど、根っこはやっぱり「守る者」としての騎士らしい優しさを持っているようだ。
私は心の中で彼への評価を少し上方修正した。
だが、それはそれとして。
私の計画には、魔物の実態調査が不可欠なのだ。
「クライブの言いたいことは分かったわ。でもね、私は――」
「だーめ! 絶対ダメ! 今回ばかりは譲れねぇっす!」
「ちょっとくらい……」
「ダメ! 森に行きたいなら、俺を倒してから行くか、旦那様の許可を取ってきてください!」
クライブは両手でバッテンを作り、頑として譲らない構えだ。
こうなると、テコでも動かないタイプだ。
真正面から説得するのは無理か。
仕方ないわね。ここは引くフリをしておきましょう。
私はわざとらしく肩を落とし、深いため息をついた。
「わかったわよ。クライブがそこまで言うなら、諦めるわ」
「……本当に?」
「ええ。私もクライブに心配かけたくないし」
「うーん、なんか怪しいっすけど……まあ、分かってくれたならいいっす」
クライブは疑わしそうな目を向けつつも、ほっと安堵の息を吐いた。
チョロい男だ。
私は心の中で舌を出しつつ、殊勝な顔で微笑んでみせた。
「じゃあ、今日はここで。クライブは仕事に戻るんでしょ?」
「ああ、そうっすね。そろそろ点呼の時間なんで」
「ふふ、サボりが見つかって怒られないようにね」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ!」
クライブは苦笑いしながら手を振り、騎士団の詰め所の方へと歩いていった。
その背中が完全に見えなくなるまで見送ってから、私は屋敷の方へと向き直る。
「……さて」
クライブは止めた。
それは正しい判断だ。
六歳の子供を森に行かせるなんて、狂気の沙汰だ。
でも、私はただの子供じゃない。
それに、あの森からは何か――私を呼ぶような、奇妙な魔力の波長を感じるのだ。
「悪いけど、行かせてもらうわよ。クライブ」
私はニヤリと笑うと、小さな足取りで屋敷への道を急いだ。
明日の作戦を練りながら。
まずは、あの口うるさくて鋭いメイド長、アミナの目をどう欺くか。
それが最大の難関になりそうだ。
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