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第12話 数日間の訓練

 驚愕に固まるクライブの鼻先を、熱弾がクルクルと旋回し、そしてパチンと弾けて消滅した。


 もし爆発させていれば、彼の顔面は煤まみれだっただろう。


 静寂。


 クライブは大きく目を見開いたまま、中空を見つめていた。


 やがて、恐る恐る視線を私に戻す。


「……お嬢様。今の、マジっすか?」


「ええ、マジよ。どうだった? 今の軌道制御」


「どう、もこうも……」


 クライブはその場にへたり込み、深い溜息をついた。


「反則っすよ、あんなの。剣が届く瞬間に避けるとか、性格悪すぎっす」


「あら、最高の褒め言葉ね。戦場では性格が悪い方が生き残るのよ」


「いやまあ、そうっすけど……本当に六歳ですか……?」


 クライブは呆れたように私を見つめた。


 その目には、純粋な驚きと困惑が混じっている。


「それにしても、解せないっす」


「何が?」


「お嬢様、魔力が未発達で、魔力量はスズメの涙ほどだって聞いてたんすけど。今の芸当、魔術師の連中でもできる奴はそんないねぇっすよ。魔力量と技量が釣り合ってなさすぎる」


 クライブの疑問はもっともだ。


 魔力が少ない人間は、普通、魔法の制御も甘くなる。


 水圧が低いホースでは、水を遠くまで飛ばせないのと同じ理屈だ。


 だが、私は違う。


「失礼ね。誰が言ったのかしら」


「いや、屋敷中の噂っすよ。旦那様も心配してたし」


「いい? クライブ」


 私は小さな胸を張り、人差し指を立てて解説モードに入った。


「魔法の威力は魔力量で決まるけれど、魔法の精度は『計算能力』と『イメージ力』で決まるの。私はね、魔力を垂れ流しているわけじゃないの」


 「計算?」


 「そう。空気抵抗、風向き、湿度、そして重力。それらすべてのパラメーターを瞬時に計算して、最小限の魔力でベクトルを操作しているだけよ」


 「べく……とる?」


 「例えば、さっきの急上昇。あれは熱弾の下側に瞬間的に高気圧の壁を作って、その反発力で弾道を曲げたの。魔力で無理やり動かすんじゃなくて、物理現象を利用して滑らせたのよ。これなら、消費魔力はほとんどゼロに近いわ」


 私が得意げに説明すると、クライブの目はますます点になっていった。


 そして、両手で耳を塞ぐ仕草をする。


「あー、ストップ、ストップ! もういいっす、わかったっす! 俺の負けだ!」


「あら、まだ流体力学の応用編があるのよ?」


「勘弁してください。俺、座学は苦手なんすよ。聞いてるだけで頭が痛くなってきた……」


 クライブは心底参ったという顔で首を振った。


「要するに、お嬢様は、頭がおかしいレベルの天才ってことでいいっすね?」


 「言い方に棘があるけど、まあ、そういうことにしておいてあげるわ」


 私はクスクスと笑った。


 前世で弟子に同じ説明をした時は、目を輝かせてメモを取っていたものだが、この脳筋騎士には少し難しすぎたらしい。


 まあ、いい。


 細かい理屈は分からなくても、彼が私の実力を認めてくれればそれで十分だ。


「ふぅ……いい汗かいたわね」


 私はスカートの埃を払い、空を見上げた。


 木々の隙間から見える空は、茜色に染まり始めている。


 そろそろお開きにする時間だ。


「戻りましょうか、クライブ」


「へいへい。お供しますよ、ボス」


 私たちは並んで裏庭の小道を歩き始めた。


 夕暮れの風が心地よい。


 クライブの足取りに合わせて、私も少し歩幅を大きくして歩く。


 数日間の訓練で、私の魔法制御は成長している。


 魔力量の少なさも、こうして工夫すれば十分カバーできることが分かった。


 自信はついた。


 なら、次は――。


「ねえ、クライブ」


「なんすか?」


「私、次は森へ行ってみようと思うの」

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