ウィガンと美しきグライネ
ウィガン、今でこそ銀河を渡る宇宙海賊の頭領のようなイメージがあるが、遥か昔、元々は地球からの観測領域を外れた遠い銀河を支配する恒星間連合の司令官であった。
しかし、ある恒星の惑星ロンデニウムに訪れた時に出会った美しい女性『グライネ』が、彼の運命を変えた。地球のような水と緑の惑星で、自然と戯れる彼女をウィガンは女神と讃え、愛した。また、グライネも精悍で明るい性格の若者ウィガンを好んだ。
グライネの奇跡のような力を借りて、ウィガンはやがて恒星間連合の総帥にまで上りつめた。彼個人の能力も、飛躍的に大きくなり、彼に対し抗おうとするものさえいなくなった。1人を除いては。
ある夜、グライネと閨を共にしていたウィガンは言った。
「俺は全てを手中に出来るほどの力を持った……。しかし、肝心の愛する君を我がものに出来ていない」
「こうして一緒にいるだけでは不満だと言うの?」
「不満だ。君はいつか風のように私の前からいなくなるだろう。そんな予感がするのだ」
ウィガンはそう言って駄々っ子のようにグライネの胸に顔を埋めた。そんな彼を愛おしいと思ってしまったグライネ。
「では、私がいなくならないよう、次元の書を封印する術を与えましょう」
「ありがとう、ありがとう、これで俺は死ぬまで君と一緒にいることが出来る……」
ウィガンは顔を埋めながら、涙を流してみせた。
(次元の書さえなければ、神のように振る舞う次元の管理者とやらも恐るに足りん……)
グライネの胸元から香る母性に満ちた匂いに恍惚としながら新たな野望が広がるのを感じた。
それからのウィガンは宇宙戦艦ウィガニスを駆り、内に秘めた残虐性を徐々に現し、無数の恒星系から価値ある星々を征服し始めた。表向きは圧政からの解放や環境破壊からの救済を謳っていたが、それは紛れもない植民地化であった。反抗する支配者を除き、意のままとなる統治者を送り込む。徹底した管理を行い、自由な発展を阻害する統治は彼が倒した圧政者、暴君たちと何が違っただろう。
そして、価値がないと判断すれば恒星系ごと破壊することも躊躇しなくなっていった。
グライネは変わっていくウィガンから距離を置き始めた。そして、自らが与えた術がこの次元、この宇宙にもたらす悲劇を想像し、後悔した。
愛する惑星ロンデニウムに転移し過ごすことが多くなったグライネにウィガンは初めて怒りをみせた。
「一緒にいると約束したはずだ」
「約束はしていないわ。私はただ、貴方が追って来られない別の次元にいなくなる心配を取り除いただけ。だからこうして会いには来れるでしょう」
「それでは駄目だ。グライネ、俺にはお前が必要なのだ。いつも一緒にいて欲しい」
「もう……私には貴方に与えられるものはありません。以前はお互いに交わし合った微笑みさえも、今は作ることさえ出来ないのです」
「……そうか、少し頭を冷やしたらウィガニスに戻って来い。待っている」
ウィガニスに戻ったウィガンはブリッジから見える惑星ロンデニウムを眺めた。初めてグライネと出会った頃と変わらない美しい水と緑の惑星。彼女の微笑みが頭に浮かんだが、すぐに消え去り、それは悲痛な表情に変わる。
今やグライネの心は完全に離れたのだ!
ウィガンはグライネを強く愛している。だからこその激情であった。彼は努めて冷静に配下へ指示を出した。
「主砲を惑星ロンデニウムに向けろ」




