もう1人の魔王
地獄の井戸20階。
ここはハッシュが異界から魔物共を転移させる前の最終到達階である。以前の20階層には緑龍が鎮座しており、魔王レイスがそれを倒した。
ウルがレイスに近付き進言する。
「魔王様、この部屋を通過すると、次が21階層になりますが……」
「うむ、いよいよ未到達階層だな」
「その21階層、実はとんでもない化け物がいます」
「白龍、黒龍と双璧を成す、伝説の龍であろう?」
「ご存知でしたか……白龍には我ら誰1人として部屋に入る事さえ許されませんでした……」
「実は……秘密にしていたが……俺もだ」
レイスは腹心達に虚勢を張る事を止め、自分の思いを正直に話するようになっていた。
「えっ、確か21階層は後で時間がある時にでもと仰っていましたが……」
レイスは白龍との戦いを静かに、そして偽りなく話し始めた。
「あの日、緑龍を倒した後、その勢いを持って21階層に挑んだ。強大な魔力を感じたが、俺はあの頃驕り高ぶっていたからな。自分なら何なく勝てると踏んで扉を開けた」
「それで……」
ウルが初めて聞くその話に息を呑む。
「開けた瞬間に氷漬けにされたわ……。咄嗟に形態変化を開始していなければ、あのままそこら中に散らばっていた魔物入り氷の仲間入りしていただろうな……」
カイゼルがその話を遮った。
「ねぇ兄上?ちなみに目の前の20階ボス部屋からもすっごい魔力を感じるんだけど……」
「あぁ、カイゼルわかっている。俺と同等の可能性すらある。しかし、今や我らはパーティだ。力を合わせれば勝てる、そう信じている」
レイスはメンバーに配置を指示する。ミニゴーレム達には予め壁面の瓦礫に紛れ、指示があり次第、合体して巨大ゴーレムになる様指示してある。
タンク役の炎鉄のバロスが扉をゆっくりと開く。静けさの漂う広い空間、その奥に金の装飾が施された玉座がある。そこに金髪オールバックに金色の長い角を生やした男が1人座ってニヤついていた。溢れ出る魔力に周囲が歪みバチッバチッと火花が散っている。
男が口を開く。
「大勢連れて来やがったな?魔王レイス」
レイスが魔王の威厳を持って応える。
「話せるなら、名前を聞こうか」
「大魔王ロック様だ」
その横柄な答えにウルがいつもの通り喧嘩を売る。
「大魔王だとぉ?てめぇ、レイス様を差し置いて大とはなんだ大とは!」
ロックと名乗る男が玉座から立ち上がり、ゆっくりと近付きながら、
「悪い悪い、そう怒るなウルフ娘、俺も元の世界じゃ魔王だったんだ。魔王が2人じゃ被っちまうから大魔王って言ったまでよ」
「そうかい、魔王の割には独りぼっちで寂しそうじゃないか、配下や近習はどうしたんだい?」
近付く男を警戒しながら、ウルは尚、嫌味を含んだ言葉を発した。
「全員やられちまった、この下の白い龍によ……。ありゃ、とんでもねぇバケモンだ。んで、どうしたもんかと思案してたら上からこの世界の魔王レイス様が降りてくるじゃねぇか。だから待ってたって訳だ。どうだい?ここはひとつ、共闘といこうじゃねぇか」
横柄な態度は変わらないが、その提案は思いもよらず、実に正直なものだった。
警戒を緩めずにレイス、
「提案出来る立場か?」
その言葉に対し、ニヤつきを止めてロック、
「断れる立場かよ?」
カイゼルが耳元で進言する。
「兄上、ここは提案を受けよう。あいつを倒すのは白龍討伐後でも遅くない。今は少しでも戦力が欲しい」
カイゼルが進言するのを聞いてロックが言う。
「その通りだ、今やり合っても良いが、どちらが勝つにせよ戦力が削られる事は間違い無いからな」
「承知した。貴様とは白龍討伐後に雌雄を決する事にしよう」
レイスは提案を受けた。本当は、白龍を配下に加えて黒龍を従えるロキに自慢したい。この男が仲間になったら白龍を殺してしまうかもしれない。一瞬躊躇ったが、その思いは胸にしまうのだった。




