アイーシャの覚悟
思わぬ里帰りとなったアイーシャ、応接間に案内される間も母親のティアナと嬉しそうに話している。その後ろ姿を見ながらロキはスマホを出して電波を確認する。
やはり、電波は無い。と言う事はこちらに設置した基地局とオヤマダの世界を繋ぐ魔法陣が機能していないと言う事だ。続けて、魔王レイスの気配を辿る。
……居た。何処かはわからないがレイスといくつかの強い魔力の気配を感じる。これなら、すぐに転移出来る。レイスがハッシュの居所を知っていれば良いが……。
「あーっ!アイーシャ様とロキ殿!どうしたんですかー?」
応接間に入ろうとすると、前からお茶を運ぶエラとサラが姿を見せた。
「エラ、サラ!久しぶり!」
アイーシャがまた懐かしい顔を見て突進していく。
「ちょっとアイーシャ様、今はダメ!お茶運んでるから!」エラとサラは構わず駆け寄ってくるアイーシャを必死で止めた。実は2人は事ある事にアイーシャの様子を見てくるようにティアナに言われ、影から見守っていたのでアイーシャが思うほど久しぶりでは無い。
「そ、そうね、ではさっさと運んじまいなさいっ」
(アイちゃんのたまに口調がおかしくなるヤツ、なんなん?方言か?)
黒龍の一件以来、久しぶりに応接間に案内されたロキは早速話を切り出す。
「ティアナ様、実は我々、別の次元の聖大樹様から加護を辿って来ました。この里が別次元と繋がっている事、ティアナ様はご存知でしたか?」
「別次元……いいえ、私が母親、前の里長から聞いていたのは、あの裏庭の森は不思議な世界に繋がっているから入ってはならない禁忌の領域、と言う事だけです。ですから、そこから貴方達が現れたのは本当にたまげました」
「たまげましたか……」
たまげたと表現するティアナを面白がる余裕はまだあるロキ。
「はい、たまげました。アイーシャにも危険だから絶対に入ってはいけないと強く言っていましたから」
(ティアナ様も聖大樹様の仕組みは分かっていない様だ。恐らく、裏庭はあらゆる次元と繋がっているゲートがあると見て間違い無いな)
ティアナが何かを思い出して続ける。
「そういえば、あの森で不思議なおじ様には会いませんでしたか?」
「不思議な?」
「はい、チリチリ頭の長髪で飄々とした人です。神出鬼没で私も何回か裏庭から会話した事しかありませんが……」
「あぁ、ユーベとか言うおっさんか……。こちらに来る前に会いました。私の知り合いらしいですが、ご存知の通り、まだ記憶が戻りきってませんので」
「そうでしたか、その人の雰囲気とロキ殿が似通っていたので、貴方が最初にここへ来た時、さもありなんと思ったのです」
(あんなおっさんと俺が似ているだと?)
「ふむ、何にせよ、こちらに辿り着けて安心しました。危うく次元の漂流者になる所でした」
ロキは、ティアナを心配させないようにウィガンの件には触れなかった。
ティアナは複雑な事情があることを汲んだが、それには触れずに優しく微笑んだ。
「私には、その次元とやらが何なのか分かりませんが、この里は聖大樹様の加護を持つ貴方をいつでも受け入れます。何か困った事があればいつでもおっしゃって下さい」
「ありがとうございます。では……」
ロキは少し言い淀んだ。
「アイちゃん、聞いてくれ。ここなら安全だ。君はここに残って欲しい……事が済んだら必ず迎えに来るから」
「やっぱり……そうなる……」
アイーシャは口をへの字に曲げてみるみる目に涙を浮かべた。
後ろに控えていたエラとサラ、アイーシャの涙を見てエラが声を上げた。
「おい、また泣かすのか!ロキ殿。一体何回泣かせれば気が済むんだ?アイーシャ様の気持ちを考えろ!」
影から見守っていた2人はアイーシャが何回も涙を流しているのを知っている。慰めたかったがティアナの言いつけで叶わなかった。その思いが爆発した。
サラも後に続く。
「そうだそうだ!アイーシャ様はこう見えて泣き虫なんだぞ!これ以上泣かすならアイーシャ様はあげないからな!」
「エラ、サラ……」
2人の思いを聞いてアイーシャは覚悟を新たにした。
泣いている場合じゃない。
アイーシャが立ち上がる。
ロキはまた自分のせいでこの事態を招いていると思っているだろう。そうかもしれないけれど……。
ならば、支えよう私が。
「さっさと行きましょ、ロキ様!急いでるんだから魔法陣出して!」
「いや、しかしだな……」
「しかしも駄菓子も無い!次何処行くの!ほらっ!」
「と、とりあえず黒龍と合流かな?」
「うふふ、ロキ殿それにアイーシャ、気をつけて行ってらっしゃい。聖大樹様のご加護がありますように」
ティアナが手を合わせて祈る様に言った。
「アイーシャ様、嫌になったらいつでも実家に帰って来て良いですよー」
エラとサラが手を振る。
「参ったな……まぁ、じゃあ行くか、アイちゃん!」
(まぁ、俺が守れば良いか。この命をかけて……って、死ぬつもりも無いけどな!)




