水界幽封・深
オオオオオ……オオオオオ……。
山の様に聳える巨大ゴーレム。その声は咆哮にも山から吹き下ろす風の音にも聞こえる。
地上に散開して着地した一行、それぞれが先ずあの巨大な怪物に対して有効な攻撃手段を考えていた。
ゴーレムの左手が瓦礫を落としながら上がる。
オオオオオオオオ……
「ウル!避けて!」
カイゼルがゴーレムに近い位置に居るウルに叫ぶ。
「誘って……るんだよ!」
ドォーーーーン……
巨大な左手が地面に振り下ろされ、砂煙で辺りが見えなくなる。
後ろに避けていたウルは此処ぞとばかりに左手に飛び移り身軽に駆け上がって行く。
ウルは速い。ゴーレムが右手でウルを払い落とそうとするが、それが左手に届く頃にはもうその姿は無い。
ウルは肩から先程まで焚き火をしていた顔の前のスペースへ移り、先ずは怪物の鼻っ柱に拳で一撃を加えた!
ウオオオオオオッ!
怪物はさすがに効いたのか咆哮するが、倒れる兆しは見えない。ウルは続けて怪物の顔をまるでロッククライミングの様によじ登り始める。
一行はウルを援護するべく遠距離攻撃を怪物の下部に集中する。
その時、魔王レイスは既に両手を広げて魔力を高めていた。
怪物の頭上に辿り着いたウル、頭上を歩き始め、トントンと足で何かを探っている。怪物の頭に居るとは思えない落ち着いた様子だ。彼女にはわかっているのだ、怪物の両手がこの頭上までは届かない事に。
ガッガッガッ
ウルは爪先で頭上の岩肌を削り、狙いを定めた。気を高めたウルはその拳に魔力を込めて渾身の一撃を叩き込んだ。
「おうらぁ!」
ドゴッ!
怪物の動きが一瞬止まる……。
魔王一行が静かに見守る。レイスだけは魔力を高める事を止めていない。その姿は青黒いオーラに包まれている。
ウオオオオオオオオオオ!!
怪物は物凄い咆哮をするが、やはり倒れる様子は無い。
ウルは全速で怪物、巨大ゴーレムから駆け降りて、魔王レイスに報告する。
「魔王様、あの化け物の頭、石目を調べましたが、ありませんでした。どうやら……」
「わかっているウル。良い働きだった。下がって我が術を堪能するが良い」
(久しぶりに魔王様の大技が見れる!やっぱりドス黒い魔力が溢れ出た魔王様は格好良い……こうでなくては!)
最近、レイスがスマホに夢中だったり、ロキと仲良くしている事に内心不満があったウルだが、レイスの魔王たる威厳を前にして漸く溜飲が下がった様だ。
「深き地中、滴る水の音、湧き出ずる水の音、集りて我が手中にあり……滾れ魔力」
広げた両手を胸の前で合わせるレイス。
「水界幽封」
ピンッ、ピンッ、ピンッ、ピンッ……
巨大ゴーレムを囲う様に四角い黒線が現れた。
そして……。
ゴゴゴゴゴゴ……
その四角い空間が水で満たされ始め、あっという間に怪物は巨大な水槽の中に居る格好となった。
ゴーレムは水中で息が出来ず、必死でその空間を壊そうとするが、どうした事かその壁面を叩いても、手は出せるがゴムの様に空間が伸びて、水中のままであった。
レイスは非情にも術を続ける。
「その水、果てしなく沈みて、その圧力に形、成すもの無し……」
「深」
四角い空間が少しずつ小さくなっていき、内部の水圧を上げていく。
巨大ゴーレムが動きを止め、身をよじり出す。
口からは大量のあわが吹き出し、やがて全身が震え出した。そして、ゴーレムが歪によじれた瞬間であった。
パーーンッ!四角い空間が大量の水と共に爆発し、ゴーレムが粉々に砕けて、その破片を辺りに散らした。
強敵であった。しかし、レイスは配下に加えたいと思っていたはずの怪物を粉々にしてしまった。
無機物と成り果てた瓦礫に向かい、レイスは命ずる。
「ゴーレムよ、我が元に集まるが良い」
ヒソヒソと声が聞こえる。
するとどうだろう、辺りに散らばった瓦礫が立ち上がり、レイスの前に集まってくるではないか。
「え、え、何?キモい」
カイゼルが顔をしかめる。
「あぁ、そう言う事だったんですねぇ、魔王様」
セレナがレイスの鮮やかな手際に感心する。
集まってきたのは体長30cm程の小さな可愛げのあるゴーレムの大群だった。巨大ゴーレムは彼らが合体して動いていたのである。
彼らはオドオドしながら、ヒソヒソと話している。
「静まれ、小さきゴーレム達よ。悪い様にはせん、我が配下に加わるが良い」
また、ヒソヒソと話していたが、やがてそれは大きな歓声に変わった。
「良し」
レイスはスマホを開いて、ロキに写メを送った。
『新しい仲間が出来たよ。巨大ゴーレムだよ。30mくらいあるよ。凄く強いよ。今度紹介するよ。』
◇
ロキがメールを開く。
「でかっ!つか、あいつらどんなパーティ開いてんだ?」




